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後日談01.『報連相』を大事に、上手くやっているから大丈夫だよ。
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「あの、将軍!」
訓練が終わり引き上げる時、今までは用件がある時にしか近寄って来なかった部下達から声を掛けられることが増えたアレグレンが振り向くと中堅どころの騎士が三名なんだかソワソワした空気を纏って自分を見ている。
「――どうした?」
訓練は滞りなく終了したが何かあったのか? そんな気持ちで応じたのだが、彼らの纏う空気から察するに仕事関係の用ではないような気がする……。
そしてアレグレンのその考えは当たっていたようで部下たちが口を開いた。
「あの……奥様はお元気ですか?」
「翔太か? ああ、こちらの生活にも馴染んだようで楽しそうに過ごしている」
アレグレンの言葉には嘘は一ミリも無い。
実際翔太はアレグレンの屋敷に馴染んでいる。――下手をしたらアレグレン以上に。
最低限の人間しか元々置いていないが全使用人の顔と名前をあっという間に覚え、出入りの業者とも気軽に立ち話をして楽しそうにしている姿を最初見た時は流石にどうしたものかとも思った。
だがアレグレンの爵位は先の戦で武勲を上げた時に授かった一代限りのものだし、社交らしい社交は今までもこれからも最低限しかしないつもりなので翔太の好きにさせている。
つい先日は調理場に入り浸り「思い出の味」だと熱く語った芋を薄くスライスして油で揚げて塩を振った「ぽてとちっぷす」なる物を心行くまで食べて胃もたれをしていたとの報告を家令から受けている。
しかし神の祝福もあって十五分ほど昼寝をした後完全復活してまた食べようとして家令、料理長、メイド長総出で止めたそうだ。
信頼の置ける少数精鋭の屋敷の使用人たちはアレグレンが言うのもなんだが、皆優秀だがその分独特のクセがある。
しかし翔太はその全員の懐にするりと入り込んで、毎日とても楽しそうに生活している。
そして屋敷の人間達も仕事を理由に騎士団宿舎に連日寝泊まりして屋敷にろくに帰りもしなかった主人よりも新しく来たとても明るく裏表のない奥様の方が大事なようで皆が皆翔太に甘いのだ。
部下に話し掛けられていることも一瞬忘れ翔太のことを考えていたアレグレンに部下の一人が控えめに口を開いた。
「あの……奥様は、本当に何事もなくお元気ですか?」
「どういう意味だ?」
何か含みを感じさせる言葉にアレグレンは疑問を抱く。
翔太が騎士団の人間と接したのはこちらの国に輿入れがてら移動してくるあの時位だと記憶しているが、どこかで接点でもあるのだろうか?
知らず知らずのうちに厳しい表情になっていたアレグレンを見て、部下たちは「なんでもありません! 失礼しました!」と声を見事に揃えて走り去る。
その背中を見送ると、すぐ後ろから別の男に声を掛けられた。
「悪く思うなよ、俺だって同じ気持ちはある」
「簡潔に言ってくれ。それじゃあ分からない」
声だけで相手が百パーセント把握できたアレグレンが振り向きながら返すと声の主であるアレグレンの相棒、副将軍のルーフリーが困ったような顔で笑っていた。
「お前、最近毎日つやっつやだもんな、アイツらが心配するのも分かるって言ってんだよ」
「何のことだ?」
「――新婚だからまあ仕方が無いだろうが、毎日のように奥方を抱いているんだろう?」
武骨で強面のアレグレンと対極にいるようなルックスをしているルーフリーは辺境伯家出身の三男だ。
学院で知り合い騎士学校へと進んだ同期でアレグレンの数少ない友人の一人でもある彼は昔から男にも女にもよくモテた。
そんなルーフリーがさらっと言った言葉にアレグレンは思わず固まる。
そしてそのアレグレンの一瞬の硬直をしっかりと見抜いたルーフリーはポン、とアレグレンの肩に手を置いて周囲の人間に聞かれないように十分配慮した音量で続けた。
「お前と奥方の体格差を心配しているんだよ。俺も、アイツらも――かなり本気で、な」
「……無理はさせていない」
またしてもアレグレンの言葉に嘘は一つも無かった。
アレグレンだって翔太と自分では男性器のサイズは別として基本的な体格と体力に雲泥の差があることくらいは当然理解している。
