聖黒の魔王

灰色キャット

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第8章・エルフ族達との騒乱

190・魔王様、友との帰還

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 ――ティファリス視点――

 ベリルちゃんの話を聞いてからしばらく、私達はクルルシェンドに滞在することになった。
 その間は、ずっとフラフとベリルちゃんが私の傍についていたのはちょっと鬱陶しく感じそうにもなったのだけれど、ベリルちゃんなんて私と会いたいが為にここまで来てくれたのだからそう邪険にすることが出来ない。

 そうなったら必然的にフラフも邪魔者扱いするわけにはいかない。
 そんなことしたら絶対彼女は悲しむ。間違いなく寂しい顔をする。

 そんな風に考えてしまった私は、結局彼女たちに振り回されるように一緒の時間を過ごしていたのだけれど、それもやがて終わりを告げる。

 私もこの南西地域を取り仕切る上位魔王。
 ここに来たのはちょっとした気分転換だったし、そんなに長い間留まるつもりもなかったからだ。
 問題はベリルちゃんだったのだが……少し悩んだ末、彼女はそのまま私と一緒にディトリアに連れて行くことにした。

 まだまだ彼女には聞きたいことがあるし、私が質問すれば彼女はなんでも答えてくれる。
 それこそなんでもだ。胸の大きさから『隷属の腕輪』の作り方まで。

 熱に浮かされた少女のような顔をして――いや少女なんだけど。
 聞いていないことまで喋ってくれるもんだから、クルルシェンドにいる間だけじゃ足りなくなるほどだ。

 ……それだけ、ベリルちゃんが私を信頼してくれているということだろう。
 なら、私はできるだけそれに応えてあげたい。
 それが彼女が私に向けてきている感情に報いることになるのだと思ったのだ。

 幸いワイバーンは二人で乗ることが出来るし、今回は私がここにいることがリーティアス側にわかっているからか、一匹多く連れてきてくれていたこともあって、皆で乗って帰る事ができた。
 その際、フラフとベリルちゃんのどっちが私と一緒に乗るか激しい闘いを繰り広げることになったのだけれど……そこはまた別の話だろう。

 とにかく、私は新しい仲間、多くの情報を手に入れて、クルルシェンドを後に……リーティアスの現首都と化したディトリアに戻るのであった。





 ――





 ――リーティアス・ディトリア――

 久しぶりに帰ったディトリアはやはり潮風が心地よい。
 故郷の香りがして、少し離れただけなのにすごく懐かしい気がするのだ。

 ワイバーンから降りた私を真っ先に出迎えてくれたのは、やはりアシュルだった。

「ティファさま! おかえ……り……なさい」
「アシュル? あ……」

 最初、なんでアシュルが少しずつ顔が青ざめていくのかわからなかった。
 言葉の歯切れが悪くなるのも無理はない。なんてたって隣にベリルちゃんがいるのだから。

「あ、あの、ティファ……さま。この人は……?」

 ぷるぷると指が震えていて、まるで見たくもない現実を突きつけられてるような顔をしていた。
 私の方もきっと今は顔を青くしているだろう。
 なんというか、浮気がバレた男の人ってきっとこんな『やってしまった』みたいな気分になるのだろうか……。

 さらにベリルちゃんがフェリベルの片割れだということもまた気まずさを引き立てている。
『夜会』には彼女が出席してたわけだし、話をしていたらそれに気づく可能性だって十分にある。

 せめて館の中で出会ったのであれば……なんて考えもしたけど、それでも結局こんな気分になってしまっただろう。
 クルルシェンドではこれしかない、って思ったんだけれど、結構後先考えずに行動してしまったような気がする。
 と、とりあえずなにか言葉を出さなければ……。

