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第5章・十王狂宴
128・尊厳溢れる女神
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――マヒュム視点――
セツキ王の使者であるオウキからティファリス女王のことについて聞いた時に、私は不思議な運命を感じたのを覚えています。
上位魔王になったのはいいですが、いい加減フェリベル王の陣営の圧力や妨害行為……それに加えて自分達につけという脅迫まがいの命令にうんざりしていたところにもたらされたこともあり、随分タイミングがいいとも感じたほど。
更にそこの魔人族の魔王が上位魔王の中でも、相当の実力者であるセツキ王の推薦で『夜会』に参加するというではないですか。
彼は『夜会』に出席するようになってから、一度たりとも上位魔王に他の魔王たちを推薦することなど有りませんでした。
セツキ王曰く「弱いやつを推すつもりはない」のだとか。
そんな彼が初めて推薦した魔王……彼が認めたということは、間違いなく強者に名を連ねる一人なのでしょう。
だから私が彼女を見極めることにしました。セツキ王が推すその魔王が、本当に上位魔王に相応しいかどうかを。
だから一番最初にセツキ王と共にやってきた彼女に接触し、遠目から私の契約スライムであるイーシュにどれくらい強いか分析してもらうことにしたのです。
その結果は……判断不能。
イーシュが見たティファリス女王は、彼ではとても図る事ができない人物であるというのが結論だったのです。
彼はそれなりにのんきな性格をしていて……もしかしたら食べることに集中して何も見ていなかったのかも知れませんでしたが、どうやらそういう訳でもなかったようでした。
そう言えばセツキ王を初めて見たときもイーシュはそう言っていましたが……まさかあの少女が私を遥かに超えた存在であると?
確かにイーシュの見る目は私よりも優れていることは知っています。仮にも私の契約スライムなのですから。
ですが、それでもにわかには信じることが出来ませんでした。彼女の契約スライムであろうメイド服を身にまとっている少女の姿を見て、その言葉にようやく信憑性を感じたくらいですからね。
私の契約スライムはあくまで人型の枠を出ず、それに対してティファリス女王の契約スライムはセツキ王やレイクラド王と同じ、完璧に種族を再現した姿。魔人族のそれでした。
それだけでも彼女の能力の高さが伺え知れるというもの。
更にその後の決闘で同じ魔人族の魔王であるマルドル王を圧倒した力量。
恐らくですが、ティファリス女王には彼が単調な攻撃を繰り返していただけにしか見えていなかったのでしょう。あれだけシンプルな動きで制圧出来たということはそういうことです。
マルドル王は確かに同じ斬撃を繰り出していましたが、幾度の殺気によるフェイントを織り交ぜて攻撃を繰り出してきた所からかなりの実力者であったことには間違いなかったはずです。
それをまるでそんなものは知らないと言うかのように彼の動きを見切り、封殺したその強さ……『アバタール』を使った時なぞ、身動き一つせずまっすぐ目標に向かって攻撃するほどの冷静ささえ見せてくれました。
確かに上位魔王には少々及ばないにしても、ここに集ったティファリス女王以外の魔王と比べると力を持った魔王のはずですのに、ここまで差があるとは……。
私はその時に認めることにしました。彼女は間違いなく、強者であると。
ならばティファリス女王と上位魔王の地位を掛けて戦うのは私のほうがいいだろうという結論に至りました。
私自身、度重なる上位魔王同士の争いに疲れたということがあります。
それに元々、挑まれた戦いに次々と勝利を収めた結果得た地位でしたし、私としてもそこまで固執するほどのものでもありませんでしたからね。
それよりも私としては今後の立ち回りの方が重要なのです。
私の夢、穏やかで平和な毎日を過ごすためには、フェリベル王の要求を受け入れるわけにも行きませんし、そのまま突っぱね続けるだけでも達成できないのですから。