今までが過剰に仕事人間だったアレグレンが王太子からの命令もあり普通の勤務体系に戻ると、翔太と一緒に食事→入浴→団らん→就寝、という人間らしいサイクルで生活出来るようになった。
仕事が仕事なので遠征や突発的な対応でそれが出来ない日もあるが、今の所は自分でも驚くほど家庭的な生活が送れているとアレグレンは思っている。
愛する翔太と笑顔で会話をしながら食事を楽しみ、特別に広く改装した風呂場で翔太が何より好む入浴を二人で一緒に楽しむ。
そして風呂上りは冷たいものを飲んで何かを摘まみながらまた何気ないことをいくらでも話す。
そんな絵に描いたような幸せな夫婦生活を送れるだけでもアレグレンにとっては夢のようだった。
確かに翔太とするセックスは気持ちが良い。アレグレン的には毎日でも大歓迎だ。
何も構えることなく本当に愛しいという気持ちと快楽を追求し合う触れ合いは最高に気持ちが良い行為だ。
しかしアレグレンは堅物よりの常識人。
自分と翔太の体格差、体力差を考えると当然毎日は流石に多いことは知っている。
しかし、しかし! 当の翔太が普通に乗っかって来るのだ。
アレグレンがさりげなく就寝の方向に促そうとすると「え? 今日ヤんねぇの? なんで?」と至極不思議そうに目を丸くして。
そしてそんな夫婦の事情を口に出せないアレグレンをじっと見てルーフリーは小さく溜息を吐いた。
「お前があんな華奢な奥方に無体を働く男だとは思っていないが……『落ち人』である奥方はきっとこちらの人間のように『準備』はしていないだろう? 夫婦の閨のことに口を出すなんて無粋な真似はしたくないが、今まで一切の色ごとになんの興味も示さなかったお前が――なんだ、のめり込んでいるように思ってな」
「……」
アレグレンは思わず片手で自分の顔の半分を押さえた。
ルーフリーは別に分別の無い過干渉な男では無い。
どちらかというといつも笑顔で人当たりが良い優男を装っているが他者との線引きはかなりハッキリとしている人間だ。
そんな彼がここまで具体的な内容を口にして踏み込んでくる意味を理解してアレグレンは本気で頭を抱えたくなった。
「……気遣い、感謝する」
元々多弁ではないアレグレンにはそれが精いっぱいだった。
ルーフリーもアレグレンの様子から何かを察したようでさっと空気を切り替えて笑顔で去って行った。
***
「おー、おかえりアレグレン! 仕事お疲れ様!」
「今帰った。変わりはなかったか?」
「おう! 今日はお義母さんが遊びに来てくれてな、一緒に茶を飲んだぞ」
「母上が?」
玄関まで迎えに来た翔太と笑顔で会話するのを屋敷の人間達は温かい雰囲気かつ空気に徹して見守る。
アレグレンが上着を脱いでそのまま食堂に直行し、給仕の人間を下がらせて二人きりで食事をするのがいつもの流れだ。
そして食堂で二人きりになった瞬間翔太はアレグレンの腕を引いてグイっと顔を近付けて来た。
「で、お前はどうしたわけ? なんかいつもと違うけど何かあっただろ?」
「……」
「話せないことなら話せないって言えばそれ以上は聞かねえけど、俺らのことで悩んでんなら報連相な! コレ、社会の常識だから!」
びっと人差し指を立てながら翔太が言う。
最初その「ほうれんそう」を聞いた時アレグレンは意味が分からなかったが『報告・連絡・相談』という翔太の世界ではとても重要視されていたコミュニケーション手法だと教えられて納得したのだ。
だからアレグレンは隠すことなく翔太に打ち明けることにした。
以前のアレグレンならきっと誰にも何も打ち明けることはしなかっただろうが、今アレグレンと翔太は夫婦だ。
出来ることなら色々な事を分かち合って分け合って一緒に生きて行くと誓った仲なのだから。
「実は今日……部下と、同僚に心配と言うか忠告と言うか、そんなことを言われた」
「なに?」
湯気を立てる食事をそっちのけで自分の顔を覗き込んでくる翔太を見て、アレグレンはありのまま伝えることにする。
回りくどいことはしようと思えばいくらでもできるが、翔太相手にしたいとは思えないのだ。
「簡潔に言うと……『あんな華奢な奥方を毎日抱いていて大丈夫なのか?』という内容だった」
「はははははは!!!!! なんだそれ、クッソセクハラじゃん! で、お前はなんて返したの?」
ゲラゲラと笑う翔太を見てアレグレンの心が軽くなる。
「無理はさせていないことと、気遣いに感謝するとだけ伝えた」
素直にありのままを話すと翔太は笑い過ぎて出た涙を拭ってから話し出す。
