聖黒の魔王

灰色キャット

文字の大きさ
上 下
288 / 337
第10章・聖黒の魔王

267・鬼へと至り、鬼神へと至る 前編

しおりを挟む
「ほう……雰囲気が見違えるほどではないか。
 一体、どんな仕掛けを使った?」

 それがしの気配でこの『鬼神・夜叉明王』の特性に気付いているようですが、その顔には真に戦いを喜ぶ者の顔をしておりました。

 ――ああ、ゾクゾクする。これほどの武人と相まみえた事、本当に感謝いたします。

「知りたいですか? ならば……その身を以て確かめるとよろしい!」

 先程までとは違う。身体は軽く、この愛刀は手足のように自在。
 シャラ様の攻撃が先程よりもはっきりと見える。

 それと同時にあの『首落丸しゅらくまる』の能力も……今のそれがしには捉える事ができました。
 抜刀術――今の時代では立って行うのも座って繰り出すのも全て『居合』で統一されておりますが、これの最速の動きとは鞘を引きながら刀を抜き放ち、斬撃を繰り出すというもの。

 ですから『首落丸しゅらくまる』を構えているシャラ様は必ず片手で鞘を持っており、いつでも引けるようにしておりました。

 あの刀の名前を呼んで以降も同じようにしておりましたが……あれはただ手を添えているだけ。
 実際、のですから。

 例えどんな角度であろうと、どのような体勢であろうと刀が抜ける理由……自動で引き抜ける鞘。
 それが理由なのでしょう。
 確かにあれならばわざわざその為の動作を行う必要もないですし、一見隙だらけの姿勢でも刀を扱うことが出来る。

 それに加えてシャラ様の卓越した技術もあって、居合とは思えないほどの尋常ではない速度の抜刀を繰り出すことが可能というわけですか……!

 面白い! 実に面白いです!
 この『鬼神・夜叉明王』でようやく同じ次元に立てるようになった今……どこまで自身がかの御方に迫り――それを超えることが出来るか、非常に心が高鳴ります。

「かかっ、そうでなくては困る。
 やはり、某の目に狂いはなかった。
 戦とは……こうでなくては面白くない!」

 シャラ様はギラッとその目が光ったように錯覚したかと思うと、幽かに揺れていた身体はピタリと止まり、最初の抜刀術を行っていた構えを取りました。

「どうしたのですか? もう、曲芸は終わり、ということですか?」
「かかっ、やはりあれだけでは倒せぬようだからな。そろそろ……準備運動も終わりというところか。
 ……『風風ふうふう・俊歩疾速』」

 互いに距離を保って少しの間にらみ合いをしましたが……シャラ様は残像を残して霞のように消えたかと思うと、それがしの目の前に迫ってきました。
 刀は既に抜きかけており、軌道は――!

「どこを見ておる? 某はここだ」
「……え?」

 声のする方向に視線を向けると、上空にシャラ様の姿が……!
 一体いつのまに……先程シャラ様の姿があった場所に視線を戻すと、目の前には変わらず刀を抜き、攻撃を仕掛けようとしているかの御方の姿が。

 一瞬どちらの攻撃を防ごうかと悩んでしまいましたが、それがしが選んだのは両方。
風阿ふうあ吽雷うんらい』の二刀を用いて防御することにしました。

 それを決めてすぐ、目の前にいたシャラ様は黒い幻のようにかき消え、上空で声を投げかけてきた方のシャラ様の剣閃が煌めき、重たい感触をそれがしに伝えて来ました。

 なるほど……今の魔法は『闇火やみひ煙黒幻けむりこくげん』ですか……。
風風ふうふう・俊歩疾速』でそれがしの視界から外れ、すぐさま幻を作り出す魔法を展開する……剣だけではなく、魔法の扱いも心得ている……ということですね。

「くっ……ですが、負けてはいられません……!」

 空いた片方――『吽雷うんらい』の方を雷の魔力を纏わせながら振り上げ、魔力を刃の延長で扱うように飛ばしました。
 上空で避ける術のない今のシャラ様では躱すことは難しいはず。

 しかし、かの御方は確実に防いでそれがしの首を狙ってくるでしょう。
 ならば――!

