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第8章・エルフ族達との騒乱
205・魔王様、今後の事を考える
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――リーティアス・ティファリス視点――
アシュルをパーラスタに使者として送り、その数日後――。
彼女は特に酷いことはされずにこのリーティアスへと戻ってきた。
いや、いきなり襲われた上に『隷属の腕輪』を着けられたっていうのは酷いことをされたと言えるんだろうけど……。
アシュルにはそんなもの効かないし、適当にあしらわれるだけで終わったそうだからあまり問題もなかったと言えるだろう。
それよりも問題なのはフェリベル王の対応だろう。
明らかに時間稼ぎを狙っているのだけれど……彼が指示してやらせたという確かな証拠もないし、彼は嘘でも対応してくれると言った。
これで開き直って好戦的になってくれればまだこちら側にもやりようがあるんだけど、こうもこっちの提示した条件に真面目に応じられては、どうしようもできない。
こういう風な展開になるかも知れない……。
そう思っていたからこそ無理な軍編成はしなかったのだけれど、それでも一番恐ろしいであろう強力な武器という情報だけの『極光の一閃』には備えておく必要はある。
それだけの準備をしながら、機会を伺って侵攻できるだけの理由を用意する必要がある。
……だからこそアシュルを使者へとして送った意味もあったというものだ。
現在、『アクアディヴィジョン』でアシュルはパーラスタの城内を監視している。
これでフラフを見つけることが出来れば、即座に引き渡しの要求へと移れるし、色々とやりようもあるというものだ。
今は彼女は『アクアディヴィジョン』で生み出した自らの分身を動かしているせいでロクに魔導を使うことも出来ないけど、今はフラフを見つけることこそがなによりも最優先だ。
だからこそ、彼女には通常の仕事は全て休ませ、パーラスタの事情を探る事に全力を尽くさせている。
今も私の隣で一生懸命様子を伺ってくれている。
「アシュル、どう?」
「うーん……特に何もありませんね。
こっちも必要最低限の魔力しか送ってませんから見つかるような派手な真似もすることも出来ませんし……ちょっと送る魔力を増やして透明化に更に力を入れようと思います」
「頼むわね」
私がぽん、とアシュルと頭に手をのせて、よしよしと撫でると、すごく嬉しそうに目を細めてくれる。
全く、本当に可愛いやつだ。私のなでなでも思わず力が入るというもの。
「お任せください! 必ずフラフは見つけてみせます!」
より一層やる気を見せてくれたアシュルに笑いかけ、そのまま視線は私の隣。
隣の方には最近物凄く頑張ってくれてるフレイアールがすやすやと眠っている。
この子は本当に仕事を任せることが増えてしまったからね。
甘えたいと思ってくれたときぐらい出来るだけこの子の要望には答えてあげなくてはならないだろう。
なにしろワイバーンの非じゃない速度で空を飛ぶ――いや、駆けるものだからかなり助かっているのだ。
行きたい時に最短で向かってくれるこの子は成長してからというもの、重要な用事がある度にその体を空へと舞い上げ、連れて行ってくれるのだ。
まあ、だから私の隣で眠りたいとか、一緒に美味しいもの食べたいとか……そんなささやか過ぎる願いくらい叶えてやりたくなるというのも親心というもの。
成竜状態のこの子は凛々しくて格好いいが、小竜状態で無防備な今のこの子は本当に可愛い。
思わず頭を撫でると嬉しそうに鳴いて……なんだか猫みたいなことしてるなぁ……なんて思いながら、私は政務に努めていくのだった。
――
それから月がかわり、9の月ファオラ・8日。
祭りも終わって国での準備を終わったセツキが再びリーティアスに訪れてくれた。
というかこの鬼、何かにつけてここに来ているような気がする。
……まあ、今回は私が呼んだんだからそんな事を言ってはいけないんだろうけど。
