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第2章・妖精と獣の国、渦巻く欲望
56・中央魔王、奥の手を使う
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時は少し遡る。戦いの場はティファリスが『フラムブランシュ』を放った直後――
――クルルシェンド・鎮獣の森付近 ディアレイ視点――
「な、なんやあれ……」
アロマンズが呆然と呟くのを隣で聞きながら、俺ははっきりと理解してしまっていた。
あの女……ティファリスと言ったか。僻地――辺境の魔王だと侮っていたのが大きな間違いだった。
白くて熱い、光の奔流が止んだかと思ったらその辺りは何も……文字通り何も残ってなかった。
「ちっ……冗談じゃねぇぞ。なんだこりゃあ」
俺のところの兵士とアロマンズんところの兵士が混在していた部分が跡形もなく消し去り、完全に分断されたような形になってやがった。
あんな魔法、セントラルのやつでも使うやつはまずいねぇ。それをあの女はいとも容易く……いや、あれだけの魔法を放つとなりゃあそれなりのリスクがあるはずだ。
じゃねぇとおかしい。恐らくあれがティファリスの切り札みたいなもんだろう。
「ど、どないしましょう……あんなの食らったら……」
「落ち着け!」
みっともなくオロオロと情けねぇ姿を晒す狐に俺はイライラしてきた。
それが王の取る態度かっての……そんなんだからクルルシェンド側の兵士の士気が落ちるんだろうが。
これだから南西地域で甘やかされて育った魔王は……いや、あの女は違うか。
「落ち着け言われても……ディアレイ王も見たやろ!? あんな当たれば何も残らん、範囲のバカでかい魔法使ってる姿を!」
「ちっ……バカが。よく考えてみろ。あれだけの威力の魔法がそう何度も使えるわけねぇだろうが!」
もう少し冷静に考えりゃあ解ることだろうが……お前が使えんのは頭くらいなんだから、こういう時ぐらい役に立ちやがれ。
もういい。この狐には最初っから期待なんぞしてなかったがここまでとは……頭が痛くなってきやがった。
「おいアロマンズ。お前、アレの用意しろ」
「アレって……アレやて!?」
「アレって言ったら一つしかねぇだろうが! それともなんだ? 怖気づいちまったってか? 一応ここに持ってきてんだろう」
「あ、当たり前やないか! でもアレは……」
このバカ狐、この期に及んで何迷ってやがる! このままじゃ俺らの軍は壊滅……いや、もう完全に戦意が失せちまってる。ここでもう一度奮い起こしてやらなかったら完全に立ち直れなくなっちまう!
俺は狐の胸ぐらを思いっきりつかみ、いい加減にしろと目を覚まさせてやる。
「何迷ってやがる! 今アレに望みをつなぐか、ここで死ぬかのどっちかしかねぇんだよ!」
「で、でも……」
「お前……まさか逃げ切れると思ってんのか? ああ?」
「兵士たちを囮にすれば……」
「お前の目は節穴か? あ?
その兵士共はさっきの一撃で萎縮しきってんだろうが! 止まったままの的なんぞがなんの障害になんだよ!」
「な、なら……」
それでも状況把握がしきれてねぇのかぐずぐずとなにか考えてやがる。もうそんな悩んでる時間なんかねぇっつうのによ。
「おい、いい加減にしろよ。俺は別にお前を盾にして逃げてもいいんだぞ?」
「う……」
「あの女王様がいつ来るかわからん状況で、これ以上時間掛けてる場合でもねぇ。どうする? 死ぬか、生きるか!」
「っ……」
俺がこれだけ言ってやったんだ。これ以上ぐだぐだしやがったら問答無用でぼこぼこにして出来るだけ逃げてやろうとも思ったが、ようやく覚悟決めたのか段々と男の顔になってきやがった。
俺としてもどうせ逃げ切れるわけもねぇし、賭けるならそっちの方がいい。
「いいか? お前んとこの兵士はもうアテになんねぇ。俺のところのは発破かけりゃあまだ動けるだろうから、その間にアレの準備をしろ」
「わかったわ。でもあんさんはあの女王に勝てるんか?」
「んなもんわかるわけねぇだろ。魔法の腕だけが規格外ってんならまだ戦えるだろうけどよ……」
どうにも読めねぇヤツだ。あれだけ自信満々で啖呵を切ってきただけに、魔法だけの女には思えねぇ。
あの鎧、とても後衛専門のやつが纏うようなものじゃねぇし、剣もそれなりに出来ると思っといた方がいいだろう。
なら俺も、出し惜しみしてる場合じゃねぇってか。
「ちっ、いざとなったら死ぬ気で稼いでやるよ。だからお前は早く用意しておけ」
「……わかった」
それだけ伝えると、俺は大急ぎで女王がいるだろうと思う場所に急行した。そこには予想以上の光景が広がってやがった。
相変わらず黒い髪に白い鎧の白黒だが、白い光の粒が辺りに舞って、それがあの女の胸にある黒水晶の中に吸い込まれてる。
俺にはその光景をなんて例えりゃあいいかわかんねぇが、その目を惹かれる光景に一瞬目を奪われる。
周囲の野郎どもは恐怖のあまり立ち尽くし、それらを一瞥することもなく静かに俺達のところに歩いていく女王。逃げられるなんてことなんざ全く考えもしてねぇその態度が逆に恐ろしく感じる。
「ちっ……ぶるってんじゃねぇぞ、俺」
やっぱりあの魔法が作り出した光景が頭ん中にこびりついてるんだろう。
眼の前がばーっと真っ白に染まったかと思うと、そこには魔法が放たれた後以外何も残らなかった……そんな光景を作り出したのがあの女だ。そりゃあ震えも起きるだろうよ。
だけど今はそんなときじゃねぇ。このままだったら行っても死、戻ったところで上のあいつに知られればどうせ死ぬ。なら……覚悟決めるっきゃねぇ!
