18 / 32
17・Xデーは文化祭!
しおりを挟む
裕喜君を置いて、先に部活をしに来たのはいいものの。
昨日のお休みを皆も気にしていて、僕にも色々と聞いてきて。
実際、僕の顔にはまだ傷を隠すガーゼがあったし。それを見たら、心配するよね。
ええと、確か裕喜君が転んじゃって、僕がそれを庇って一緒に転がったことになっているはずだから、と、
そんな感じで皆の質問をのらりくらりしてみたはいいものの、
僕は僕で裕喜君のことが心配でしょうがない理由があったから、
結局、基礎練どころじゃなくって、
皆で裕喜君が来るのを待つことになってしまった。
(ごめん、心配させちまったね。皆も怪我の心配してくれていたし、嘘ついたのが申し訳ないなぁ)
裕喜君は、部活が始まって二十分ほど過ぎたところでひょっこり現れた。
皆が彼を取り囲んで、色々と言葉を投げかけていたけれど、裕喜君は腰を低くしながら応対していた。
で、
一旦落ち着いたところで、僕の手を取って部室に向かったんだ。
あ、もちろん皆に指示を出してからね。さっすが部長さん。
(僕も、心配だったよ?)
(ああ、うん、ごめんな。でも、昨日のことは俺が悪かったから、ちゃんと俺の口で謝りたかったんだ)
昨日、僕の部屋で話し合ったのだけれども、
僕が、今日まで周りの獣人と関わりを持とうとしてこなかったことは確かで、
それを、急に関わろうとして行動を起こせば、うまくいかないことなんて流石の僕からしても明白で、
だったら、いっそ大きな舞台で、皆に見せるのがいいんじゃないか、と、
裕喜君は、僕の舞台姿を皆に見てもらうっていう作戦を立ててくれた。
普通の人みたいに、舞台の上で演技をするところを見てもらって、
せめて、皆と変わらない普通の獣人であることを少しでもわかってもらうために。
あわよくば、僕に関心を持ってもらうために。
と。
だから、僕のXデーは文化祭の日に決まっていたのだけれども、
どうやら裕喜君には裕喜君のXデーがあったらしくって、
それが今日。あの、昨日僕を取り囲んでいた獣人の人達との話し合い。
言葉を理解できない僕なので、よくわかっていなかったのだが……なんでも、ずいぶんと酷いことを、裕喜君は言ってしまったらしく、
それを、謝りたかったんだって。
(うまくいった、みたいだね?)
(ああ。皆、話しを聞いてくれたよ。どうやら先回りして、虎先が一枚噛んでくれていたみたいだ。皆、一絆君の演劇を見に来てくれるってさ)
う、うぅん。
僕が心配していたのは、皆が僕に対してどう思っているのかじゃなくて、
裕喜君をどう思ったのか、とか、ちゃんと許して貰えたのか、とかなんだけれどなぁ。
(それは嬉しいな。けれどそうじゃなくて、一絆君がうまくいったかどうかを心配してたんだけれど?)
(え? ああうん、皆別に怒ってなかった。ちょっと、テストでフラストレーションが溜ってたんだ。話してみれば、皆いい奴っぽかったぜ)
(フラストレーション?)
テストで、フラストレーション?
うぅん、いまいち僕にはわからない感情だ。
勉強は、見たらわかるし、教えて貰えれば理解できる。テストは、その復習みたいなものでしょ?
って、あ、
そっか、そういえば、
この考え方も、今まで皆と関わってこなかった、僕だけの考え方なのか。
そうだよ。裕喜君はテストに向けて随分苦労していたじゃないか。
僕はそれを、彼が演劇部部長として他にも考えることがあって、勉強も手がつかない状態だったんだな、って考えていたんだけれど、
もしかして、違うのかな?
(ええと、ちょっと質問いいかな?)
(うん、いいよ)
(もしかして、皆……普通の高校生ってくくりなんだけれど……皆って、テストというものが嫌い?)
あ。
裕喜君の表情が筆舌に尽くしがたい苦悶のそれになっている……そんな顔見たことないよぉ。
どんな言葉よりも雄弁なその表情に、僕は少しだけ息を漏らしてしまう。
で、なにか言葉を打とうとする裕喜君の手を制して、僕はスマホの画面を見せる。
(うん、よくわかったよ。成る程、僕は言葉を口にできないっていうだけじゃなくて、普通の高校生としてズレているところが他にもあるみたいだね)
(んー、そうかもしんないな。でも、それはしかたないよ。だってほら、一絆君は今まで普通学校で過ごしたことがなかったんだろ?)
