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第9章・上位魔王達の世界戦争
242・竜神の懺悔 前編
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「キャル、キュウウウアア……?(あの、僕になにか……?)」
フワローク女王とマヒュム王はレイクラド王を信頼して席を外したんだろうと思うけど、僕からしてみればまだいまいち信用することが出来なくて……胸の中には不安が募っていく。
しかも肝心の彼は僕の事を見たまま動かないんだから余計にそう思ってしまう。
沈黙に耐えきれずについ話しかけてしまったんだけど、レイクラド王は全く聞こえていないかのように視線を動かさず、口も開かず……といった様子。
――どうしよう、すごく気まずい。すごく……気まずいよ……!
頭を抱えられるものだったらそうして、ぶんぶん首を振ってそうなくらいのこの状況の中、どれだけ長い間そうしていたんだろう?
動けず、じっと反応を待ち望んでいた僕はレイクラド王がやっと口を開く様子を見て、どこか安堵してしまった。
「お主、巨竜の時と今とでは随分話し方が違うな。
本当にお主が我と同等に戦い、痛み分けにまで持っていったとは、とても思えぬよ」
「キャウウウウウ(余計なお世話だよ)」
親しみ深げに僕に話しかけてくる第一声がそれなことに、思わず戸惑いを覚えてしまった。
結構もったいぶって黙ってた割りには、彼が言いたかったのってこれ? これなの?
思わず白けた目を向けてしまうと、レイクラド王はそれを遮るように一つ咳払いをして話を移してきた。
「ごほん……。フレイアール、お主にだけは伝えておく必要があるだろうと思ってな。
だが、一つだけ約束してほしい。決してこの事は他言無用……例えお主の母であるティファリス女王にも秘密にして欲しい。頼めるか?」
「キュ? キャウゥゥゥ……」
僕はこのレイクラド王の言葉にすごく悩んでしまった。
だって母様にも内緒だなんて……そんなこと出来ない。そう思ったんだけど……。
「キャウ(わかった)」
僕は自然と首を縦に振っていた。
なんでかはわからない。だけど……僕は目の前にいる死闘を繰り広げた竜人の魔王の言葉を聞かないと行けない。
そんな気がしたから……一番したくない母様への内緒事にも頷いた。
「まず、なぜ今回の戦争が起きたと思う? 少なくともラスキュスの事情は、お主たちも知っているだろう」
「キュル」
もちろん知ってる。ラスキュス女王は聖黒族との契約スライムで、僕の姉様と同じ存在だということぐらいは。
僕も初めてスロウデルに行くってなった時、一緒についていったんだし。
「ラスキュスはその出自故に同胞の存在を守ろうとする性質がある。
そして……そのために、全てを犠牲にする覚悟すら」
レイクラド王は立っているのが億劫だと言うかのように椅子を僕のいる場所に引き寄せて、どっかりと腰を降ろした。
それだけ彼の方も疲労が強いはずなのに……それでも話し続ける。なにか、罪を告白するかのように。
「無論……我も似たようなものであろう。
我は弱い男である。友との約束を守れず、愛した者すら失った熱を抱えたまま、今の今までのうのうと生き腐る程には、畜生に違いない」
あまり話についていけてない僕に対して、懺悔をするように言葉を並べ立ててくれるのはいいけど……もう少し順序よく話してもらいたい。
こんな気怠い身体を抱えたままじゃ整理するのも大変なんだから。
声も上げずに抗議の視線を向けると、レイクラド王はしまったと言うかのように苦笑してわかりやすく説明してくれた。
「つまり、だ。我もラスキュスも、ヒューリ王の……聖黒の魔王の要請を受けて今回の戦争を引き起こした……そういうわけだ。
ラスキュスはそれを含めて、ティファリス女王の為を思っていたようだがな。
肝心の我は……熱に浮かされるように長年燻っていた感情が今やっと燃えてしまってな。結果はこのような有様だ」
ヒューリ王が聖黒族……本当なのかととても信じられない気持ちになったんだけど……多分これについて、彼は答えてくれないだろう。視線がそう語っていた。
「キャウウウウキュル、キュルア?(聖黒族とレイクラド王は、なにか関係あるの?)」
だからこそ他になにかないかと考えて思い浮かんだ問を投げかけると、『そうだ』と彼は深く頷いていた。