「お前らぁ! なにビビってやがんだ!」
自分に言い聞かせる意味でも、俺は大声で張り上げるように兵士共に気合を入れてやる。
最初はそれでも恐怖に身体を硬直させていたうちの兵士共だったが、俺が喝を入れてやると次第に引き締まった顔つきになってきやがった。
連中には最初、捕らえるように動けと指示しておいたが……こうなったらそんな命令邪魔になるだけだ。
殺すことを前提で動かなければ確実にこっちが殺られちまう。
ようやく俺の国の兵士たちは立て直すことに成功したが、狐ん所の兵士たちはダメだな。俺がやつらの王じゃないっていうこともあるが、完全に腰が引けちまってやがる。ま、間近であんなん見せられたら仕方ねぇだろうけどな。
戦力がほぼ半減したのはいてぇが、動かねぇものに期待したってしかたねぇ。
大剣を引き抜いてうちの連中に隙をつくように指示しながら多少大振りになりながらも思いっきり振り下ろしてやる。
鈍い金属音が辺りに響き渡り、俺とあの女がつばぜり合いになる。が……こいつ、本当に女なのかと思うほど一撃が重い。
左下から振り上げの一撃が飛んできたかと思うと、いつの間にか返したかのように右上から斬撃を走らせてきやがって、まるで同時に攻撃してるかのように錯覚する。
おまけにあの白い剣で受けた傷から血の代わりにあの女の鎧が吸収してる白い粒と同じのが出てくる。なんだかよくわからんが、これは相当やべぇ。ただ血が出るぐらいじゃ驚かねぇ俺でも、自分の体からこんな訳のわからん光が放出されてるところをみたら軽く恐怖心も抱く。
「どうしたの? 動きが鈍ってきたんじゃない?」
「うるせぇ!」
まだ足りないと言わんばかりに速度が徐々に上げてきやがって……なんとか致命傷を防ぐことは出来ているが、このままじゃ対処しきれなくなってくる。
しかも向こうは、まるで久しぶりの戦いに少しずつ感覚を取り戻してるかのように見えて、未だ全力を出しきれてないようなのが余計に恐ろしい。
くそっ……あれだけの魔法を使って更にこの剣の鋭さ。かつて見た上位魔王の中でも武闘派に入る連中の実力を思い出させやがる。
俺の攻撃をいとも簡単に押し返してきやがって、そのまま隙を突きに行った兵士達を斬り伏せ、魔法も軽く避けてなんかの余裕まで見せてきてる。
「このままじゃ不味い。わかってたことだけどよ、やっぱり俺も奥の手を使うしかねぇな……」
あの女に聞こえないようにぼそっと呟く。俺の奥の手は使用後のことを考えるとあまり使いたくなかったんだが、この際そんな事は言ってられん。
『ソニックブラスト』も余計な負傷をしないよう警戒しているのか、まるで風が見えてるかのように器用に避けてきやがるし、俺程度の実力じゃあ並大抵のことじゃあの女に攻撃を当てることが出来ねぇ。
兵士たちが光を撒き散らしながら倒れていく姿を見ながら、奴らの死を無駄にしないためにも動き出す。
「……『フィジカルバースト』」
その瞬間、俺の身体の中に尋常じゃない熱さを感じる。『フィジカルバースト』は発動者の限界を遥かに超え、身体能力を何十倍も引き上げる魔法だ。
その分反動が凄まじく、五日はまともに動けなくなり、その後七日の間は魔法が一切使えないっつう欠陥魔法だ。おまけにどうしてもテンションが上っちまって自制が効きにくくなる。本当なら上位魔王と戦うことになった時用の俺の切り札で、後がなくなった時に使う最終手段の予定だった。
だけどよぉ、死んじまったら元も子もねぇ。だったらリスク背負う覚悟を見せねぇとな。
それに……力をビンビンに感じてやがるぜ。さっきまでほとんど捉えることが出来なかったあの女の動きが、今でははっきり見える。
