聖黒の魔王

灰色キャット

文字の大きさ
上 下
269 / 337
第9章・上位魔王達の世界戦争

249・竜神との会談

しおりを挟む
 さて、まず何から聞くか……。
 色々な質問が頭の中を飛び交っていて、なにを最初に聞こうかと悩んでる私を見かねたのか、先に口を開いたのはレイクラド王の方だった。

「お主が一番知りたいのはヒューリ王の情報であろう? 何をそんなに迷っている」
「確かにそうなんだけど……私としてはなんでラスキュス女王が戦争を始めたのか……ということも気になってるのよ。
 初めて会った彼女は、とてもこんな戦争をしそうな人物には見えなかったわ」

 彼女はどこか掴みづらい印象があったけど、少なくともこんな無謀な戦いを仕掛けるような事はしないと思っていた。
 上位魔王のセツキは私から見ても相当強い。

 ラスキュスと戦ったわけではないけれど、少なくとも彼女の国が戦闘種族と言われるほどの鬼族を相手にただで済むとは思わなかったはずだ。
 現に彼女の元にいた契約スライムはほぼ人型の……上位魔王に匹敵するほどの力を持っているスライムたちもこちら側に避難していた。

 なんでリアニット王もラスキュスも私のところに重要そうな人たちばかり集めさせるんだろうか……。
 ある意味狙ってるんじゃないかと思わざるを得ない。

 勝てない可能性を考えてわざわざ戦力を削り、民たちを最初から避難させるなんてことをするラスキュスのことだ。
 尚更、今回の戦争に賛同した理由がわからない。

 それにレイクラド王も……もっと聡明な魔王だと思っていた。
 いくら竜人族が空に対して圧倒的な優位を持っていて、頑強な肉体に豊富な魔力。
 更に熱線ブレスを使いこなす者すらいる……って言っても相手は元上位魔王のマヒュムと現上位魔王のフワロークだ。

 現に彼女は対竜人用の道具を準備していたし、私がフレイアールやアシュルを救援へと向かわせることも十分に考えられたはずだ。
 それを含めてここまでの危険を冒す価値が……果たして今回の戦争にあったのだろうか?

「……我はラスキュス女王とは長年の付き合いであるからな。
 あの者が支援を求めれば、我は断ることはしない。それだけ親密な関係であったと言えるだろう。
 そしてラスキュス女王は……彼女は恐らくヒューリ王が彼に似ていたからであろう」
「彼? 似ている?」

 ついでに自分の理由も教えてくれたレイクラド王だけど……どうにもそこら辺りは嘘くさいっていうか……なにか隠してるような気がする。
 その追求を逃れる為にわざと先に言ってラスキュス女王の情報を引き出してきたようにも見えるけど……仕方ない。ここは乗ってあげよう。

 例え彼の事を聞いても答えてくれるという確証はないんだし、放置しておいたほうがいいだろう。
 それよりもラスキュスとヒューリ王の事についてだ。

「彼、というのはラスキュス女王と契約した聖黒族の魔王の事だ。
 ヒューリ王はその彼の面影を感じることが出来る。
 血を引いてる……ということはありえないだろうがな」
「契約した魔王……」

 それはあの国ごと聖黒族の全員を巻き込んで自滅することを選んだ魔王のことだろう。
 陵辱され、蹂躙されて玩具として惨めに哀れに生き延びることよりも、高潔な魂を宿したまま死ぬことを決断した魔王……そして、ラスキュスだけは生きていて欲しいと願い、国から逃した人でもあったっけか。

 その魔王の面影を感じることが出来るってことは、少なくともレイクラド王はヒューリ王のあの青い鎧の中に隠れていた素顔を見たということで……つまりヒューリ王は……。

「上位魔王に戦争を仕掛け、唯一勝利を収めた最後の国の魔王は……聖黒族、というわけね」
「その通りだ。我もあの者の姿を確認した。艷やかな漆黒の髪に白銀の瞳。
 そして目の前で使われた魔法のことも含めれば、間違いなく聖黒族の魔王だ」
「だからあの時、鎧と兜で顔を隠してたわけね」

 聖黒族というのは非常に珍しい存在で、私だって姿は晒しているけど魔法は出来る限り闇属性のみにしている。黒髪に白銀の目を持つ魔人族は珍しいが確かに存在するということを活かしていると言えるだろう。
 ヒューリ王はそれを鎧と兜で姿を隠していたというわけだ。

「聖黒族であり、仕えていた主に似ている……。ラスキュス女王の感情を激しく揺さぶられただろう。
 そこで持ちかけられた同盟・戦争の提案……そしてヒューリ王の目的が、ラスキュス女王の望んでいた世界の在り方に似ていた。
 ……手を組むには、十分な理由となるだろう」
「ラスキュス女王の望んでいた世界?」