今は応接室で私とセツキ。
それと後ろに控えるようにアシュルとカザキリが待機している。
ちなみに、ベリルちゃんは別の場所で待機……というかパーラスタで教えてもらえなかったことに関してお勉強中だ。
なにしろベリルちゃんはフェリベル王の片割れ。
セツキがそれを知ったら面と向かって文句を言うことはないだろうけど、相当怒りをその胸の中に貯め込むことになるだろう。
不必要に関係を拗らせる必要がない以上、ベリルちゃんには極力セツキやカザキリの前には出ないようにしてもらうつもりだ。
……もっとも、セツキがディトリアの町をうろつくようなことになれば普通にベリルちゃんの情報を入手することは出来るし、こっちが積極的に会わせないってだけなんだけどね。
「祭りの時以来だな」
おおう、私が呼んだ理由が理由だけに、今回は相当大真面目な顔をしている。
あまり真剣な表情をしているものだから、私の方も思わず顔を引き締めてしまう。
「そうね。
まさか私がそっちに行ってすぐに貴方をこっちに呼び寄せることになるとは思わなかったけどね」
「あの時と今とじゃ色々状況が変わってきたってこった。
で、盗まれた歴代魔王たちの情報について……で良かったんだったな」
「ええ。
本当は私がそっちに行きたかったんだけど……」
そこまで言うと、こちらの事情を知っているセツキはにやりと笑いながらゆっくりと首を振り、こちらの事情は察していると言わんばかりだった。
「フェリベル王と一悶着あるんだろう?
なら、極力自分の国から出るべきじゃない。特に地域ごと治めてるお前はな。
俺の方は特になんともねぇし、構わねぇよ」
「そう言ってくれたら嬉しいわ。
それで、鬼族の魔王のことなんだけれど……」
「ああ、ちょっと待った」
早速話を聞こうとした私に向かって、セツキは手で制するような仕草を取ってきた。
その後、彼から感じられるのは妙な緊張感。
「ティファリス。
お前、俺に隠してること、あるよな?」
「……隠してること? それは……」
セツキの表情、仕草。
それは彼が私の事に関する重大な何かを知っている……そういうことか。
全く、私がわざわざ気を回して隠したはずなのに、これでは全ての考えが台無しもいいところじゃないか。
「ベリルちゃんの事?」
「ああ。そのエルフの王の片割れのことだ」
「よく知ってるわね」
「アストゥに聞いた。
リーティアスでの会議後、真っ先に俺に手紙をよこしてくれたぞ」
アストゥめ……余計なことを。
思わずため息をもらした私だったけど、それで事態が好転するはずもなく、気まずくなってそっぽを向いてふてくされたような声を出してしまった。
「別に隠していたわけじゃないわ。
ただ……言いづらかっただけよ」
「それで言及されるまで黙ってたのは、隠してたって取られても仕方ないぞ?」
はぁー、とため息をつきながら頭を掻いてるセツキの言葉にはぐうの音も出ず、何も言うことは出来ない。
それから何を言われるかと戦々恐々だったが、彼が次にした発言は……私にとっては意外なものだった。
「……あまり俺のことを甘く見るなよ。
確かに、エルフ族は俺は嫌いだ。よくもあんなことをしてくれたと怒りもする。
だけどな、なんにも知らないやつにそんなもんをぶつけるほど、落ちぶれちゃいねぇんだよ」
怖いほどに鋭い視線。
燃え上がるほどの怒りをその目に宿して、まっすぐ私を射抜いてくる。
……なるほど。
私はどうやら酷い勘違いをしていたようだ。
自分の尺度でセツキの事を勝手に図って、私の考えを彼に押し付けてしまっていた。
「良かれと思ってやったんだけど……ごめんなさい」
「……ふぅ、わかればいい。
そのベリルってのと直接会う気はないし、そこの配慮は感謝しておくぞ。
怒りをぶつける気はないが、気分が良いもんじゃないからな」
セツキはそれで納得してくれたようで、その後、私に様々な事を教えてくれた。
歴代魔王の特徴、力。その詳細まで。
そして私はそれを自身の考えを整理しながら出来るだけ正確に文書へと記し、南西地域の魔王たちに伝達する。