どこかの枯れた老人のような考え方だと、隣の国で同じ上位魔王であるフワロークによく呆れられていたものです。
全く、私のどこが枯れているというのですか。
大体誰のためにここまで骨を折ってると思っているのですかね。
彼女にはそこの所、もう少し考えてほしいものです。
……まあ良いでしょう。私は自分の思惑を持ってティファリス女王に近づき、決闘を挑むことになったのです。
彼女を強者と見込み、本当に上位魔王とするべきか見極める為に……私の目指す未来の為に。
――
はじめは私のことを侮っているからマルドル王の時と同じように素手なのかと思いましたが、まさか魔法で鎧を召喚するとは……あんな魔法は私も初めて見ました。
種族固有のものでも、通常のそれでもない異質な魔法。先程の『フレスシューティ』や『フィロビエント』なども見たことがなく、非常に高威力の魔法と言えるでしょう。
私も『サンダーストーム』の後、『クイック』と『アバタール』を使用し、自身の分身体を作りつつ背後に下がったのですが……流石にあのように広範囲の魔法を回避するとなると難しいようですね
魔力の消費をいとわず全身に魔力を漲らせ、攻撃しながらダメージの軽減を図らなければ、もっと酷い状態になっていたでしょう。
ここまでの惨状を想定していなかったのか、私が倒れ伏していることを確信しているのか、完全に気を抜いた状態で周囲を見回しているティファリス女王。ここは不意を突くチャンスですね。
一気に駆け抜け、『ミラージュエフェクト』により、三つの幻に一つの真実を混ぜ、魔剣『フェイクトゥルース』の効果を使用。
本来攻撃を加えられることもなく、当たったとしてもダメージを与える事無く消えていく幻に実像……本物と同じように傷を負わせることが出来るようになるのがこの魔剣の効果です。
これがあればどんな幻も全て本物に。いや……実体のある偽物に変えることが出来るのです。
そして攻撃を当てた勢いに乗って『七色の滅撃』と呼ばれる剣技を使って、その名が示すとおりに七色の軌道を描く破壊の力を帯びた突撃に繋げていきたいと思い、行動に移すことにしたのです。
それを知ってか知らずか、ティファリス女王はまたもや後ろに避けて魔法で攻めるような姿勢を見せてきましたが、マルドル王のように同じ手がそう何度も通じるほど私は容易くはないということを教えて差し上げないといけません。
そのような余裕を与えないように再び『クイック』を自身にかけて、一気に詰め寄って先程と同じ戦法が出来ないように潰したと確信して攻撃を加えたと思った矢先の出来事でした。
中央に黒い宝石のようなものがはめ込まれた私が身に着けている鎧よりも遥かに神々しい白銀の鎧。ガントレットとレギンスも装着しており、スカート部分の形状がかなり特殊で、短いスカートの左右に鎧の装甲部分と長いスカートのような布が付いているように見えます。
その姿は黒髪の女神と言っても差し支えのない姿になってしまい、一瞬――いえ、暫くの間思わず見つめてしまいました。
そう、その姿はとてもこの地上に存在しても良いものなのだろうか? それほどまでに神聖な雰囲気を身にまとったお方のように見えてしまったのです。
私がスカートの部分に目を向けたことに気づいたティファリス女王は顔を若干赤らめながらその短いスカートを抑えているのを見てようやくなにを考えてるんだと思い直すことが出来たのですが、そのまま思いっきり蹴り込んで来ましたので、思わぬ一撃を受けることになってしまいました。
それにしても……私の魔剣『フェイクトゥルース』は刺突向きの細剣のはずなのですが、その攻撃も弾き返す程の硬さ。
これではあの『ヴァイシュニル』と呼ばれた鎧に覆われている部分には私の攻撃は通用しないということでしょう。
これでは攻撃手段も限定されてしまいますし、私の『七色の滅撃』でも鎧を貫けるかどうか……。
それ以前に彼女自身、先程のような隙を見せてくれるとはとても思えません。
そんな事を考えている間にも、今までより洗練された動きで私に迫ってくるティファリス女王に思考を移し、対応に追われることになりました。
