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前編
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城崎 大和は二十九歳。
第一志望として希望した大手飲料メーカーの営業職を無事に勝ち取り、最初に配属された関西圏の支店で高い評価を得た事が見事評価され去年の春から本社に栄転して来た。
こう言う流れになると古参の社員達からやっかまれたりする事も往々としてあるだろうが会社の社風が良いからだろか?
優秀な人間が来てくれて良かったぜ! ガンガン売って行こうな!! と言う実に明るくさっぱりとした態度で諸手を上げて歓迎してくれたので営業同士の仕事自体はしやすかったのだが……営業事務の一部の女性達は違った。
結婚適齢期で独身、本社に実力で招かれた彼を彼女達は早々にターゲットに定め頼んでいた書類をささっと渡してくれればいいのにやれ質問があるだやれ確認したい事項があるだの言って無駄に普段机に座っている僅かの間すら惜しむ彼の貴重な時間を拘束した。
大和は仕事人間だ。
それも純粋に仕事を楽しんでおり自分の提案が認められたり、結果を出した際会社とお客様の満足感が予定より多く目に見える数値で出たりするとそれだけで二徹位は余裕で熟せる位仕事が大好きだった。
大和に対する一部の女性の振る舞いは次第にエスカレートして流石に目に余る事もあり彼女達に上司から指導が入り、一部いた派遣は契約を切られたり元からいた社員も異動と言う形で部署からは消えたのだが……それから彼は不思議な事に連続して出会う事になる。
「……よしッ」
新規事業のチームに抜擢された大和は今まで抱えているどうしても自分の担当から離したくない、離せない大事な取引先との仕事を一時的にではあるが並行して熟す必要が出て来た。だから一分一秒でも惜しいのだ。
だがしかし営業事務に対して若干の苦手意識が芽生えた大和は必要最低限のやり取りで必要最低限の仕事だけしてくれれば良い。それ以上を求めるのは自分の我儘だ! と割り切って接する方向で既に認識を切り替えている。
下手に頼むより自分がやった方が早い、と言う思考回路は決して褒められた物ではない事は理解していたが今まで受けた数多の妨害と無駄にした時間を思うとちょっと少し状況が落ち着くまではこれで行かせてくれ、と内心で自分に対して釈明し彼は逸れていた思考を目の前の大好きな仕事に戻した。
午後からはまた外に出る必要があるので今電話で出た話題の資料を過去のデータベースから探して……そう思っていたらポップアップが表示され何気なく確認するとチーム内クラウドの自分用共有フォルダにまさにそれが入っているではないか。
「——?」
余りにもピンポイント過ぎて驚く。だがまさにそれは自分がこれから探さなければならなかった資料だ。
誰だ?
誰か電話の会話を聞いて先回りしてくれたのか?
と自席周りを見渡しで誰かと視線が合うかを試したが皆真面目に職務を熟していて誰とも目は合わなかった。
電話をしている人もちらほら居るので大きめの声で誰がやってくれたかを問うのも難しい。
「(……誰かは分からないが正直助かった。後で必ず礼を言おう)」
ささっと資料に目を通し、ここのデータを引っ張って前後三年のデータと比較したものを用意すればすぐにでも使えそうだ、と大和は思った。
それだけなら簡単だ。さっそく作って外回りの最中に挨拶がてら顔を出して過去のデータはこうですが……と話しながら顔を合わせて色々擦り合わせよう。
古臭い考えだと笑う人間もいるがやはり営業は足が基本で、いくらデジタルの時代と言えども直接顔を合わせ会話を重ねた行動が相手からの信頼を得て、いざ二者択一と言う段になった時大きな判断材料になる事は変わらない。
スムーズに仕事が出来る嬉しさから早速パソコンに向かったのだが……残念、課長が席から自分を呼ぶでは無いか。
「城崎君、ちょっと良いかね」
「はい」
まあそう何もかもうまくはいかないか、と小さく笑って大和は課長の席へと向かい……戻ってきたのだが、何故か自分がこれから作ろうとしていた資料が紙に出力された上で机に置かれているではないか。
『元データはクラウドに入っています』と言うまるでハンコを押したような綺麗な文字の付箋と共に。
「え?」
驚いて視線を彷徨わせたがやっぱり視線は誰とも合わなかった。
そしてこんな事がこれから頻発していくのである。
***
第一志望として希望した大手飲料メーカーの営業職を無事に勝ち取り、最初に配属された関西圏の支店で高い評価を得た事が見事評価され去年の春から本社に栄転して来た。
こう言う流れになると古参の社員達からやっかまれたりする事も往々としてあるだろうが会社の社風が良いからだろか?
