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第3章・面倒事と鬼からの招待状
61・魔王様、ドワーフ族の説明を受ける
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玉座の間ではいい加減仰々しいから、というわけでどこか小さな部屋に案内された。
一応四人ぐらいは平気でくつろげる程度の広さはあるかな。
フラフは私の隣に立っていて、リカルデは城の者の案内を受けてキッチンに行っていた。
「では、ティファリス様はドワーフ族についてどこまでご存知でございますか?」
「んー、エルフ族のようにこっちに干渉してきたわけじゃないから、種族名以外何もわからないのよね」
竜人、リザードマンなんかのこちらに一切干渉してこない種族については何も知らない。下手したら種族名すら知らないものもいる可能性がある。
それだけ世界は広いってことだ。
「それでは一から……まずドワーフの特徴ですが、全体的に日に焼けた褐色のような肌の持ち主でして、耳が長く垂れていますね。それと男のドワーフはそれはもう逞しい体つきをしております。筋骨隆々といえばよろしいでしょうか……後は大概髭を生やしているというところですね。
女のドワーフは大体背が男の半分以下くらいしかなく、全体的に愛くるしい少女のような外見です。私としては十人ほどかこっ……いいえ、なんでもございません」
「今、ものすごく不穏なこといいそうになったのは気のせい?」
「気の所為です」
「…………」
明らかに「十人ほど囲って」って口にしようとしたと思うんだけど、このロマンもやはりディアレイの影響を受けているか、その同胞ということか。
やはり契約スライムというわけだな。
「ご安心ください。今の私は愛の虜。貴女様以外見えておりませんので」
「出来れば私以外を見ててもらえる?」
「ああっ! なんと冷たいお言葉! もっとお願いします!」
「こ、この人、出来る」
ゴクリと喉を鳴らして恐ろしげにフラフが見つめてるけど、なにが「出来る」んだと言いたい。
ここにアシュルが居なくて本当に良かった。私では収拾がつかないことにまで発展しかねない。
「コホン……話を戻しましょう。ドワーフ族は酒が大好きで、全員が怪力の持ち主です。鍛冶の技術に優れている者も多く、採掘場を多く持ってるのはドワーフ族の国ぐらいのものでしょう。
いやはや、圧巻ですよ? 貴女様ほどの少女がいくつもタルを空ける様は、それはもう凄まじい見ごたえがあるとか。その中にむさ苦しいおっさん系ドワーフがいなければ最高なんですが……」
この男、少年のような姿をしているからこそまだいいんだけど……言動を聞く限りでは危なっかしい男にしか聞こえない。
「そういうのはいいから……それで?」
「は、はい。それでですね。ドワーフ族は自分の仕事にプライドを持ってるものも多く、また頑固なものも多いです。卑怯な真似を嫌いますね」
「なるほどねー……で、なんでここに宣戦布告してきたの?」
「フッフッフ、それを聞きますか」
ちょっと悪い顔をしてなにか意味ありげに笑うのが好きなのだろう。ディアレイ自身は欲望の塊だったけど、そのスライムのロマンも自分に忠実に生きてそうな気がする。姿はまあマシなのに、残念な性格してる。
「ほら、私達の魔王様は強ければ何やってもいい! みたいな風潮が強かったじゃないですか?」
「……まあ、敵対してただけの私が言うのもなんだけど、確かにそうね」
「それでリンデルの都市にてちょっかい女に手を出したら、こうなりました!」
「…………」
呆れてものも言えない。ディアレイのやつ、とんだ置き土産を残してくれたものだ。
戦ってるときの彼は微妙に通じるものが合った気がした。が、やっぱりあの男とは相容れないだろう。主に日常生活の面だけは。
「ああ、その家畜以下の存在を見るような眼差し……! たまりません! ハァハァ」
「あの主にしてこのスライム有りか」
なんだか面倒なことになってるスライムは放っておこうか。とりあえず今わかってるのは、リンデルはディアレイに対して意趣返しに宣戦布告したということか。