明らかに先程とは違う動きに翻弄されるように格闘戦を行ってくるティファリス女王に反撃を行うも、全てガントレットの方で防がれてしまいます。
『ミラージュエフェクト』で四つの軌道を描きながら鎧を纏っていない部分を攻撃するのですが、それも全て『ヴァイシュニル』に阻まれてしまい、こうも容易く防がれてしまっては私の方はもはやどうしようもない状況に陥ってしまいました。
最早笑いしか起きないといった有様ですね。
一切通じない攻撃を延々と行い、こちらは打撃によって一気に体力を奪われていくというあまりの一方的な展開。
恐らく、ティファリス女王はその気になれば私の攻撃など掠ることすら許さず攻撃を加えることが出来るでしょう。
それだけあの鎧を開放した彼女の動きは別格に思えるほどでした。事ここに至っては私の方も情けなくもあり、ここまでの差があるのかと諦めを覚えるほどです。
今まで戦っていたティファリス女王が手加減していた――もしくは無意識に自身に制限を課していたか……なにはともあれ、もはや私の手に負える存在ではないと、はっきり認識することが出来ました。
いや……確かにまだ攻撃する手立てはあります。ですが、それを明かすということは、私の持つ手をすべて明かすということになります。
ここで自分の手の内をすべてさらけ出す程私も愚かではありません。ここは終着点ではなく、通過点なのですから。
そう結論づけた私が力を抜いて、戦意を失いつつあるその様子に気づいたティファリス女王はその拳を眼前で止めてくれました。
……拳圧で顔にいくつか切れたような跡が出来てしまいましたが。
「降参するの?」
「……ええ、これ以上やっても無駄でしょう。私の方もただ殴られるだけなんてごめんですからね」
もう体中が痛くてたまりません。
骨の何本かが折れてしまいましたし、顔の方も容赦なく攻撃されたせいで眼鏡の方も粉砕してしまいました。
あれは結構高かったんですが……やれやれ、とんだ出費と言いますか、痛手を負ってしまいましたね。
フワロークにも格好悪いところを見られてしまいましたし、今日の私は笑えるほどにいいところなしですね。
自分から進んで決闘を挑んだ割にはこんな無様な結果で終わってしまっては、本当に格好悪い……。
ですが、どこかさっぱりしたような安堵感があるのはきっと……上位魔王としての職務に重責を感じていた私が少なからずいたからでしょう。
それとも、この自信と尊厳に満ち溢れた佇まいをしているこの女王に破れることになったからでしょうか。
今となってはそれもどうでも良いことですね。
セツキ王の使者であるオウキからティファリス女王のことについて聞いた時に、私は不思議な運命を感じたのを覚えています。
上位魔王になったのはいいですが、いい加減フェリベル王の陣営の圧力や妨害行為……それに加えて自分達につけという脅迫まがいの命令にうんざりしていたところにもたらされたこともあり、随分タイミングがいいとも感じたほど。
更にそこの魔人族の魔王が上位魔王の中でも、相当の実力者であるセツキ王の推薦で『夜会』に参加するというではないですか。
彼は『夜会』に出席するようになってから、一度たりとも上位魔王に他の魔王たちを推薦することなど有りませんでした。
セツキ王曰く「弱いやつを推すつもりはない」のだとか。
そんな彼が初めて推薦した魔王……彼が認めたということは、間違いなく強者に名を連ねる一人なのでしょう。
だから私が彼女を見極めることにしました。セツキ王が推すその魔王が、本当に上位魔王に相応しいかどうかを。
だから一番最初にセツキ王と共にやってきた彼女に接触し、遠目から私の契約スライムであるイーシュにどれくらい強いか分析してもらうことにしたのです。
その結果は……判断不能。
イーシュが見たティファリス女王は、彼ではとても図る事ができない人物であるというのが結論だったのです。
彼はそれなりにのんきな性格をしていて……もしかしたら食べることに集中して何も見ていなかったのかも知れませんでしたが、どうやらそういう訳でもなかったようでした。
そう言えばセツキ王を初めて見たときもイーシュはそう言っていましたが……まさかあの少女が私を遥かに超えた存在であると?
