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前編
しおりを挟む逃げられないよう両足首に繋がれた鉄の鎖が、奥を突かれ体を揺さぶられる度にガシャガシャと音を立てる。
自分が目の前の少年の所有物であることを示すかのような黒い首輪のリードを引っ張られると、
「がッ、あ゛ッ♡♡」と苦痛と快楽が混じった嬌声が上がった。
抵抗する術を奪われ、頼みの綱は皆目の前の少年の支配下。誰も助けに来ないという絶望的な状況に抗うだけ無駄だと嫌でも分からされ、心も体もどんどん堕ちていく。
「ら゛じゅげぇッッ♡♡♡!♡♡や゛ぁっっ、まだ、ひぐぅ゛ーーッッ♡♡♡イぐッ、いぐいぐいぐ♡♡も゛お、やらあ゛ぁ゛ぁ゛♡♡♡かい゛るっ!!♡♡ら゛じゅげれ゛♡♡がい゛ぅ゛ッ!っ、イ゛ッッ~~♡♡♡」
それでも必死にぱたぱたと力無く足をばたつかせ藻掻く。
しかし容赦無く何度も絶頂させられる度にピンッと足を伸ばしてぴくぴく痙攣し、潮を勢いよく吐き出す。
神子である彼の手によって淫らに喘ぐルミルは心が完全に屈服するまでずっと、来るはずのない愛する騎士の助けを待っていた。
***
「カイルっ、カイル~!会いに来たぞ!」
王宮の騎士であるカイルの婚約者ルミルは、訓練を終え休憩している愛しい彼の腕に勢いよく絡みつき、すりすりと甘える。
胸元にはそんな彼から唯一プレゼントされたペンダントが光っていた。
婚約者の瞳と同じ色をしており、キチンと手入れをされている様子から大切にしていることが分かる。
しかし、うっとりと頬を染めるルミルを鬱陶しがるように振り払い、カイルはウンザリしながら口を開いた。
「いい加減その喋り方を直したらどうですか。毎朝毎朝、俺を見掛ける度に人目を気にせずひっ付いてみっともない」
「別にいいだろ!だってこうでもしないと、カイルが他の奴らに盗られる…」
そうしてカイルの言葉を聞き入れるどころか、更に見せつけるように密着する。
ルミルは嫉妬深く、独占欲が強い。それとは反対にカイルは人から向けられる好意に鈍感で、しかも警戒心が強くルミルから激しく愛を伝えられても不信感しか持たない。
好意を向けられても尽く無下にし、相手にもしない。
隣でひっつくルミルを見ても、必死の媚び売りとしか思えないのだ。
「カイルはこんなに真面目なのに、なんで婚約者のことは真面目に大事にしないんだ!」
「貴方に構ったところで付け上がるだけでしょう。それに、俺は愛する者は大切にします。
見栄ばかり張る人間に対して向ける愛はありません」
そう言って体を寄せるルミルを引き剥がした。
「どうせ婚約者から愛されてないと噂されたから、恥をかきたくなくて媚びを売ってきているのでしょうし」
「ーーっ!!違う、違う違う違う!そんなんじゃないのに、なんで分かんないんだ!!」
カイルの肩を揺さぶり、ルミルはぎゃんぎゃん泣き喚く。
いつもの事だ。毎度ルミルはカイルにこうしてアピールしに行くも追い返される。
ルミルがどれだけ見た目に気を遣い、彼の視界に入ろうとしても無意味だった。
しかもカイルからは、人に自慢したいけれど婚約者と不仲だと噂されて恥ずかしいから必死に媚びを売っていると思われている。
もっとも、カイルは物静かで清楚な性格を好むので、ルミルのような煩く人目も気にせず密着してくるような人間は論外だった。
元々両親が勝手に進めた婚約だ。愛など生まれるはずが無かった。
そうこうしているうちに月日は流れ、この国にもとうとう神子が召喚されるらしい。
存在を知らしめる為か、多くの貴族達が儀式の場に招待された。
中央の魔法陣を取り囲む術者や、豪華な椅子に座りそれを見下ろす王族達。
万が一に備え武器を片手に佇む騎士達の中には、愛しのカイルの姿もあった。
ルミルはカイルの姿を見る為、貴族達を避けながら彼に一番近い最前列まで辿り着くと同時に、魔法陣が強い光を放つ。
眩しさに目を瞑り、光が弱まった頃恐る恐る目を開くと、そこには美しい黒い髪と瞳を持った可愛らしい少年が困惑した様子で座っていた。
国王の話を聞いているのかいないのか、黒髪の少年は辺りをキョロキョロと見渡し、最前列で見ていた僕と目が合う。
そのまま数秒間じっと見つめられれば流石に恥ずかしい。少々照れながらもにっこりと微笑んでやれば、少年は林檎のように顔を真っ赤に染めた後、へへっ…と笑いぎこちなくぺこぺこ会釈してきた。
(あれが神子か…。まだ小さいのに大変だ。)
正直あまり興味は無かった。国を浄化し平和と幸福をもたらす神子への興味よりも、カイルへの愛の方が何倍も大きいから当然だ。
