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第1章・底辺領土の少女魔王
30・魔王様、困惑する
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「……どうなったんでしょう」
フェーシャを包んだ光が収まったのはいいけど、しばらく経ってもフェーシャは一向に目を覚まさない。
一応『スキャニング』で状態を調べてみたんだけど、前みたいに全身が黒いモヤみたいなのに包まれてなかったし、治ってるはず。
それでもジークロンドとは違って目を覚まさないということは、それほどフェーシャにかかっていた魔法が強力だったということなのだろうか?
「んぅ……ふ、ふぁうぅ……よく寝たニャ」
様子を見ていると今まで寝てたかのように猫特有の顔を洗う仕草を見せながら目を覚ますその仕草はなんとも可愛い。
今までのウザさを多少帳消しにする程度だ。
「ん? お前たちは誰かニャ?」
「誰かって……覚えてないんですか?」
「んー……悪いニャ。ボク、誕生日パーティーの時に変な男が来た所から全然記憶にないニャ」
「変な男?」
「そうニャ。ボクたちの国の近辺では全く見ない男だったニャ。あれは……エルフ族の男だったニャ」
「エルフ族……」
人と妖精の中間に位置すると言われている妖精種エルフ族。
妖精が花とともに暮らす種族であれば、エルフは森とともに暮らす種族であると言われている。
私が出会った黒ローブの男はエルフ族じゃなく、普通の魔人族だった。
あの男……やっぱり嘘ついてたな。
改めて生かしておかなくて良かったと思う。あんなのより、元に戻ったフェーシャの方が多少は信用できる。
寝起きですぐに嘘をつけるような器用なことが出来るようにも見えないからな。
「エルフ族の男で間違いないのね?」
「はいニャ。あの耳の尖り具合、妙に白い肌はエルフ族のそれニャ。ボクたちの国って、どっちかというと獣種の魔王が多い地域ですからニャ」
人狼・猫人・オーク族の他に、この近くにいる魔王は私を除くと妖精・狐人・獣人族だし、確かに大陸の南東に位置するこの地域は、獣種系の魔王の比率が高い。
逆にエルフやドワーフや竜人といった種族は国も遠いし、ここではまず見かけない。
……私の国が戦時中で危なかったからとか絶対にない、と思う。アールガルムでも見なかったし。
「……で、お前たちは一体誰なのニャ? それとここはどこニャ? ケルトシルじゃないみたいだけどニャ」
「あ、ああ…すっかり忘れてたわ。ここはリーティアス。で、私がその国の魔王のティファリスよ」
「……ニャ?」
私の言葉に理解が追いついてないのか、口をぽかーんと開けて惚けたまま硬直してる。
気持ちはわかる。ケルトシルで誕生日パーティーをしていたと思ったらリーティアスの私の館にいるんですもの。
「も、もう一度聞いていいかニャ?」
「ここはリーティアス。貴方は私の館の一室で眠ってたの。大丈夫?」
「た、多分……ニャ」
「目が覚めたばかりでまだ頭が混乱してるんでしょう。その鎖は緩めることは出来ないけど、しばらくゆっくり休みなさい」
「鎖?」
ようやく自分がぐるぐるに拘束されているのに気付いたのか、相当驚いてる。
「なんで鎖に巻かれてるニャ?」
「それは深い事情があるのよ。今の貴方が全部聞いたら、余計に混乱すると思うわよ?」
「そ、そうかニャ……ボクとしてはすんごく気になるニャ。どうしても解いてもらえないのかニャ?」
どことなく寂しげな様子のフェーシャの態度にものすごく違和感が生じる。なんだろうこれ。
「な、なんだか最初に会ったフェーシャ王とは大分違いますね」
「そうね。さすがの私もちょっと戸惑うわ」
ちょっと前まで癇癪起こしまくりのバカ猫だっただけに、この変わりようは困るな。
前に比べて悪いものが取れたかのように素直そうな目をしてるし、少しくらい譲歩しても良いかも知れない。
だからそんな目で見ないで欲しい。罪悪感を感じるから!