「馬鹿だなお前! そういう時は『嫁の方から求められてな……』とか適当にけだるげな空気背負って言っておけばいいんだよ!」
「馬鹿なことを言うな。そんなことを言ってあいつらが翔太のそういった姿を想像したらどうするんだ」
不快極まりないと感じていることを隠そうともしないアレグレンの声に翔太は一瞬だけぽかんとしたが、すぐに嬉しそうに微笑んで何処からか一冊の本を出して来た。
……いや、本当に何処から出して来た? と確認する間もなく翔太が言う。
「あのさ……今日、コレ試してみないか?」
「なんだ?」
言われるまま覗き込んだ本の正体を見てアレグレンは思わず盛大に吹き出した。
だってそれは、アレグレンは当然しっかり読んだことはないが存在は知っていた貴族の母親が適齢期になった娘に渡す閨関係の教科書的な本だったからだ。
「俺らの世界にも四十八手っつーセックス中の体位の教科書みたいなモンがあったんだけどな、俺あんまりっつーか全然詳しくなくてさぁ……お義母さんに相談したんだよ」
「そ う だ ん ? ! ――は、母上にか?!」
――正気か?! ここでも報連相を!???!
自分の母親の厳格さを知っているアレグレンは目を剥いたが、翔太は至って普通の顔だった。
その上ぱらぱらとページをめくり軽く頬を染めてアレグレンに見せてくる。
「俺、今日コレが良いな。……嫌か?」
「――嫌な筈がないだろう」
無駄に男らしくハッキリと言い切ったアレグレンに翔太は満足そうに笑って二人は仲良く食事を始めた。
嫁が自分の知らない所で実母に性的な相談をしていたという衝撃の事実は突き詰めると心情的に辛かったので、アレグレンは敢えて深く考えることをやめて事実自体を心の奥にしまうことにしたのである。
こんな感じでその日の夜も二人は仲良く楽しんで、アレグレンは翌日ルーフリーに呆れた目で見られたのだ。
だがアレグレンは幸せだったので気付かないふりをしてサクサクと仕事を熟し、とっとと定時で帰宅した。
平和なある日のことである。
訓練が終わり引き上げる時、今までは用件がある時にしか近寄って来なかった部下達から声を掛けられることが増えたアレグレンが振り向くと中堅どころの騎士が三名なんだかソワソワした空気を纏って自分を見ている。
「――どうした?」
訓練は滞りなく終了したが何かあったのか? そんな気持ちで応じたのだが、彼らの纏う空気から察するに仕事関係の用ではないような気がする……。
そしてアレグレンのその考えは当たっていたようで部下たちが口を開いた。
「あの……奥様はお元気ですか?」
「翔太か? ああ、こちらの生活にも馴染んだようで楽しそうに過ごしている」
アレグレンの言葉には嘘は一ミリも無い。
実際翔太はアレグレンの屋敷に馴染んでいる。――下手をしたらアレグレン以上に。
最低限の人間しか元々置いていないが全使用人の顔と名前をあっという間に覚え、出入りの業者とも気軽に立ち話をして楽しそうにしている姿を最初見た時は流石にどうしたものかとも思った。
だがアレグレンの爵位は先の戦で武勲を上げた時に授かった一代限りのものだし、社交らしい社交は今までもこれからも最低限しかしないつもりなので翔太の好きにさせている。
つい先日は調理場に入り浸り「思い出の味」だと熱く語った芋を薄くスライスして油で揚げて塩を振った「ぽてとちっぷす」なる物を心行くまで食べて胃もたれをしていたとの報告を家令から受けている。
しかし神の祝福もあって十五分ほど昼寝をした後完全復活してまた食べようとして家令、料理長、メイド長総出で止めたそうだ。
信頼の置ける少数精鋭の屋敷の使用人たちはアレグレンが言うのもなんだが、皆優秀だがその分独特のクセがある。
しかし翔太はその全員の懐にするりと入り込んで、毎日とても楽しそうに生活している。
そして屋敷の人間達も仕事を理由に騎士団宿舎に連日寝泊まりして屋敷にろくに帰りもしなかった主人よりも新しく来たとても明るく裏表のない奥様の方が大事なようで皆が皆翔太に甘いのだ。
部下に話し掛けられていることも一瞬忘れ翔太のことを考えていたアレグレンに部下の一人が控えめに口を開いた。
「あの……奥様は、本当に何事もなくお元気ですか?」
「どういう意味だ?」
何か含みを感じさせる言葉にアレグレンは疑問を抱く。
翔太が騎士団の人間と接したのはこちらの国に輿入れがてら移動してくるあの時位だと記憶しているが、どこかで接点でもあるのだろうか?