「ふん、その程度、避けれぬならばこうすればよかろう」

 シャラ様は鞘をもう一つの刀のように扱い、防いできました……がここが勝機の一つ!
 全身にありったけの力を込めて飛びました。

 そこには鞘で雷撃を防ぎ、次の行動に移ろうとしているかの御方。
 一方のそれがしは……『風阿ふうあ』の方に風の魔力を纏わせ、出来るだけ細く、鋭く……風の刃を彷彿とさせるように。

「はあぁぁぁぁぁ……!」

 今の『風阿ふうあ』は『鬼神・夜叉明王』の力でそれがしの一部であり手足。
 故に魔法を使えずとも……こうすれば何の問題もない!!

「斬ッッ!」

 斬れる。必ず、この刃で、どんなものでも……例えどんなに硬い鉱物でさえ斬ってみせると強く想い、それを言葉にしながら振り上げ気味の斬撃を放ち、それは届きました。

 ――バキィィィンッッ……

「なっ……某の……鞘が……!」

 そう、狙ったのはシャラ様ではなく、恐らくそれで防ぐ事になるであろう『鞘』の方でした。
 シャラ様の剣術はあくまで抜刀。ならば……それをさせなければ多少は御しやすくなると踏んでのことでした。

 抜刀術と呼ばれている『居合』は剣術ではなく武術。武芸に生きる者として極めたのであれば、他の……剣術としての刀の使い方は少し落ちるはず……。
 それがしのように最初から抜刀した状態で戦っているのならまだしも、達人として身体に染み付いた動きが必ず足枷となるはずです。

「もう一撃……!」
「それはさせぬ。『風水ふうすい・真空流断』」

 ここでその魔法を使ってきますか……! ですが、シャラ様……貴方には致命的な弱点があります……!
 冷静に二つの刀に魔力を回し、風と雷で刀に纏わせ、それを交差して防御の体勢を取り……『風水ふうすい・真空流断』の直撃を防ぎました。

 ですが、その衝撃でそれがしの身体は強かに地面に打ち付けられましたが、すぐさま体勢を立て直し、シャラ様の姿を確認する。

「……かかっ、いやはや、某の鞘を斬り落としたのは、おぬしが初めてだよ」

 捉えたシャラ様は、どこか寂しそうにその鞘を握っておられました。
 長年の旧友と別れを告げるように鞘を投げ捨て、刀を両手に持ち、しっかりとそれがしを捉えるように刀を向けてきておりました。

 抜刀での利点が消えた今、シャラ様に残っているのはひたすら速い斬撃……。
 恐らく、抜刀術を使っていたときより速い刃が飛んでくるでしょうが……それでも今のそれがしであれば問題なく対処することが可能と言えるでしょう。

 ぐっと身体に力を入れ、地面を強く蹴り、矢のように疾く駆け抜けながら斬撃を繰り出しましたが、単調な斬撃になってしまい、なんなく躱されてしまいました。

「かかっ、某をあまりなめるなよ。
 抜刀術で轟かせた名。例えこの鞘がなくなろうとも衰えぬわ。
 それだけで魔王として君臨できるほど……鬼族は甘くない」

 シャラ様は一足飛びでこちらに迫ってきて、袈裟斬りを繰り出してきました。
 それに刃を合わせると、そのまま正反対に斬撃を放ち……右に、左に……突きを繰り出し、地面を擦るように刃を走らせ、一気に振り上げる。

 息もつかさぬ連続攻撃。ですが……それくらい裁けなくては鬼神族の契約スライムなど、務まるはずもございません!

 刀で逸らし、防ぎ、皮一枚で避け、刃を合わせ……更に『風阿ふうあ』に風を纏わせ刺突を繰り出す。
 シャラ様はそれを紙一重で躱してきますが、だからこそ魔力で風を引き出したのですよ……!