「………」
「……ふぅ、あまりこの部屋から出ないこと。私が指定した部屋には近づかないこと。それと暴れないこと。
この三つを守れるなら鎖を解いてあげるわ」
「ニャ! 守れるニャ! 守れるニャ!」
「そう。それじゃ、ちゃんと約束は守ってね」
フェーシャが尻尾と雰囲気で喜びを表している間に、ちゃちゃっと『チェーンバインド』を解除する。
「良かったんですか? ティファさまが抑えられるとはいえ、野放しにするのは危険ではないかと」
「その時は私に見る目がなかったってことにしておいてちょうだい。幸い今の私は館から動けないし、なにかしでかしたらすぐに大人しくさせるから」
「……ティファさまがそう仰られるのでしたら、これ以上は」
鎖が解けたのを確かめるように腕を動かしたり飛び跳ねたりしてる。
まだ暴れる可能性もあるけど、少なくともフェーシャ専属のお世話係になりつつあるメイドが楽になることは確かだろう。
「ありがとうニャ! グッと楽になった気がするニャ!」
「それは良かったわ。何かあったらメイドに言えば最低限のものは用意させるから、準備が整うまでは大人しくしてなさい」
「わかったニャ。ちょっとの間、世話になるニャ」
もうそろそろ一年ぐらいここで世話してるんだけどね。って言葉が口をついて出そうになった。
「それじゃあね」
「あ! ちょっと待ってニャ!」
「? どうしたのよ」
「そこのメイドの名前を未だ聞いてないニャ」
「わ、私ですか?」
そういえば私達のことを知りたがってたわね。
話を振られるとは思わなかったのか、アシュルが困惑するかのようにこちらをみている。
メイドではないんだけど……まあ、姿だけ見たらそう思うだろうし、ここは押し通しておくか。
「そうね。この子はアシュル。私の専属メイドよ」
「ティファさまの専属……。
あ! えっと、アシュルです。よろしくおねがいします」
「おお、よろしくニャ」
どうにも扱いに困るフェーシャと一言二言かわして部屋から出ていくと、安堵するかのように息をつくアシュルの姿。
その気持ち、よくわかる。こうも違うと逆になにか乗り移ったんじゃないかと思うほどの不気味さがある。
「あれだけ変わると、どうにも調子狂うのよねぇ」
「わかります。最初のあの態度からあれじゃちょっと……ですよね」
これから毎度あの子に接することになるのか……慣れるしかないとはいえ、しばらくは違和感を感じるんだろうなぁ……。
――
治療が終わって執務室に戻った私は、ケットシーとフェンルウを呼び出した。
「おまたせしましたミャ!」
「自分らになにか用っすか?」
「ええ。二人にはケルトシルとアールガルムに行ってもらいたいのよ。
フェーシャとジークロンドも元に戻ったからね。二国にも知らせてほしいのよ」
「ほ、本当ですかミャ!?」
「あの重傷を治したんっすか!?」
「嘘言ってどうするのよ。この国を建て直すにはどうしても今援助が必要なのはわかるわね?」
エルガルムによって荒らされた領土の問題、自給自足もままならぬ状態にまで追いやられた為、こちらに国民が移動してきている。
このままではディトリアだけでは立ち回らなくなる可能性が視えている。
二人は直接フィシュロンドを見てきただけあって、私がしてほしいことをすぐに察してくれたようだ。
「そうっすね。今ここで見捨てたら、オーガル王のやってたこととあんまり変わんないっすからね。
対策としてはそれぐらいしかないっすもんね」
「わかりましたですミャ! カッフェー様にお願いしてみますミャ!」
「よろしくね」
これで準備は整った。自国の魔王を救われてた上、今までそれなりに貸しを作ってる私に対し、支援を断るという選択は恐らくない。
もし断られた場合は……そうね。最悪の決断を強いられることになるだろう。
「無いといいんだけどね……」
「なにが無いとよろしいのですか?」
ケットシー、フェンルウが出ていってすぐ、リカルデが入ってきた。
「いいえ、独り言よ。
それで、珍しいわね。貴方がここに来るなんて」
「お嬢様は私に次々仕事を与えてくださりますから、伺おうと思いましても中々……」
「仕方ないでしょう。人手がまるで足りないんだから……。貴方はもちろん、私についてきてくれる人には感謝してるわ」
「そう言っていただけるだけで身に余る光栄です。話を戻しますが、今日こちらに伺ったのはお嬢様が戦場で活躍されている間、ようやくある程度物になった者が増えてきましたのでそのご報告を」
