上 下
10 / 33
第一章 クラヴェール王国編

第9話 「魔王の愛」

しおりを挟む
「ときにタクト」

「何?」

「昨夜の事、感謝している。突然の事で驚いただろう」

 レイアはうつむき加減でほおを赤らめる。

「すごく驚いたよ。あまりに急だったから。だけど、私ではレイアを満足させてあげられなかった。ごめん」

「何を言っておる! タクトはわらわを満足させてくれたぞ。その、今までずっと一人じゃったからつい、その、はしゃぎすぎてしまったと反省しておる」

 レイアの言い分はもっともだと思う。魔王としてこれまでやってきたのだから、ずっと孤独だったのだろう。

「でも、レイアの事をますます好きになれたと思う」

「そうなのか?」

「私は激しすぎてついていけなかったけれど、レイアの愛がすごく伝わってきて嬉しかった。私も、レイアの愛に応えられる男になりたい」

「愛だと?」

「ああ。とても感じることができた。私もレイアをもっと愛したい」

「それは違うぞ、タクト」

「え?」

「わらわはただ、タクトと共に快楽にふけり、楽しみたかっただけじゃ」

「え?そうなのか!?」

「ああ。そうじゃ。そもそも魔族に恋だの愛だのいった感情は無いのだ。それを持ち合わせているのは、人間やほかの種族なのだ」

 今しれっと衝撃しょうげきの真実を聞いた気がする!! まあでも、確かに魔族に愛が無いと言われたところで、に落ちるところもあるが。

「でもレイアは私の求婚を受け入れてくれた。ではそれは一体どうしてなんだ?」

 私は素直に疑問に思ったことをレイアにたずねる。

「ああ、その事か。ではタクト、そなたから告白され、わらわが何と返したか覚えておるか?」

「ああ、覚えているよ。確か……」

 私は少し思い出しながら答える。

「面白い。愉快ゆかいじゃ、気に入った。それがおぬしの望みというなら、わらわは結婚を受け入れようぞ、だった」

「うむ。あってるな」

レイアはうなずきながら答える。

「わらわがタクトを受け入れたのは、まさにその言葉通りなのじゃ」

「ん? どういう事??」

 私の頭には‘?‘マークが付きまくる。

「つまりだな、わらわはタクトの事を『面白き存在』と認識したから、結婚したのじゃ。そなたを好きだから、愛するから受け入れたわけではないのだ。わかるか」

 レイアにここまで言われて初めて、ほんの少しだけ頭の中に理解が生まれる。

「先にも言ったが、我々魔族には愛という感情がそもそも無い。それに信用しておらぬ。確かに、人間達にそのような感情があるのはわらわ達も知っておる。じゃが、魔族からすれば愛など人間を誘惑したり、利用する程度の価値にしか思っておらぬのだ」

「そうなのか?」

「今頃気づきおったか。まあよい。我々魔族は、虚無と退屈の中で生きておるが、とても嫌いなものなのだ。そういったものから逃れる事こそ、魔族の生きる原動力となっておるのじゃ」

 すごく意外な事を言っている。それこそ魔族の栄養源ではなかったのか?

「虚無や退屈の対極が、『面白い』という感情なのだ。魔族は皆、その感情を求め、動いておるのじゃ。幻惑や殺りくなど、そなた達人間が魔族を恐れている行為は、そのための手段でしかないのだ」

「それはものすごい事を聞いてしまったな」

「魔族にとって『面白い』という感情は、極上であり、最上位のものなのじゃ。それに比べれば、ほかの事など取るに足らぬ」

「ということは、私はそれを持っていたから、レイアに認めてもらえた、という事なのか」

「そうじゃ。恋や愛などより、合理的で確実性があろう?」

「けど、私はそんなに面白い存在なのだろうか?」

 レイアはため息をつき、あきれ顔で答える。

「面白いに決まってるだろう! どこの世界に、魔王であるわらわに求婚してくる奴がおるのじゃ? 恐怖の象徴であるわらわに対して、好きだの愛してるだの、恥もなく叫ぶ人間がどこにおるというのじゃ? これが面白いと言わず、何を面白いと言うのだ?」

