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前編:本当は君だけが良いよ。

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奎吾は惚れっぽい。

奎吾を知る人は全員それを知っているし、何より本人がちゃんと自覚していて最初の段階で「あ、俺すぐ惚れちゃうからあんまり優しくしないでね!」と愛嬌たっぷりの笑顔で言っちゃうくらいだ。
身嗜みにもちゃんと気を使っているし意外と整った顔をしているので女性にもモテるけど、奎吾は生粋の同性愛者だ。だから自分に告白してくれた女の子にもちゃんとそれを言う。

「ごめん、俺ゲイなんだよね! でも君すっごく可愛いからお父さんとかお兄さんとか弟さんとかいない?! いたら紹介してよ」

とか余計なことまで言っちゃう。
だからさっきまで可愛い子兎みたいだった女の子にも即嫌われちゃうのだ。

それでも奎吾は全然めげない。残念、ここまでの縁だったか! よし、次の愛を探そーっとなんて言って今日も夜の街を軽やかな猫のようにすり抜ける。……実際ネコだしね。うん、タチは無理なの。

奎吾はガン突きされたいのも分かるけど基本は上に乗って好き勝手腰を振りたくって気持ち良さそうに情けない顔を晒すタチを見下ろすのが一番好きなんだ。

「何してるんですか、高瀬さん」
「――井上君」


全体的に満遍なくもさっとしているお洒落じゃない黒縁眼鏡がトレードマークの井上君は奎吾のセフレだ。
素顔は知らないし井上君と言う名前である事しか知らないけど奎吾は別に気にしない。
だって井上君のチンコは素晴らしいのだ! しかも、井上君のチンコを知っているのは自分だけなのだ。

さかのぼると二人の出会いはなんてことない居酒屋。
たまたまトイレで鉢合わせて、奎吾は日頃からの楽しみの一つとして横で用を足す男のチンコを覗き込んだ。……そして、見付けたのだ。

理想的なチンコを!

よくさ「デカい=正義」みたいな奴いるじゃん? ああいうのは基本外れ。論外な奴も多い。
俺様のデカマラを突っ込んでやってんだ、どうだ? これだけでもうお前イキ地獄だろ?! みたいな顔をされたら奎吾は速攻で抜いて「くたばれテク無し恥を知れ」くらいは言ってホテルを出てしまう。

良いかよく聞け。適切な大きさってモンがあるんだわ。
分かるか? 基本的に出す一方通行の場所に逆走して入れてやってんだわ? だったらさ、気遣いがあって当然だろ?
ケツは残念ながら女性器みてぇに濡れないんだわ。
お前、今まで生きて来てケツが濡れた事あるか? ねえだろ? じゃあ分かるよな?


労・わ・れ。


それだけだ。
それが出来ねえなら誰にも突っ込むな。一生右手で抜いてチンコを自前で曲げとけクソ野郎である。


おっと話が逸れてしまったごめんね。
居酒屋のトイレでたまたま横で用を足していた井上君のチンコを見初めた奎吾は彼が丁度フィニッシュを迎えたのを見計らって言った。自分の尿意は我慢だ。頑張れ俺の交感神経!

「ねえ! お兄さん名前なんて言うの?! 俺奎吾! お兄さんすっげえイイチンコしてるね! しゃぶらせてよ!」
「え?!」

思えばあの時井上君はとっても驚いていた。
でも奎吾は全然気にしない。笑顔と愛嬌、そしてノリと勢い。それがあれば大抵行ける!!!

「ね? 良いでしょ? 大丈夫、掘らせろなんて言わないし突っ込んでとも今は言わない。だからちょっとしゃぶらせて! お願い!!」
「ちょ? え? あの……え? 酔ってます……よね? 大丈夫ですか?」
「優しい! うん、君のチンコに酔ってます! なんちゃってー、じゃあこっちこっち」

井上君の身体は意外と筋肉質だった。
けど奎吾が押すと彼は戸惑ってはいたけど抵抗せず大人しく個室に入ってくれたのだ。やったー! これはきっと合意だー! 奎吾の胸は躍る。

「ねねね、舐めて良いよね? 個室に一緒に入ってくれたってことは、合意だよね?」
「ちょ、ちょっと待ってください。同意とかじゃなくて、意味が分かって無くて――」

井上君はぐいっと押すと大人しく便器に座ってくれた。
体勢的にもしゃがみ込んでいる奎吾を害そうと思ったら簡単なはずなのに、彼は優しく肩に触れただけだった。
だから奎吾はOKを貰ったと思うことにして、先ほど収納されたばかりのチンコをまた外気にお披露目する。

うん!
長さも太さもマジで丁度良い!
今まで色々試して来たけど、奎吾のケツにはこれ位のサイズがベストなのだ。

後は――硬さチェックだああ!!!