(そうだけど。でも、その『しかたがない』ことを認めて、周りにどういう影響を与えるかを理解していくことが大事、なんだと思う)
虎柄先生が昨日言っていたのは、こういうことなんだと思う。
言葉を使えないから、周りから異物のように扱われる。それに慣れていたから、周りを無視してただ過ごしていたけれど、
いや、もちろんそれでもいいんだろう。そういう生き方をしてもいいんだろうけれど、
僕自身が、その生き方を望まない。だって、転校初日に言ったじゃないか。
僕は、普通の獣人としてこの学校で生きていきたい。
それを虎柄先生は覚えていてくれたからこそ、僕の今までの過ごし方が、禍根を残してしまったことを教えてくれたんだ。
だから僕は、今まで諦めていた『しかたがない』ことを、今一度認め、理解し、これからどうするべきなのかを決めなければいけない。
僕が、普通の獣人として生きていきたいのなら。
それを望むのなら。
(けれどさ、それは一絆君に非がある行動ってわけじゃないじゃん。見た奴が勝手に憤ったってだけで。なんか、ムカつく)
……っふふ、
あはは!
もう、もうっ!
裕喜君はさ、ほんっとうに僕に優しい。
僕が、前に進みたいから、普通の獣人として生きていきたいからと、自分で認めて切り捨てた、少しだけの不平不満をさ、
こうやって拾ってくれて、その気持ちを大事にしようとしてくれる。
出会った最初の頃からずっと、君は僕の味方をしてくれる。いつだって、全力で。
ああ、もう、
この気持ちを言葉にするのは、僕でも難しい。
どういう言葉を文字にすればいいかなんて頭は教えてくれない。
その代わり、というにはあんまりにも衝動的なことなんだけれど、
僕の体は、裕喜君を抱き締めていた。
昨日のお休みを皆も気にしていて、僕にも色々と聞いてきて。
実際、僕の顔にはまだ傷を隠すガーゼがあったし。それを見たら、心配するよね。
ええと、確か裕喜君が転んじゃって、僕がそれを庇って一緒に転がったことになっているはずだから、と、
そんな感じで皆の質問をのらりくらりしてみたはいいものの、
僕は僕で裕喜君のことが心配でしょうがない理由があったから、
結局、基礎練どころじゃなくって、
皆で裕喜君が来るのを待つことになってしまった。
(ごめん、心配させちまったね。皆も怪我の心配してくれていたし、嘘ついたのが申し訳ないなぁ)
裕喜君は、部活が始まって二十分ほど過ぎたところでひょっこり現れた。
皆が彼を取り囲んで、色々と言葉を投げかけていたけれど、裕喜君は腰を低くしながら応対していた。
で、
一旦落ち着いたところで、僕の手を取って部室に向かったんだ。
あ、もちろん皆に指示を出してからね。さっすが部長さん。
(僕も、心配だったよ?)
(ああ、うん、ごめんな。でも、昨日のことは俺が悪かったから、ちゃんと俺の口で謝りたかったんだ)
昨日、僕の部屋で話し合ったのだけれども、
僕が、今日まで周りの獣人と関わりを持とうとしてこなかったことは確かで、
それを、急に関わろうとして行動を起こせば、うまくいかないことなんて流石の僕からしても明白で、
だったら、いっそ大きな舞台で、皆に見せるのがいいんじゃないか、と、
裕喜君は、僕の舞台姿を皆に見てもらうっていう作戦を立ててくれた。
普通の人みたいに、舞台の上で演技をするところを見てもらって、
せめて、皆と変わらない普通の獣人であることを少しでもわかってもらうために。
あわよくば、僕に関心を持ってもらうために。
と。
だから、僕のXデーは文化祭の日に決まっていたのだけれども、
どうやら裕喜君には裕喜君のXデーがあったらしくって、
それが今日。あの、昨日僕を取り囲んでいた獣人の人達との話し合い。
言葉を理解できない僕なので、よくわかっていなかったのだが……なんでも、ずいぶんと酷いことを、裕喜君は言ってしまったらしく、
それを、謝りたかったんだって。
(うまくいった、みたいだね?)
(ああ。皆、話しを聞いてくれたよ。どうやら先回りして、虎先が一枚噛んでくれていたみたいだ。皆、一絆君の演劇を見に来てくれるってさ)
う、うぅん。
僕が心配していたのは、皆が僕に対してどう思っているのかじゃなくて、
裕喜君をどう思ったのか、とか、ちゃんと許して貰えたのか、とかなんだけれどなぁ。
(それは嬉しいな。けれどそうじゃなくて、一絆君がうまくいったかどうかを心配してたんだけれど?)