アロマンズはディアレイのことを「上位魔王に近い男」と言っていたはずだ。この近辺にそうぽんぽんと同じような魔王がいるわけがないし、そんな男を相手にしようとしてた以上なんらかの切り札を持ってると考えるべきかも知れない。
「頭痛いんだけど、向こうはディアレイが死んだことは?」
「多分ですが知らないでしょう。ドワーフ族の情報網は知りませんが、普通にディアレイに向けて使者が来ましたし……倒した、というのであればその証拠が必要でしょうね」
これは早速ディアレイの装備が役に立つときが来たと感じた。ほとんど役に立たないであろう鎧はともかく、あの大剣は私の『フィリンベーニス』と何度も打ち合っても平気だった逸品だ。少なくともこれが彼を倒したという証明になるだろう。
「それじゃあ直接行くしかないわね……行って話合いすればわかってもらえるでしょ」
「そう簡単に上手くいきますかね? 言っておいてなんですけど、証拠を見せたとして納得してくれるかは怪しいですよ?」
「無理だったら私が戦うだけよ。一応ここは私の領土になるんだし」
「! お、おぉ! やはりそういう事になりましたか! いやはや、私もこの領地がどうなるのかとヒヤヒヤしていましたので……これでもう安泰ですね。私もばっちりサポートいたします!」
リーティアスの領土ということを告げた瞬間テンションがちょっと高いのが気になったけど……まあ、役に立つならそれでいいか。
今はあまり選んでられるほどの余裕がないのが現状だ。
「サポートしてくれるのはいいんだけど、私のところで好き勝手するのは許さないからね?」
「もちろんわかっておりますとも。私はそもそもここを治める為にそういうのは控えておりましたし、何ら問題はございません。私まで自由気ままにやってしまいますと、荒れ果ててしまいますからね」
「ああ、あれで一応自制心あったわけね」
「はい。それに少女はいずれ成長し、大人になってしまいます。貴女様もそれは同じ。
ドワーフ族でさえも長い期間少女の姿で居続けますが、ゆっくりと老けていくのです」
なにか唐突に語りだしたんだけど、誰か止めてくれないだろうか。
フラフはじっと聞いてるし、リカルデは帰ってこない。そしてさらに饒舌に語りだすロマン。
「しかし、その少女であった方もいずれ子を作り、新しい少女を生み出すのです! そして私はその少女を愛し続ける……まさに完璧!」
うっとりするような目で空を見つめてるのは結構止めて欲しい。
というかなるほど。要は少女をずっと愛でたいから上手く国を運営してるってわけね。
なんていうかすごく酷いっていうか、相当欲望まみれの理由だけど……ま、人に迷惑をかけるクズどもよりはよっぽどマシか。
「ああ、ですが至高の少女が私の元に舞い降りてきたのであれば……その方に全て捧げる所存です」
「至高の少女?」
「ええ、今はこの世にいないと言われておりますが、聖黒族の少女は永遠に老いることのないとか……まさに私の理想像そのもの!」
「!?」
「そして私はその麗しの姫君と運命を共にする……素晴らしい!」
とうとう感情が極まったのか、べらべらと自身の理想について語りだしたのだけれど……私は自分が聖黒族の少女だということを改めて自覚し、バレてはいけないとより一層決意した。
特にこのロマンに知られてしまえば鬱陶しさが倍増しかねない。それだけはいけない。
「ティファリスさま、どうしたの?」
「ん? な、なんでもないわ」
もはや完全に自分の世界に入ってしまったロマンは放置しておいて、フラフが心配そうに話しかけてきたのに慌てて適当に返事しておく。
それからしばらくドワーフ族の話ではなく、ロマンの妄想を聞きながらリカルデがお茶を淹れて部屋に戻ってくるのをただ待つだけの苦痛の時間が続くのだった。
――
「それで、私が戻ったときにはあんな感じだったということですか」
「そういうことよ。リカルデが来てくれなかったらどうなっていたことか」
相変わらず話し続けているロマンは放っておいて、私はフラフやリカルデたちとティータイムを楽しむことにしたんだけど……そこから現実世界に帰ってくるまで、およそ一杯分程度の時間がかかった。
「ふぅ……疲れました。なんとも充実した時間を過ごした気がします」
「それはそうでしょうね。あれだけ自分の好き勝手妄想を話したんだもの」
