上 下
6 / 23
第一章 クラヴェール王国編

第5話 「親友」

しおりを挟む
 私は冒険者ギルドの前にテレポートする。
凱旋がいせんした時に出会った親友に会うためである。

 ギルドの扉を開けると、冒険者達がクエストを求めて多数集まっている。
魔王が倒されたとはいえ、ダンジョンの依頼はまだまだたくさんあるようだ。

 私が辺りを見渡すと、何人かのパーティーが楽しげに談笑している姿を見つける。
その中にひときわせわしなく話している男がいる。
私はその者のもとへ歩みを進める。

 男は話に夢中だったが、私に気づいたのか、
話を止めてこちらを見て笑いかけてくる。

「おお!タクトじゃないか。よく来たな」

「やはりここにいたんだな。グレッグ」

 彼が私の親友、グレッグ=ランデールである。

「王様にはもう会ったのか?」

「ああ。グレッグと話がしたくて来たよ」

「そうか。ここでは何だから、いつものところに行くか」

「そうしてもらえると助かるよ」

「じゃあ、行くか」

 グレッグはそう言うと、先ほど話していた人達に別れの挨拶あいさつをし、
私と行動を共にする。

 私達はギルドを出て、行きつけの酒場へと向かう。
五分ほど歩くと、少し古びた建物が見えた。私達はその中へ足を運ぶ。

 イグノール達と行動を共にしてからは来ていなかったが、
いつものなじみある雰囲気ふんいきはそのままである。
私達はカウンターではなく、小さなテーブル席を選んで座る。

「お前は何にする?」

「そうだな。じゃあホットミルクで」

「相変わらずだな。よし、注文しよう」

 グレッグは手際よく店員を呼び、注文をはじめる。

 少しして、店員がホットミルクとビールを持ってきて、
丁寧ていねいにテーブルに置いてくれる。

 私が話を切り出そうとした時、グレッグが右手を前に突き出して制止する。

「タクト、まあ聞いてくれや」

 グレッグが左手にジョッキを持ち、一口飲み干す。
ジョッキをテーブルに置き、話し始める。

「実はな、俺、カーラを彼女にしたんだ」

 グレッグががらにもなく顔を赤らめる。

「おお、それはめでたい。おめでとう!」

 カーラとは私が冒険者ギルドでグレッグのパーティーにいた頃のメンバーで、
シーフ兼魔導士の人間の女性だ。

「もう嬉しくってよぉ、どうしてもお前に報告したかったんだ」

「それにしてもよくオーケーしてくれたな、カーラさんも」

「だろ?十三回目だぜ。ようやく認めてくれたんだ」

「お前、十二回もフラれたのか!?」

 何なんだこの精神力は?この男にそれほどまでの根性があったとは。
フラれたら次、と効率重視の男だと思っていたのだが、意外だ。

「誰かれ構わず声をかけまくるチャラいお前からは想像もつかなかいな」

「そうだよなぁ。俺もまさかこんなに引きずるとは思ってもみなかった」

「それにカーラさんはどう見てもお前の好みのタイプではないと思ってたんだが。
もっと綺麗きれいで胸の大きい女性達に何十人とアプローチしてたじゃないか」

「確かに俺もそう思ってた。でもよ、相棒。
カーラは他の女に無い魅力を持ってた。
芯の強さとか、自分の意見とかよ。顔とかスタイルとかが全てじゃねえ」

 グレッグはビールを飲みながらのろける。

「お前がそれ言っても説得力に欠けるぞ」

「まぁ、そのせいで俺は十二回もフラれたんだがよ」

「すごいな。お前のそういうところ、尊敬する」

 私はそう言った。が、それが無くても私はグレッグという男を尊敬している。
彼は私に無いものを持っている。そのせいで鬱陶うっとうしく、
周りから嫌われるふしもあるのだが。

「そう言ってくれるのはお前だけだよ、タクト」

「カーラさんとは結婚するのか?」

「ななな何言ってるんだ!まだ付き合う約束をしただけだ」

 グレッグは顔を赤らめ狼狽ろうばいする。

「そうか。でも、もう他の女性に言い寄ったりできなくなるな。
それはそれで寂しいかも」

「そんなことはないぞ。これからもいい女がいたら声をかけると思うぞ」

「アホかお前。
そんなところをカーラさんに見られたら、一気に嫌われるぞ」

「まぁそれもそうだな。自重する」

「やっぱりお前はアホだ」

「そんなはっきり言うな、相棒」

「まぁ、グレッグらしくて安心したよ」

「どんな安心だよ」

「まぁ、しっかりカーラさんにだけアピールしてくれ。
いずれ結婚の連絡を待ってるよ」

 私はなかあきらめ気味にグレッグに告げる。この男がどこまで本気かが試されるな。

「ああ、期待していてくれ」

 グレッグがはじける笑顔を見せながら返してくる。ま、幸せならそれでいいか。

「あいつの笑顔がまぶしくてよ。俺は何度もあの笑顔に救われた。
ギルドで一人目立たずいた時はあんな女だとは俺も思わなかったよ。
あの時お前がカーラを誘ってくれて、本当に良かったと思ってる。
お前には本当に感謝している」