「いっただっきまーす♡」

もさっとした見た目のくせにズル剥けチンコはずるいぞぉ! なんて心の中で思いながら目をハートにして鍛え抜いたフェラテクを披露すると井上君は自分の胸の辺りの服をぎゅうっと握り締めて小さく唸った。

「ねぇ、俺上手でしょ?」
「ちょ……え? これ何?」
「ふぇーらーちーお! ねえお兄さん名前教えてよ! 苗字だけでも良いよ!」

べろぉ、と視線を合わせたまま舐め上げるとそこでようやく井上君は名前を教えてくれた。

「い……の、うえ……です」
「井上君、よろしくー! 俺ね、バキュームフェラも得意だけどすっげえ音響くから普通ので我慢してね」
「ちょ?!……う゛」

さっきまでしょんべんしてたチンコしゃぶって嫌じゃないの? って?
いや、別に全然平気。
だって出したての尿って綺麗なんだよ。雑菌の数だけを純粋に比較すると可愛い女子アイドルの口内より健康なオッサンの搾りたて尿の方が綺麗なんだからね。本当か嘘かは知らないけど、そうらしいよ!

だから井上君のチンコはセーフでーす!
硬さもマジ理想的だし、味も良い感じ。
トイレに誰も入ってこないのを良いことに好きにしゃぶっていると井上君はあっさり「もう無理です」って可愛い声で言った。

さっきまで遠慮がちに俺の肩に置いてた手に力を籠めて引き離そうと今更ながら抵抗してきたから、思いっ切り喉を締めてやる。どうだあ、奎吾必殺の搾り取り芸だぞ! 初見でコレを耐えた猛者は今の所いないのだー!
なーんて脳内で軽くかましていると井上君は「すみません!」と言いながらすーっげえ濃いのを思いっきり出した。

えー、ご無沙汰なのー?
ちょっと濃すぎるよ井上くーん! どろっとしすぎててコレ、何日熟成してんのー?

見せ付ける様に口を開いて舌を動かすと井上君は分厚いレンズの向こうの目を見開いた。
そして彼は言った。

「ご、ごめんなさい! お、お水買ってきますから、待っててください! あ。僕がどけば良いんだ! ぺってしてください」

――その一言で、奎吾は決めた。
射精して呆然とするでも、賢者タイムで冷たくなるでもなく真っ先に奎吾を心配してくれた井上君。
めーっちゃ、良い奴だ!!! よし、良いチンコと良い性格、最高だ! 仲良くなりたいぞ!

「気にしないでよ井上君! でもちょっと溜めすぎじゃない? オナ禁でもしてたの?」
「し……してないですけど、ちょっと忙しくて」
「えー?! 勿体ない! じゃあさ、今から俺とラブホ行ってセックスしようよ! 俺、結構色々ヤってるけど生はしないからビョーキとか無いよ!」

独特のえぐみが残る口内の余韻を楽しみつつ言うと、井上君は固まった。
普通の人間なら思考停止しているから駄目そうだと思う所だろうけれど、奎吾は自他共に認めるポジティブっこなのだ。

絶対無いなら人間は一瞬の隙も挟まず脊髄反射で「無理」と言う。
迷うと言うことは……それすなわち、アリに転ぶ可能性が大! と言うことなのだ。
良し、押すぞー!