「ああ、麗しの姫君……」
「いや、それはもう良いから」
「その冷たくあしらわれる感じ……いいですっ!」
一体いつまでこのやり取りを続ければいいんだろうか……うんざりしてきた。
私のその視線に気づいたのか、コホンと咳払いをしてようやく話を元に戻してくれそうだ。
「ええっとですね。ドワーフ族の魔王は一際逞しい体つきをしているそうで、まっすぐな者が好きなのだとか。ちなみに妃がいるのですが……」
そこから言いよどんだ辺り、まだなにか厄介なことがそこに内包されてるのをひしひしと感じる。
あまり聞きたくないのだけど、そういうわけにもいかないだろうと意を決して聞いてみることにした。
「そのドワーフ族の魔王の妃がどうだっていうの?」
「はい、ディアレイが襲撃したところにたまたまいらしていたそうで、もう少しで一発や――」
「ああもういいわ」
あのバカ、本当になんてことをしてくれたんだろう。
もう少しで……ってことはぎりぎり未遂で済んだんでしょうけど、それでも女に与える傷は大きい。男の方も自分の連れをそんな目に合わされては、黙ってられないだろう。
「……だからドワ―フの魔王は怒ってるのね」
「そうでしょうね。なんでも後少しで開通という場面で発見されたのだとか。『もう少しで男の性剣を鞘に収めることができたんだが……』とか言っていたそうです」
「もう色んな意味で最悪じゃない。ロマンからの話で私のディアレイの評価が大暴落よ」
「戦うときと私生活での姿がまるで違う人でしたからね」
なんにせよ、見られた場面が最悪すぎる。話し合いで解決できればいいんだけど……これじゃこっちにまで飛び火しかねない気がしてならない。
私が倒しました。これからグロアス王国はリーティアスの領土になるので止めてもらえませんか? とか言って納得してもらえる未来が、もはや私には見えない。
無くなったからと言ってここの領土を治めていた魔王が他国の妃を無理やりしようとしてたんだから。
案外勝算がなくても怒りで頭の中煮えたぎった結果、戦力を整えて殴り込みに来たと考えたほうが妥当なのかも知れない。
想像以上に面倒なことに自体が悪い方向に進んでいって、めまいを感じてしまった……なんでこんなのばかりなんだろう。
一応四人ぐらいは平気でくつろげる程度の広さはあるかな。
フラフは私の隣に立っていて、リカルデは城の者の案内を受けてキッチンに行っていた。
「では、ティファリス様はドワーフ族についてどこまでご存知でございますか?」
「んー、エルフ族のようにこっちに干渉してきたわけじゃないから、種族名以外何もわからないのよね」
竜人、リザードマンなんかのこちらに一切干渉してこない種族については何も知らない。下手したら種族名すら知らないものもいる可能性がある。
それだけ世界は広いってことだ。
「それでは一から……まずドワーフの特徴ですが、全体的に日に焼けた褐色のような肌の持ち主でして、耳が長く垂れていますね。それと男のドワーフはそれはもう逞しい体つきをしております。筋骨隆々といえばよろしいでしょうか……後は大概髭を生やしているというところですね。
女のドワーフは大体背が男の半分以下くらいしかなく、全体的に愛くるしい少女のような外見です。私としては十人ほどかこっ……いいえ、なんでもございません」
「今、ものすごく不穏なこといいそうになったのは気のせい?」
「気の所為です」
「…………」
明らかに「十人ほど囲って」って口にしようとしたと思うんだけど、このロマンもやはりディアレイの影響を受けているか、その同胞ということか。
やはり契約スライムというわけだな。
「ご安心ください。今の私は愛の虜。貴女様以外見えておりませんので」
「出来れば私以外を見ててもらえる?」
「ああっ! なんと冷たいお言葉! もっとお願いします!」
「こ、この人、出来る」
ゴクリと喉を鳴らして恐ろしげにフラフが見つめてるけど、なにが「出来る」んだと言いたい。
ここにアシュルが居なくて本当に良かった。私では収拾がつかないことにまで発展しかねない。
「コホン……話を戻しましょう。ドワーフ族は酒が大好きで、全員が怪力の持ち主です。鍛冶の技術に優れている者も多く、採掘場を多く持ってるのはドワーフ族の国ぐらいのものでしょう。
