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22.いつかどこかで聞いたセリフを思い出した。

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――後はお前の好きにしろ。

そう灯莉は確かに言った。言ったのだが、今灯莉はそれを猛烈に後悔している。
それは何故か? ――端的に言おう、前戯が長い。あと、上達が恐ろしいほど早い。以上だ。

「だから! もう、良いって」

先ほどから何度も灯莉はこの言葉を言っている。
しかし真面目な顔で灯莉の身体を見ている透麻のOKサインは一向に出ない。

「待ってください、まだ痛いかも知れません」

――なあ、まさかお前は俺に初っ端からフィストかます気でいるのか?

灯莉が思わずそう本気で問いたくなる程の、念には念の入った……いや、念が入り過ぎていてハッキリ言ってしんどいレベルの前戯である。

透麻は医学書を読んでいたなんて確かに言ってはいたけれど、灯莉は心の何処かで冗談だと思っていた。
しかし恐ろしいことに本当だったようで前立腺なんて一発で発掘され以後恐ろしい正確性と無駄に多い触り方のパターンを駆使されて情けない声しか出ていない上に既にアッサリと二度ほどイかされている始末だ。

指が何本入っているのかを確認するのはかなり恥ずかしいのでしていないが、完全に生殖器に生まれ変わった後ろから流れ出る愛液の量が尋常じゃないことは灯莉自身も分かっているし、それを見る透麻の目がとても嬉しそうなことにも灯莉は気付いている。

そして何よりこれで終わりなら良いが、この後に透麻のモノを入れてからが本番と言う認識がこのアホαにはあるのだろうか? 案外童貞だから入れたら即終わってくれるかもしれない。
それは灯莉としては大歓迎の事態だが同じ男として透麻の心を思うと……ちょっと気の毒でもある。
そうなるとやっぱり灯莉が自分から言わなくてはならないな、と言う結論に落ち着きふわふわとする思考を必死に繋ぎ止めて灯莉は口を開いた。

「だから、もう入れろって」
「でも……」
「長いんだよ、お前の前戯は!」

優しい言い方で何度促しても応じない透麻に流石にイラついた灯莉が声を少し尖らせると、今まで真顔と嬉々とした表情をころころと繰り返していた透麻がふと嫉妬を滲ませた鋭い視線を灯莉に初めて向ける。

「……誰と比べてるんですか?」

支配者然とした独特の強い圧を隠そうともしない言葉に、灯莉は負けない位強い口調で返した。


「俺 だ よ !!!」


いいからさっさと入れる段階に移れ! と男らしく言い切った灯莉に透麻はちょっとだけ呆気に取られていたが素直に「はいっ!」と返事をした。
しかし灯莉はほわほわする頭でも気になっていたことを確認したくなる。

「透麻、お前も一回くらい抜いておくか?」
「え?!」

心底驚いたような顔の透麻だが、灯莉だって男だから透麻がかなり我慢してくれていること位分かる。
だから言っただけなのに、パンツをパツパツにして彫刻のような裸体を晒す美丈夫は実に今更だと思うのだが耳まで真っ赤にして灯莉を見た。

「あ、駄目です。今何かされたら絶対出ます」
「それなら尚更抜いといた方が良いだろ? ほら、脱げよ。俺だって二回出してんだから良いだろ」

ちょ、待ってくださいと力なく言う透麻を無視して灯莉はパンツの上から取り敢えず目視でサイズの確認をしてみた。

――うん、デカい。
やっぱりαだな、普通にデカい。

「あ、灯莉さん駄目ですって俺本気で! 本気で出ますから!」
「だから入れて秒で出すより今抜いて多少もった方がお前のメンタルにもきっと良いって」
「それはそうですけど!」

灯莉の服や下着はアッサリと取り去って今の今まで好き放題していたくせにこの男……自分がパンツを脱ぐのには抵抗しやがる。
それに灯莉はちょっとむっとして、シンプルなブランドロゴの入ったボクサーパンツをちょっと強引に下ろしにかかった。伸びて穿けなくなったら雑巾にでもしてから捨てろよ、なんて思いつつ腕に力を入れる。
透麻は反射的に抵抗しようとしたが灯莉が「透麻」と短く言うと諦めたように腕の力を抜いてパンツを脱ぐ為に協力した。

「やっぱりαはデカいな」

同じ男としても全くもって一切異論無しの長さと太さと反りだ。それに加えて角度も若い。
そしてカリも立派でこれだけのモノが今までインポで眠っていたのかと思うと灯莉は本当に気の毒にすらなる。
……まあ、コレを入れられる身としてはもう少し大人しいモノでも良かったと言うのも本音だ。