さっきと同じつばぜり合いの形になったときもあんなに重かった一撃が嘘のように軽くなってやがる。
「は……ははは、すげぇなぁこりゃあ」
思わず笑いがこみ上げちまう程の力。この力があればあの女とも互角以上に渡り合うことが出来る。
俺は改めて目の前の敵を見据えると、ニヤリと笑いがこみ上げてくる。
女の方を見てみると、あいつも同じようにこっちを見て笑っているから、余計に可笑しい。
なんだよなんだよ……澄ました顔していやがったけどよぉ……結局お前も俺と同じ、強い奴と戦って打ち負かすことに優越感を感じるタイプなんじゃねぇか。
「はっはっはー! 行くぞぉぉ! ティファリスゥゥゥゥ!」
「急に強くなったようだけど、あまりいい気にならないことね!」
俺が左上から下に振り下ろす形で斬撃を繰り出すと、ティファリスの方は右下から斬り上げるように合わせてくる。
そうかと思えば俺の斬り払いを屈んで交わし、そのまま斬りかかったきやがるから咄嗟《とっさ》に剣身を地面に突き刺して防ぐ。
そのまま思いっきり蹴り飛ばしてやろうとしたんだが、俺の動きを読んだかのように後ろに飛び退りながら風の魔法を飛ばしてきやがる。
『フィジカルバースト』で強化してもここまでついてくるか……!
こりゃあ本気で楽しくなってきやがった……いいぜぇ、てめぇは必ずこの俺がぁ……魔人族のディアレイがぶっ殺してやるよぉ!
――クルルシェンド・鎮獣の森付近 ディアレイ視点――
「な、なんやあれ……」
アロマンズが呆然と呟くのを隣で聞きながら、俺ははっきりと理解してしまっていた。
あの女……ティファリスと言ったか。僻地――辺境の魔王だと侮っていたのが大きな間違いだった。
白くて熱い、光の奔流が止んだかと思ったらその辺りは何も……文字通り何も残ってなかった。
「ちっ……冗談じゃねぇぞ。なんだこりゃあ」
俺のところの兵士とアロマンズんところの兵士が混在していた部分が跡形もなく消し去り、完全に分断されたような形になってやがった。
あんな魔法、セントラルのやつでも使うやつはまずいねぇ。それをあの女はいとも容易く……いや、あれだけの魔法を放つとなりゃあそれなりのリスクがあるはずだ。
じゃねぇとおかしい。恐らくあれがティファリスの切り札みたいなもんだろう。
「ど、どないしましょう……あんなの食らったら……」
「落ち着け!」
みっともなくオロオロと情けねぇ姿を晒す狐に俺はイライラしてきた。
それが王の取る態度かっての……そんなんだからクルルシェンド側の兵士の士気が落ちるんだろうが。
これだから南西地域で甘やかされて育った魔王は……いや、あの女は違うか。
「落ち着け言われても……ディアレイ王も見たやろ!? あんな当たれば何も残らん、範囲のバカでかい魔法使ってる姿を!」
「ちっ……バカが。よく考えてみろ。あれだけの威力の魔法がそう何度も使えるわけねぇだろうが!」
もう少し冷静に考えりゃあ解ることだろうが……お前が使えんのは頭くらいなんだから、こういう時ぐらい役に立ちやがれ。
もういい。この狐には最初っから期待なんぞしてなかったがここまでとは……頭が痛くなってきやがった。
「おいアロマンズ。お前、アレの用意しろ」
「アレって……アレやて!?」
「アレって言ったら一つしかねぇだろうが! それともなんだ? 怖気づいちまったってか? 一応ここに持ってきてんだろう」
「あ、当たり前やないか! でもアレは……」
このバカ狐、この期に及んで何迷ってやがる! このままじゃ俺らの軍は壊滅……いや、もう完全に戦意が失せちまってる。ここでもう一度奮い起こしてやらなかったら完全に立ち直れなくなっちまう!
俺は狐の胸ぐらを思いっきりつかみ、いい加減にしろと目を覚まさせてやる。
「何迷ってやがる! 今アレに望みをつなぐか、ここで死ぬかのどっちかしかねぇんだよ!」
「で、でも……」
「お前……まさか逃げ切れると思ってんのか? ああ?」
「兵士たちを囮にすれば……」
「お前の目は節穴か? あ?
その兵士共はさっきの一撃で萎縮しきってんだろうが! 止まったままの的なんぞがなんの障害になんだよ!」
「な、なら……」
それでも状況把握がしきれてねぇのかぐずぐずとなにか考えてやがる。もうそんな悩んでる時間なんかねぇっつうのによ。
「おい、いい加減にしろよ。俺は別にお前を盾にして逃げてもいいんだぞ?」
「う……」
「あの女王様がいつ来るかわからん状況で、これ以上時間掛けてる場合でもねぇ。どうする? 死ぬか、生きるか!」
「っ……」
俺がこれだけ言ってやったんだ。これ以上ぐだぐだしやがったら問答無用でぼこぼこにして出来るだけ逃げてやろうとも思ったが、ようやく覚悟決めたのか段々と男の顔になってきやがった。
俺としてもどうせ逃げ切れるわけもねぇし、賭けるならそっちの方がいい。
「いいか? お前んとこの兵士はもうアテになんねぇ。俺のところのは発破かけりゃあまだ動けるだろうから、その間にアレの準備をしろ」
「わかったわ。でもあんさんはあの女王に勝てるんか?」
「んなもんわかるわけねぇだろ。魔法の腕だけが規格外ってんならまだ戦えるだろうけどよ……」
どうにも読めねぇヤツだ。あれだけ自信満々で啖呵を切ってきただけに、魔法だけの女には思えねぇ。
あの鎧、とても後衛専門のやつが纏うようなものじゃねぇし、剣もそれなりに出来ると思っといた方がいいだろう。
なら俺も、出し惜しみしてる場合じゃねぇってか。
「ちっ、いざとなったら死ぬ気で稼いでやるよ。だからお前は早く用意しておけ」
「……わかった」
それだけ伝えると、俺は大急ぎで女王がいるだろうと思う場所に急行した。そこには予想以上の光景が広がってやがった。
相変わらず黒い髪に白い鎧の白黒だが、白い光の粒が辺りに舞って、それがあの女の胸にある黒水晶の中に吸い込まれてる。
俺にはその光景をなんて例えりゃあいいかわかんねぇが、その目を惹かれる光景に一瞬目を奪われる。
周囲の野郎どもは恐怖のあまり立ち尽くし、それらを一瞥することもなく静かに俺達のところに歩いていく女王。逃げられるなんてことなんざ全く考えもしてねぇその態度が逆に恐ろしく感じる。
「ちっ……ぶるってんじゃねぇぞ、俺」
やっぱりあの魔法が作り出した光景が頭ん中にこびりついてるんだろう。
眼の前がばーっと真っ白に染まったかと思うと、そこには魔法が放たれた後以外何も残らなかった……そんな光景を作り出したのがあの女だ。そりゃあ震えも起きるだろうよ。
だけど今はそんなときじゃねぇ。このままだったら行っても死、戻ったところで上のあいつに知られればどうせ死ぬ。なら……覚悟決めるっきゃねぇ!
「お前らぁ! なにビビってやがんだ!」
自分に言い聞かせる意味でも、俺は大声で張り上げるように兵士共に気合を入れてやる。
最初はそれでも恐怖に身体を硬直させていたうちの兵士共だったが、俺が喝を入れてやると次第に引き締まった顔つきになってきやがった。
連中には最初、捕らえるように動けと指示しておいたが……こうなったらそんな命令邪魔になるだけだ。
殺すことを前提で動かなければ確実にこっちが殺られちまう。
ようやく俺の国の兵士たちは立て直すことに成功したが、狐ん所の兵士たちはダメだな。俺がやつらの王じゃないっていうこともあるが、完全に腰が引けちまってやがる。ま、間近であんなん見せられたら仕方ねぇだろうけどな。
戦力がほぼ半減したのはいてぇが、動かねぇものに期待したってしかたねぇ。
大剣を引き抜いてうちの連中に隙をつくように指示しながら多少大振りになりながらも思いっきり振り下ろしてやる。
鈍い金属音が辺りに響き渡り、俺とあの女がつばぜり合いになる。が……こいつ、本当に女なのかと思うほど一撃が重い。
左下から振り上げの一撃が飛んできたかと思うと、いつの間にか返したかのように右上から斬撃を走らせてきやがって、まるで同時に攻撃してるかのように錯覚する。
おまけにあの白い剣で受けた傷から血の代わりにあの女の鎧が吸収してる白い粒と同じのが出てくる。なんだかよくわからんが、これは相当やべぇ。ただ血が出るぐらいじゃ驚かねぇ俺でも、自分の体からこんな訳のわからん光が放出されてるところをみたら軽く恐怖心も抱く。
「どうしたの? 動きが鈍ってきたんじゃない?」
「うるせぇ!」
まだ足りないと言わんばかりに速度が徐々に上げてきやがって……なんとか致命傷を防ぐことは出来ているが、このままじゃ対処しきれなくなってくる。
しかも向こうは、まるで久しぶりの戦いに少しずつ感覚を取り戻してるかのように見えて、未だ全力を出しきれてないようなのが余計に恐ろしい。
くそっ……あれだけの魔法を使って更にこの剣の鋭さ。かつて見た上位魔王の中でも武闘派に入る連中の実力を思い出させやがる。
俺の攻撃をいとも簡単に押し返してきやがって、そのまま隙を突きに行った兵士達を斬り伏せ、魔法も軽く避けてなんかの余裕まで見せてきてる。
「このままじゃ不味い。わかってたことだけどよ、やっぱり俺も奥の手を使うしかねぇな……」
あの女に聞こえないようにぼそっと呟く。俺の奥の手は使用後のことを考えるとあまり使いたくなかったんだが、この際そんな事は言ってられん。
『ソニックブラスト』も余計な負傷をしないよう警戒しているのか、まるで風が見えてるかのように器用に避けてきやがるし、俺程度の実力じゃあ並大抵のことじゃあの女に攻撃を当てることが出来ねぇ。
兵士たちが光を撒き散らしながら倒れていく姿を見ながら、奴らの死を無駄にしないためにも動き出す。
「……『フィジカルバースト』」
その瞬間、俺の身体の中に尋常じゃない熱さを感じる。『フィジカルバースト』は発動者の限界を遥かに超え、身体能力を何十倍も引き上げる魔法だ。
その分反動が凄まじく、五日はまともに動けなくなり、その後七日の間は魔法が一切使えないっつう欠陥魔法だ。おまけにどうしてもテンションが上っちまって自制が効きにくくなる。本当なら上位魔王と戦うことになった時用の俺の切り札で、後がなくなった時に使う最終手段の予定だった。
だけどよぉ、死んじまったら元も子もねぇ。だったらリスク背負う覚悟を見せねぇとな。
それに……力をビンビンに感じてやがるぜ。さっきまでほとんど捉えることが出来なかったあの女の動きが、今でははっきり見える。
さっきと同じつばぜり合いの形になったときもあんなに重かった一撃が嘘のように軽くなってやがる。
「は……ははは、すげぇなぁこりゃあ」
思わず笑いがこみ上げちまう程の力。この力があればあの女とも互角以上に渡り合うことが出来る。
俺は改めて目の前の敵を見据えると、ニヤリと笑いがこみ上げてくる。
女の方を見てみると、あいつも同じようにこっちを見て笑っているから、余計に可笑しい。
なんだよなんだよ……澄ました顔していやがったけどよぉ……結局お前も俺と同じ、強い奴と戦って打ち負かすことに優越感を感じるタイプなんじゃねぇか。
「はっはっはー! 行くぞぉぉ! ティファリスゥゥゥゥ!」
「急に強くなったようだけど、あまりいい気にならないことね!」
俺が左上から下に振り下ろす形で斬撃を繰り出すと、ティファリスの方は右下から斬り上げるように合わせてくる。
そうかと思えば俺の斬り払いを屈んで交わし、そのまま斬りかかったきやがるから咄嗟《とっさ》に剣身を地面に突き刺して防ぐ。
そのまま思いっきり蹴り飛ばしてやろうとしたんだが、俺の動きを読んだかのように後ろに飛び退りながら風の魔法を飛ばしてきやがる。
『フィジカルバースト』で強化してもここまでついてくるか……!
こりゃあ本気で楽しくなってきやがった……いいぜぇ、てめぇは必ずこの俺がぁ……魔人族のディアレイがぶっ殺してやるよぉ!
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どんなに変てこなお話か、それは読んでみてのお楽しみです。
感想・ブックマーク・評価などなど、気が向いたらぜひお願いします♪
頂いた感想はいつも楽しみに読ませていただいています!!!
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