「え、えーっと、この子はベリルちゃん、かな」
「ベリルだよ! ティファちゃんとはクルルシェンドで会ったの」
「ちゃ、ちゃんですか……!」

 ああ、すごく傷ついたような顔をしてる!
 よほど私が「ちゃん」付けで呼んだことにショックを受けたのか、呆然としているようだったけど……すぐその表情を怒りの色に染め上げて私を……というよりベリルちゃんと私の中間を見つめてくる。

 ああ、これはあの時の……『夜会』でマヒュム王と出会ったときのことを思い出した。
 確か私が彼に一目惚れしたと勘違いした結果、私とマヒュム王の中間ぐらいを睨んでいたんだっけか。

 いや、思い出に浸っている場合じゃない。
 ついつい過去に逃避してしまったけど、そんな事をしても何も解決しないどころか、悪化しかねない。
 案の定、何のフォローもしなかったからか、アシュルの機嫌は徐々に悪くなる一方だ。

「ティファさまはなんでもかんでも連れて帰りますよね! 私には? なんにも言えませんけど?
 でも……少しは私達の事も考えてほしいんです!」

 ぷるぷると握りこぶしを作って、微妙に涙を溜めてるように――って泣きかけてる!?

「あ、あの、アシュル。その、ね?
 ……ご、ごめんなさいね? 私もちょっと後先考えなさすぎて……」

 アシュルが目からもうすぐ溜まった涙が決壊しそうになったのを見て、柄にもなくおろおろしながらアシュルに謝ってしまう私。
 正直、アシュルの言うこともわかってしまうものだから、謝ることしか出来なかった。

 ベリルちゃんの方は流石に空気を呼んでくれてるのか、何も言わずにそっと私の腕から離れていく感覚を感じた。
 これがフラフの時のように意固地になって頑なに腕から離れなかったら、更にややこしいことになっていただろう。
 ひとまず私はアシュルの方に沿っと寄り添い、抱きしめることにした。

「あ……」
「アシュル、ほら泣き止んで。私も悪かったから。だからごめんなさいね」

 あまりにも涙を堪えてる姿が見ていられないから……ぎゅっと抱きしめて、ポンポンと背中を叩いてあげることにしたのだ。

「……本当に悪いと思ってますか?」
「思ってる」
「私、ティファさまに必要とされてますよね?」
「当たり前でしょう。貴女がいない暮らしなんて考えたこともないわ」

 やさしくあやすように背中をなでたりさすったりして、出来るだけ優しい言葉を掛け続けてあげる。
 ベリルちゃんを連れて帰ったのは私個人が勝手に決めたことだ。
 それで不安に感じさせてしまったのであったら、それを解消するのも私がしなければならないことだろう。

 必要があったとはいえ、一度アシュルに相談するまでクルルシェンドの宿に泊まらせておくという手も十分にあったはずだから。

「いいなー、わたしもしてもらいたいなー……」

 物欲しそうに私の事を見つめているベリルちゃんの事を放っておいて、私はしばらくアシュルをあやす。
 どれくらい時間が経ったろう? ようやく泣き止んだアシュルは、晴れやかな笑顔で私の方を見ていて……そこにはもう、怒りの表情は全く無かった。

 仕方がないと苦笑いでため息をついて私を見つめていた。

「私の魔王様は本当に仕方のない御方です。誰でもなんでも国に引き入れてくるんですもの。
 私達も大変です。でも、仕方ないですよね。それが貴女なんですもの」
「アシュル……」

 出来ればそんなダメダメな男を受け入れるような目でこっちを見ないで欲しい。
 なんだか『貴女には私がついてないと』みたいな視線を向けられている気がしたからだ。

 しかし……なんとか彼女にも認めてもらえたようでよかった。
 そんな風に一安心で私が一息ついていると、アシュルはそのままなにか決意したような笑みを私に向けてきていた。

「ティファさま、後で……取れる時でいいのでお時間、いいですか?」
「え、う、うん。わかった」

 一体どうしたというのだろう?
 アシュルがこんな風に言ってくるのも珍しかったり、私の方も思わず頷くのであった。
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