神子はそのまま儀式の場から神殿へと移動させられる。
しかし、転移の影響が体に出ているのか、立ち上がる際に神子が体勢を崩した。
「危ない!」
神子の体が地面に打ち付けられる前に、カイルがすぐさまそれを支えた。
突然の出来事に驚くと同時に、カイルに触れられている神子への嫉妬心で頭がいっぱいになる。
当のカイルは目を見開き、まるで一目惚れでもしたかのように顔を見つめ、神子が体勢を立て直した様子を見た後名残惜しげに体を支える手を離した。
苛立ちのあまり自分の手を力いっぱい握りしめ、奥歯を噛み締める。
(…今後カイルに近寄らないよう、神子に念を押す必要があるな…。)
王宮の人間でなければ神子に近づく機会は無いだろうが、騎士に会う為に執拗く通いつめた僕のことだ。城内を彷徨いてても今更何を言われることも無いだろう。上手く隙を見つけ忠告し、身の程を教えてやらねば。
「見つけたぞ神子め!」
呑気に護衛もつけず庭園で花を眺める神子を指差し、そう言い放つ。
神子の力は凄まじく、その可愛らしい顔や優しいと評判の性格もあってか、次々と人々の心を惑わしていった。
しかもカイルは神子専属の護衛になったらしい。
僕が忠告しに来たことがバレたらきっと僕は今以上に嫌われてしまう。
カイルが訓練場にいる時間や取り巻き達がいないタイミングを見計らい、やっとのことで神子に接触することが出来た。
「あ、貴方は、この前の…!」
僕の顔を見た瞬間、神子は驚きつつもパッと表情を嬉しそうに緩める。
その反応は想定外で、強気に出るつもりが調子を狂わされた。
「僕はルミル。ルミル・スカーレット!お前の護衛であるカイルの婚約者だ!」
「……婚約者?」
その言葉を聞いた瞬間、分かりやすく神子の顔が歪む。
先程までにこにこ僕に向けていた笑顔は何処へやら、一瞬にして冷たい表情に変わった。
「な、なんだよ…!お前もカイルが好きなんだな!だけど、そんなお前に忠告してやる。カイルは僕のことが大好きで、お前なんかが入る隙はなぁい!お前に優しいのは仕事上仕方なくだ!」
「……それにしては随分冷たくされてたように見えたけどね」
神子は不機嫌そうな態度でこちらを見上げ、生意気にも言い返してきた。
「そ、それは!…確かに、可愛いって言われたり、好きだって言われたことなんて、今まで一回も……って、違う!とにかくだ、お前に付きっ切りでカイルに会えないんだ!」
「ふーん。…でも、カイルさんがいつも鬱陶しいって話してる人…貴方だったんだ。
これ以上傷つく前に諦めたらどう?カイルさん、僕のこと一生守ってあげるって言ってきたしね」
神子はおかしくて堪らないというような表情で、口を手で抑えながら嘲笑う。
一生守る…?いつも鬱陶しいって…?
違う、違う違う違う…嘘だ、嘘に決まってる。
僕が動揺する姿が可笑しいのか、神子は愉快そうに目を細めた。
「嘘だ、そんなの嘘だ!」
怒りで涙が止まらない。咄嗟に手を振り上げ神子の頬を叩こうとするも、それは何者かに突き飛ばされ未遂に終わる。
訳が分からないまま尻もちをつき顔を上げれば、神子を守るようにして立ち塞がるカイルの姿があった。
頭から血の気が引いていく。カイルは嫌悪を隠すことなく顔に浮かべ、蔑んだようにこちらを見下していた。
「っ、あ……か、カイル……い、いないはずじゃ…」
「…貴方の姿が見えたので。俺の元に向かう以外の用事で貴方がここに来るなんて、有り得ないでしょう。
やはり何か企んでいたようですね」
冷や汗が止まらない。焦りからか、視界がぐらぐら揺れて気分が悪い。
「愚かだとは思っていましたが、まさかここまでとは。
国の救世主である神子様に危害を加えるなど…。未遂だとしても重罪です」
「ち、違う、だって、こいつが嘘ばっかり、…カイル、こいつのこと、守るって嘘だよな…?僕はお前の婚約者だぞ…、守るのは僕のはずだ!」
カイルは呆れたように溜息をつき、未だ立ち上がれない僕の方へと歩み寄ってきた。
「ルミル、俺は守るべき人を見つけたのです。貴方のような人間とは天と地の差もある方だ。俺のことをアクセサリーか何かだとでも思っているような貴方は、守る価値すらない」
「な、んで…違う…あ、あんなに、好きだって、お前のことが好きだって…つたえたぞ…。ほんとうなんだ、すきになってほしくて、いっぱい見た目だって気遣って…!」
「そうやって擦り寄ってきても、しっかり罪を償ってもらいますからね。
…全く、この期に及んで何を馬鹿なことを。
貴方の常套句ですもんね、好きって」
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