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25・開演四十分前、武道場にて

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「あ、加茂ちゃん」
「おっと、本間君。メイクバッチリだね、似合ってるよ」
「えー、あんま嬉しくないなぁ、それ。っと、一絆君と話してた?」
「うん。ちょっと、恋バナ」
「恋バナ!?」
「私のね」
「へぇ、加茂ちゃんも恋するんだな」
「失敬な」
「っとと、ちょっと待ってね」
(一絆君、次メイクだぜ。あっちの棚さんとこいっといで)
「っ。あ。うあ」
「ん?」

 メイクが終わって、衣装を身に着けたまま、俺は次の順番である一絆君を呼びに来た。どうやら、加茂ちゃんと恋バナをしていたらしい。
 のだが、
 一絆君は俺の言葉に、声で返すと、そそくさと棚さんとこに行ってしまった。
 なんか、珍しいリアクションだった。

「えっと……一絆君、緊張してんのかな?」
「……失敗しちゃったかも」
「失敗?」
「紲君の緊張を解そうとして、私の恋バナをしたんだけど、もう少し自覚しているものだと思っていたから……やぶ蛇だったかも」
「やぶ蛇?」
「ええと、ごめん本間君。本番前に、少しだけ紲君とお話ししてあげてくれる?」
「それは、いいけど。でも、指示飛ばさなきゃだから、あんまり時間ないかも」
「私が指示する。もしかしたら、紲君にとっての一大事だから」
「え、え、そんな緊張してんの?」
「いいから! いや、私のせいかもだけど……とにかく、お願いね。あ、リハと大きく変わったところはないよね? バミテしてあるまんまで大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫。照明の運び込みも手順通りで。大道具は、元部長も手伝ってくれるっていうから、多分余裕ある。だから、皆には最後の確認に注力するように言っておいてくれれば」
「うん、わかった」

 そういって、加茂ちゃんは小走りで体育館へ向かっていった。さっき、大きな歓声と共に、軽音楽部の演奏会が終わったのを確認している。
 役者の獣人組へのメイクは比較的すぐ終わるし、もうあと数分で、皆体育館へと移動する。舞台の設置、最終確認を済ませるために。
 けれど、どうやら俺には他にやらなきゃいけないことがあるらしい。
 一体、なにがあったんだろ?

「本間くーん、皆メイク終わったよ。私はこのまま、照明の確認に行くね。本間君は?」
「あ、うん。えっと、少しだけ一絆君と話しをしなきゃいけないことがあるみたいで……それが終わったら、すぐ行くから。加茂ちゃんが、指示飛ばしてる」
「あー、それがいいかも。紲君なんだか、いつもと雰囲気ちがったから……武道場の外に出たとこすぐにいると思うよー」
「わかった、棚さんありがと
「ぜんぜーん。本番頑張ろーねー」

 むぅ、これは心配だ。
 本番前だもんな。しかも、一絆君にとっては初めての本番だ。
 ここは、演劇の先輩として、話しをしなきゃだな!
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