確かにイーシュの見る目は私よりも優れていることは知っています。仮にも私の契約スライムなのですから。
ですが、それでもにわかには信じることが出来ませんでした。彼女の契約スライムであろうメイド服を身にまとっている少女の姿を見て、その言葉にようやく信憑性を感じたくらいですからね。
私の契約スライムはあくまで人型の枠を出ず、それに対してティファリス女王の契約スライムはセツキ王やレイクラド王と同じ、完璧に種族を再現した姿。魔人族のそれでした。
それだけでも彼女の能力の高さが伺え知れるというもの。
更にその後の決闘で同じ魔人族の魔王であるマルドル王を圧倒した力量。
恐らくですが、ティファリス女王には彼が単調な攻撃を繰り返していただけにしか見えていなかったのでしょう。あれだけシンプルな動きで制圧出来たということはそういうことです。
マルドル王は確かに同じ斬撃を繰り出していましたが、幾度の殺気によるフェイントを織り交ぜて攻撃を繰り出してきた所からかなりの実力者であったことには間違いなかったはずです。
それをまるでそんなものは知らないと言うかのように彼の動きを見切り、封殺したその強さ……『アバタール』を使った時なぞ、身動き一つせずまっすぐ目標に向かって攻撃するほどの冷静ささえ見せてくれました。
確かに上位魔王には少々及ばないにしても、ここに集ったティファリス女王以外の魔王と比べると力を持った魔王のはずですのに、ここまで差があるとは……。
私はその時に認めることにしました。彼女は間違いなく、強者であると。
ならばティファリス女王と上位魔王の地位を掛けて戦うのは私のほうがいいだろうという結論に至りました。
私自身、度重なる上位魔王同士の争いに疲れたということがあります。
それに元々、挑まれた戦いに次々と勝利を収めた結果得た地位でしたし、私としてもそこまで固執するほどのものでもありませんでしたからね。
それよりも私としては今後の立ち回りの方が重要なのです。
私の夢、穏やかで平和な毎日を過ごすためには、フェリベル王の要求を受け入れるわけにも行きませんし、そのまま突っぱね続けるだけでも達成できないのですから。
どこかの枯れた老人のような考え方だと、隣の国で同じ上位魔王であるフワロークによく呆れられていたものです。
全く、私のどこが枯れているというのですか。
大体誰のためにここまで骨を折ってると思っているのですかね。
彼女にはそこの所、もう少し考えてほしいものです。
……まあ良いでしょう。私は自分の思惑を持ってティファリス女王に近づき、決闘を挑むことになったのです。
彼女を強者と見込み、本当に上位魔王とするべきか見極める為に……私の目指す未来の為に。
――
はじめは私のことを侮っているからマルドル王の時と同じように素手なのかと思いましたが、まさか魔法で鎧を召喚するとは……あんな魔法は私も初めて見ました。
種族固有のものでも、通常のそれでもない異質な魔法。先程の『フレスシューティ』や『フィロビエント』なども見たことがなく、非常に高威力の魔法と言えるでしょう。
私も『サンダーストーム』の後、『クイック』と『アバタール』を使用し、自身の分身体を作りつつ背後に下がったのですが……流石にあのように広範囲の魔法を回避するとなると難しいようですね
魔力の消費をいとわず全身に魔力を漲らせ、攻撃しながらダメージの軽減を図らなければ、もっと酷い状態になっていたでしょう。
ここまでの惨状を想定していなかったのか、私が倒れ伏していることを確信しているのか、完全に気を抜いた状態で周囲を見回しているティファリス女王。ここは不意を突くチャンスですね。
一気に駆け抜け、『ミラージュエフェクト』により、三つの幻に一つの真実を混ぜ、魔剣『フェイクトゥルース』の効果を使用。
本来攻撃を加えられることもなく、当たったとしてもダメージを与える事無く消えていく幻に実像……本物と同じように傷を負わせることが出来るようになるのがこの魔剣の効果です。
これがあればどんな幻も全て本物に。いや……実体のある偽物に変えることが出来るのです。
そして攻撃を当てた勢いに乗って『七色の滅撃』と呼ばれる剣技を使って、その名が示すとおりに七色の軌道を描く破壊の力を帯びた突撃に繋げていきたいと思い、行動に移すことにしたのです。
それを知ってか知らずか、ティファリス女王はまたもや後ろに避けて魔法で攻めるような姿勢を見せてきましたが、マルドル王のように同じ手がそう何度も通じるほど私は容易くはないということを教えて差し上げないといけません。