 瞬間、暴走したかのように風の爆発が『風阿ふうあ』から引き出され、シャラ様の上半身に傷を与えていきました。

「がっ……くっ……中々やる」

 体勢を崩しながらも全然衰えぬ殺気は、常人であればそれだけで死ぬのではないか? と錯覚させるのに十分な程。

 ですが、わずかな時による攻防ではっきりとわかりました。
 確かに鞘を壊すことには成功しましたが、今のままではまだ押し切る事が出来ません。

 ならば……やるべきことは一つ。
 自らの命を投げ出し、そこから生を掴み取る……!

 防御のことなどどうでもいい。回避すらもまだるっこしい。
 それがしも覚悟を決めました。シャラ様の弱点……それを突き、今生きるために……死へと邁進することを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

帝国少尉の冒険奇譚

八神 凪
ファンタジー
 生活を豊かにする発明を促すのはいつも戦争だ――    そう口にしたのは誰だったか?  その言葉通り『煉獄の祝祭』と呼ばれた戦争から百年、荒廃した世界は徐々に元の姿を取り戻していた。魔法は科学と融合し、”魔科学”という新たな分野を生み出し、鉄の船舶や飛行船、冷蔵庫やコンロといった生活に便利なものが次々と開発されていく。しかし、歴史は繰り返すのか、武器も同じくして発展していくのである。  そんな『騎士』と呼ばれる兵が廃れつつある世界に存在する”ゲラート帝国”には『軍隊』がある。  いつか再びやってくるであろう戦争に備えている。という、外国に対して直接的な威光を見せる意味合いの他に、もう一つ任務を与えられている。  それは『遺物の回収と遺跡調査』  世界各地にはいつからあるのかわからない遺跡や遺物があり、発見されると軍を向かわせて『遺跡』や『遺物』を『保護』するのだ。  遺跡には理解不能な文字があり、人々の間には大昔に天空に移り住んだ人が作ったという声や、地底人が作ったなどの噂がまことしやかに流れている。  ――そして、また一つ、不可解な遺跡が発見され、ゲラート帝国から軍が派遣されるところから物語は始まる。

まもののおいしゃさん

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
まもののおいしゃさん〜役立たずと追い出されたオッサン冒険者、豊富な魔物の知識を活かし世界で唯一の魔物専門医として娘とのんびりスローライフを楽しんでいるのでもう放っておいてくれませんか〜 長年Sランクパーティー獣の檻に所属していたテイマーのアスガルドは、より深いダンジョンに潜るのに、足手まといと切り捨てられる。 失意の中故郷に戻ると、娘と村の人たちが優しく出迎えてくれたが、村は魔物の被害に苦しんでいた。 貧乏な村には、ギルドに魔物討伐を依頼する金もない。 ──って、いやいや、それ、討伐しなくとも、何とかなるぞ? 魔物と人の共存方法の提案、6次産業の商品を次々と開発し、貧乏だった村は潤っていく。 噂を聞きつけた他の地域からも、どんどん声がかかり、民衆は「魔物を守れ!討伐よりも共存を!」と言い出した。 魔物を狩れなくなった冒険者たちは次々と廃業を余儀なくされ、ついには王宮から声がかかる。 いやいや、娘とのんびり暮らせれば充分なんで、もう放っておいてくれませんか? ※魔物は有名なものより、オリジナルなことが多いです。  一切バトルしませんが、そういうのが  お好きな方に読んでいただけると  嬉しいです。

異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび
ファンタジー
ある日、突然転生の為に呼び出された男。 しかし、異世界転生前に神様と喧嘩した結果、死地に送られる。 魔物に襲われそうな所を白銀の狼に助けられたが、意思の伝達があまり上手く出来なかった。 狼に拾われた先では、里ならではの子育てをする過保護な里親に振り回される日々。 男はこの状況で生き延びることができるのか───? 大人になった先に待ち受ける彼の未来は────。 ☆ 第1話~第7話 赤ん坊時代 第8話~第25話 少年時代 第26話~第?話 成人時代 ☆ webで投稿している小説を読んでくださった方が登場人物を描いて下さいました! 本当にありがとうございます!!! そして、ご本人から小説への掲載許可を頂きました(≧▽≦) ♡Thanks♡ イラスト→@ゆお様 あらすじが分かりにくくてごめんなさいっ! ネタバレにならない程度のあらすじってどーしたらいいの…… 読んで貰えると嬉しいです!

♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼
ファンタジー
痴情のもつれ(?)であっさり29歳の命を散らした高遠瑞希(♀)は、これまたあっさりと異世界転生を果たす。生まれたばかりの超絶美形の赤ん坊・シュリ(♂)として。 チートらしきスキルをもらったはいいが、どうも様子がおかしい。 [年上キラー]という高威力&変てこなそのスキルは、彼女を助けてくれもするが厄介ごとも大いに運んでくれるスキルだった。 その名の通り、年上との縁を多大に結んでくれるスキルのおかげで、たくさんのお姉様方に過剰に愛される日々を送るシュリ。 変なスキルばかり手に入る日々にへこたれそうになりつつも、健全で平凡な生活を夢見る元女の非凡な少年が、持ち前の性格で毎日をのほほんと生きていく、そんなお話です。 どんなに変てこなお話か、それは読んでみてのお楽しみです。 感想・ブックマーク・評価などなど、気が向いたらぜひお願いします♪ 頂いた感想はいつも楽しみに読ませていただいています!!! ※ほんのりHな表現もあるので、一応R18とさせていただいてます。 ※前世の話に関しては少々百合百合しい内容も入ると思います。苦手な方はご注意下さい。 ※他に小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しています。

装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中! ※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father ※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中! ※書影など、公開中! ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。 勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。 スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。 途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。 なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。 その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。

工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する

鈴木竜一
ファンタジー
旧題:工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する~ブラック商会をクビになったので独立したら、なぜか超一流の常連さんたちが集まってきました~ 【お知らせ】 このたび、本作の書籍化が正式に決定いたしました。 発売は今月(6月)下旬! 詳細は近況ボードにて!  超絶ブラックな労働環境のバーネット商会に所属する工芸職人《クラフトマン》のウィルムは、過労死寸前のところで日本の社畜リーマンだった前世の記憶がよみがえる。その直後、ウィルムは商会の代表からクビを宣告され、石や木片という簡単な素材から付与効果付きの武器やアイテムを生みだせる彼のクラフトスキルを頼りにしてくれる常連の顧客(各分野における超一流たち)のすべてをバカ息子であるラストンに引き継がせると言いだした。どうせ逆らったところで無駄だと悟ったウィルムは、退職金代わりに隠し持っていた激レアアイテムを持ちだし、常連客たちへ退職報告と引き継ぎの挨拶を済ませてから、自由気ままに生きようと隣国であるメルキス王国へと旅立つ。  ウィルムはこれまでのコネクションを駆使し、田舎にある森の中で工房を開くと、そこで畑を耕したり、家畜を飼育したり、川で釣りをしたり、時には町へ行ってクラフトスキルを使って作ったアイテムを売ったりして静かに暮らそうと計画していたのだ。  一方、ウィルムの常連客たちは突然の退職が代表の私情で行われたことと、その後の不誠実な対応、さらには後任であるラストンの無能さに激怒。大貴族、Sランク冒険者パーティーのリーダー、秘境に暮らす希少獣人族集落の長、世界的に有名な鍛冶職人――などなど、有力な顧客はすべて商会との契約を打ち切り、ウィルムをサポートするため次々と森にある彼の工房へと集結する。やがて、そこには多くの人々が移住し、最強クラスの有名人たちが集う村が完成していったのだった。

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。 ☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*) 今後ともよろしくお願い致します🍀

転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった後、異世界に転生した高校生、鬼島迅。 そんな彼が生まれ落ちた家は、貴族。 しかし、その家の住人たちは国内でも随一、乱暴者というイメージが染みついている家。 世間のその様なイメージは……あながち間違ってはいない。 そんな一家でも、迅……イシュドはある意味で狂った存在。 そしてイシュドは先々代当主、イシュドにとってひい爺ちゃんにあたる人物に目を付けられ、立派な暴君戦士への道を歩み始める。 「イシュド、学園に通ってくれねぇか」 「へ?」 そんなある日、父親であるアルバから予想外の頼み事をされた。 ※主人公は一先ず五十後半の話で暴れます。

処理中です...