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26・開演三十分前、武道場すぐ外の人気がないところにて

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 ど、どうしよう。
 頭が真っ白だ。
 わかってしまった。
 知ってしまった。
 でも、信じられない。
 だってほら、特定の誰かと仲良くなったのなんて初めてだったから、
 なにか、勘違いをしているだけかもしれない。
 しれない、のだけれど、
 でも、やっぱり、
 そうとしか思えない。
 そう思ってしまえば、彼と初めて話したあの日から、
 僕はもう、そうだったのかもしれない。
 そうだ、そうだよ。
 僕は、初めから、
 そして、その日からどんどん、どんどんと加速度的に、
 裕喜君のこと、を、

「っーきっん!」
「ぐあっ!?」

 わひゃっ!?
 あ、あ、裕喜君、だ。
 音で、わかってしまう。
 その音が、僕を呼んでいると、わかってしまう。
 わかって、でも、振り向けない。
 あ、ああ、ど、どうしよう。
 でも、でももうすぐ本番なんだから、
 ふ、普通に。普通にしなきゃ。
 よ、よし、振り向くぞ。落ち着け。落ち着けっ。

「いっき、ん?」
「わっ!?」

 お、わ、わ。
 裕喜君が、項垂れる僕の顔を覗き込むように、しゃがみ込んでいた。
 また、音が漏れちゃった。
 ど、どうしよう、どうしようっ。
 あ、あ、スマホ。な、なにか話さないとっ!
 ほら、裕喜君も話し始めたし。

(一絆君大丈夫? 具合悪いとかはない?)
(うん大丈夫。具合はいいよ。ちょっと、緊張かな、しちゃって)
(だよなぁ。流石に初めての舞台だと緊張しちゃうよな。俺も、去年はガチガチだったもん。一年目も、役者だったからさ)
(そうなんだ。でも、今はあんまり緊張していない風に見えるよ)
(ああ、まあ、今は楽しみって感情が強くてさ。だって、やっと一絆君の演技を見せる場が整ったんだ。俺も、全力で頑張りたいし、全身全霊で楽しみたい)
(もう。裕喜君は本当に)

 と、言葉を打つ手が止まってしまう。
 裕喜君の優しさが嬉しい。嬉しくて堪らない。
 けれど、けれども、
 今の僕は、それを素直に受け止められない。
 ああ、もう、
 言葉にできない感情だ。
 まただ!
 僕のしているものじゃあ、表現できない感情。
 そんなの、言葉にできるわけがない。
 文字じゃあ、伝えられない。
 言う、勇気も、ない。

(一絆君?)
「う、ぐあぁ……」
「っ!」

 抱きついた。だから、抱き締めた。
 いつもと違う、狩人の衣装を身にまとい、肌を褐色に塗った裕喜君を、抱き締めてしまった。
 やだ。
 やだよ!
 裕喜君が、誰を好きなのかわからないから。
 僕は、どうしたらいいかわからない。
 わからない!
 裕喜君が、好きなんだって気付いてしまった僕は、
 この感情を、言葉にできなかった。
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