聖黒の魔王

灰色キャット

文字の大きさ
上 下
257 / 337
第9章・上位魔王達の世界戦争

237・ドワーフの対竜人魔道具

しおりを挟む
「『クイック』」

 一気に加速を掛けてくるレイクラド王をまっすぐ見据えて機を伺う。
 今は私一人ではありません。フワロークが……守りに回ってくれる人がいるからこそ、こうやって心穏やかにいられるのでしょう。

「『ファイアランス』! ……『ブラストボム』!」

 じっくりと狙いを定めるように炎の槍を撃ち出し、そのまま続けざまに風の力を内包した爆弾の魔法を解き放ちました。
 そのままぐっと細剣を握りしめ、この全てを切り抜けてくるであろうレイクラド王を待ち構えるように突きの体勢を整えました。

「『アバタール』」

 二つの魔法を左腕で顔を隠し、右腕の方は槍がぶれないように身体に密着させるような体勢を取って耐えぬいたレイクラド王はくるっと一回転しながら別の位置・角度から全く同じ攻撃をするもう一体の彼を魔法で出現させてきました。

 不味いですね。ただでさえ恐ろしい速度で迫ってきている彼の一撃は、まともに食らうだけで致命傷必至。
 どちらが本物かわからない以上、両方共迎撃する必要がありますから、フワローク一人に防御を任せるわけには行きませんね……。

 それにしても、レイクラド王は先程から熱線ブレスをほとんど使って来ないのが不思議で仕方ないです。

 今も、ですが『クイック』と『アバタール』ぐらいしか使用してきておりません。
 余裕かなにか知りませんが……何にせよ私達には都合がいい。
 彼の攻撃は今、相当早いとはいえかなり直線的で、行動が読みやすいです。

「マヒュム」
「わかっています」

 フワロークが私にどんな行動を取って欲しいのか名前を呼ぶ声のトーンだけで読み取った私は、左側のレイクラド王だけを注視していました。
 彼女を信じていなければまず出来ない行動です。

「『アースニードル』!」

 土の針を複数出現させ、左のレイクラド王に向かって解き放つのですが……くるくると回るように左に避け……もう彼の攻撃は目の前。間近にまで迫ってきました。

「『クイック』!」
「『ガイアウォール』!」

 少しでも彼の速度に付いていくために速度を上げる私と、地面から大きく長く分厚い壁をせり上げ、自身の姿を隠していくフワローク。

 私に向かってきたレイクラド王の右側面に辛うじて避けた瞬間、細剣で彼の身体を素早く一突き。
 鈍い音を立てて鎧に攻撃が命中して、そのまま更に別の箇所に一突き。

 先ほどと同じように無様に転がりながら冷静に戦況を分析していると、フワロークがいたほうでは激しい何かが砕ける音が広がって……そちらの方に視線を向けると、『ガイアウォール』をぶち抜いていくレイクラド王の姿が見えました。

「くっ……はああぁぁぁぁ!!」

 そこには崩れ壊れていく『ガイアウォール』の欠片が小さな体に鋭く降り注ぎ、傷つきながらも力強く大きな斧を振り上げているフワロークの姿が。

「『フォールグラビティ』!」

 振り下ろす寸前に唱えた魔法……それは自分が指定した場所に小範囲の強い重力を発生させるものです。
 本来は自分に向かって放つような魔法じゃないのですが……彼女はあえてそれをしてきました。

 射程範囲には私の方に向かってこなかったレイクラド王がいて、フワロークと共に『フォールグラビティ』の影響下にあるようです。
 それでも多少動きが緩慢になった程度というように動こうとするレイクラド王には恐ろしさを感じざるを否めませんが……。

 しかし今のこの状況なら、フワロークの方が圧倒的に速い。
 彼女はその大きな斧をまっすぐ振り下ろすだけ。

 そしてそれは『フォールグラビティ』の影響を強く受け、通常よりも……それこそ『クイック』で加速した攻撃よりもなお速く行動することが可能というわけです。
 ですがそれは諸刃の剣……自分自身にもその重力は押しかかってくるのですから。

「いっけええええええ!」

 力強く振り下ろしたそれをレイクラド王は避けることも叶わず、槍を横向きに構えて防御の姿勢を取りました。
 斧と槍が混じり合った瞬間、凄まじい金属がぶつけ合う音。

 その中にいるのは二人はしばらく膠着状態を保っていましたが、次の瞬間……レイクラド王は口を開き、そこで魔力を凝縮していって――不味いです! あれは……!