いやはや、圧巻ですよ? 貴女様ほどの少女がいくつもタルを空ける様は、それはもう凄まじい見ごたえがあるとか。その中にむさ苦しいおっさん系ドワーフがいなければ最高なんですが……」
この男、少年のような姿をしているからこそまだいいんだけど……言動を聞く限りでは危なっかしい男にしか聞こえない。
「そういうのはいいから……それで?」
「は、はい。それでですね。ドワーフ族は自分の仕事にプライドを持ってるものも多く、また頑固なものも多いです。卑怯な真似を嫌いますね」
「なるほどねー……で、なんでここに宣戦布告してきたの?」
「フッフッフ、それを聞きますか」
ちょっと悪い顔をしてなにか意味ありげに笑うのが好きなのだろう。ディアレイ自身は欲望の塊だったけど、そのスライムのロマンも自分に忠実に生きてそうな気がする。姿はまあマシなのに、残念な性格してる。
「ほら、私達の魔王様は強ければ何やってもいい! みたいな風潮が強かったじゃないですか?」
「……まあ、敵対してただけの私が言うのもなんだけど、確かにそうね」
「それでリンデルの都市にてちょっかい女に手を出したら、こうなりました!」
「…………」
呆れてものも言えない。ディアレイのやつ、とんだ置き土産を残してくれたものだ。
戦ってるときの彼は微妙に通じるものが合った気がした。が、やっぱりあの男とは相容れないだろう。主に日常生活の面だけは。
「ああ、その家畜以下の存在を見るような眼差し……! たまりません! ハァハァ」
「あの主にしてこのスライム有りか」
なんだか面倒なことになってるスライムは放っておこうか。とりあえず今わかってるのは、リンデルはディアレイに対して意趣返しに宣戦布告したということか。
アロマンズはディアレイのことを「上位魔王に近い男」と言っていたはずだ。この近辺にそうぽんぽんと同じような魔王がいるわけがないし、そんな男を相手にしようとしてた以上なんらかの切り札を持ってると考えるべきかも知れない。
「頭痛いんだけど、向こうはディアレイが死んだことは?」
「多分ですが知らないでしょう。ドワーフ族の情報網は知りませんが、普通にディアレイに向けて使者が来ましたし……倒した、というのであればその証拠が必要でしょうね」
これは早速ディアレイの装備が役に立つときが来たと感じた。ほとんど役に立たないであろう鎧はともかく、あの大剣は私の『フィリンベーニス』と何度も打ち合っても平気だった逸品だ。少なくともこれが彼を倒したという証明になるだろう。
「それじゃあ直接行くしかないわね……行って話合いすればわかってもらえるでしょ」
「そう簡単に上手くいきますかね? 言っておいてなんですけど、証拠を見せたとして納得してくれるかは怪しいですよ?」
「無理だったら私が戦うだけよ。一応ここは私の領土になるんだし」
「! お、おぉ! やはりそういう事になりましたか! いやはや、私もこの領地がどうなるのかとヒヤヒヤしていましたので……これでもう安泰ですね。私もばっちりサポートいたします!」
リーティアスの領土ということを告げた瞬間テンションがちょっと高いのが気になったけど……まあ、役に立つならそれでいいか。
今はあまり選んでられるほどの余裕がないのが現状だ。
「サポートしてくれるのはいいんだけど、私のところで好き勝手するのは許さないからね?」
「もちろんわかっておりますとも。私はそもそもここを治める為にそういうのは控えておりましたし、何ら問題はございません。私まで自由気ままにやってしまいますと、荒れ果ててしまいますからね」
「ああ、あれで一応自制心あったわけね」
「はい。それに少女はいずれ成長し、大人になってしまいます。貴女様もそれは同じ。
ドワーフ族でさえも長い期間少女の姿で居続けますが、ゆっくりと老けていくのです」
なにか唐突に語りだしたんだけど、誰か止めてくれないだろうか。
フラフはじっと聞いてるし、リカルデは帰ってこない。そしてさらに饒舌に語りだすロマン。
「しかし、その少女であった方もいずれ子を作り、新しい少女を生み出すのです! そして私はその少女を愛し続ける……まさに完璧!」
うっとりするような目で空を見つめてるのは結構止めて欲しい。
