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27・開演二十五分前、一絆君の胸の中で

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 あ、っぶなぁ。
 急に抱きついてくるから、思わず顔を一絆君の衣装にくっつけてしまうところだったけど、なんとか回避した。メイクが落ちるし、衣装が汚れてしまうから。
 けれど俺は、一絆君の胸の中に収められてしまった。
 いつものスキンシップ、ではないことくらいは俺にもわかる。だって、体が震えている。
 うーん。そんなに緊張しているのか。どうすっかな……
 そもそも、一絆君に抱き締められているこの現状、俺の心情も爆発限界だ。
 もうなんか、愛おしさが胸いっぱいになっていく。
 いっそ、言ってしまおうか。
 なんて、変なテンションになってしまうけれど、
 いやでも、本番前だしな……
 せめて、一絆君の気持ちを楽にしてあげたい。
 うーん、そうだなぁ。
 じゃあ、ちょっとズルっぽいけれど、とっておきのお願いをしてみようかな。
 そう思って、俺は、抱き締められている最中、スマホに長文を打つと、
 ぱんぱんと、一絆君の背中を叩いて、包容を解除させてから、
 ずい、と、言葉を投げかけた。

(そうだ。俺さ、この公演が大成功したら、一絆君に伝えたいことがあるんだ。この半年間、一絆君と一緒にいて、俺が思ったことを、伝えたいんだ。なんなら、今すぐにでも伝えたい。けれど、やっぱり公演を大成功させてからが一番いいと思うから。一絆君と、一緒に頑張ったあとに伝えたいから。だからさ、こんな俺の為に、力を貸してくれないか? 一緒に、演劇を楽しもうぜ? 大丈夫さ、今日まで沢山練習してきたし、絶対うまくいく。だから一絆君、力を貸してくれ)

 いつだって自分の好き勝手やっている俺の、好き勝手な言葉だった。
 俺の為に力を貸して、なんて、傍若無人なお願いだと思う。
 けれど、一絆君ならきっと、俺に力を貸してくれる。
 これは確信だ。
 そのあとのことは、今は一旦置いておいて。
 とにかく、成功させたい。
 な、だからさ。

「一絆君」
「う、が、あ」

 彼は、音を漏らすと、拙い手つきで、スマホを操作して、言葉を返してくれた。

(うん。わかった。僕、裕喜君の力になるよ。裕喜君の力になりたい。僕の大好きな、君の力になりたい。精一杯頑張るから、絶対に成功させてみせるから!)

 うん。言い笑顔だ。それに、一絆君の言葉には音にはできないけれど俺にはわかる力強さがあって……
 え、
 あ!
 だ、大好きって言った!?

(よーし! じゃあ、行こうよ、裕喜君)
(え、ちょっとまってまって、今の、ねえ)
「がうぅ! あおぉん!」
「あ、ちょっ、一絆君!?」
 
 おいおいおい。
 俺の言葉を遮りやがった。
 これ、もしかしてもしかすると、
 も、もしかするのか?
 ……
 だとしたら、こんなところでマゴマゴしている暇はない。
 絶対に大成功させて、一絆君に伝えなければ。
 さあ、本番までもうすぐだ!
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