「フワローク! すぐに魔法の解除を!」
「くっ……あ、ああああぁぁぁぁ!」

 フワロークもレイクラド王が口を開いてるのが見えてどうにかしようとしているのですが……これでは間に合いません!

「『フレアボム』!」

 私は咄嗟にフワロークとレイクラド王の間に爆発系の魔法を投げ入れ、熱線ブレスが放たれる前に爆発させる事に成功しました。

「あああっっ……くっ……ぎゃ……!」

 爆発を直撃したフワロークは全体的に少々焦げているような煙を上げながら何度かバウンドして転がっていくのが見えますが、身体に魔力を漲らせていたおかげで、軽傷……と言える範囲で済んでいるようでした。

 レイクラド王の方は……まるで何事もなかったかのようにフワロークがいたであろう辺りに向けて熱線ブレスを放っていました。
 上に向かって放たれる凄まじい熱量の一撃は、何も霞んで見えそうなほどの威力。

 ――間近で見るとこんなにも恐ろしいものなのですか……。

 彼の周囲がひび割れながらぼこぼこに歪んでいるのを見ると、あれほどの一撃……砦に当たれば消し炭になってしまうでしょう。

 熱線ブレスが収まりかけた頃にはなんとかフワロークの元にたどり着くと、彼女の方は大分傷ついており、目前であんな攻撃を飛んでこようとしていたことに恐怖しかけていました。

「だ、大丈夫ですか?」
「うん……でも……あんな攻撃されたら……」

 これでレイクラド王はまだ全力ではない。
 いや……出す必要がない。
 だからこそ涼しい顔で体力や魔力の消費の少ない攻撃ばかりしてきたのでしょうから。

 レイクラド王は悠然と私たちの方を向き、今度はそのままこちらを捉えるように槍の穂先を向け――ああ、これは本格的に終わったかも知れない……。

 という諦めの想いが一瞬、体中を満たし、重くのしかかっていきます。
 ここで……ここで私の終わりなのかも知れませんね。

 レイクラド王が静かに腰を掲げ、私たちに向かって一条の矢のように解き放たれようとしているその瞬間――大きな咆哮が響き渡りました。

 あまりにも威厳に満ちた大きな轟き。
 レイクラド王すらその気配に察したのか、私たちを視線から外し――いやこちらも思わず空を見上げるとそこには……。

 まるでこの世の闇と炎の全てを集めたかのような黒く雄々しいその姿は、ある意味この世の終わりをももたらしそうな姿をしておりました。
 しかし……なぜかどこかで見た気がするような……そんな気しました。

「なんですか……あれは……?」
「さ、さあ……? でもあっちが警戒してるってことは……」

 そう、一瞬、レイクラド王側の増援かとも考えましたが、それにしては彼の態度が敵対者のそれと同じというのが気になります。

『聞け。我らが同胞ラスガンデッドの者たちよ。我が名はフレイアール。
 我が母、ティファリスの命を受け、今より貴君らの戦いに参戦しようではないか!』

 フレイアール……あの飛竜の子どもですか!?
 一体何をすればあんな巨大な姿に成長するというのでしょうか……。

「フワローク」
「……うん、今が絶好の機会だね。でも……」

 どこか不安そうな言葉をフワロークが発した直後――レイクラド王はその成長したフレイアールの元に飛んでいき、空中には内部に白い線が稲妻のように走る大きな黒い球体が咲き乱れ始めました。

「あれは……」
「対竜人用魔道具『重飛墜』。一応準備していて良かった」

 いつの間にそんな物を……とも思いましたが、レイクラド王がいない今、私たちも戦線を支えるために動かなければ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。 アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。 だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。 それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。 しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