というかなるほど。要は少女をずっと愛でたいから上手く国を運営してるってわけね。
なんていうかすごく酷いっていうか、相当欲望まみれの理由だけど……ま、人に迷惑をかけるクズどもよりはよっぽどマシか。
「ああ、ですが至高の少女が私の元に舞い降りてきたのであれば……その方に全て捧げる所存です」
「至高の少女?」
「ええ、今はこの世にいないと言われておりますが、聖黒族の少女は永遠に老いることのないとか……まさに私の理想像そのもの!」
「!?」
「そして私はその麗しの姫君と運命を共にする……素晴らしい!」
とうとう感情が極まったのか、べらべらと自身の理想について語りだしたのだけれど……私は自分が聖黒族の少女だということを改めて自覚し、バレてはいけないとより一層決意した。
特にこのロマンに知られてしまえば鬱陶しさが倍増しかねない。それだけはいけない。
「ティファリスさま、どうしたの?」
「ん? な、なんでもないわ」
もはや完全に自分の世界に入ってしまったロマンは放置しておいて、フラフが心配そうに話しかけてきたのに慌てて適当に返事しておく。
それからしばらくドワーフ族の話ではなく、ロマンの妄想を聞きながらリカルデがお茶を淹れて部屋に戻ってくるのをただ待つだけの苦痛の時間が続くのだった。
――
「それで、私が戻ったときにはあんな感じだったということですか」
「そういうことよ。リカルデが来てくれなかったらどうなっていたことか」
相変わらず話し続けているロマンは放っておいて、私はフラフやリカルデたちとティータイムを楽しむことにしたんだけど……そこから現実世界に帰ってくるまで、およそ一杯分程度の時間がかかった。
「ふぅ……疲れました。なんとも充実した時間を過ごした気がします」
「それはそうでしょうね。あれだけ自分の好き勝手妄想を話したんだもの」
「ああ、麗しの姫君……」
「いや、それはもう良いから」
「その冷たくあしらわれる感じ……いいですっ!」
一体いつまでこのやり取りを続ければいいんだろうか……うんざりしてきた。
私のその視線に気づいたのか、コホンと咳払いをしてようやく話を元に戻してくれそうだ。
「ええっとですね。ドワーフ族の魔王は一際逞しい体つきをしているそうで、まっすぐな者が好きなのだとか。ちなみに妃がいるのですが……」
そこから言いよどんだ辺り、まだなにか厄介なことがそこに内包されてるのをひしひしと感じる。
あまり聞きたくないのだけど、そういうわけにもいかないだろうと意を決して聞いてみることにした。
「そのドワーフ族の魔王の妃がどうだっていうの?」
「はい、ディアレイが襲撃したところにたまたまいらしていたそうで、もう少しで一発や――」
「ああもういいわ」
あのバカ、本当になんてことをしてくれたんだろう。
もう少しで……ってことはぎりぎり未遂で済んだんでしょうけど、それでも女に与える傷は大きい。男の方も自分の連れをそんな目に合わされては、黙ってられないだろう。
「……だからドワ―フの魔王は怒ってるのね」
「そうでしょうね。なんでも後少しで開通という場面で発見されたのだとか。『もう少しで男の性剣を鞘に収めることができたんだが……』とか言っていたそうです」
「もう色んな意味で最悪じゃない。ロマンからの話で私のディアレイの評価が大暴落よ」
「戦うときと私生活での姿がまるで違う人でしたからね」
なんにせよ、見られた場面が最悪すぎる。話し合いで解決できればいいんだけど……これじゃこっちにまで飛び火しかねない気がしてならない。
私が倒しました。これからグロアス王国はリーティアスの領土になるので止めてもらえませんか? とか言って納得してもらえる未来が、もはや私には見えない。
無くなったからと言ってここの領土を治めていた魔王が他国の妃を無理やりしようとしてたんだから。
案外勝算がなくても怒りで頭の中煮えたぎった結果、戦力を整えて殴り込みに来たと考えたほうが妥当なのかも知れない。
想像以上に面倒なことに自体が悪い方向に進んでいって、めまいを感じてしまった……なんでこんなのばかりなんだろう。
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