「お前にそう言ってもらえて、私も嬉しいよ」

 そう言って私はホットミルクを口にする。

「グレッグ、私もお前に救われてるんだよ」

「ん?どういう事だ」

「カーラさんだけじゃなくて、その前からな。
お前はずっと何人もの女性に言い寄ってはフラれてただろ」

「ああ」

「それで、お前にもうそんな事をやめろって忠告したことがあっただろ」

「あったな」

「その時、お前は「あきらめたくない」って私に言ったじゃないか」

「言ってたな」

「そういうお前の事を、私はずっとすごいと思ってたんだよ」

「そうなのか」

「ま、お前にとっては当たり前なのかもしれないな。でもなグレッグ。
私はそういうお前がうらやましかったんだ」

「ん?」

「私にはとても真似できない」

「じゃあ、タクトはもし好きな人がいても、あきらめられるのか?」

あきらめるしか選択肢がないと思ってる」

「そこが違うんだよ、タクト。
俺は、自分に嘘をつきたくない。それだけだ」

「どういう事だ?」

「確かに、告白しても、相手がある事だから、
必ずしもオーケーになるとは限らない。
いや、断られることが多いだろう。
けどよ、「もう自分ではダメだ」って決めつけんなって話」

 さすがグレッグ。痛いところを突いてくる。

「俺だって「ああ、これはもうダメだな」って思う事は何度もあるさ。
でもその時、相手の事をあきらめられない場合は、
時機を見て何度かアプローチしてみるんだよ。
そうやってうまくいった時もあるからな」

「本当か!?」

「ああ。もちろん相手の気持ちも大事だけどよ、要は自分がどうしたいかなんだよ」

 グレッグはそう言うと、店員を呼んでビールのお代わりを注文する。

「そうなのか。やっぱりお前はすごいよ」

「タクト。別にお前が過去に何があったかは聞く気も無いし、
俺にとっちゃどうでもいい。
だがよ、女なんてこの世にいっぱいいるんだ。
今後お前が本気で好きになる人が現れる可能性だってある」

「グレッグ…」

「だからよ、そろそろ許してやってもいいんじゃないか。過去のお前を」

「私はそんな…その…」

「俺も数えきれないほどフラれてきたから、お前の気持ち、わからなくもない。
いや、違うのかもしれんな。まぁ、それはいい…
俺が言いたいのは、「今を生きろ」って事だよ」

「グレッグ、ありがとな」

「別に感謝されることじゃないさ、相棒。今はそれができなくったっていい。
俺は、お前にも幸せになってもらいたい。それだけだ」

 私のほおから涙があふれ出る。
この男の言葉で、私の心は少しいやされたのかもしれない。

「おいおい泣くなよ。それより、お前が言おうとしてた事、
そろそろ聞かせてくれないか」

 グレッグの言葉に私は涙を拭《ぬぐ》い、落ち着きを取り戻してから話し始めた。
国王陛下から言い渡された内容のみを簡潔かんけつに伝えた。

「それはひどいな。国王陛下は何を考えてるんだか。
偉い人の考える事は俺にはわからん」

 グレッグらしい反応が聞けてある意味ホッとする。

「なあ、グレッグ」

「何だ?」

「もしかしたら、今回が最後になるかもしれない。
私達は追われる身となるから、最悪死んでしまうかもしれない」

縁起えんぎでもない事を言うなよ、相棒」

「私もそうなるつもりはないよ。
ただ、何が起こるかはわからないから、少し覚悟だけはしてほしいと思って」

「なるほどな、わかった」

 グレッグはそう言うと、残っていたビールを飲み干す。
私もホットミルクを最後まで堪能たんのうした。

「で、これからどうするんだ?」

「ああ、この後エレノーラ様に会いに行き、
その後にもう一度イグノールと話をしようと思ってる」

「そうか。俺はこの後カーラと待ち合わせする約束をしているから、
この辺でお開きにするか」

「わかった。会いに来てよかったよ。ありがとう、グレッグ」

「俺も会えて嬉しかったよ。色々大変かもしれないが、くれぐれも気をつけろよ」

「ああ」

 私とグレッグは別れの挨拶あいさつをし、代金を支払って酒場を後にした。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ここまで読んでいただきありがとうございます。

何か感じることがありましたら、いいね、お気に入り登録して頂けると嬉しいです。

宜しくお願いいたします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】アリスエロパロシリーズ

茉莉花
ファンタジー
家族旅行で訪れたロッジにて、深夜にウサギを追いかけて暖炉の中に落ちてしまう。 そこは不思議の国のアリスをモチーフにしているような、そうでもないような不思議の国。 その国で玩具だったり、道具だったり、男の人だったりと色んな相手にひたすらに喘がされ犯されちゃうエロはファンタジー!なお話。 ストーリー性は殆どありません。ひたすらえっちなことしてるだけです。 (メインで活動しているのはピクシブになります。こちらは同時投稿になります)

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。 ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。 冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。 のんびり書いていきたいと思います。 よければ感想等お願いします。

処理中です...