孤児のTS転生

シキ
ファンタジー
とある地球という星に住む男は仕事帰りに通り魔により殺されてしまった。 次に目を開けた時、男の頭の中には一人の少女の記憶が駆け巡り自分が今置かれている状況を知る。 此処は地球という星ではなく科学の代わりに魔法が発展した俗に言う異世界という所だった。 記憶によれば自分は孤児であり街の片隅にあるスラムにいるらしい。 何をするにもまず動かなくてはならない。 今日も探索、採取、狩猟、研究をする日々。 自分がまったりする日は少ししかない。 年齢5歳の身体から始まる鬼畜な世界で生き抜く為、今日も頑張ります!

空間魔法って実は凄いんです

真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!

配信者ルミ、バズる~超難関ダンジョンだと知らず、初級ダンジョンだと思ってクリアしてしまいました~

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)
ファンタジー
女主人公です(主人公は恋愛しません)。18歳。ダンジョンのある現代社会で、探索者としてデビューしたルミは、ダンジョン配信を始めることにした。近くの町に初級ダンジョンがあると聞いてやってきたが、ルミが発見したのは超難関ダンジョンだった。しかしそうとは知らずに、ルミはダンジョン攻略を開始し、ハイランクの魔物たちを相手に無双する。その様子は全て生配信でネットに流され、SNSでバズりまくり、同接とチャンネル登録数は青天井に伸び続けるのだった。

わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが?

自転車和尚
ファンタジー
【タイトル】 わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが? 〜魔王を倒し世界を救った最強勇者様だったこの俺が二度目の転生で、超絶美少女貴族に生まれ変わってしまった。一体これからどうなる私のTS貴族令嬢人生!? 【あらすじ】 「どうして俺こんな美少女令嬢に生まれ変わってんの?!」 日本の平凡な男子大学生が転生し、異世界『レーヴェンティオラ』を救う運命の勇者様となったのはもう二〇年も前。 この世界を脅かす魔王との最終決戦、終始圧倒するも相打ちとなった俺は死後の世界で転生させてくれた女神様と邂逅する。 彼女は俺の偉業を讃えるとともに、神界へと至る前に女神が管理する別の異世界『マルヴァース』へと転生するように勧めてきた。 前回の反省点から生まれは貴族、勇者としての能力はそのままにというチート状態での転生を受け入れた俺だが、女神様から一つだけ聞いてなかったことがあるんだ……。 目の前の鏡に映る銀髪、エメラルドグリーンの目を持つ超絶美少女……辺境伯家令嬢「シャルロッタ・インテリペリ」が俺自身? どういうことですか女神様! 美少女転生しても勇者としての能力はそのまま、しかも美少女すぎて国中から讃えられる「辺境の翡翠姫(アルキオネ)」なんて愛称までついてしまって……ちょっとわたくし、こんなこと聞いてないんですけど? そんなシャルロッタが嘆く間も無く、成長するに従ってかけがえの無い仲間との邂逅や、実はこの世界を狙っている邪悪な存在が虎視眈々と世界征服を狙っていることに気がつき勇者としての力を発揮して敵を打ち倒していくけど……こんな化け物じみた力を貴族令嬢が見せたらまずいでしょ!? 一体どうなるの、わたくしのTSご令嬢人生!? 前世は♂勇者様だった最強貴族令嬢の伝説が、今幕を開ける。 ※本作は小説家になろう、カクヨム、アルファポリスに同時掲載を行なっております。

公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都
ファンタジー
 異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。  跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。  だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。  彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。  仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。

【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました

鹿乃目めの
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。 ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。 失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。 主人公が本当の愛を手に入れる話。 独自設定のファンタジーです。実際の歴史や常識とは異なります。 さくっと読める短編です。 ※完結しました。ありがとうございました。 閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。 (次作執筆に集中するため、現在感想の受付は停止しております。感想を下さった方々、ありがとうございました)

処理中です...