だから奎吾は井上君を拉致ることにした。
なんか会社の飲み会で来ていたらしいけど、気にしない気にしない。
生き物として生まれた以上性欲を優先するのは当然なのだ。生産性? そんな野暮なこと言っちゃだめだよー。

「た、高宮君! ごめん、僕先に抜けさせてもらうね」

奎吾に引きずられながら井上君は一つの部屋の中を覗き込んで一番近くにいたやたら細身の可愛い顔をした「タカミヤくん」なる男性に話し掛けた。
ちなみに高宮君を見ても奎吾のセンサーは反応しない。だってこの子は絶対に受けだもん。同類だもん。

その代わり奎吾の歴戦のネコライバル感知センサーが唸る。この「タカミヤくん」は……化けるぞ。きっととんでもないネコの素質を持っている。超強力なライバルだ。
――負けたくない。きっとこの子が狩場に出てきたら奎吾の取り分が減ってしまうぞ!
思わず∩(^ΦωΦ^)∩で見詰める奎吾には気付かず「タカミヤくん」は井上君にふわりと柔らかく笑った。

「うん、僕も一次会で帰るから大丈夫だよ。井上君、お疲れ様」

……悔しいけど、可愛い。
そして奎吾が生まれた時から持っていなかった可憐さとピュアさを持っている。
それに絶対にイイ子だ。そしてきっとタカミヤ君と井上君の間には何も起きないだろうと結論が出たので奎吾は近場のラブホに井上君を連れ込んで美味しく食べた。

「ごめん、僕はじめてで、ちょっとどうすれば?!」

なんて可愛い顔で言われて奎吾のテンションはマックスだった。
「大丈夫大丈夫! 寝てるだけで良いから!」&「天井のシミを数えている間に終わるから」なんて昭和レトロなセリフをかまして、美味しい童貞チンコを味わわせて頂いてそれで「有難う、ご馳走様!」でちゃんと解放する予定だったのに……終わった後の井上君は今までの相手の中で過去一優しかった。

「お水飲みますか?」って水をくれたり「お風呂溜めますか?」って動いてくれたり「腰痛くないですか?」って擦ってくれたり……超良い奴だった。
でも分かる。奎吾には、分かってしまう。

井上君は……ノンケだ。
奎吾が勢いで混乱状態の彼を弄んだから最後まで出来ただけで、この人はこっち側じゃない。
だから、好きになっちゃダメなんだ。
好きになっちゃダメとか思ってる時点でもう好きじゃん! って分かっているけど、そこには蓋をする。
それくらいの感情の処理が出来なきゃ夜の街を優雅にキャットウォークなんて出来ない。

でも一回きりのサヨナラは寂しくて奎吾は言ってみた。なんかちょっとうるっとしながら。

「お願い井上君……俺のセフレになって」
「――はい?」

うん、知ってる。
井上君の今のは「はい!(喜んで!)」じゃなくて「はい?(何言ってるの?)」だ。
でも気付かないフリをして……奎吾は目いっぱい喜んだ。

「やったー! ありがとう! じゃあ連絡先教えて! ほら、スマホ出してスマホ!」
「え? え?」
「スマホ出してー!!!!」
「あ、はい……」

井上君……チョロ過ぎるよ。
俺が言うのもなんだけど、妙な壺とか買わされちゃダメだからね。
なんて思いながら連絡先を交換して、奎吾は井上君に面倒くさがられない頻度を自分なりに見極めつつ連絡を取ってセックスした。


――本当は井上君とだけシたい。
でもそれを望むことは関係の終わりを早めてしまう事だって分かってる。


だから多くても月に一、二回程度にした。
本当は自分の家にお招きしてお泊りがてら耐久セックスだってしたいし、朝まで一緒にいたい。同じベッドで眠りたい。
でもそれは我が儘だから、我慢した。

井上君の会社の最寄り駅から行ける知り合いに会わなそうなラブホを徹底的に調べてそこで現地集合現地解散にした。
奎吾が頼んで誘っているからホテル代は当然全額奎吾が出し続けたんだけど、井上君はそれに怒った。

「僕だってすごく気持ち良いのにそれはおかしいです!」

だって。そう言って

「今まで奢って貰ったからこれから三回は僕が全額出します。それ以降は折半です!」

って続けた井上君を見て……奎吾はもう完落ちしたのだ。

奎吾は性欲が強い。
ほぼ毎日セックスしないとしんどい。
でも井上君を毎日誘うなんて出来ない……他の男で我慢したくても気持ち良くない。
でも、でも、でも。でもを繰り返して井上君のかわりの妥協の男とホテルに入ろうとした時、なんでか井上君と鉢合わせした。
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