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第9章・上位魔王達の世界戦争
245・妖精の激戦
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ヒューリ王との戦いが始まってからどれだけの日にちが過ぎただろうか……余たちが粛々と民の脱出を進め、かつ軍備を整えている時……それらは訪れた。
(陛下! かの軍勢が……ヒューリ王の軍が来ました! 軍を先導しているのは……青い鎧にそれと同じ色の剣と円盾を携えた――王です! ヒューリ王が軍を引き連れて現れました!)
(わかった。接敵までにどれだけの時間がある?)
(後半日程度で首都まで攻めてくると思われます!)
……以外に早かったな。いや、こちらの方が少し遅れているのかもしれない。
それでも半日あれば残ると決意した民たち以外は全て脱出を果たし、残った彼らも戦いの支度を整えてくれるだろう。
(ライニー、そちらは?)
(じゅんびおっけー! だよー。あとはたたかうだけ!)
【回線】越しからでも力いっぱい元気な声を届かせてくれるライニーだが、彼女の方も避難の準備が完了したようだ。
これで後々に残る心配は一層されるだろう。
(わかった。余は先に行く。お前もすぐに来い)
(うん! らいにがいくまで、がんばってねー!)
全く……とても今から戦いに行くような雰囲気だとは思えないな。
だがしかし、これがいい。実にライニーらしい。
魔王の相手は魔王にしか務まらない。
そして……魔王が敗れれば、どれだけ優勢であったとしても……状況によってはあっという間に形勢を覆らせてしまうだろう。
疲労困憊の魔王であれば普通の兵士であっても打倒しうるが……基本的に魔王を殺すには魔王か、契約スライムのみだと考えたほうがいい。
そしてヒューリ王には契約スライムがいない。
『夜会』の場でもラスキュス女王にスライムを融通してもらっていただけだからな。
これを聞けばティファリス女王などはルール違反だと思うかも知れぬが、あれは厳密に言えば『戦力になりうるスライムを連れてくる』というのがルールなのだ。
ただ、そこで契約スライム以外のスライムを連れて行っても何の意味もない。
元々、護衛という面目で自身の力を誇示するためでもあるのだから。
だからこそ、ラスキュス女王から適当にスライムをあてがって貰ったとしてもなんのルール違反にもならない……ということだ。
だからこそいつまでも種族不明の魔王でいられる。
だが…それもここまでだ。覚悟しろ種族を明かさぬ卑怯な魔王よ。
そちらがその気であるならば、余とて本気で戦おうではないか。
妖精の主であり、王たる精霊族を甘く見たことを……後悔させてくれる。
――
軍備を整え、出撃した余たちは首都から出て数刻ほど先の森と平原が混在している場所をこちらの戦場に選ぶことにした。
余たちは森。奴らは平原に位置させておけばこちらも有利に戦えるというものだろう。
こちらの軍勢はそれなりに減っていき……3万5千。斥候の情報だと、向こうの軍勢は5万。
およそ1万5千程の差があるが、その程度であれば魔王と契約スライムがいれば覆る戦力差だ。
それが徐々に迫っていき、視認できる位置にまで現れる。
余は最後に軍の方に向き合い、鼓舞を行うことにした。
振り向いた余を見るのは大小様々な妖精族たち。
小さき者は杖を携え、それ以外の者は杖を、剣を、槍を握りしめ、精強な顔つきを見せてくれている。
……うむ、士気は上々と言ったところだろう。
これが最終局面であることを全員が理解しているその姿は、一人一人が国の剣となり、盾となる覚悟を宿していた。
「良いか、余の軍勢よ。これが……これが最後の戦いである。
これで全て終わらせる。だからこそ……我らの勝利を掴み取るのだ!
力の限りを尽くせ! 敵を倒し、道を切り開き……生き抜くのだ!!
良いか? これは王命である! 決して命を諦めるな! 我らは……生きて、この戦いを制するのだ!」
『うおおおおおおおおおお!!!!! リアニット国王陛下、万歳!』
がしゃがしゃと金属音を立てながら槍を、剣を、空へと掲げる。
その音に負けぬように魂の歌を響かせながら、我らはヒューリ王の軍勢を迎え撃つ。
最早言葉は必要ない。
これは死にゆく為の戦いではない。生き抜く為の戦いなのだ。
ヒューリ王の軍勢が徐々に迫ってきて……森の入口にまで差し迫った瞬間……こちらも打って出ることにした。
「全軍……突撃いいぃぃぃぃぃぃ!!」
そして余が口火を切った。妖精の軍は一斉に雪崩込んで行く。
軍の指揮は全て他の指揮官たちに任せてある。
ライニーは今避難民たちを先導していて戦場にはいない。
ならば先陣を切るのは、余の役目であろう。
「大地よ……風よ……自然よ! 今こそ、余に力を与え給え! 『ネイチャーフォース』!」
自身にあらゆる自然の力を宿し、この身を化身へと昇華させる。
「仰ぎ見よ! これが精霊族の姿……力を宿した余の姿である!」
右手に持つ杖を回転させるように振り回しながら叫び、魔法を紡ぐ。
――自然の力を……我らに!
「『ナトゥレーザ・ランサ』!」
紡ぎ出されるのは風・大地・木・水・雷・火の全てを練り上げ、一つずつ槍として構築していく。
その全てが自然に存在する力。その権化。
それらは具現化し、一斉に敵軍へとなだれ込む。
先手は取ったこちらは、そのまま一気にぶつかり、余は――ヒューリ王と相対する。
「青き鎧の魔王よ! 覚悟せよ!」
「……雑魚が。粋がるなよ」
余の魔法を盾で防いでいたかの王は、剣を抜き放ち、余との距離を一気に詰めてくる。
「『クイック』」
「『ガイアシェイカー』!」
ヒューリ王の足元の大地を揺らせ、その衝撃がかの王を襲う。
『クイック』でこちらに迫ってきた瞬間を狙った一撃。
それが見事に功を奏した。
「ちぃっ……」
「『ガイアストーム』!」
余の杖の先から出は岩石を纏った竜巻。
激しい一撃に対し、ヒューリ王はその左手に着けている円盾をかざして防御の姿勢を取る。
「『ラジシルド』」
ヒューリ王の盾がほの青く光ったかと思うと彼の身体を包み込むように光が展開していき、余の『ガイアストーム』を受け止めていた。
魔法を使っているとはいえ、あれを真っ向から受け止めるか……!
「『ガイアブロー』!」
続けざまに作り出したのは地面から大地の拳を作り出し、その握り拳をヒューリ王の腹めがけて突き上げる。
彼はその間も一歩も退かずに円盾を構えたままで、余の魔法を少々地面を擦るように後ずさりながらだが、しっかりと受け止めてしまう。
――これも受け止めてしまいますか。思ったよりも強固な盾を持っていますね。
「『エアスラッシュ』」
ヒューリ王は『ラジシルド』の効力を発揮していた円盾を引っ込め、右下斜めから浅い角度で左上斜めに切り上げる……が、なにも見えない。
しかし今、彼は確かに魔法を放った。と余は警戒を怠らず、両手で握りしめた杖を自身の胸のところまで持っていった――その瞬間、衝撃が杖の中心を襲ってくる。
「なっぐっ……!?」
杖を握りしめた指全てに痛みを感じながら、余は為すすべもなく吹き飛ばされ、大きな樹に強かに身体を打ち付けてしまう。
口から苦しげに息が吐き出されるのを聞きながら、余はしっかりと今の状況を分析していた。
指は繋がってはいるが、相当の痛手を負ってしまった。
恐らくあれは透明な風の刃を飛ばす魔法だ。威力はあくまで対個人用のものだろうが、この場面では実に効果的だと言えるだろう。
「『ガイアヒ――』」
「遅い」
大地と光の属性を混ぜた回復魔法を使おうとしたのだが、それよりも先にヒューリ王の刃が光る。
片手で放つ無造作な突きを今の余は受け止められるほどの力を持っていない。
「くっ……」
それでも致命傷だけは避けるように上半身を下に倒し、その剣を右肩で受け止める。
鈍い痛みが走るが、それでも今は傷に顔を歪めている場合ではない。
「『ガイアシェイカー』!」
再び解き放たれた大地を揺らす魔法を嫌ったヒューリ王は、肩から剣を抜いて一定の距離を保ってきた。
「『ガイアヒーリング』!」
なんとか回復魔法を唱えた余の肩と指は癒えていく。
まだ……戦いは始まったばかりだ。
(陛下! かの軍勢が……ヒューリ王の軍が来ました! 軍を先導しているのは……青い鎧にそれと同じ色の剣と円盾を携えた――王です! ヒューリ王が軍を引き連れて現れました!)
(わかった。接敵までにどれだけの時間がある?)
(後半日程度で首都まで攻めてくると思われます!)
……以外に早かったな。いや、こちらの方が少し遅れているのかもしれない。
それでも半日あれば残ると決意した民たち以外は全て脱出を果たし、残った彼らも戦いの支度を整えてくれるだろう。
(ライニー、そちらは?)
(じゅんびおっけー! だよー。あとはたたかうだけ!)
【回線】越しからでも力いっぱい元気な声を届かせてくれるライニーだが、彼女の方も避難の準備が完了したようだ。
これで後々に残る心配は一層されるだろう。
(わかった。余は先に行く。お前もすぐに来い)
(うん! らいにがいくまで、がんばってねー!)
全く……とても今から戦いに行くような雰囲気だとは思えないな。
だがしかし、これがいい。実にライニーらしい。
魔王の相手は魔王にしか務まらない。
そして……魔王が敗れれば、どれだけ優勢であったとしても……状況によってはあっという間に形勢を覆らせてしまうだろう。
疲労困憊の魔王であれば普通の兵士であっても打倒しうるが……基本的に魔王を殺すには魔王か、契約スライムのみだと考えたほうがいい。
そしてヒューリ王には契約スライムがいない。
『夜会』の場でもラスキュス女王にスライムを融通してもらっていただけだからな。
これを聞けばティファリス女王などはルール違反だと思うかも知れぬが、あれは厳密に言えば『戦力になりうるスライムを連れてくる』というのがルールなのだ。
ただ、そこで契約スライム以外のスライムを連れて行っても何の意味もない。
元々、護衛という面目で自身の力を誇示するためでもあるのだから。
だからこそ、ラスキュス女王から適当にスライムをあてがって貰ったとしてもなんのルール違反にもならない……ということだ。
だからこそいつまでも種族不明の魔王でいられる。
だが…それもここまでだ。覚悟しろ種族を明かさぬ卑怯な魔王よ。
そちらがその気であるならば、余とて本気で戦おうではないか。
妖精の主であり、王たる精霊族を甘く見たことを……後悔させてくれる。
――
軍備を整え、出撃した余たちは首都から出て数刻ほど先の森と平原が混在している場所をこちらの戦場に選ぶことにした。
余たちは森。奴らは平原に位置させておけばこちらも有利に戦えるというものだろう。
こちらの軍勢はそれなりに減っていき……3万5千。斥候の情報だと、向こうの軍勢は5万。
およそ1万5千程の差があるが、その程度であれば魔王と契約スライムがいれば覆る戦力差だ。
それが徐々に迫っていき、視認できる位置にまで現れる。
余は最後に軍の方に向き合い、鼓舞を行うことにした。
振り向いた余を見るのは大小様々な妖精族たち。
小さき者は杖を携え、それ以外の者は杖を、剣を、槍を握りしめ、精強な顔つきを見せてくれている。
……うむ、士気は上々と言ったところだろう。
これが最終局面であることを全員が理解しているその姿は、一人一人が国の剣となり、盾となる覚悟を宿していた。
「良いか、余の軍勢よ。これが……これが最後の戦いである。
これで全て終わらせる。だからこそ……我らの勝利を掴み取るのだ!
力の限りを尽くせ! 敵を倒し、道を切り開き……生き抜くのだ!!