「物になった? ……あー」
しばらくの間何に対してそんなこと言ってるのかわからなかったけど、そういえばリカルデには国に直接関われる人材の育成を頼んでいたことを思い出した。
このままじゃ仕事が多すぎて私がいなくなった瞬間、国の機能がほとんど停止しかねない。
疲労なんかは光魔導でなんとか出来たとしても、時間についてはどうしようもないしね。
「まさかお忘れになっていたでしょうか……?」
「あ、あははははー……そんなまさか。最近色々任せてたからどの案件かなって思っただけよ」
そんな言い訳にもならないごまかしに顔色一つ変えないリカルデがちょっと怖い。
「最低限出来るようには教育しています。最重要案件などはお嬢様にお任せする形とはなりますが、負担は軽くなるでしょう」
「ありがとうリカルデ。まだ大変だろうけど、貴方は引き続き人材育成に力を入れてちょうだい。人が育てば楽になるから」
そう、この国は圧倒的に国務に携われる人が不足してる。魔王である私はエルガルムとの戦争が終わってからまともに休めたことがない。
それでもまだ遅れが出ているところもある始末だ。最近は一日の時間が五倍くらい増えないかなとか思い始めてるぐらい。
光属性の魔導が使えなかったら確実に過労死してただろう。
「承知しております。その間はお嬢様にも苦労をお掛けしますが……」
「問題ないわ。ただ、セツキ王との会談がねぇ」
ただでさえ問題が次々と湯水のように湧いてるっていうのに、オウキからセツオウカに一緒に来てほしいと頼まれている。
どうやら私自身がセツキ王にオーガルを引き渡すことで約束が完了するらしい。もちろん今そんなことをしてる時間はない。
ひとまずオウキには現在の私の状況を説明してもらうべく、単身セツオウカに帰ってもらってるけど……出来ればオーガルも一緒に連れて行ってほしかった。結局私の館に置き去りにされてるんだものね。
「向こうの方も戦後処理で追われていることは承知しているはずです。セツキ王は魔王の中でも非常に理解のある方ですから大丈夫ですよ」
「リカルデは随分セツキ王のこと、信頼してるのね」
「私も一時期お世話になりましたから」
リカルデが世話になった人物……どんな人か会ってみたい気になる。
オウキが戻ってくるにしても来ないにしてもまだ時間があるだろうし、時間を作れるようにもうひと頑張りしましょうか。
フェーシャを包んだ光が収まったのはいいけど、しばらく経ってもフェーシャは一向に目を覚まさない。
一応『スキャニング』で状態を調べてみたんだけど、前みたいに全身が黒いモヤみたいなのに包まれてなかったし、治ってるはず。
それでもジークロンドとは違って目を覚まさないということは、それほどフェーシャにかかっていた魔法が強力だったということなのだろうか?
「んぅ……ふ、ふぁうぅ……よく寝たニャ」
様子を見ていると今まで寝てたかのように猫特有の顔を洗う仕草を見せながら目を覚ますその仕草はなんとも可愛い。
今までのウザさを多少帳消しにする程度だ。
「ん? お前たちは誰かニャ?」
「誰かって……覚えてないんですか?」
「んー……悪いニャ。ボク、誕生日パーティーの時に変な男が来た所から全然記憶にないニャ」
「変な男?」
「そうニャ。ボクたちの国の近辺では全く見ない男だったニャ。あれは……エルフ族の男だったニャ」
「エルフ族……」
人と妖精の中間に位置すると言われている妖精種エルフ族。
妖精が花とともに暮らす種族であれば、エルフは森とともに暮らす種族であると言われている。
私が出会った黒ローブの男はエルフ族じゃなく、普通の魔人族だった。
あの男……やっぱり嘘ついてたな。
改めて生かしておかなくて良かったと思う。あんなのより、元に戻ったフェーシャの方が多少は信用できる。
寝起きですぐに嘘をつけるような器用なことが出来るようにも見えないからな。
「エルフ族の男で間違いないのね?」
「はいニャ。あの耳の尖り具合、妙に白い肌はエルフ族のそれニャ。ボクたちの国って、どっちかというと獣種の魔王が多い地域ですからニャ」
人狼・猫人・オーク族の他に、この近くにいる魔王は私を除くと妖精・狐人・獣人族だし、確かに大陸の南東に位置するこの地域は、獣種系の魔王の比率が高い。