こうして、私はフェリベル王の……パーラスタとの戦いに向けて準備を進めていくのであった。
アシュルをパーラスタに使者として送り、その数日後――。
彼女は特に酷いことはされずにこのリーティアスへと戻ってきた。
いや、いきなり襲われた上に『隷属の腕輪』を着けられたっていうのは酷いことをされたと言えるんだろうけど……。
アシュルにはそんなもの効かないし、適当にあしらわれるだけで終わったそうだからあまり問題もなかったと言えるだろう。
それよりも問題なのはフェリベル王の対応だろう。
明らかに時間稼ぎを狙っているのだけれど……彼が指示してやらせたという確かな証拠もないし、彼は嘘でも対応してくれると言った。
これで開き直って好戦的になってくれればまだこちら側にもやりようがあるんだけど、こうもこっちの提示した条件に真面目に応じられては、どうしようもできない。
こういう風な展開になるかも知れない……。
そう思っていたからこそ無理な軍編成はしなかったのだけれど、それでも一番恐ろしいであろう強力な武器という情報だけの『極光の一閃』には備えておく必要はある。
それだけの準備をしながら、機会を伺って侵攻できるだけの理由を用意する必要がある。
……だからこそアシュルを使者へとして送った意味もあったというものだ。
現在、『アクアディヴィジョン』でアシュルはパーラスタの城内を監視している。
これでフラフを見つけることが出来れば、即座に引き渡しの要求へと移れるし、色々とやりようもあるというものだ。
今は彼女は『アクアディヴィジョン』で生み出した自らの分身を動かしているせいでロクに魔導を使うことも出来ないけど、今はフラフを見つけることこそがなによりも最優先だ。
だからこそ、彼女には通常の仕事は全て休ませ、パーラスタの事情を探る事に全力を尽くさせている。
今も私の隣で一生懸命様子を伺ってくれている。
「アシュル、どう?」
「うーん……特に何もありませんね。
こっちも必要最低限の魔力しか送ってませんから見つかるような派手な真似もすることも出来ませんし……ちょっと送る魔力を増やして透明化に更に力を入れようと思います」
「頼むわね」
私がぽん、とアシュルと頭に手をのせて、よしよしと撫でると、すごく嬉しそうに目を細めてくれる。
全く、本当に可愛いやつだ。私のなでなでも思わず力が入るというもの。
「お任せください! 必ずフラフは見つけてみせます!」
より一層やる気を見せてくれたアシュルに笑いかけ、そのまま視線は私の隣。
隣の方には最近物凄く頑張ってくれてるフレイアールがすやすやと眠っている。
この子は本当に仕事を任せることが増えてしまったからね。
甘えたいと思ってくれたときぐらい出来るだけこの子の要望には答えてあげなくてはならないだろう。
なにしろワイバーンの非じゃない速度で空を飛ぶ――いや、駆けるものだからかなり助かっているのだ。
行きたい時に最短で向かってくれるこの子は成長してからというもの、重要な用事がある度にその体を空へと舞い上げ、連れて行ってくれるのだ。
まあ、だから私の隣で眠りたいとか、一緒に美味しいもの食べたいとか……そんなささやか過ぎる願いくらい叶えてやりたくなるというのも親心というもの。
成竜状態のこの子は凛々しくて格好いいが、小竜状態で無防備な今のこの子は本当に可愛い。
思わず頭を撫でると嬉しそうに鳴いて……なんだか猫みたいなことしてるなぁ……なんて思いながら、私は政務に努めていくのだった。
――
それから月がかわり、9の月ファオラ・8日。
祭りも終わって国での準備を終わったセツキが再びリーティアスに訪れてくれた。
というかこの鬼、何かにつけてここに来ているような気がする。
……まあ、今回は私が呼んだんだからそんな事を言ってはいけないんだろうけど。
今は応接室で私とセツキ。
それと後ろに控えるようにアシュルとカザキリが待機している。
ちなみに、ベリルちゃんは別の場所で待機……というかパーラスタで教えてもらえなかったことに関してお勉強中だ。
なにしろベリルちゃんはフェリベル王の片割れ。
セツキがそれを知ったら面と向かって文句を言うことはないだろうけど、相当怒りをその胸の中に貯め込むことになるだろう。
不必要に関係を拗らせる必要がない以上、ベリルちゃんには極力セツキやカザキリの前には出ないようにしてもらうつもりだ。
……もっとも、セツキがディトリアの町をうろつくようなことになれば普通にベリルちゃんの情報を入手することは出来るし、こっちが積極的に会わせないってだけなんだけどね。
「祭りの時以来だな」
おおう、私が呼んだ理由が理由だけに、今回は相当大真面目な顔をしている。
あまり真剣な表情をしているものだから、私の方も思わず顔を引き締めてしまう。
「そうね。
まさか私がそっちに行ってすぐに貴方をこっちに呼び寄せることになるとは思わなかったけどね」
「あの時と今とじゃ色々状況が変わってきたってこった。
で、盗まれた歴代魔王たちの情報について……で良かったんだったな」
「ええ。
本当は私がそっちに行きたかったんだけど……」
そこまで言うと、こちらの事情を知っているセツキはにやりと笑いながらゆっくりと首を振り、こちらの事情は察していると言わんばかりだった。
「フェリベル王と一悶着あるんだろう?
なら、極力自分の国から出るべきじゃない。特に地域ごと治めてるお前はな。
俺の方は特になんともねぇし、構わねぇよ」
「そう言ってくれたら嬉しいわ。
それで、鬼族の魔王のことなんだけれど……」
「ああ、ちょっと待った」
早速話を聞こうとした私に向かって、セツキは手で制するような仕草を取ってきた。
その後、彼から感じられるのは妙な緊張感。
「ティファリス。
お前、俺に隠してること、あるよな?」
「……隠してること? それは……」
セツキの表情、仕草。
それは彼が私の事に関する重大な何かを知っている……そういうことか。
全く、私がわざわざ気を回して隠したはずなのに、これでは全ての考えが台無しもいいところじゃないか。
「ベリルちゃんの事?」
「ああ。そのエルフの王の片割れのことだ」
「よく知ってるわね」
「アストゥに聞いた。
リーティアスでの会議後、真っ先に俺に手紙をよこしてくれたぞ」
アストゥめ……余計なことを。
思わずため息をもらした私だったけど、それで事態が好転するはずもなく、気まずくなってそっぽを向いてふてくされたような声を出してしまった。
「別に隠していたわけじゃないわ。
ただ……言いづらかっただけよ」
「それで言及されるまで黙ってたのは、隠してたって取られても仕方ないぞ?」
はぁー、とため息をつきながら頭を掻いてるセツキの言葉にはぐうの音も出ず、何も言うことは出来ない。
それから何を言われるかと戦々恐々だったが、彼が次にした発言は……私にとっては意外なものだった。
「……あまり俺のことを甘く見るなよ。
確かに、エルフ族は俺は嫌いだ。よくもあんなことをしてくれたと怒りもする。
だけどな、なんにも知らないやつにそんなもんをぶつけるほど、落ちぶれちゃいねぇんだよ」
怖いほどに鋭い視線。
燃え上がるほどの怒りをその目に宿して、まっすぐ私を射抜いてくる。
……なるほど。
私はどうやら酷い勘違いをしていたようだ。
自分の尺度でセツキの事を勝手に図って、私の考えを彼に押し付けてしまっていた。
「良かれと思ってやったんだけど……ごめんなさい」
「……ふぅ、わかればいい。
そのベリルってのと直接会う気はないし、そこの配慮は感謝しておくぞ。
怒りをぶつける気はないが、気分が良いもんじゃないからな」
セツキはそれで納得してくれたようで、その後、私に様々な事を教えてくれた。
歴代魔王の特徴、力。その詳細まで。
そして私はそれを自身の考えを整理しながら出来るだけ正確に文書へと記し、南西地域の魔王たちに伝達する。
こうして、私はフェリベル王の……パーラスタとの戦いに向けて準備を進めていくのであった。
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