「本当に……何かされたら即出ますからね」

耳まで赤く染めて真面目な顔で言った透麻が可愛くて、灯莉はちょっとだけ意地悪してやりたくなった。
自分は今まで守り通して来た後ろに指を何本も入れられて新世界の快感を教えられたんだから、透麻だって少しぐらい恥ずかしい所を見せてくれたって罰は当たらないだろう。
そう思ったので右手を透麻の腕に伸ばす振りをして、左手で落ちて来た髪の毛を自分の耳にかけて顔を近付け、尖らせた舌で亀頭をぺろっと一舐めしただけで……透麻は呆気なく射精した。

「「あ……」」

α特有の多い精液が灯莉の顔に掛かって、首を動かした分だけ頬と首を伝う分とぼたぼたとシーツに落ちる分に分かれるのを二人は無言で眺める。
「αの精液って本当にこんなに多いんだな」と無言のまま冷静に受け止める灯莉と違って透麻は泣きそうな顔と言うか本気で潤んだ瞳で言った。

「……だから! だから言ったじゃないですか!!! 俺、何かされたらすぐ出るって、言ったじゃないですか!!!」
「聞いたよ。だから最初から素直に出せって言っただろ? 良いじゃないか。まだ全然硬いしイけるだろ」
「良くないですよ! 三擦り半どころの話じゃないじゃないですか! 一舐め……一舐め――しかも、いきなりだったからちゃんと見えなかったし!」

文句を言いながらも自分が脱いだ服で灯莉の顔を丁寧に拭く透麻の仕草はとても優しい。
さっと立ち上がった透麻は部屋の隅にある小さな冷蔵庫から水の入ったペットボトルを一本出して来て灯莉にちょっと不満な顔をしつつも「すみませんでした……どうぞ」と渡す。

「お、ありがとな」
「俺には舐めるなって言ったくせに酷いですね」
「お前もケツが濡れるようになったら俺の気持ちが分かるよ。――お前も飲むか?」

さらっとあしらいながら言う灯莉の言葉に透麻は「頂きます!」と少し強めに返して同じ水を飲んで、またベッドに戻って来た。

「じゃあゴムします。待っててください」

はあ、ととても悲し気に溜息を吐いた後そう言った透麻に灯莉は軽い感じで返す。

「ゴムいらないだろ? ちゃんと『やり直す』んだから中出しして噛まなきゃ意味がない」
「でも! 嬉しいけれど、やっぱりいきなりそんなちゃんとした準備も無くそれは駄目です!」

真面目な顔で抗議して来た透麻を見て、灯莉は笑った。

――コイツ意外と真面目だな。

そして灯莉のことをちゃんと考えている。
三十路を超えた男Ωの妊娠率の低さを知らない筈がないのにきちんと灯莉の身体を尊重しようとしている。
二人の間のフェロモンは最初よりかなり濃くなっていて、普通に会話をしているようでいてどちらももう余裕はないのだ。


「ちゃんと避妊薬飲んで来たから安心して抱けよ。大丈夫だ、何も怖くない」


ぽすっとベッドに背中を預けて自分を見ながらそう明るく言った灯莉を見て、透麻の喉が一つ大きくごくんと鳴った。
そしてそのままふらふらと吸い寄せられるようにベッドの上に戻って来て、最初と同じような位置関係で透麻は灯莉を見下ろす。

「本当に、本当に良いですか? 俺――『同じこと』しますよ?」

そっと触れて来た透麻の指先はやはり微かに震えていたから、灯莉はそれをぎゅうっと握って腕を引いて頭を抱えるようにして抱き締めて、少し強めに撫でてやった後にわざと明るい声で言った。

「良いか? 後ろからだぞ? で、中出ししてから噛むんだぞ?」
「……はい、分かっています」

ぐす、と微かに鼻を啜った透麻の顔を見ないように灯莉は自然な動作で自分から身体を動かしてから目の前にあった枕をぎゅっと抱き締めてその時を待つ。

「灯莉さん」
「どうした?」

大きな手が灯莉の腰をガッシリと捕まえて、普通の顔をして話しながらも番を求めて実はずっとひくついていたそこに熱い先端が触れる。



――愛しています。



そう涙声で言った男がゆっくりと中に入って来た時、灯莉は何故か「自分の心臓が戻って来た」といういつかどこかで聞いたセリフを思い出した。

そして十五年前のあの時は数日間に渡って痛んだはずの首は、あの頃よりずっと深く噛まれたのに不思議とちっとも痛まなかった。
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