「レイア…」

 私は目からうろこが落ちる感覚におそわれてしまう。そんな見方もあったのか……

「タクト。わらわはそなたを絶対に離さぬ。わらわの事が好きなら好きと言うがいい。愛してると言ってくれてもいい。たとえそなたがそう言わなくなってしまう時が来たとしても、わらわはそなたを離さず、ずっととなりにおるからの」

「レイア!!」

 私は彼女を抱きしめずにはいられなくなった。レイアの身体を抱きしめ、私は口走る。

「愛している!! 私もレイアを離さない!! どんな事があっても、一生をかけてお前だけをずっと愛する!!」

「ああ。だが、わらわだけというのはダメだな。タクトには、もっと多くの女を幸せにする力がある。だが、わらわの事を愛してくれるのは、それでいい」

 今、訳の分からない事を言った気がするが、私の心には届かない。今はただ、レイアを大切にすること以外は、大した問題ではない。

 私の目からは涙がこぼれ落ち、それを見てレイアが私の頭をなでている。私はしばらくの間、レイアを抱きしめ続けたのである。

「レイア、一度だけお願いしていい?」

レイアはほおを赤らめたまま返す。

「朝じゃぞタクト。何を考えておる!」

「どうしても伝えたいんだ」

 私はレイアの瞳を見つめて言った後、口づけする。レイアは突然のことに驚くが、目を閉じる。

 唇を離し、再び瞳を見つめると、観念したのか、

「わかった。そこまで言うなら、タクトに任せよう」

「ありがとう」

 私はそう言うと、レイアの手を取り、ゆっくりと寝室まで歩いた。今度は自分のペースで、レイアとつながりたいと、直感的に思っただけである。


◆◆◆◆


 私とレイアは服を着て、食卓に戻り、紅茶を飲んでいる。あれだけ見つめあっていたのに、満たされたレイアの瞳を見つめずにはいられない。

「タクト」

「何?」

「そなたの気持ち、伝わったぞ。たのしい時間じゃった」

「それはよかった。私もレイアにきちんと伝えることができて、嬉しい」

「鼻血もほとんど出なかったな」

「心の準備ができていたからな」

「優しいのに、力強かった。あんなやり方もあるのだな」

「私も初めてだったから、うまくできるか不安だった。でも、昨日とは違う形にしたかったんだ」

「なるほどな。人間が恋だの愛だの言う理由を、ほんの少し垣間かいま見た気がした」

「それが伝わったなら、すごく嬉しいね」

 レイアが紅茶をすすってから、私にたずねる。

「タクトは、わらわとの子供が欲しいのか?」

 唐突な質問に少し固まるが、答えは出ている。

「んー、どちらでもいいかな。今は、どうしても欲しいというわけではない」

 レイアは驚いている。

「なぜじゃ? 人間は好きな女の子供を欲しがるのではないのか?」

「だって、子供が生まれたらレイアを独占できなくなるだろ?」

「えっ?」

「だからすぐに欲しいって気持ちにはならないんだよ」

「そうなのか」

「ああ。まあ、生まれたとしても、一人でいいかなって思ってる」

「ずいぶん謙虚けんきょなんだな」

「一人にいっぱい愛情を注ぎたいからな」

「何かよくわからんが、面白いのう」

 レイアの表情が明るくなる。

「そう言うレイアは、子供がたくさん欲しいの?」

「わらわも特にこだわりはないが、タクトとの子供は欲しいぞ。いくらでも生んでやるぞ」

 レイアは笑って答えてくれる。笑顔がまぶしい!

「何か、好きな人とこんな話ができること自体、今までの私では全く考えられなかったから、すごく幸せな気分だ」

「それはよかったのう」

「全部レイアのおかげだ。ありがとう」

「全然よいぞ。わらわも愉快ゆかいだしな」

 ふたりで笑いあう。魔王と人間でも、こんなに幸せな時間を過ごせるなんて、奇跡って本当にあるんだなって。今まで辛くても我慢して、頑張って生きてきて、本当に良かったと思う。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでも面白いと感じましたら、ぜひお気に入りをお願いいたします!

また、いいねを押して頂ければ励みになります。

よろしくお願いいたします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...