(え? ああうん、皆別に怒ってなかった。ちょっと、テストでフラストレーションが溜ってたんだ。話してみれば、皆いい奴っぽかったぜ)
(フラストレーション?)
テストで、フラストレーション?
うぅん、いまいち僕にはわからない感情だ。
勉強は、見たらわかるし、教えて貰えれば理解できる。テストは、その復習みたいなものでしょ?
って、あ、
そっか、そういえば、
この考え方も、今まで皆と関わってこなかった、僕だけの考え方なのか。
そうだよ。裕喜君はテストに向けて随分苦労していたじゃないか。
僕はそれを、彼が演劇部部長として他にも考えることがあって、勉強も手がつかない状態だったんだな、って考えていたんだけれど、
もしかして、違うのかな?
(ええと、ちょっと質問いいかな?)
(うん、いいよ)
(もしかして、皆……普通の高校生ってくくりなんだけれど……皆って、テストというものが嫌い?)
あ。
裕喜君の表情が筆舌に尽くしがたい苦悶のそれになっている……そんな顔見たことないよぉ。
どんな言葉よりも雄弁なその表情に、僕は少しだけ息を漏らしてしまう。
で、なにか言葉を打とうとする裕喜君の手を制して、僕はスマホの画面を見せる。
(うん、よくわかったよ。成る程、僕は言葉を口にできないっていうだけじゃなくて、普通の高校生としてズレているところが他にもあるみたいだね)
(んー、そうかもしんないな。でも、それはしかたないよ。だってほら、一絆君は今まで普通学校で過ごしたことがなかったんだろ?)
(そうだけど。でも、その『しかたがない』ことを認めて、周りにどういう影響を与えるかを理解していくことが大事、なんだと思う)
虎柄先生が昨日言っていたのは、こういうことなんだと思う。
言葉を使えないから、周りから異物のように扱われる。それに慣れていたから、周りを無視してただ過ごしていたけれど、
いや、もちろんそれでもいいんだろう。そういう生き方をしてもいいんだろうけれど、
僕自身が、その生き方を望まない。だって、転校初日に言ったじゃないか。
僕は、普通の獣人としてこの学校で生きていきたい。
それを虎柄先生は覚えていてくれたからこそ、僕の今までの過ごし方が、禍根を残してしまったことを教えてくれたんだ。
だから僕は、今まで諦めていた『しかたがない』ことを、今一度認め、理解し、これからどうするべきなのかを決めなければいけない。
僕が、普通の獣人として生きていきたいのなら。
それを望むのなら。
(けれどさ、それは一絆君に非がある行動ってわけじゃないじゃん。見た奴が勝手に憤ったってだけで。なんか、ムカつく)
……っふふ、
あはは!
もう、もうっ!
裕喜君はさ、ほんっとうに僕に優しい。
僕が、前に進みたいから、普通の獣人として生きていきたいからと、自分で認めて切り捨てた、少しだけの不平不満をさ、
こうやって拾ってくれて、その気持ちを大事にしようとしてくれる。
出会った最初の頃からずっと、君は僕の味方をしてくれる。いつだって、全力で。
ああ、もう、
この気持ちを言葉にするのは、僕でも難しい。
どういう言葉を文字にすればいいかなんて頭は教えてくれない。
その代わり、というにはあんまりにも衝動的なことなんだけれど、
僕の体は、裕喜君を抱き締めていた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
クリームオンザミソスープ
片里 狛
BL
社畜気味のAV制作メーカー『アッパーズキャスト』のAD青年・環柊也はある日、自宅のアパートの階数を間違えたことにより、一階下の部屋の住人・辻丸伊都と出会う。赤髪おかっぱ関西弁の不思議な男は、料理上手で優しい、環にとって沼のような男だった。
だらっとしたテンションの料理系ユーチューバー×社畜男前年下青年。

けものとこいにおちまして
ゆきたな
BL
医者の父と大学教授の母と言うエリートの家に生まれつつも親の期待に応えられず、彼女にまでふられたカナタは目を覚ましたら洞窟の中で二匹の狼に挟まれていた。状況が全然わからないカナタに狼がただの狼ではなく人狼であると明かす。異世界で出会った人狼の兄弟。兄のガルフはカナタを自分のものにしたいと行動に出るが、カナタは近付くことに戸惑い…。ガルフと弟のルウと一緒にいたいと奔走する異種族ファミリー系BLストーリー。
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる