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03.胃もたれと別腹の関係性について詳しく教えて欲しい。割と本気で。

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「「「馨! ようこそわが家へ!!」」」

パーンとこの世界にもあったらしいクラッカーが鳴った。
身体が大きなリザードマン達が住む家は作り自体がとにかく大きくてリビングダイニングもすごく広い。
こっちの世界にはこんなにデカい木があるのか?! と驚くレベルの一枚板のダイニングテーブルには所狭しとご馳走が並べられていて自分のことを本気で歓迎してくれているのが伝わって馨の胸はじーんとした。

「ありがとう……俺、嬉しい」

子供の頃は薄いなりにも血の繋がりがあるはずの家でも決して歓迎されなかった。
それなのに今では種族すら掠ってもいないレベルの人たちが自分を温かく迎え入れてくれる。それは本当に有難い。有難過ぎてうっかりすると泣いてしまいそうなくらい嬉しい。
そんな馨の心中を一番先に察してくれたのはポポの母親であるアンとポポの兄嫁であるテナだった。二人は殊更明るい声で馨に何を食べたいのか聞いてくれる。

「ヒト族は私達と同じ物を食べるって聞いたから色々作ったんだけど、好みはやっぱり人それぞれだから取り敢えず少しずつ摘まんで、嫌いなものは嫌いって遠慮なく言ってね」
「そうよ。ここで遠慮したら私たちは馨がそれを好きだって思ってまた作っちゃうからね」
「う、うん。わかった、ありがとう」

優しい二人の言葉に馨は頷いて取り敢えずたくさんある料理の中から心を惹かれるものを選んでお皿に取り分けてもらう。
挨拶をして食事を開始すると本当にお世辞じゃなくどれも美味しくて馨はたくさん食べた。
元から馨は「お前のその身体になんでそんなに入るんだよ」と言われるレベルの大食いでお金がない時は「大盛メニュー〇分以内の完食で無料!」みたいな店を荒らしまわって生きていた時期もある。

最早皿ではなくお盆のようなサイズの大皿に山盛りに積まれた料理を全員で楽しく話しながら食べているといつもよりもかなり食が進んだ。
ちょっと図々しかったかな? なんて思う間もないくらいポポの家族たちは喜んで次から次へと馨の皿に笑顔で料理を入れてくれる。馨がたくさん食べることはポポの家族たちには嬉しい誤算だったようで食卓はとっても賑やかで笑顔に満ちていた。

しかし、馨はふと気付く。

「ポポ……どうした? 具合でも悪いのか? 全然食べて無いじゃないか」

ポポが食べたのは馨が日本で使っていたお茶碗サイズの入れ物に取り分けたサラダと、ちょっと厚めのローストビーフが二枚、そして自宅敷地内で飼っている乳牛からアンとテナが手作りしたという美味しいチーズが二切れ、それと小さなロールパンが一つだけだ。

軽く見積もって身長は二メートル三十センチ程度の筋骨隆々なリザードマンがその逞しい身体を維持できる食事量には思えない。現時点でも馨の方が軽く見積もっても三倍以上食べている。
だからきっと気を使って隠しているだけで体調が悪いに違いないと思った馨が問うとポポは何てことないいつもの調子でのんびりと返して来た。

「ポポ元気だよ。あんまりいっぱい食べると胃もたれしちゃうんだ。ちゃんと美味しく食べてお腹いっぱいだよ」
「……え?」


――胃もたれ? お腹いっぱい?

ポポが食べた総量をもう一度思い出して首を傾げる。
だってあれくらい日本の女性でも普通に余裕で食べられるレベルの量じゃないか?

そんなことを考えている馨の前の席に座っていたアンとテナが笑って立ち上がり、日本で言う所の冷蔵庫からそれぞれが大きなお皿を出して来てくれた。

目算縦横それぞれ七十センチはありそうな大皿の一つはポポが作ってくれた超特大エッグタルト。
そしてもう一つの同じサイズの皿には「ウエディングケーキですか?」と言うレベルの豪華二段重ねの見事なフルーツケーキがあった。

「すげえええ!!!!」

思わずテンションが上がって手を叩いてしまったけれど、この人数でもこれを完食するのは無理じゃないか? と言うほどのボリュームがある。
「どれくらい食べられる?」と本日の主役である馨が先に聞かれて、馨は両方を日本で販売されている普通の一ピースサイズのケーキの二倍程度の大きさで切り分けて貰った。

甘いものも好きだけどデザートは言うほど量を食べられない。でも作って貰った気持ちがとても嬉しいのと純粋に美味しそうなのもあって多めに分けてもらったのだ。
嬉しくて目をキラキラさせているとポポの父親と兄は甘いものが得意ではないと言って普通の料理を豪快に食べている。
アンとテナも馨と同じくらいの量を切り分けたのだがケーキはそれでもかなり残ってしまった。

……勿体ないな。これどうするんだろう?

そう思ったのも束の間、残ったケーキは何故かすーっと自然にポポの目の前に移動する。

「え?」

想像して欲しい。
縦×横が七十センチくらいある正方形の大皿にイイ感じに乗った八十パーセント程度残ったケーキが二皿だ。
馨が一人暮らしで使っていた正方形のこたつと同じくらいの皿だ。それが二つだ。
しかしその皿を二つ目の前に並べてポポは幸せそうに笑った。


「えへへ。甘いものはね、別腹なの」


かなり大き目の最早しゃもじだろってレベルのフォークを取り出しざっくりとすくい上げてぱくりと頬張ったポポはうっとりと片頬を押さえる。

「美味しい。お母さんとお義姉さんの作ってくれるケーキはやっぱり絶品だね」
「あらありがとう」
「ポポのエッグタルトもとっても美味しいわよ」

ざくっとまたケーキがすくい上げられてポポの大きな口の中に消えて行く。
サイズ感がおかしくて脳がバグりそうな光景だ。ひとすくい分で市販のケーキ二切れは確実にあると思うくらい一口がデカい。

「どうしたの? 馨も食べなよ。甘いものでリフレッシュしたらしょっぱいものがもっと美味しくなるよ。ケーキ足りなかったらあげるからたくさん食べてね」
「あ……ありがとう」

ざくっ。ぱくっ。
ざくっ。ぱくっ。

駄目だ意味が分からん。

目の前の筋骨隆々蜥蜴男・ポポを見て馨の脳内は混乱を極めた。



――胃もたれ、とは。
――別腹、とは。


「美味しいなぁ。みんなで一緒のご飯は楽しいね」
「そ、そうだな」

馨の混乱は全く消えていないけれど自分の目の前にあるポポが一生懸命作ってくれたエッグタルトを食べた。ポポがあまりにも幸せそうに食べるからつられたのが大きい。
上手く言えないけれどとてもサクッとして、トロッとしてる。
これだけの大きさで作ればもっとムラ? のようなものが出来ても不思議じゃないのに本当に美味しい。
アンとテナの作ってくれたフルーツケーキも甘さ控えめでどんどん食べられた。

「なあポポ」
「なあに?」

呼べば穏やかにこちらを向いてくれる。
最初はあれだけ圧倒された見た目なのに、今はもう可愛く見えるのが不思議でしょうがない。


「すっげえ美味い。母さんと姉さんも、ありがとう。すっげえ美味いよ」


馨の言葉に全員が笑ってくれた。
哺乳類とは表情筋の構造が違うなんて最初は思ったけど、もうちゃんと分かる。

全員ちゃんと馨の言葉に優しく笑ってくれたって。
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