 なんだか質問ばかりしているような気がするけど、それだけ私はあのスライムの女王の事を知らない……そう言えるだろう。
 会ったのは『夜会』の時と初めてスロウデルに向かった時だけだし、仕方ないと言えるけれどね。

「彼女は前々から聖黒族が……あの魔王が死を選んだことを悔やんでいた。
 もし力があれば、そう思うこともあったろう。
 彼女は『聖黒族が普通に暮らせる世界』を誰よりも望んでいた。
 それを叶えるには……今ある種族全てを滅ぼしても足りないだろうがな」

 言い終えたレイクラド王は深い、深いため息を付いていた。
 確かにその望みを叶えるには、相当な努力と血の道を行くことになるだろう。
 本来なら叶うことのない道……それを目指そうと決めたのはヒューリ王の存在というわけだ。

 彼は恐らく『聖黒族が暮らせる世界』とかはどうでもいいのだと思う。
 そもそも現存二人しかいない聖黒族のためにわざわざ自分の正体を明かすとは思えない。

「ということはヒューリ王の目的は……『全ての種族を滅ぼすこと』にでもあるっていうの?
 馬鹿らしい。そんなことしてたらいくら時間があっても足りないわよ」
「いや、ヒューリ王の目的は『今ある国全てを取り込む』ことだ。
 自分より強い可能性のある魔王を殺し、国を制圧すれば後はやりたい放題だからな」

 レイクラド王は私の結論を否定するけど、それもまた馬鹿げている。
 だからこそラスキュスもレイクラド王も周囲の国々を攻め落として取り込みながら上位魔王の国を目指していたんだろうけど、それこそ察知されたら小国同士が組んで粘られるはずだ。
 いくら大国とはいえ、疲弊した国が他の国に万全の状態で戦いを挑まれたら打ち倒される可能性だってあるはずなのに……。

「レイクラド王はその事について……どう見てるの?」
「……正直、我らはわからぬと言ってもいいだろう。
 我もラスキュス女王も、大半が自分の想いで動いていた。
 だからこそ国にはすぐさま降伏するように促すこと、ラスキュス女王のように民を別の国に避難させるという手もとった。しかし……」

 最初から出来ない可能性を念頭に置いてるからこそ、レイクラド王は彼と契約スライムのライドムが倒れてすぐ降伏するようにしていたし、ラスキュスは先に国民を避難させていた……というわけだ。

 逆にヒューリ王はそういうことは一切していない。彼は出来ない可能性なんて考えてないんだろう。
 ある意味国全体で事に当ってることが厄介だ。

「本当に、知らないのね?」
「うむ。負けた以上、我もここで嘘を口にしても仕方がないからな」

 その通りだ。
 ここで嘘をついても何の意味もないし、信用するもなにもないだろう。

「そうね。よくわかったわ」

 今回ここにレイクラド王を呼んで良かった。
 ヒューリ王の素性。ラスキュスとレイクラド王が彼に賛同し、戦争に参加した理由も知れた。
 逆にわからないことも出てきたけど、後はこっちの仕事ということだろう。

 ヒューリ王の目的が『全ての国を支配すること』であるならば、私との衝突は避けられないだろうし、それまでは出来るだけのことをやるだけだ。
 相手が何であれ、私は負けない。

 ――この国の魔王である限り、決して。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

帝国少尉の冒険奇譚

八神 凪
ファンタジー
 生活を豊かにする発明を促すのはいつも戦争だ――    そう口にしたのは誰だったか?  その言葉通り『煉獄の祝祭』と呼ばれた戦争から百年、荒廃した世界は徐々に元の姿を取り戻していた。魔法は科学と融合し、”魔科学”という新たな分野を生み出し、鉄の船舶や飛行船、冷蔵庫やコンロといった生活に便利なものが次々と開発されていく。しかし、歴史は繰り返すのか、武器も同じくして発展していくのである。  そんな『騎士』と呼ばれる兵が廃れつつある世界に存在する”ゲラート帝国”には『軍隊』がある。  いつか再びやってくるであろう戦争に備えている。という、外国に対して直接的な威光を見せる意味合いの他に、もう一つ任務を与えられている。  それは『遺物の回収と遺跡調査』  世界各地にはいつからあるのかわからない遺跡や遺物があり、発見されると軍を向かわせて『遺跡』や『遺物』を『保護』するのだ。  遺跡には理解不能な文字があり、人々の間には大昔に天空に移り住んだ人が作ったという声や、地底人が作ったなどの噂がまことしやかに流れている。  ――そして、また一つ、不可解な遺跡が発見され、ゲラート帝国から軍が派遣されるところから物語は始まる。

みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました! 定番の転生しました、前世アラサー女子です。 前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。 ・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで? どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。 しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前? ええーっ! まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。 しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる! 家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。 えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動? そんなの知らなーい! みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす! え?違う? とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。 R15は保険です。 更新は不定期です。 「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。 2021/8/21 改めて投稿し直しました。

