トラウマ抱えた冴えない男は、異世界で魔王を妻にします

ワスレナ

文字の大きさ
上 下
15 / 76
第一章 クラヴェール王国編

第14話 「後日譚」

しおりを挟む
 公開処刑の日の翌日朝、王族の機関は全国民に対し、国王クラヴェール五世の崩御ほうぎょと、新たな王として第一王子シルベールが、クラヴェール六世として即位する事を正式に発表したのである。

 なお、戴冠式たいかんしきは一週間後に行われる予定となっている。

 今回の騒動を引き起こした私達は、レガリック将軍からの上申のお陰で全て不問に付されたとの事である。今回の陰の主役は本件を一手に引き受けてくれたレガリック将軍で間違いない。彼にはひたすら感謝である。

 将軍のほか、イグノール達とエレノーラ様も国王の参謀役さんぼうやくとして抜擢ばってきされるらしい。国民の最大の関心事、税金問題や物価高騰ぶっかこうとうなど、様々な問題が今後解決されることを陰ながら願うばかりである。

 私とレイアはあの後、レイアの体調が普段と違いかなり消耗していたという事で、
イグノール達と別れ、魔王城に帰還して休養を取った。

 そのお陰で、ふたりとも体調を回復でき、しっかりと夜の営みで愛を確かめ合う事もできた。

 私達は先ほど朝食を済ませ、そのまま食卓でくつろいでいる。何でもレイアから大事な話があるらしい。

「タクト、大事な話の前に、一つ悩みがあるのじゃが、聞いてくれるか?」

「いいよ、何?」

「実はのう、つい二日前くらいからなのじゃが」

「うん」

 レイアは右手を胸に当てて言う。

「この辺りが何かぎゅーっという感覚になるのじゃ」

「はあ?」

「昨日もそういうのと、ズキッという変な感じがあってのう、少し疲れておったのじゃ」

「そうなのか」

「何か変なものでも食したのじゃろうか。昨日なんか、タクトが急にわらわに口づけしおったじゃろ。そのせいかもしれぬ」

「そうなのか!? それは悪かった」

 昨日はそんな話をしてなかったので驚きだ。図々ずうずうしかったかもしれないと思い、謝っておく。

「うーん、どうだろう。でも、私なんか、レイアと出会ってからずっとそんな感じばかりだけどなあ」

「え? そうじゃったのか?」

「ああ。症状としてはちょっと苦しくなるやつだろ?」

「そうじゃ」

「私は毎日いつもだよ」

 私が笑いながら言っているのを、レイアは心配げな表情で見つめる。

「病気ではないのか?」

「まあ、病気みたいなもんだけど、死ぬことは無いとわかってるからな。あ、でも、拒否られたら死ぬほど辛くなるよなあ」

「何?それはまことか!? わらわもそうなってしまうのか……」

 急にレイアの表情が曇る。

「私も一度経験したけど、死ぬほど辛かったもんなあ。立ち直るのにかなり長くかかっちゃったし……」

 私は過去を思い出し、なつかしみながらレイアに伝える。

「何か嫌じゃのう」

「今は薬ももう出てるし、心配ないからな。でもレイアは魔族だからならないって言ってたし、私とは違う原因なのかもな」

「そうなのか。一体何なんじゃろうな」

 私は少し考えこんだ後、すすめてみる事にする。

「それじゃあ、気休めかもしれないけど、ヒールをかけておこうか」

「ああ、助かる。やってくれ」

「わかった」

 私はレイアのそばに立ち、ヒールをかける。

「うむ。温かい感じがする」

「ついでにキュアもかけておくか」

 私は目を閉じ、念を込める。

「キュア」

 ほとんどはヒールで大丈夫だとは思うが、内臓や器官にも効くキュアをほどこした。ん? 魔族の体内にも効くのだろうか?

「色々かたじけない。これで治ってくれればよいのじゃが」

「そうだな。あとは様子を見るしかないかな」

 そう言った後、ある事を思い出し、私はふと無駄な事を試したくなる。

「そうだ、レイア」

「何じゃ?」

「さっき私が話した『薬』の事なんだけど、試してみる? もっとも私では効かないと思うんだけど」

 レイアは目を光らせて私の提案に食いつく。

「おおお! それはぜひ試してみたいぞ! 死ぬほど辛い思いなど、まっぴらごめんじゃからな!」

「そうかそうか。わかった。でも、あんまり期待はしないでくれよ」

「うんうん! それで、何をくれるのじゃ?」

「物じゃなくて、ただのおまじないだよ。もっとも、レイアは聞ききて何とも思わないかもしれないけどな」

 私は少し照れ笑いして言った。

「まあよい。ささ、おまじないとやら、早くやってみよ」

「では、いくよ」

 レイアがワクワクしながら待っている。私はのどととのえ、レイアの瞳を真っ直ぐ見ながら、ゆっくりと、気持ちを込めておまじないを唱える。

「レイア、貴女が大好きです。貴女の事をこれからも大切にし、愛し続けます」

 言い終えて、あきれられると思っていた私だったが、意外にもレイアの表情は紅潮こうちょうし、少しうつむき加減になっている。

「どう? 効かないとは思うけど、少しでも心が軽くなるといいな」

 しばらくレイアは黙ったままうつむいていた。突然、私の顔を直視して言いだす。

「そ、そのようなもの、き、効かぬぞ!! うん。どうやら違う原因のようじゃな!」

 そう言って、後ろを向いてから何かをつぶやく。

「じゃが、タクトの思い、ちびっとだけじゃが、伝わったぞ……」

 レイアが何か小声で言ったようだが、聞き取ることが難しい。でも、効いてないと言うなら、やはり違う原因なんだなと私は思った。


 その後、レイアは私に大事な話をすることになる。それは今後の私の人生を巻き込む事になるが、改めて語る事とする。


 それにしても、これまで魔王城に討伐に行って、レイアと出会い、様々な事がいっぱいあった。

 そして今は、レイアというかけがえのない存在がそばにいてくれるようになり、私は過去には味わえなかった幸せをつかむことができた。

 今後、色々な事があるかもしれないが、私はレイアと共に、乗り越えていこうと思う。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ここまで読んでいただきありがとうございます。

いいね、感想、お気に入り登録して頂けると嬉しいです。

宜しくお願いいたします。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...