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第2章・妖精と獣の国、渦巻く欲望
間話・魔王不在、お菓子泥棒事件
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――リーティアス・ティファリスの館 アシュル視点――
「あ、ああああぁぁぁぁ…………」
大変なことが起きてしまいました。これはこれはリーティアス最大の一大事です!
あまりの出来事に思わず悲鳴を上げ、頭を抱えてどうしようかと悩むことにすらなってしまいました。
「そんなに騒いでどうしたのですかミャ?」
「ケットシー! いいところに来ました! ティファさまが嘆き悲しむであろう、恐るべき悲劇が発生しました!」
「ほ、本当ですかミャ!?」
「本当ですよ! 実は……」
「じ、実は……?」
ゴクリと喉を鳴らして真剣な表情で私を見つめてくるケットシーに、このあまりにも悲しい事件を報告しました。
「ティ、ティファさまが大切に食べていたクロシュガルが……誰かに食べられてしまってたんです!!」
「…………」
「ケ、ケットシー? どうしました?」
私が告げたあまりにも衝撃的な話に言葉を失ったのか、ブルブルと震えてうつむくだけで精一杯のケットシーは黙ったまま何も言わなくなったので、もしかして私が考えてるよりずっと事態は深刻なのかも知れないと考えていたら、勢いよく顔を上げて私に真剣な目を向けてきました。
「それはまずいですミャ。ティファリスさまはなによりお茶の時間を大切にされる御方。そしてクロシュガルはそのティファリスさまが今一番気に入られてるお菓子ですミャ! それを勝手に食べられたことを知ったらどうなるか……なんということですかミャ……」
やはり私と同じ考えに至ったようですね。
ティファさまは確実に犯人を捕まえる為に躍起になるでしょう。もし帰っていらした時にクロシュガルをお出しできないとなれば、お疲れのその身にはあまりに酷というもの。
これは……
「一刻も早く、ティファさまのお菓子を食べた犯人を捕まえなくては!」
「ですミャ!」
グッと拳を握って互いに誓い合う私とケットシー。
今ここに、お菓子泥棒事件の犯人探しが開始されるのでした――。
――
「それではまず、いつクロシュガルを食べられたのか知る必要がありますミャ。二日前なのか三日前なのか……まずはそこからですミャ」
「あ、それは大丈夫ですよ。クロシュガルがしなしなになったら美味しくなくなりますから、私が昨日確認しました」
「え、それは……」
「ちょちょ、ちょっと待ってください! ちゃんとティファさまに許可を頂いた分だけしか食べてませんよ! それに私がティファさまのご機嫌を損ねるようなこと、するわけないでしょう!」
あまりにも失礼な、疑いの目を向けてくるケットシー。なんということでしょうか。
「にゃ……にゃはは、そうでしたミャ。ティファリスさまのこと以外基本的に何も考えてそうにないアシュルさんが、まさかそんなことするはずありませんでしたミャ」
「そ、そうですよ! 全く失礼ですねぇ……」
ちょっと頭に血が上りそうになりましたが、ここは序列が上の私です。ケットシーの暴言も水に流すほどの振る舞いを見せなくてはいけませんね。そんなことよりもお菓子泥棒を捕まえるほうが先です。
「というわけで、事件が起こったのは私が確認した昨日の夕方から今日のお昼までの間……それで間違ってないと思います」
「ではその間にキッチンの近くをうろついていた人物を探してみましょうミャ!」
「はい!」
待っていてくださいね犯人。ティファさまの所有物に許可なく手を出した報い、必ず受けてもらいます!!