逆にエルフやドワーフや竜人といった種族は国も遠いし、ここではまず見かけない。
……私の国が戦時中で危なかったからとか絶対にない、と思う。アールガルムでも見なかったし。
「……で、お前たちは一体誰なのニャ? それとここはどこニャ? ケルトシルじゃないみたいだけどニャ」
「あ、ああ…すっかり忘れてたわ。ここはリーティアス。で、私がその国の魔王のティファリスよ」
「……ニャ?」
私の言葉に理解が追いついてないのか、口をぽかーんと開けて惚けたまま硬直してる。
気持ちはわかる。ケルトシルで誕生日パーティーをしていたと思ったらリーティアスの私の館にいるんですもの。
「も、もう一度聞いていいかニャ?」
「ここはリーティアス。貴方は私の館の一室で眠ってたの。大丈夫?」
「た、多分……ニャ」
「目が覚めたばかりでまだ頭が混乱してるんでしょう。その鎖は緩めることは出来ないけど、しばらくゆっくり休みなさい」
「鎖?」
ようやく自分がぐるぐるに拘束されているのに気付いたのか、相当驚いてる。
「なんで鎖に巻かれてるニャ?」
「それは深い事情があるのよ。今の貴方が全部聞いたら、余計に混乱すると思うわよ?」
「そ、そうかニャ……ボクとしてはすんごく気になるニャ。どうしても解いてもらえないのかニャ?」
どことなく寂しげな様子のフェーシャの態度にものすごく違和感が生じる。なんだろうこれ。
「な、なんだか最初に会ったフェーシャ王とは大分違いますね」
「そうね。さすがの私もちょっと戸惑うわ」
ちょっと前まで癇癪起こしまくりのバカ猫だっただけに、この変わりようは困るな。
前に比べて悪いものが取れたかのように素直そうな目をしてるし、少しくらい譲歩しても良いかも知れない。
だからそんな目で見ないで欲しい。罪悪感を感じるから!
「………」
「……ふぅ、あまりこの部屋から出ないこと。私が指定した部屋には近づかないこと。それと暴れないこと。
この三つを守れるなら鎖を解いてあげるわ」
「ニャ! 守れるニャ! 守れるニャ!」
「そう。それじゃ、ちゃんと約束は守ってね」
フェーシャが尻尾と雰囲気で喜びを表している間に、ちゃちゃっと『チェーンバインド』を解除する。
「良かったんですか? ティファさまが抑えられるとはいえ、野放しにするのは危険ではないかと」
「その時は私に見る目がなかったってことにしておいてちょうだい。幸い今の私は館から動けないし、なにかしでかしたらすぐに大人しくさせるから」
「……ティファさまがそう仰られるのでしたら、これ以上は」
鎖が解けたのを確かめるように腕を動かしたり飛び跳ねたりしてる。
まだ暴れる可能性もあるけど、少なくともフェーシャ専属のお世話係になりつつあるメイドが楽になることは確かだろう。
「ありがとうニャ! グッと楽になった気がするニャ!」
「それは良かったわ。何かあったらメイドに言えば最低限のものは用意させるから、準備が整うまでは大人しくしてなさい」
「わかったニャ。ちょっとの間、世話になるニャ」
もうそろそろ一年ぐらいここで世話してるんだけどね。って言葉が口をついて出そうになった。
「それじゃあね」
「あ! ちょっと待ってニャ!」
「? どうしたのよ」
「そこのメイドの名前を未だ聞いてないニャ」
「わ、私ですか?」
そういえば私達のことを知りたがってたわね。
話を振られるとは思わなかったのか、アシュルが困惑するかのようにこちらをみている。
メイドではないんだけど……まあ、姿だけ見たらそう思うだろうし、ここは押し通しておくか。
「そうね。この子はアシュル。私の専属メイドよ」
「ティファさまの専属……。
あ! えっと、アシュルです。よろしくおねがいします」
「おお、よろしくニャ」
どうにも扱いに困るフェーシャと一言二言かわして部屋から出ていくと、安堵するかのように息をつくアシュルの姿。
その気持ち、よくわかる。こうも違うと逆になにか乗り移ったんじゃないかと思うほどの不気味さがある。
「あれだけ変わると、どうにも調子狂うのよねぇ」
「わかります。最初のあの態度からあれじゃちょっと……ですよね」
これから毎度あの子に接することになるのか……慣れるしかないとはいえ、しばらくは違和感を感じるんだろうなぁ……。
――
治療が終わって執務室に戻った私は、ケットシーとフェンルウを呼び出した。
「おまたせしましたミャ!」
「自分らになにか用っすか?」