「聖黒族が西の地域を領土としていた時、我ら竜人族は懇意にしていたのだ。
元々、聖黒の女と始竜の男が交じりあった結果誕生したのが我らの種故な。
自然と、交流は盛んに行われていた。当時まだ子供であった我は憧れの瞳で彼らを見ていたものだ。
光も闇も自在に扱い、他者との争いはあまり好まず、必要に迫られない限り力を誇示することはない。
そしてその魔王は堂々とした凛々しい青年の魔王であった」
ゆっくりと過去の思い出に浸るかのように天井を見上げて、レイクラド王は僕に語って聞かせてくれる。
「子供ながらに思ったものだ。いずれは竜人のように雄々しく力強く、彼らのように他者を思いやれる者になろう。
国を継ぎ、そしてこれからも……絶えず彼の国と交流を深めて行こう、と」
徐々に感情的になって……怒りに顔を歪ませるような表情になりながら、それでも語ってくれてるのは竜人の歴史。
僕の知らない時代を生きた証を……伝えてくれるように思えた。
でもそれと同時にこの話を今する必要があるのだろうか? という疑問も湧いてきた。
「アールヴが自らの血の混じったエルフどもに殺され、陵辱された後から全てが変わった。
世の中は徐々に魔力の強い者と交配し、自身の種族をより強く、より素晴らしい存在に昇華しよう……そういう動きだ。
魔王種として成長を遂げた英猫、竜神、精霊……種族としては銀狐、聖黒、アールヴが狙われることになった。
当時は鬼・鬼神族の存在は周知ではなく、彼らも率先して他種族と関わろうとはしなかった。
彼らの言葉で口にするならば、まさしく鎖国状態であった……というのがしっくりと来るであろう」
「……キャウ、キャルルルルル(……それは、今の僕たちに関係あるの)?」
思わず僕は彼に、レイクラド王そう聞いてしまった。
だって、それは歴史の話。確かに今を生きる僕たちにはそれを教訓に、糧にして生きていく義務もあると思う。
だけど、今ここで話す理由がない。
「まあ聞け。老いた者の話は常に長い物だ。
なにせ、端的に語れるほどの短い生を歩んではおらぬからな」
今からそれを体験しておけと言わんばかりの表情を浮かべているけど……出来ればもっと簡単に話して欲しい。
僕だって本当はもうちょっとゆっくり眠りたいのに、無理して起きてるんだから。
そんな希望も虚しく、レイクラド王は変わらず話を続けてきた。
「当時の我らの中に竜神まで至るものは少なく、また至ったとしても我やお主のように無慈悲な攻撃方法を持つものも多かった。故に手を出されることも少なかった。
しかし……」
俯くこの人の言いたいことはわかる。
聖黒族は誰の助けも得られず、同じ種族同士で連携してもきりが無くて……最後は滅びていったって。
ラスキュス女王も言っていた。
陵辱され、道具に玩具にされるくらいなら、種族としての誇りを胸に死んでいくことこそ、聖黒族の在り方だったって。
「あの時、遠方の国が拠点として利用したのが……他ならぬ竜人族の国だった。
父は、当時の流れが自身に向くのを極度に恐れ、己の保身のためだけに他地域から国の者を受け入れたのだ。
それが……彼らを追い詰めてしまった。始竜と聖黒に連なる一族が、裏切った結果が……」
ぎゅっと拳を握りしめている彼の表情から、僕は大体の検討を付けた。
きっと……彼は許せなかったんだ。
自分の父親も、聖黒族を助けることが出来なかった自分自身すら。
だから……始竜の僕にそれを伝えたかったのだって。
彼は――レイクラド王はきっと自分の中で溜まった感情の全てを曝け出して……楽になりたいんだって。
だったら僕に出来ることは、彼の言葉を聞いてあげることだろう。
それが、始竜として、長く苦しい生を歩み続けたこの老王に出来ることなんだろうって……そう思った。
話の長いお爺ちゃんなのは少し勘弁してほしいけどね。
フワローク女王とマヒュム王はレイクラド王を信頼して席を外したんだろうと思うけど、僕からしてみればまだいまいち信用することが出来なくて……胸の中には不安が募っていく。
しかも肝心の彼は僕の事を見たまま動かないんだから余計にそう思ってしまう。
沈黙に耐えきれずについ話しかけてしまったんだけど、レイクラド王は全く聞こえていないかのように視線を動かさず、口も開かず……といった様子。
――どうしよう、すごく気まずい。すごく……気まずいよ……!