そのような余裕を与えないように再び『クイック』を自身にかけて、一気に詰め寄って先程と同じ戦法が出来ないように潰したと確信して攻撃を加えたと思った矢先の出来事でした。
中央に黒い宝石のようなものがはめ込まれた私が身に着けている鎧よりも遥かに神々しい白銀の鎧。ガントレットとレギンスも装着しており、スカート部分の形状がかなり特殊で、短いスカートの左右に鎧の装甲部分と長いスカートのような布が付いているように見えます。
その姿は黒髪の女神と言っても差し支えのない姿になってしまい、一瞬――いえ、暫くの間思わず見つめてしまいました。
そう、その姿はとてもこの地上に存在しても良いものなのだろうか? それほどまでに神聖な雰囲気を身にまとったお方のように見えてしまったのです。
私がスカートの部分に目を向けたことに気づいたティファリス女王は顔を若干赤らめながらその短いスカートを抑えているのを見てようやくなにを考えてるんだと思い直すことが出来たのですが、そのまま思いっきり蹴り込んで来ましたので、思わぬ一撃を受けることになってしまいました。
それにしても……私の魔剣『フェイクトゥルース』は刺突向きの細剣のはずなのですが、その攻撃も弾き返す程の硬さ。
これではあの『ヴァイシュニル』と呼ばれた鎧に覆われている部分には私の攻撃は通用しないということでしょう。
これでは攻撃手段も限定されてしまいますし、私の『七色の滅撃』でも鎧を貫けるかどうか……。
それ以前に彼女自身、先程のような隙を見せてくれるとはとても思えません。
そんな事を考えている間にも、今までより洗練された動きで私に迫ってくるティファリス女王に思考を移し、対応に追われることになりました。
明らかに先程とは違う動きに翻弄されるように格闘戦を行ってくるティファリス女王に反撃を行うも、全てガントレットの方で防がれてしまいます。
『ミラージュエフェクト』で四つの軌道を描きながら鎧を纏っていない部分を攻撃するのですが、それも全て『ヴァイシュニル』に阻まれてしまい、こうも容易く防がれてしまっては私の方はもはやどうしようもない状況に陥ってしまいました。
最早笑いしか起きないといった有様ですね。
一切通じない攻撃を延々と行い、こちらは打撃によって一気に体力を奪われていくというあまりの一方的な展開。
恐らく、ティファリス女王はその気になれば私の攻撃など掠ることすら許さず攻撃を加えることが出来るでしょう。
それだけあの鎧を開放した彼女の動きは別格に思えるほどでした。事ここに至っては私の方も情けなくもあり、ここまでの差があるのかと諦めを覚えるほどです。
今まで戦っていたティファリス女王が手加減していた――もしくは無意識に自身に制限を課していたか……なにはともあれ、もはや私の手に負える存在ではないと、はっきり認識することが出来ました。
いや……確かにまだ攻撃する手立てはあります。ですが、それを明かすということは、私の持つ手をすべて明かすということになります。
ここで自分の手の内をすべてさらけ出す程私も愚かではありません。ここは終着点ではなく、通過点なのですから。
そう結論づけた私が力を抜いて、戦意を失いつつあるその様子に気づいたティファリス女王はその拳を眼前で止めてくれました。
……拳圧で顔にいくつか切れたような跡が出来てしまいましたが。
「降参するの?」
「……ええ、これ以上やっても無駄でしょう。私の方もただ殴られるだけなんてごめんですからね」
もう体中が痛くてたまりません。
骨の何本かが折れてしまいましたし、顔の方も容赦なく攻撃されたせいで眼鏡の方も粉砕してしまいました。
あれは結構高かったんですが……やれやれ、とんだ出費と言いますか、痛手を負ってしまいましたね。
フワロークにも格好悪いところを見られてしまいましたし、今日の私は笑えるほどにいいところなしですね。
自分から進んで決闘を挑んだ割にはこんな無様な結果で終わってしまっては、本当に格好悪い……。
ですが、どこかさっぱりしたような安堵感があるのはきっと……上位魔王としての職務に重責を感じていた私が少なからずいたからでしょう。
それとも、この自信と尊厳に満ち溢れた佇まいをしているこの女王に破れることになったからでしょうか。
今となってはそれもどうでも良いことですね。
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