【獣人×人間BL】いつか君の名前を呼ぶ獣声

紺色 紺ノ輔

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16・俺の軌跡は奇跡でもなんでもない

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 テスト明けの翌日。普通に平日で、普通に授業のある日で、俺と一絆君は普通に登校して、

「あ、いた。ね、君」
「あん? っ、てお前、は」
「ええと、昨日は本当にごめんなさい。その、少し話したいことがあって……これから、昨日の皆を呼んでくれたり、しねぇかな?」
「……なに企んでやがる?」
「いや、そういうんじゃなくて……昨日のは、俺も悪かったなって思うからさ。酷いこと、言っちゃったし」
「……」
「一絆君の態度にも、思えば正当化できない違和感があったのは確かで……だから、うん、話しがしたいんだ、けど」
「……放課後」
「へ?」
「俺たち昼休みは用事あっから。放課後すぐなら、いい。あんま周りに聞かれてぇもんでもねぇし、昨日のとこで」
「あ、ああ。ありがとう」

 昼休みに俺は、昨日一絆君を呼び出していた集団の一人、虎獣人の子に話しかけて、そう約束を取り付けた。
 そんな様子を、遠目で心配そうに一絆君は見ていたけれど……まあ、説明済みなので、そこまで心配することはないんだけどさ。
 と、いうわけで、
 俺は放課後、一絆君には部員の皆に少し遅れることを知らせて欲しいと、先に行かせてから、
 件の踊り場へやって来た。
 そこには約束通り、昨日の六名が揃っていた。
 まさか、約束通りに皆揃っているとは、少し予想外だった。

「昨日は、ごめんなさい!!」

 けれど好都合だ。俺は何を言うよりも最優先で、頭を深々と下げて、謝罪を叫んだ。
 まずはなにより、昨日の俺の態度について謝罪する。
 冷静でなかったとは言え、昨日の暴言はいきすぎていた。わかっている。
 もしこうして謝罪をしても、もしかしたら殴られたりするかもしれない。
 けれど、そうされてもしかたがない行いだったと思っているから、甘んじて受け入れようとも考えていた。
 の、だが。

「あー……いや、昨日のは」
「うん。俺たちも悪かったよ」
「つぅか、まあ、だっせぇことしてたのは確かだし」
「な。テストでイライラしてたっつぅか」
「腹いせだったのも、あるし」
「それにお前、あの本間裕喜なんだろ?」

 なんか、なんか態度が……柔らかい。
 というか、どうやら昨日の事を反省している様だと、どことなく感じる雰囲気だ。
 いや、それよりも……俺の名前を知っている、し、
 あの、ってなんだ、あの、って。

「え、まあ、名前はあってるけど」
「一年の時、人間のクラスメイトと揉めている獣人のことごとくに助け船を出していたっていう」
「どころか、獣人に当たりの強かった先公をどうにかしたっつうのも」
「あの先公、俺たちが素行不良気味なのをいいことに、滅茶苦茶言ってたし」
「それをどうにかしてくれた人間の生徒がいたって聞いていたけど」
「それがお前、なんだってな」
「昼休みにさ、虎柄先生に呼び出されて、そういう話しを聞いたからよぉ」

 と、
 虎先っ!
 昼休みの用事って、虎先の呼び出しだったのか!
 先手を打ってくれていたのか……
 って、
 いやでも、え、俺そんな感じで噂されてんの!?
 俺、気に食わない獣人差別的な事をする先生生徒に片っ端から突っかかってっただけなんだけど!?
 俺のエゴでやっていたことなんだけど!?

「こ、誇大吹聴だぜ、それ。俺は、その、獣人を差別する奴にムカついただけでさ」
「いや、だからそれ」
「人間なのに、獣人に寄り添う側に自然と立つところ」
「それだけで、十分すぎるほどに十分なんだぜ」

 う。
 似たようなことを、獣人の友人から言われたことがある。
 つうか、
 真司からも言われた、かも。

「しかも、こうやって呼び出して、一番に謝罪をしただろ?」
「そんな奴が、悪意で俺たちをどうこうするとは思えんし」
「それに、あの転校生のことも……」

 お、っと。
 そうだ、これはあくまで本題までの複線で。
 本題はあくまで、一絆君についてだ。

「それ、なんだけれど……ええと、昨日君達に言われてさ、少し考えたんだ。もし、人間が動物みたいにしか話せなくて、そんな人が暮らすに居たらどう思うだろう、って。うん、だから、皆の気持ちを見落としていたことに、それで気付いた」

 俺は、善人でも聖人君子でもない。ただ、人より獣人の事が好きで、獣人が差別されることが許せないだけのエゴイスト。
 だから、見落としていることは沢山あって、
 一絆君の味方でありたいからこそ、周りの人達がどう思っているのかを、見えないまま過ごしていた。

「確かに、気色悪いと思ってしまう、と思うんだ。しかも、その本人がそれをなんとも思わないままで、クラス内で飄々と生活をしていたら、嫌でも意識してしまう。それについては……昨日、一絆君とも話して、彼も反省していた」

 だから、うん。
 改めて、見てしまったから。
 俺は、目の前に居る獣人達のことも、助けたくなってしまうんだ。
 だって、そうだろ?
 気付いてしまったら、見過ごせない。
 彼らの、心への負担を知ってしまったら、
 他人事にはできない。
 一絆君が一番大事だとしても、これだけは。
 否定できない。
 それが、俺だから。

「けれど、その。一絆君は、それでも普通の獣人なんだ。生まれつき、どうしようもない理由でああなってしまっているだけで。関わってみれば、ボディランゲージで感情はわかりやすいし、筆談をすれば結構面白い奴で。だから……って、急に仲良くして、とは言わない。けれど、彼は普通の獣人なんだって、知っていて欲しい」

 結局、全員を救いたい。そう思ってしまうどうしようもない俺は、その旨も昨日、一絆君に話した。
 そうしたら、彼は笑って、受け入れてくれた。
 そんな一絆君と二人で立てた、とっておきの作戦がある。
 一発逆転。最終兵器な俺たちの切り札。

「それ、で。文化祭でさ、体育館で演劇部の公演があるんだけどさ。一絆君はそこで、役者をするんだ。言葉を話せない彼だけれど、そんなことどうでも良くなるくらい、最高の演技をする。だから、それを見てやって欲しい。彼が、言葉を使えないだけで、実は凄い奴なんだって、きっと伝わると思う。だから、文化祭の日に、見に来て欲しいんだ」

 伝えるなら、演劇で。
 言葉よりも雄弁な、演技で。
 普通の獣人であることを、
 努力して、考えて、行動して、
 自分を表現できる、何の変哲もない獣人なんだって、
 きっと、わかってもらえると、確信しているから。

「そこまでいわれちゃあ、な」
「なあ。ま、見に行ってやるよ」
「劇見んのは楽しそうだしな」
「まあ、それに、頑張ってるあいつのことも、応援しとく」
「急には無理だが……少しずつなら」
「だからまあ、文化祭を楽しみにしてるぜ」

 そういって、六人が六人、それぞれバラバラの大きさ、毛並み、質感の拳を前に突き出す。
 俺は、その全部に軽く拳をぶつけ合って、
 奇跡でもなんでもない、この出来事にただ、笑い合った。
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