――
「で、ボクのところに来たのかニャ」
まずはじめに訪れたのはフェーシャ王の部屋です。
この猫なんですが、現在はケルトシルの運営を賢猫のカッフェーに一任して、自分はリーティアスで仕事を手伝ってくれてるという実にいい猫ですね。
昔はティファさまが怒ってなければぶち殺してやった程のキチガイ猫だったんですが、今は本当に見る影もないです。
ああ、あのときのティファさまも最高に格好良かったです……。
「来て早々アシュルがうっとりした顔で宙を見てるんだけど、またティファリス女王のことでも思い出してるのかニャ?」
「いつものことですミャ。それより昨日の夕方から今日のお昼まで、どこにいましたかミャ?」
「昨日の夕方……食事は自室で取ったニャ。その後はちょっと住民から苦情が届いてたから、対処してたニャ」
「どんな苦情でしたかミャ?」
「えっとニャ……」
――
はっ……! ちょっとティファさまのことを思い耽ってしまいました。いつの間にかフェーシャ王とケットシーがなんだか難しい顔をして悩んでます。
一体これはどうしたのでしょうか……。なにか話してたような気もしましたが、私にとっては些細なことでしょう。
「二人共、何を難しい顔をしてるんですか?」
「……アシュルさんには多分わからないことですミャ。それはそうと、その後はどうしたんですかミャ?」
「えっと、疲れたからそのまま寝ようかと思ったのニャ。でもちょっとお腹空いたし、たまたま顔を合わせたコックに軽い食事を作ってもらったニャ」
「そうですかミャ。ありがとうございますミャ」
「別に構わないニャ。犯人、見つかるといいニャ」
聞きたいことは聞けたとフェーシャ王の部屋を出ていこうとするケットシーの後を慌ててついて行ったんですが、結局フェーシャ王は犯人じゃなかったということがわかっただけですかね。
「フェーシャ王の連れていたコックも調べた方がいいですかね?」
「それは必要ないと思いますミャ。にゃーが思うに、この館で働いてる執事やメイドやコックが犯人、っていうのは低いと思いますミャ」
「えー? どうしてですか?」
「考えてもみてくださいミャ。ティファリスさまがお気に入りにしてるものを無断で食べるなんて真似なんてしたらどうなるかわかるはずですミャ。今回の事件は後先を考えない者の犯行に違いないですミャ」
グッと握りこぶしで力説するケットシーですが、それは遠回しにフェーシャ王は後先考えてないって言ってるようなものだと思うんですけど、私の気のせいですかね?
「なら犯人はリュリュカかフェンルウってことになりますかね? リュリュカってば大概ティファさまに怒られてますし、フェンルウは前科がありますからねー」
「オウキさんがいたら彼も考えられたですミャ。ウルフェンさんは……微妙ですからミャ」
「ウルフェンは自分を鍛えることにしか興味のない変態ですからね」
「いやあれはそういう訳じゃないと思うんですけどミャ……」
いえ、アレは間違いなく変態です。たまたま訓練場に行ったとき「ここに来てから強くなった実感がある……いい気分だ」とか言って気持ちよさそうな顔で空を見上げながら呟いていたのを私ははっきり見ました。気持ち悪くなって急いでその場を後にしたほどです。
「アシュルさんが何を考えてるかわかりませんミャ。だけど、今は置いておきましょうミャ」
「そうですね。候補も上がったことですし、早速調査再開です!」
――
というわけで次に訪れたのはフェンルウの部屋です。
今日の執務は既に終わったらしく、今は自室で休んでいるんだとか。
「フェンルウー、いますかー?」
コンコンとノックをして呼びかけると、ガチャっと扉が開き、いつもの丸っこい犬のような何かのスライムが私の目の前に現れました。
「誰かと思ったらアシュルとケットシーじゃないっすか。なんか用っすか?」
「ちょっとお話がありますミャ。入っても大丈夫ですかミャ?」
「なんももてなしはできないっすけど、それでいいならどうぞっす」
中に入ったのはいいですが、結構殺風景ですね。まるでどこかの質素な宿屋みたいです。
もうちょっと飾ったほうがいいのでは? とも思うんですが……まあ、フェンルウにはお似合いですね。
「それで、どうしたんっすか?」
「実はティファさまのお菓子が誰かに食べられてしまったんですよ。それで犯人を探してるんですが、昨日の夕方から今日のお昼まで何をしてたか、教えてくれませんか?」
「き、昨日っすか!? えっとっすねー、昨日は執務が終わった後飯食って寝てたっす! 決してキッチンにはいってないっすよ!?」
「「…………」」
これ、どう見てもフェンルウの仕業じゃないですかー。ちょっと挙動不審すぎます。
というかまた貴方なんですか……こっちに来る時といい今回といい、ちょっとは学習したらどうなんでしょうかね。
「あの、いくらなんでも焦りすぎですミャ。自白してるようなもんですミャ」
「な、何を言ってるんっすかねぇ……」
「認めたほうがいいですよ? 早く楽になりたいならですけどね」
よくもティファさまの物を勝手に食べるなんて不届き千万。
このまま反省の色が見えないのであれば、きついお仕置きをしなくてはいけませんね。
「疑わしきはぶん殴って白状させろ、です。覚悟はよろしいですか?」
「それ、全然違う言葉っす! ま、ままま、待ってくださいっす!
明日まで! 明日まで待ってくださいっす! リュリュカに買いに行ってもらってるっすから!」
「リュリュカも共犯なんですかミャ……呆れてものも言えませんミャ」
「……ティファさまには後でしっかり報告しますよ?」
「うっ……わ、わかったっす。しょうがないっすよね……」
他人任せというのが結構気に食わないですが、新品が手に入るとなればティファさまも許してくれるでしょう。
「買いに行くんだったら最初から食べなければよかったと思うんですけどミャ……」
「自分はちょっと働きすぎてぼーっとしてたんっすよ! それで棚からクロシュガルの箱が落ちてきて……つい」
「つい、じゃないですよつい、じゃ」
「目先しか見てないからそうなるんですミャ」
「面目ないっす……」
「次やったらティファさまが許しても私が絶対に許しませんよ?」
いつもティファさまがやってるように目に力を入れて、殺気を振りまいて、威圧してみますが、どうもいまいち迫力に欠けるといいますか……。
「……アシュルさん、ティファリスさまの真似をしようとしてるんでしょうけど、失敗してますよ」
「ちょっと殺気が薄いっすね。怒ってるっていうのは伝わってくるっすけど」
ひどい言い方ですね。
……でも実際ティファさまが許したら、私も何もいわないでしょうし、仕方ないかも知れません。
こうして、ティファさまのお菓子泥棒事件は新しいクロシュガルを購入し、ティファさまに許しを請うことで幕を下ろすことになりました。
――
「はぁぁぁぁー、今日も一日疲れました」
お菓子泥棒を探しや他のお仕事をしているうちに夜になり、私は部屋でベッドに顔を埋めて一息就くことにしました。
「くんくん、くんくん……ティファさまの残り香が薄くなってきましたね……」
ティファさまがいなくなってはや数日……ティファさま成分をお部屋で補充することが私の日課になっています。
もちろん深夜にこっそりと、最後はきちんと片付けてますから誰も気づきません。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ティファさま、早くお帰りになってください」
ゆっくりと深呼吸して、ティファさまの柔らかな匂いを感じながら今日の疲れを癒やす私でした。
「あ、ああああぁぁぁぁ…………」
大変なことが起きてしまいました。これはこれはリーティアス最大の一大事です!
あまりの出来事に思わず悲鳴を上げ、頭を抱えてどうしようかと悩むことにすらなってしまいました。
「そんなに騒いでどうしたのですかミャ?」
「ケットシー! いいところに来ました! ティファさまが嘆き悲しむであろう、恐るべき悲劇が発生しました!」
「ほ、本当ですかミャ!?」
「本当ですよ! 実は……」
「じ、実は……?」
ゴクリと喉を鳴らして真剣な表情で私を見つめてくるケットシーに、このあまりにも悲しい事件を報告しました。
「ティ、ティファさまが大切に食べていたクロシュガルが……誰かに食べられてしまってたんです!!」
「…………」
「ケ、ケットシー? どうしました?」
私が告げたあまりにも衝撃的な話に言葉を失ったのか、ブルブルと震えてうつむくだけで精一杯のケットシーは黙ったまま何も言わなくなったので、もしかして私が考えてるよりずっと事態は深刻なのかも知れないと考えていたら、勢いよく顔を上げて私に真剣な目を向けてきました。
「それはまずいですミャ。ティファリスさまはなによりお茶の時間を大切にされる御方。そしてクロシュガルはそのティファリスさまが今一番気に入られてるお菓子ですミャ! それを勝手に食べられたことを知ったらどうなるか……なんということですかミャ……」
やはり私と同じ考えに至ったようですね。
ティファさまは確実に犯人を捕まえる為に躍起になるでしょう。もし帰っていらした時にクロシュガルをお出しできないとなれば、お疲れのその身にはあまりに酷というもの。
これは……
「一刻も早く、ティファさまのお菓子を食べた犯人を捕まえなくては!」
「ですミャ!」
グッと拳を握って互いに誓い合う私とケットシー。
今ここに、お菓子泥棒事件の犯人探しが開始されるのでした――。
――
「それではまず、いつクロシュガルを食べられたのか知る必要がありますミャ。二日前なのか三日前なのか……まずはそこからですミャ」
「あ、それは大丈夫ですよ。クロシュガルがしなしなになったら美味しくなくなりますから、私が昨日確認しました」
「え、それは……」
「ちょちょ、ちょっと待ってください! ちゃんとティファさまに許可を頂いた分だけしか食べてませんよ! それに私がティファさまのご機嫌を損ねるようなこと、するわけないでしょう!」
あまりにも失礼な、疑いの目を向けてくるケットシー。なんということでしょうか。
「にゃ……にゃはは、そうでしたミャ。ティファリスさまのこと以外基本的に何も考えてそうにないアシュルさんが、まさかそんなことするはずありませんでしたミャ」
「そ、そうですよ! 全く失礼ですねぇ……」
ちょっと頭に血が上りそうになりましたが、ここは序列が上の私です。ケットシーの暴言も水に流すほどの振る舞いを見せなくてはいけませんね。そんなことよりもお菓子泥棒を捕まえるほうが先です。
「というわけで、事件が起こったのは私が確認した昨日の夕方から今日のお昼までの間……それで間違ってないと思います」
「ではその間にキッチンの近くをうろついていた人物を探してみましょうミャ!」
「はい!」
待っていてくださいね犯人。ティファさまの所有物に許可なく手を出した報い、必ず受けてもらいます!!
――
「で、ボクのところに来たのかニャ」
まずはじめに訪れたのはフェーシャ王の部屋です。
この猫なんですが、現在はケルトシルの運営を賢猫のカッフェーに一任して、自分はリーティアスで仕事を手伝ってくれてるという実にいい猫ですね。
昔はティファさまが怒ってなければぶち殺してやった程のキチガイ猫だったんですが、今は本当に見る影もないです。
ああ、あのときのティファさまも最高に格好良かったです……。
「来て早々アシュルがうっとりした顔で宙を見てるんだけど、またティファリス女王のことでも思い出してるのかニャ?」
「いつものことですミャ。それより昨日の夕方から今日のお昼まで、どこにいましたかミャ?」
「昨日の夕方……食事は自室で取ったニャ。その後はちょっと住民から苦情が届いてたから、対処してたニャ」
「どんな苦情でしたかミャ?」
「えっとニャ……」
――
はっ……! ちょっとティファさまのことを思い耽ってしまいました。いつの間にかフェーシャ王とケットシーがなんだか難しい顔をして悩んでます。
一体これはどうしたのでしょうか……。なにか話してたような気もしましたが、私にとっては些細なことでしょう。
「二人共、何を難しい顔をしてるんですか?」
「……アシュルさんには多分わからないことですミャ。それはそうと、その後はどうしたんですかミャ?」
「えっと、疲れたからそのまま寝ようかと思ったのニャ。でもちょっとお腹空いたし、たまたま顔を合わせたコックに軽い食事を作ってもらったニャ」
「そうですかミャ。ありがとうございますミャ」
「別に構わないニャ。犯人、見つかるといいニャ」
聞きたいことは聞けたとフェーシャ王の部屋を出ていこうとするケットシーの後を慌ててついて行ったんですが、結局フェーシャ王は犯人じゃなかったということがわかっただけですかね。
「フェーシャ王の連れていたコックも調べた方がいいですかね?」
「それは必要ないと思いますミャ。にゃーが思うに、この館で働いてる執事やメイドやコックが犯人、っていうのは低いと思いますミャ」
「えー? どうしてですか?」
「考えてもみてくださいミャ。ティファリスさまがお気に入りにしてるものを無断で食べるなんて真似なんてしたらどうなるかわかるはずですミャ。今回の事件は後先を考えない者の犯行に違いないですミャ」
グッと握りこぶしで力説するケットシーですが、それは遠回しにフェーシャ王は後先考えてないって言ってるようなものだと思うんですけど、私の気のせいですかね?
