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8・一ヶ月で俺が思ったこと

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 一ヶ月一絆君と一緒に過ごして、俺が思ったこと。
 どうやら、俺が人間である以上、獣人が一絆君に対して感じる気味の悪さを理解することはできないし、解決することはできないようだってこと。
 その扱いに、一絆君は慣れきっていること。
 俺が、その問題に足を踏み入れることは、多分無理であろうこと。
 はあ。
 難しい。とても難しい。
 苦手教科の古典よりも難しい。
 一絆君のクラスメイトで、俺の顔見知りに話しを聞いてみても、獣人は総じて彼に関わりたくないらしいし、彼自身もそれを甘んじてしまっている、らしい。
 そこなんだよなぁ……本人が全く気にしていないんだから、俺が介入する道理がない。
 だからせめて、俺がいつでも一緒にいてあげられないか、と考えて、
 最近はずっと、一絆君と昼飯を食べている。あんまり人が来ないような場所で。
 ただあそこ、窓が開かないからなぁ……夏暑くなってきたらどうすっかなぁ……

(一絆君は暑がり?)
(実は、暑いの結構得意だよ!)
(え、意外。獣人って暑がりな人が多いイメージあるよ?)
(ね。僕もよくわかんないんだけど、暑いの大丈夫で、寒いのダメ)

 ふぅむ。なら困るのは冬の方かな……
 なんて。
 なんか、ずいぶんと先のことを考えている俺がいる。
 それよりも、今は今だ。今現在のことを考えなくちゃいけない。
 まず、昼休みのとりとめのないやり取りでわかった一絆君のこと。
 好き嫌いがないのが自慢だとか、
 実は凄く頭がいいとか、
 手話での会話もできるのだけれど、使える人が少ないからあまり真剣には覚えていないんだとか、
 裕喜君の友達の獣人は僕のことを気味悪がらなくて嬉しいとか、
 裕喜君の人柄がいいからかな? って恥ずかしげもなく伝えてきたりとか……
 お、っと。
 つい、言われて嬉しかったことを思い出してしまうなぁ。
 そう。
 これが多分、部長の言っていたことなんだろうなぁ。人柄だの、性格だのっていう。
 まあ俺は、自分がしたいから獣人と仲良くしているだけだし。人種間のいざこざを減らしたいから、首を突っ込んでいるだけなんだけれども。
 それをためらいなくできること自体が凄いことなんだって、部長が言っていた。
 あ、そうだそうだ、
 元部長、ね。
 演劇部は、大会が秋から冬にかけて行われるから、受験を控えている三年生は基本参加することができない。だから、一年、二年生のときが勝負なのだ。
 だから、部長の交代も他の部よりも少しだけ早い。基本、次の大会用の劇の練習を始める辺りで引き継がれることになっている。

(そういえば、GWも終わって基礎練と簡易劇も大分できてきたし、そろそろ大会用の脚本決めを始めようと思う)
(そうなんだ! 演劇部って基礎練で結構な体力を使うから、一年生も大変そうだったけれど。なんか、やっと本番って感じがするね!)
(演劇部は想像以上に体力勝負だからね。声張るための腹筋と呼吸法。緊張の中体を動かす気合いと体力。人前でどれだけ声を張って自然な演技ができるのか。とにもかくにも、鍛えてなんぼだ)
(僕でも、かな?)

 おっと。
 失言、かな。
 俺でも、たまにこうやって言わない方がいいことを伝えてしまうことだってある。
 声、ね。
 でも、俺は必要だと思うのだけれども。
 だから、これは失言でもなんでもない。

(必要だろ? 次の脚本がどうなるかは未定だけどさ、もしかしたら一絆に台詞があるかもしれねぇぞ?)
(へ? 台詞って……でも、僕は喋れないけど)
(なにも台詞が言葉だけとは限らない。狼男の咆吼とか、番犬の鳴き声とか、あるかもしれないだろ?)
(ある、かなぁ?)
(あるある。役者したいなら、綺麗な声を出せないとな!)

 ……
 まずったか?
 俺はそう思っているけれど、もしかして単に一絆君の気にしているポイントを抉ってしまっただけかもしれない。
 だってほら、スマホを持って固まっちゃって……

「へへ……んう?」
「あ、いや……なんだ」

 なーんだ、笑ってらぁ。
 どうやら、俺の言葉になにか思うところがあったらしい。
 なら良かった、って思うし、
 なんかやっぱり、一絆君とは相性がいいような気がするんだ。
 気があう……というよりも、もっと具体的に、
 考えが似ている、みたいな。
 ああなんだか、次の大会がもう楽しみになっている。
 なにか、いい脚本を見つけたいな。一絆君が活躍できそうな……

(嬉しいな、ありがとう! でも、裕喜君は次のテスト勉強もしっかりしないとね。部活動禁止されてしまうかもよ?)
「うっ!」

 急に現実をぶつけてきた。一絆君、めちゃくちゃ頭いいからなぁ……
 うん、今度教えてもらおう、っと。
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