「ええ。二人にはケルトシルとアールガルムに行ってもらいたいのよ。
フェーシャとジークロンドも元に戻ったからね。二国にも知らせてほしいのよ」
「ほ、本当ですかミャ!?」
「あの重傷を治したんっすか!?」
「嘘言ってどうするのよ。この国を建て直すにはどうしても今援助が必要なのはわかるわね?」
エルガルムによって荒らされた領土の問題、自給自足もままならぬ状態にまで追いやられた為、こちらに国民が移動してきている。
このままではディトリアだけでは立ち回らなくなる可能性が視えている。
二人は直接フィシュロンドを見てきただけあって、私がしてほしいことをすぐに察してくれたようだ。
「そうっすね。今ここで見捨てたら、オーガル王のやってたこととあんまり変わんないっすからね。
対策としてはそれぐらいしかないっすもんね」
「わかりましたですミャ! カッフェー様にお願いしてみますミャ!」
「よろしくね」
これで準備は整った。自国の魔王を救われてた上、今までそれなりに貸しを作ってる私に対し、支援を断るという選択は恐らくない。
もし断られた場合は……そうね。最悪の決断を強いられることになるだろう。
「無いといいんだけどね……」
「なにが無いとよろしいのですか?」
ケットシー、フェンルウが出ていってすぐ、リカルデが入ってきた。
「いいえ、独り言よ。
それで、珍しいわね。貴方がここに来るなんて」
「お嬢様は私に次々仕事を与えてくださりますから、伺おうと思いましても中々……」
「仕方ないでしょう。人手がまるで足りないんだから……。貴方はもちろん、私についてきてくれる人には感謝してるわ」
「そう言っていただけるだけで身に余る光栄です。話を戻しますが、今日こちらに伺ったのはお嬢様が戦場で活躍されている間、ようやくある程度物になった者が増えてきましたのでそのご報告を」
「物になった? ……あー」
しばらくの間何に対してそんなこと言ってるのかわからなかったけど、そういえばリカルデには国に直接関われる人材の育成を頼んでいたことを思い出した。
このままじゃ仕事が多すぎて私がいなくなった瞬間、国の機能がほとんど停止しかねない。
疲労なんかは光魔導でなんとか出来たとしても、時間についてはどうしようもないしね。
「まさかお忘れになっていたでしょうか……?」
「あ、あははははー……そんなまさか。最近色々任せてたからどの案件かなって思っただけよ」
そんな言い訳にもならないごまかしに顔色一つ変えないリカルデがちょっと怖い。
「最低限出来るようには教育しています。最重要案件などはお嬢様にお任せする形とはなりますが、負担は軽くなるでしょう」
「ありがとうリカルデ。まだ大変だろうけど、貴方は引き続き人材育成に力を入れてちょうだい。人が育てば楽になるから」
そう、この国は圧倒的に国務に携われる人が不足してる。魔王である私はエルガルムとの戦争が終わってからまともに休めたことがない。
それでもまだ遅れが出ているところもある始末だ。最近は一日の時間が五倍くらい増えないかなとか思い始めてるぐらい。
光属性の魔導が使えなかったら確実に過労死してただろう。
「承知しております。その間はお嬢様にも苦労をお掛けしますが……」
「問題ないわ。ただ、セツキ王との会談がねぇ」
ただでさえ問題が次々と湯水のように湧いてるっていうのに、オウキからセツオウカに一緒に来てほしいと頼まれている。
どうやら私自身がセツキ王にオーガルを引き渡すことで約束が完了するらしい。もちろん今そんなことをしてる時間はない。
ひとまずオウキには現在の私の状況を説明してもらうべく、単身セツオウカに帰ってもらってるけど……出来ればオーガルも一緒に連れて行ってほしかった。結局私の館に置き去りにされてるんだものね。
「向こうの方も戦後処理で追われていることは承知しているはずです。セツキ王は魔王の中でも非常に理解のある方ですから大丈夫ですよ」
「リカルデは随分セツキ王のこと、信頼してるのね」
「私も一時期お世話になりましたから」
リカルデが世話になった人物……どんな人か会ってみたい気になる。
オウキが戻ってくるにしても来ないにしてもまだ時間があるだろうし、時間を作れるようにもうひと頑張りしましょうか。
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