頭を抱えられるものだったらそうして、ぶんぶん首を振ってそうなくらいのこの状況の中、どれだけ長い間そうしていたんだろう?
動けず、じっと反応を待ち望んでいた僕はレイクラド王がやっと口を開く様子を見て、どこか安堵してしまった。
「お主、巨竜の時と今とでは随分話し方が違うな。
本当にお主が我と同等に戦い、痛み分けにまで持っていったとは、とても思えぬよ」
「キャウウウウウ(余計なお世話だよ)」
親しみ深げに僕に話しかけてくる第一声がそれなことに、思わず戸惑いを覚えてしまった。
結構もったいぶって黙ってた割りには、彼が言いたかったのってこれ? これなの?
思わず白けた目を向けてしまうと、レイクラド王はそれを遮るように一つ咳払いをして話を移してきた。
「ごほん……。フレイアール、お主にだけは伝えておく必要があるだろうと思ってな。
だが、一つだけ約束してほしい。決してこの事は他言無用……例えお主の母であるティファリス女王にも秘密にして欲しい。頼めるか?」
「キュ? キャウゥゥゥ……」
僕はこのレイクラド王の言葉にすごく悩んでしまった。
だって母様にも内緒だなんて……そんなこと出来ない。そう思ったんだけど……。
「キャウ(わかった)」
僕は自然と首を縦に振っていた。
なんでかはわからない。だけど……僕は目の前にいる死闘を繰り広げた竜人の魔王の言葉を聞かないと行けない。
そんな気がしたから……一番したくない母様への内緒事にも頷いた。
「まず、なぜ今回の戦争が起きたと思う? 少なくともラスキュスの事情は、お主たちも知っているだろう」
「キュル」
もちろん知ってる。ラスキュス女王は聖黒族との契約スライムで、僕の姉様と同じ存在だということぐらいは。
僕も初めてスロウデルに行くってなった時、一緒についていったんだし。
「ラスキュスはその出自故に同胞の存在を守ろうとする性質がある。
そして……そのために、全てを犠牲にする覚悟すら」
レイクラド王は立っているのが億劫だと言うかのように椅子を僕のいる場所に引き寄せて、どっかりと腰を降ろした。
それだけ彼の方も疲労が強いはずなのに……それでも話し続ける。なにか、罪を告白するかのように。
「無論……我も似たようなものであろう。
我は弱い男である。友との約束を守れず、愛した者すら失った熱を抱えたまま、今の今までのうのうと生き腐る程には、畜生に違いない」
あまり話についていけてない僕に対して、懺悔をするように言葉を並べ立ててくれるのはいいけど……もう少し順序よく話してもらいたい。
こんな気怠い身体を抱えたままじゃ整理するのも大変なんだから。
声も上げずに抗議の視線を向けると、レイクラド王はしまったと言うかのように苦笑してわかりやすく説明してくれた。
「つまり、だ。我もラスキュスも、ヒューリ王の……聖黒の魔王の要請を受けて今回の戦争を引き起こした……そういうわけだ。
ラスキュスはそれを含めて、ティファリス女王の為を思っていたようだがな。
肝心の我は……熱に浮かされるように長年燻っていた感情が今やっと燃えてしまってな。結果はこのような有様だ」
ヒューリ王が聖黒族……本当なのかととても信じられない気持ちになったんだけど……多分これについて、彼は答えてくれないだろう。視線がそう語っていた。
「キャウウウウキュル、キュルア?(聖黒族とレイクラド王は、なにか関係あるの?)」
だからこそ他になにかないかと考えて思い浮かんだ問を投げかけると、『そうだ』と彼は深く頷いていた。
「聖黒族が西の地域を領土としていた時、我ら竜人族は懇意にしていたのだ。
元々、聖黒の女と始竜の男が交じりあった結果誕生したのが我らの種故な。
