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05.あなたは――『誠』さん。
しおりを挟む「あ、……ああああああっ!!!!!!!」
咄嗟に口を押さえようとした手首があっさり掴まれて、私はどう足掻いても誤魔化しの効かない大きな喘ぎ声を上げて絶頂した。
いつもならそんな意地悪しないくせに、それでも止まらない玩具の責め苦に声にならない声を上げて耐えているとぎゅうっと背後から抱き締められ、父の存在をぼやけた頭で思い出す。
「あ、あのッ! な、なんでもないの! なんでも、無い……からぁ んぅ」
離して欲しくてちょっと力を入れても父の腕は離れない。
どう考えてもおかし過ぎる状況だけど頭がちっとも回らない。何からどう始めれば良いのかも分からない。
そんな私に、父は初めて聞く様な……いや、私はそれを知っているけれど……父から聞く筈の無い良く知った甘い言葉を耳に舌を這わせながら告げた。
「悪い子だ。イく時は教えてくれるって約束しただろう?やり直しだね」
「え?! お、お父さん何言って……あ、だめだめだめ離して!離して!あ、いやいやいやーっ!」
ビクビクと身体が震えのけぞる。
生理的な涙が流れ、必死の抵抗をしているのに男性の力の前では完全に無力化されてしまった。
立て続けにこんなに絶頂した事が無くもう良く分からなくなっている私の涙に優しく口付けした『父』は…ふふふ、とつい先ほどまでヘッドセット越しに聞いていた甘い声で残酷に告げる。
「今日の『燈子』は悪い子だね…さあ、ちゃんと出来るまで何度でも頑張ろうか」
「あ、ああ……あ、 嘘?! 嘘でしょ、あ、んんッ?! あ、止めてとめてぇ!」
楽しそうに床に崩れ落ちた私を抱き締めたまま片手でスマホを弄る父。
嫌が応にも脳が答えを導き出して、私は強過ぎる快感から逃れたい一心で叫ぶように言った。
「ま、ま、誠さんっ! 燈子、燈子イきますうっ!!!!」
もう苦痛の方が大きいかも知れない暴力的な絶頂をなんとかやり過ごし、完全に脱力して父の腕に身体を預けていると父……いや、彼は穏やかに笑ってバイブの動作を止めた。
「ちゃんと出来たね、燈子は本当に良い子だ。可愛いよ……私の宝物。ああ、なんでここに来れたかって言うと、さっき君が崩れ落ちた時ヴェールがめくれて顔が見えたんだ。とても驚いたけれど……って聞こえていないか」
「あ、……ンっ」
ちゅ、ちゅ、と別人のように甘い声で囁きつつ髪に口付けを落とした男はコンロの火を消して私の身体を軽々と抱き上げる。
身体に一切の力が入らなくなっている私はなすすべもなく父と呼んで良いのかもう分からなくなった男によってソファまで運ばれた。
そこからは彼の膝の上に乗せられ、背中越しに抱き締められて優しい口付けと抱擁が始まった。
混乱していても声は確かに誠さんのものだから私は反応してしまう。
脳がバグって正常な思考を拒否する理性とずっと望んでいた生身のぬくもりに身を委ねたい本能で頭がぐちゃぐちゃになっていると私を抱き締めたまま顔は見えない位置にいる彼が大人の男性として囁く。
「燈子、足を開いて?」
「あ、駄目…駄目、だめだよぉ」
霞む理性でなんとか答えるが、彼の囁きは止まない。それはまるで悪魔の様だった。
「足を開いてくれたらバイブを抜いてあげる。たくさんイって疲れたでしょう?」
「……駄目、駄目だよお、おと…あうっ?!」
お父さん、そう言おうとした瞬間それを遮るかのようにぎゅうっと強めに乳首を摘ままれた――ビデオ通話の時に自分で見せ付ける様に何度もした行為も彼にされるとこうも違う物か。
余計な事は考えるな、と言外に告げるように彼は私の耳の中に舌先を差し込んで続ける。
「燈子、燈子が許してくれたらなんでもしてあげるよ。コンプレックスだって言っていた可愛い陥没乳首も私が毎日可愛がってちゃんと出て来れるようにしてあげる」
「――や、やだぁ!」
私が彼氏を作る事に消極的だった身体的なコンプレックスすら彼は美しいと感嘆した様に言って、お世辞ではなく心の底から愛でてくれた。