優秀な人間が来てくれて良かったぜ! ガンガン売って行こうな!! と言う実に明るくさっぱりとした態度で諸手を上げて歓迎してくれたので営業同士の仕事自体はしやすかったのだが……営業事務の一部の女性達は違った。
結婚適齢期で独身、本社に実力で招かれた彼を彼女達は早々にターゲットに定め頼んでいた書類をささっと渡してくれればいいのにやれ質問があるだやれ確認したい事項があるだの言って無駄に普段机に座っている僅かの間すら惜しむ彼の貴重な時間を拘束した。
大和は仕事人間だ。
それも純粋に仕事を楽しんでおり自分の提案が認められたり、結果を出した際会社とお客様の満足感が予定より多く目に見える数値で出たりするとそれだけで二徹位は余裕で熟せる位仕事が大好きだった。
大和に対する一部の女性の振る舞いは次第にエスカレートして流石に目に余る事もあり彼女達に上司から指導が入り、一部いた派遣は契約を切られたり元からいた社員も異動と言う形で部署からは消えたのだが……それから彼は不思議な事に連続して出会う事になる。
「……よしッ」
新規事業のチームに抜擢された大和は今まで抱えているどうしても自分の担当から離したくない、離せない大事な取引先との仕事を一時的にではあるが並行して熟す必要が出て来た。だから一分一秒でも惜しいのだ。
だがしかし営業事務に対して若干の苦手意識が芽生えた大和は必要最低限のやり取りで必要最低限の仕事だけしてくれれば良い。それ以上を求めるのは自分の我儘だ! と割り切って接する方向で既に認識を切り替えている。
下手に頼むより自分がやった方が早い、と言う思考回路は決して褒められた物ではない事は理解していたが今まで受けた数多の妨害と無駄にした時間を思うとちょっと少し状況が落ち着くまではこれで行かせてくれ、と内心で自分に対して釈明し彼は逸れていた思考を目の前の大好きな仕事に戻した。
午後からはまた外に出る必要があるので今電話で出た話題の資料を過去のデータベースから探して……そう思っていたらポップアップが表示され何気なく確認するとチーム内クラウドの自分用共有フォルダにまさにそれが入っているではないか。
「——?」
余りにもピンポイント過ぎて驚く。だがまさにそれは自分がこれから探さなければならなかった資料だ。
誰だ?
誰か電話の会話を聞いて先回りしてくれたのか?
と自席周りを見渡しで誰かと視線が合うかを試したが皆真面目に職務を熟していて誰とも目は合わなかった。
電話をしている人もちらほら居るので大きめの声で誰がやってくれたかを問うのも難しい。
「(……誰かは分からないが正直助かった。後で必ず礼を言おう)」
ささっと資料に目を通し、ここのデータを引っ張って前後三年のデータと比較したものを用意すればすぐにでも使えそうだ、と大和は思った。
それだけなら簡単だ。さっそく作って外回りの最中に挨拶がてら顔を出して過去のデータはこうですが……と話しながら顔を合わせて色々擦り合わせよう。
古臭い考えだと笑う人間もいるがやはり営業は足が基本で、いくらデジタルの時代と言えども直接顔を合わせ会話を重ねた行動が相手からの信頼を得て、いざ二者択一と言う段になった時大きな判断材料になる事は変わらない。
スムーズに仕事が出来る嬉しさから早速パソコンに向かったのだが……残念、課長が席から自分を呼ぶでは無いか。
「城崎君、ちょっと良いかね」
「はい」
まあそう何もかもうまくはいかないか、と小さく笑って大和は課長の席へと向かい……戻ってきたのだが、何故か自分がこれから作ろうとしていた資料が紙に出力された上で机に置かれているではないか。
『元データはクラウドに入っています』と言うまるでハンコを押したような綺麗な文字の付箋と共に。
「え?」
驚いて視線を彷徨わせたがやっぱり視線は誰とも合わなかった。
そしてこんな事がこれから頻発していくのである。
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