良いか? これは王命である! 決して命を諦めるな! 我らは……生きて、この戦いを制するのだ!」
『うおおおおおおおおおお!!!!! リアニット国王陛下、万歳!』
がしゃがしゃと金属音を立てながら槍を、剣を、空へと掲げる。
その音に負けぬように魂の歌を響かせながら、我らはヒューリ王の軍勢を迎え撃つ。
最早言葉は必要ない。
これは死にゆく為の戦いではない。生き抜く為の戦いなのだ。
ヒューリ王の軍勢が徐々に迫ってきて……森の入口にまで差し迫った瞬間……こちらも打って出ることにした。
「全軍……突撃いいぃぃぃぃぃぃ!!」
そして余が口火を切った。妖精の軍は一斉に雪崩込んで行く。
軍の指揮は全て他の指揮官たちに任せてある。
ライニーは今避難民たちを先導していて戦場にはいない。
ならば先陣を切るのは、余の役目であろう。
「大地よ……風よ……自然よ! 今こそ、余に力を与え給え! 『ネイチャーフォース』!」
自身にあらゆる自然の力を宿し、この身を化身へと昇華させる。
「仰ぎ見よ! これが精霊族の姿……力を宿した余の姿である!」
右手に持つ杖を回転させるように振り回しながら叫び、魔法を紡ぐ。
――自然の力を……我らに!
「『ナトゥレーザ・ランサ』!」
紡ぎ出されるのは風・大地・木・水・雷・火の全てを練り上げ、一つずつ槍として構築していく。
その全てが自然に存在する力。その権化。
それらは具現化し、一斉に敵軍へとなだれ込む。
先手は取ったこちらは、そのまま一気にぶつかり、余は――ヒューリ王と相対する。
「青き鎧の魔王よ! 覚悟せよ!」
「……雑魚が。粋がるなよ」
余の魔法を盾で防いでいたかの王は、剣を抜き放ち、余との距離を一気に詰めてくる。
「『クイック』」
「『ガイアシェイカー』!」
ヒューリ王の足元の大地を揺らせ、その衝撃がかの王を襲う。
『クイック』でこちらに迫ってきた瞬間を狙った一撃。
それが見事に功を奏した。
「ちぃっ……」
「『ガイアストーム』!」
余の杖の先から出は岩石を纏った竜巻。
激しい一撃に対し、ヒューリ王はその左手に着けている円盾をかざして防御の姿勢を取る。
「『ラジシルド』」
ヒューリ王の盾がほの青く光ったかと思うと彼の身体を包み込むように光が展開していき、余の『ガイアストーム』を受け止めていた。
魔法を使っているとはいえ、あれを真っ向から受け止めるか……!
「『ガイアブロー』!」
続けざまに作り出したのは地面から大地の拳を作り出し、その握り拳をヒューリ王の腹めがけて突き上げる。
彼はその間も一歩も退かずに円盾を構えたままで、余の魔法を少々地面を擦るように後ずさりながらだが、しっかりと受け止めてしまう。
――これも受け止めてしまいますか。思ったよりも強固な盾を持っていますね。
「『エアスラッシュ』」
ヒューリ王は『ラジシルド』の効力を発揮していた円盾を引っ込め、右下斜めから浅い角度で左上斜めに切り上げる……が、なにも見えない。
しかし今、彼は確かに魔法を放った。と余は警戒を怠らず、両手で握りしめた杖を自身の胸のところまで持っていった――その瞬間、衝撃が杖の中心を襲ってくる。
「なっぐっ……!?」
杖を握りしめた指全てに痛みを感じながら、余は為すすべもなく吹き飛ばされ、大きな樹に強かに身体を打ち付けてしまう。
口から苦しげに息が吐き出されるのを聞きながら、余はしっかりと今の状況を分析していた。
指は繋がってはいるが、相当の痛手を負ってしまった。
恐らくあれは透明な風の刃を飛ばす魔法だ。威力はあくまで対個人用のものだろうが、この場面では実に効果的だと言えるだろう。
「『ガイアヒ――』」
「遅い」
大地と光の属性を混ぜた回復魔法を使おうとしたのだが、それよりも先にヒューリ王の刃が光る。
片手で放つ無造作な突きを今の余は受け止められるほどの力を持っていない。
「くっ……」
それでも致命傷だけは避けるように上半身を下に倒し、その剣を右肩で受け止める。
鈍い痛みが走るが、それでも今は傷に顔を歪めている場合ではない。
「『ガイアシェイカー』!」
再び解き放たれた大地を揺らす魔法を嫌ったヒューリ王は、肩から剣を抜いて一定の距離を保ってきた。
「『ガイアヒーリング』!」
なんとか回復魔法を唱えた余の肩と指は癒えていく。
まだ……戦いは始まったばかりだ。
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