最強パーティーのリーダーは一般人の僕

薄明
ファンタジー
ダンジョン配信者。 それは、世界に突如現れたダンジョンの中にいる凶悪なモンスターと戦う様子や攻略する様子などを生配信する探索者達のことだ。 死と隣り合わせで、危険が危ないダンジョンだが、モンスターを倒すことで手に入る品々は、難しいダンジョンに潜れば潜るほど珍しいものが手に入る。 そんな配信者に憧れを持った、三神《みかみ》詩音《しおん》は、幼なじみと共に、世界に名を轟かせることが夢だった。 だが、自分だけは戦闘能力において足でまとい……いや、そもそも探索者に向いていなかった。 はっきりと自分と幼なじみ達との実力差が現れていた。 「僕は向いてないみたいだから、ダンジョン配信は辞めて、個人で好きに演奏配信とかするよ。僕の代わりに頑張って……」 そうみんなに告げるが、みんなは笑った。 「シオンが弱いからって、なんで仲間はずれにしないといけないんだ?」 「そうですよ!私たちがシオンさんの分まで頑張ればいいだけじゃないですか!」 「シオンがいないと僕達も寂しいよ」 「しっかりしなさいシオン。みんなの夢なんだから、諦めるなんて言わないで」 「みんな………ありがとう!!」 泣きながら何度も感謝の言葉を伝える。 「よしっ、じゃあお前リーダーな」 「はっ?」 感動からつかの間、パーティーのリーダーになった詩音。 あれよあれよという間に、強すぎる幼なじみ達の手により、高校生にして世界トップクラスの探索者パーティーと呼ばれるようになったのだった。 初めまして。薄明です。 読み専でしたが、書くことに挑戦してみようと思いました。 よろしくお願いします🙏

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

竜神に転生失敗されて女体化して不死身にされた件

一 葵
ファンタジー
俺、遠野悠斗は平凡な日常をそれなりに受け入れていた。そんなある日、自分の誕生日にほんの些細なご褒美を買ってご機嫌に帰る途中、通り魔に襲われそうになっている女性を見つける。とっさに庇う俺だったが、通り魔に胸を突き刺され、気づけば巨大な竜が目の前にいた!? しかもなんか俺女の子になってるし!? 退屈を持て余した封印されし竜神と、転生失敗されて女の子にされた俺の織り成す、異世界満喫ストーリー!  皆様のおかげでHOTランキング13位まで登ることが出来ました。本当にありがとうございます!! 小説家になろう様、カクヨム様でも連載中です。

いずれ最強の錬金術師?

小狐丸
ファンタジー
 テンプレのごとく勇者召喚に巻き込まれたアラフォーサラリーマン入間 巧。何の因果か、女神様に勇者とは別口で異世界へと送られる事になる。  女神様の過保護なサポートで若返り、外見も日本人とはかけ離れたイケメンとなって異世界へと降り立つ。  けれど男の希望は生産職を営みながらのスローライフ。それを許さない女神特性の身体と能力。  はたして巧は異世界で平穏な生活を送れるのか。 **************  本編終了しました。  只今、暇つぶしに蛇足をツラツラ書き殴っています。  お暇でしたらどうぞ。  書籍版一巻〜七巻発売中です。  コミック版一巻〜二巻発売中です。  よろしくお願いします。 **************

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない

猪本夜
ファンタジー
2024/2/29……3巻刊行記念 番外編SS更新しました 2023/4/26……2巻刊行記念 番外編SS更新しました ※1巻 & 2巻 & 3巻 販売中です! 殺されたら、前世の記憶を持ったまま末っ子公爵令嬢の赤ちゃんに異世界転生したミリディアナ(愛称ミリィ)は、兄たちの末っ子妹への溺愛が止まらず、すくすく成長していく。 前世で殺された悪夢を見ているうちに、現世でも命が狙われていることに気づいてしまう。 ミリィを狙う相手はどこにいるのか。現世では死を回避できるのか。 兄が増えたり、誘拐されたり、両親に愛されたり、恋愛したり、ストーカーしたり、学園に通ったり、求婚されたり、兄の恋愛に絡んだりしつつ、多種多様な兄たちに甘えながら大人になっていくお話。 幼少期から惚れっぽく恋愛に積極的で人とはズレた恋愛観を持つミリィに兄たちは動揺し、知らぬうちに恋心の相手を兄たちに潰されているのも気づかず今日もミリィはのほほんと兄に甘えるのだ。 今では当たり前のものがない時代、前世の知識を駆使し兄に頼んでいろんなものを開発中。 甘えたいブラコン妹と甘やかしたいシスコン兄たちの日常。 基本はミリィ(主人公)視点、主人公以外の視点は記載しております。 【完結:211話は本編の最終話、続編は9話が最終話、番外編は3話が最終話です。最後までお読みいただき、ありがとうございました!】 ※書籍化に伴い、現在本編と続編は全て取り下げとなっておりますので、ご了承くださいませ。

処理中です...