「なら犯人はリュリュカかフェンルウってことになりますかね? リュリュカってば大概ティファさまに怒られてますし、フェンルウは前科がありますからねー」
「オウキさんがいたら彼も考えられたですミャ。ウルフェンさんは……微妙ですからミャ」
「ウルフェンは自分を鍛えることにしか興味のない変態ですからね」
「いやあれはそういう訳じゃないと思うんですけどミャ……」
いえ、アレは間違いなく変態です。たまたま訓練場に行ったとき「ここに来てから強くなった実感がある……いい気分だ」とか言って気持ちよさそうな顔で空を見上げながら呟いていたのを私ははっきり見ました。気持ち悪くなって急いでその場を後にしたほどです。
「アシュルさんが何を考えてるかわかりませんミャ。だけど、今は置いておきましょうミャ」
「そうですね。候補も上がったことですし、早速調査再開です!」
――
というわけで次に訪れたのはフェンルウの部屋です。
今日の執務は既に終わったらしく、今は自室で休んでいるんだとか。
「フェンルウー、いますかー?」
コンコンとノックをして呼びかけると、ガチャっと扉が開き、いつもの丸っこい犬のような何かのスライムが私の目の前に現れました。
「誰かと思ったらアシュルとケットシーじゃないっすか。なんか用っすか?」
「ちょっとお話がありますミャ。入っても大丈夫ですかミャ?」
「なんももてなしはできないっすけど、それでいいならどうぞっす」
中に入ったのはいいですが、結構殺風景ですね。まるでどこかの質素な宿屋みたいです。
もうちょっと飾ったほうがいいのでは? とも思うんですが……まあ、フェンルウにはお似合いですね。
「それで、どうしたんっすか?」
「実はティファさまのお菓子が誰かに食べられてしまったんですよ。それで犯人を探してるんですが、昨日の夕方から今日のお昼まで何をしてたか、教えてくれませんか?」
「き、昨日っすか!? えっとっすねー、昨日は執務が終わった後飯食って寝てたっす! 決してキッチンにはいってないっすよ!?」
「「…………」」
これ、どう見てもフェンルウの仕業じゃないですかー。ちょっと挙動不審すぎます。
というかまた貴方なんですか……こっちに来る時といい今回といい、ちょっとは学習したらどうなんでしょうかね。
「あの、いくらなんでも焦りすぎですミャ。自白してるようなもんですミャ」
「な、何を言ってるんっすかねぇ……」
「認めたほうがいいですよ? 早く楽になりたいならですけどね」
よくもティファさまの物を勝手に食べるなんて不届き千万。
このまま反省の色が見えないのであれば、きついお仕置きをしなくてはいけませんね。
「疑わしきはぶん殴って白状させろ、です。覚悟はよろしいですか?」
「それ、全然違う言葉っす! ま、ままま、待ってくださいっす!
明日まで! 明日まで待ってくださいっす! リュリュカに買いに行ってもらってるっすから!」
「リュリュカも共犯なんですかミャ……呆れてものも言えませんミャ」
「……ティファさまには後でしっかり報告しますよ?」
「うっ……わ、わかったっす。しょうがないっすよね……」
他人任せというのが結構気に食わないですが、新品が手に入るとなればティファさまも許してくれるでしょう。
「買いに行くんだったら最初から食べなければよかったと思うんですけどミャ……」
「自分はちょっと働きすぎてぼーっとしてたんっすよ! それで棚からクロシュガルの箱が落ちてきて……つい」
「つい、じゃないですよつい、じゃ」
「目先しか見てないからそうなるんですミャ」
「面目ないっす……」
「次やったらティファさまが許しても私が絶対に許しませんよ?」
いつもティファさまがやってるように目に力を入れて、殺気を振りまいて、威圧してみますが、どうもいまいち迫力に欠けるといいますか……。
「……アシュルさん、ティファリスさまの真似をしようとしてるんでしょうけど、失敗してますよ」
「ちょっと殺気が薄いっすね。怒ってるっていうのは伝わってくるっすけど」
ひどい言い方ですね。
……でも実際ティファさまが許したら、私も何もいわないでしょうし、仕方ないかも知れません。
こうして、ティファさまのお菓子泥棒事件は新しいクロシュガルを購入し、ティファさまに許しを請うことで幕を下ろすことになりました。
――
「はぁぁぁぁー、今日も一日疲れました」
お菓子泥棒を探しや他のお仕事をしているうちに夜になり、私は部屋でベッドに顔を埋めて一息就くことにしました。
「くんくん、くんくん……ティファさまの残り香が薄くなってきましたね……」
ティファさまがいなくなってはや数日……ティファさま成分をお部屋で補充することが私の日課になっています。
もちろん深夜にこっそりと、最後はきちんと片付けてますから誰も気づきません。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ティファさま、早くお帰りになってください」
ゆっくりと深呼吸して、ティファさまの柔らかな匂いを感じながら今日の疲れを癒やす私でした。
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