自然と、交流は盛んに行われていた。当時まだ子供であった我は憧れの瞳で彼らを見ていたものだ。
光も闇も自在に扱い、他者との争いはあまり好まず、必要に迫られない限り力を誇示することはない。
そしてその魔王は堂々とした凛々しい青年の魔王であった」
ゆっくりと過去の思い出に浸るかのように天井を見上げて、レイクラド王は僕に語って聞かせてくれる。
「子供ながらに思ったものだ。いずれは竜人のように雄々しく力強く、彼らのように他者を思いやれる者になろう。
国を継ぎ、そしてこれからも……絶えず彼の国と交流を深めて行こう、と」
徐々に感情的になって……怒りに顔を歪ませるような表情になりながら、それでも語ってくれてるのは竜人の歴史。
僕の知らない時代を生きた証を……伝えてくれるように思えた。
でもそれと同時にこの話を今する必要があるのだろうか? という疑問も湧いてきた。
「アールヴが自らの血の混じったエルフどもに殺され、陵辱された後から全てが変わった。
世の中は徐々に魔力の強い者と交配し、自身の種族をより強く、より素晴らしい存在に昇華しよう……そういう動きだ。
魔王種として成長を遂げた英猫、竜神、精霊……種族としては銀狐、聖黒、アールヴが狙われることになった。
当時は鬼・鬼神族の存在は周知ではなく、彼らも率先して他種族と関わろうとはしなかった。
彼らの言葉で口にするならば、まさしく鎖国状態であった……というのがしっくりと来るであろう」
「……キャウ、キャルルルルル(……それは、今の僕たちに関係あるの)?」
思わず僕は彼に、レイクラド王そう聞いてしまった。
だって、それは歴史の話。確かに今を生きる僕たちにはそれを教訓に、糧にして生きていく義務もあると思う。
だけど、今ここで話す理由がない。
「まあ聞け。老いた者の話は常に長い物だ。
なにせ、端的に語れるほどの短い生を歩んではおらぬからな」
今からそれを体験しておけと言わんばかりの表情を浮かべているけど……出来ればもっと簡単に話して欲しい。
僕だって本当はもうちょっとゆっくり眠りたいのに、無理して起きてるんだから。
そんな希望も虚しく、レイクラド王は変わらず話を続けてきた。
「当時の我らの中に竜神まで至るものは少なく、また至ったとしても我やお主のように無慈悲な攻撃方法を持つものも多かった。故に手を出されることも少なかった。
しかし……」
俯くこの人の言いたいことはわかる。
聖黒族は誰の助けも得られず、同じ種族同士で連携してもきりが無くて……最後は滅びていったって。
ラスキュス女王も言っていた。
陵辱され、道具に玩具にされるくらいなら、種族としての誇りを胸に死んでいくことこそ、聖黒族の在り方だったって。
「あの時、遠方の国が拠点として利用したのが……他ならぬ竜人族の国だった。
父は、当時の流れが自身に向くのを極度に恐れ、己の保身のためだけに他地域から国の者を受け入れたのだ。
それが……彼らを追い詰めてしまった。始竜と聖黒に連なる一族が、裏切った結果が……」
ぎゅっと拳を握りしめている彼の表情から、僕は大体の検討を付けた。
きっと……彼は許せなかったんだ。
自分の父親も、聖黒族を助けることが出来なかった自分自身すら。
だから……始竜の僕にそれを伝えたかったのだって。
彼は――レイクラド王はきっと自分の中で溜まった感情の全てを曝け出して……楽になりたいんだって。
だったら僕に出来ることは、彼の言葉を聞いてあげることだろう。
それが、始竜として、長く苦しい生を歩み続けたこの老王に出来ることなんだろうって……そう思った。
話の長いお爺ちゃんなのは少し勘弁してほしいけどね。
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