その時の嬉しい気持ちと羞恥が蘇り身をよじって逃げようとするが当然の様にそれは叶わない。
顔が見えない様に背中から抱きすくめられ安心する体温と慣れ親しんだ声が私の理性を確かに溶かしていく。
「燈子…『透子』。私の可愛い宝物、どうか……許して、求めて欲しい」
同じ音の筈なのに彼が意図的にそれを切り替えたのを私は気付いてしまった。
こんなのおかしい。
倫理に反している。彼の言う通り卒婚と言う結論を迎えていたとしても不倫だって十二分に罪深いのに、私達の関係はそれよりもっと悪い。悪すぎる。
でも……でも――。
おず、と固く閉じていた足を僅かに開くと彼はとても嬉しそうにまた吐息で笑って髪に口付けを落とした。
それが本当に愛情を伝えて来て堪らなくなる。
時間は掛かったが私が彼の両太ももを跨ぐように足を開くまで誠さんは辛抱強く待ってくれた。
待って、完全なはしたないM字開脚が出来たと同時に軽々と立ち上がり、私だけをソファに優しく座らせて自分はラグの上に腰を下ろした。
「あ……―」
完全な男の顔をした父と対峙した筈なのに私の心を支配したのはときめきだった。
これはもう駄目だ、取り返しがつかない所まで……いや、後1ミリくらいは残っているのかも知れない。最後の一線はまだ超えていない、なんて考えていると誠さんは低い位置から私の目をしっかりと見据えてそれぞれの膝の下に軽く手を添えた状態で口を開いた。
「透子、答えて欲しい。……『私』は、誰?」
どくん、と心臓が一際跳ねてそれに同調する様に身体もびくっと動く。
たったそれだけで重要な決断を迫られている事に流石の私でも気付いた。
『誠さん』と呼べば私達は確実に一線を越えるだろう。そして、超えたが最後戻れる気なんて一切しない。
その代わりに『お父さん』と呼べば彼は……誠さんは全ての痕跡を綺麗かつ完璧に消して、一切何も無かったように元に戻る、それが理解出来た。
「………あ」
「私の心はとっくに決まっているよ。そして私が強制すれば君は逆らう事が出来ない事も理解している。……だから、君に選んで欲しいんだ」
すり、と愛おしそうに右ひざの内側を親指でなぞられた瞬間、私の本能が勝手に決断を下していた。
倫理観とか母に対する感情とか、家族としてこれからどうしようとか、こんな事絶対に許されないとかそんなの全て吹っ飛んで、ただただ目の前のずっと欲しかった男性を失う事は耐えられないと心が叫んでいたのだ。
「貴方は…」
「うん」
「貴方は、ま、誠さんです」
「――うん」
とても嬉しそうに誠さん……本名は誠一、だけど誠さんはとても嬉しそうに満面の笑みで笑った。
そんな顔は家族として過ごした中で一回も見た事が無い男性が愛した女性に向ける特別な表情である事は一目瞭然で、私の脳みそがふわふわしだす。
「誠さん……誠さ、会いたかった」
「うん、知ってるよ。君は怖がりながらも徐々に私を信用して色々預けてくれたね……とても嬉しくて最高に愛しい時間だった」
抱き着こうと腕を伸ばすとアッサリと受け止めてくれて私は今度は正面から膝の上に跨って抱き締められる。
先程と違うのは私からも抱き締める事が出来ると言う点だ。
「好き…こんなの絶対に駄目なの知ってるけど、誠さんじゃ無いと嫌」
「有難う。透子の罪悪感を一つ減らす要素を教えると母さんの恋人は宗一郎だよ」
「えっ?!」
思わず素で驚いて素っ頓狂な声を上げてしまった。
だって宗一郎と言うのは言うまでも無く私の実の兄なのだから。
「どどど、どう言う事?!」
「宗一郎が中学生くらいの頃かな?母さんの下着で自慰をしていたのを見てね。年頃だからかと静観していたら就職して少し経った頃宗一郎から打ち明けられたんだ。『母さんを女性としてずっと愛している。何をどうやっても諦められ無いんだ』って」
「そ……そんな修羅場が……それでどうしたの?」
さっきまであった色っぽい空気は今霧散していて抱き合って視線を合わせたままの距離で会話は続く。
父……まだそう呼んで良いのだろうか?今は家族の話題だからOK?なんて思っていると父は私の混乱っぷりに少し笑って頬にキスをしながら説明を続けてくれた。
「私達はそれぞれの家の都合で離婚は難しい。その時にはもう健二郎が大学を卒業したら卒婚しようって夫婦で話し合いは出来ていたからそれを伝えて、『母さんの意志を最優先にする事』と『間違っても子供は作らない事』、『世間には怪しまれないようにする事』を条件に許したよ」
「………よ、よく許せたね」
いや、本当に。許せた父も、この父を相手にそんな話をしに行った兄もなんかすごい。
言っちゃなんだけれどぱっと見と今まで育てて貰った感じから行くとお父さんはごくごく常識的な厳格寄りのタイプだと思っていたからそんな話をした瞬間にぶっ飛ばされるか絶縁されるかだと思ってたよ。
「その場で即パイプカットを決めてさっさと病院を調べ出したんだ、許すしか無いだろう。アイツの中で恋愛対象の女性は母さんだけで、元々子供は望んでいなかった。その上母さんの心理的ハードルを下げる為に有効な手段だと判断したんだ……いや、本当に俺の血筋だって実感したな」
俺。
お父さん今俺って言った! 初めて聞いた!
家でもずっと一人称は私だったのに、お父さん俺って言った。
妙な事でドキドキしている私の頬をまた愛おしそうに撫でて、父の話は続く。
「あと健二郎は同性愛者だね。一度出張先の繁華街で男性とラブホテルから出て来たのに鉢合わせた事がある」
「ちょっと?! なんでそんなに普通に話せるの?!」
まさかの弟の同性愛者発言にさらに驚く。
いや、自分の事を棚に上げて本当に申し訳ないけれど我が家ちょっと個性が強いんじゃないかな?!
「だって相手はあの漣くんだよ?中学時代からお互い一筋だなんて繁華街の真ん中で土下座されたら反対なんて出来ないだろう」
「だ、……大学の時のルームシェアって……え?」
「うん、同棲だったみたいだね。でもどちらもとても優秀な成績で卒業したんだから大したものだよ」
ちゅ、ちゅ、と会話の合間に彼は私の頬や髪に優しい口付けを落とす。
そんな甘い事してくれる人なんて現実世界にいると思っていなかったから私はどんどんふにゃふにゃになっていった。
別に問題は何一つ解決していない。
父と母が卒婚していても、母と兄が恋人同士になっていようとも、弟が同性愛者でも私が父と恋人になって良い理由にはならない。
それでも母が父を心底愛していて…というより心が楽なのは卑怯な事に事実だった。
「誠さんって言うの…変だね。だって誠一さんだもんね」
「そうだね。呼び方なんて別に何でも良いと思っていたけれど、そう言われてみればそうだ」
鼻先を近付けて問うと彼は真面目そうな顔で笑った。
そこで私はふと悪戯心から視線を合わせたままで言ってみた。
「パパ?」
「――ッ」
子供の頃からずっとお父さん呼びだった私の呼び掛けにパパは一瞬息を飲んで、それから困った様に笑った。
「はは、背徳感がすごいな……」
「……うん」
口調は優しいままだけれど目付きに熱がこもったのが分かった。
それにさっきからずっと当たってる立派なゴリゴリがもっとゴリゴリになった気がする。……ああ、これに嫌悪感が一切無く期待ばかりなんて私は本当に罪深い女だ。
でも、もう認めよう。最高に興奮しているのは嘘じゃ無いのだ。
「『イケナイ』事してる時はパパって呼んで甘えて良い?二人きりの時は誠一さん、家族の前ではお父さん……駄目?」
「良いよ。……俺はこれからイケナイ娘に色々教えてあげなきゃいけないからね」
くすくす、とほほ笑んで私達は初めての唇同士のキスをした。
私にとってのファーストキスは優しくて、ゆっくりじっくりと長い交わりだった。
知らない間にベッドに運ばれて押し倒されて、ブラトップワンピースを脱がされていた時には驚いたけれど恐怖やなんやらは全く無かった。
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