知らず知らずのうちに厳しい表情になっていたアレグレンを見て、部下たちは「なんでもありません! 失礼しました!」と声を見事に揃えて走り去る。
その背中を見送ると、すぐ後ろから別の男に声を掛けられた。
「悪く思うなよ、俺だって同じ気持ちはある」
「簡潔に言ってくれ。それじゃあ分からない」
声だけで相手が百パーセント把握できたアレグレンが振り向きながら返すと声の主であるアレグレンの相棒、副将軍のルーフリーが困ったような顔で笑っていた。
「お前、最近毎日つやっつやだもんな、アイツらが心配するのも分かるって言ってんだよ」
「何のことだ?」
「――新婚だからまあ仕方が無いだろうが、毎日のように奥方を抱いているんだろう?」
武骨で強面のアレグレンと対極にいるようなルックスをしているルーフリーは辺境伯家出身の三男だ。
学院で知り合い騎士学校へと進んだ同期でアレグレンの数少ない友人の一人でもある彼は昔から男にも女にもよくモテた。
そんなルーフリーがさらっと言った言葉にアレグレンは思わず固まる。
そしてそのアレグレンの一瞬の硬直をしっかりと見抜いたルーフリーはポン、とアレグレンの肩に手を置いて周囲の人間に聞かれないように十分配慮した音量で続けた。
「お前と奥方の体格差を心配しているんだよ。俺も、アイツらも――かなり本気で、な」
「……無理はさせていない」
またしてもアレグレンの言葉に嘘は一つも無かった。
アレグレンだって翔太と自分では男性器のサイズは別として基本的な体格と体力に雲泥の差があることくらいは当然理解している。
今までが過剰に仕事人間だったアレグレンが王太子からの命令もあり普通の勤務体系に戻ると、翔太と一緒に食事→入浴→団らん→就寝、という人間らしいサイクルで生活出来るようになった。
仕事が仕事なので遠征や突発的な対応でそれが出来ない日もあるが、今の所は自分でも驚くほど家庭的な生活が送れているとアレグレンは思っている。
愛する翔太と笑顔で会話をしながら食事を楽しみ、特別に広く改装した風呂場で翔太が何より好む入浴を二人で一緒に楽しむ。
そして風呂上りは冷たいものを飲んで何かを摘まみながらまた何気ないことをいくらでも話す。
そんな絵に描いたような幸せな夫婦生活を送れるだけでもアレグレンにとっては夢のようだった。
確かに翔太とするセックスは気持ちが良い。アレグレン的には毎日でも大歓迎だ。
何も構えることなく本当に愛しいという気持ちと快楽を追求し合う触れ合いは最高に気持ちが良い行為だ。
しかしアレグレンは堅物よりの常識人。
自分と翔太の体格差、体力差を考えると当然毎日は流石に多いことは知っている。
しかし、しかし! 当の翔太が普通に乗っかって来るのだ。
アレグレンがさりげなく就寝の方向に促そうとすると「え? 今日ヤんねぇの? なんで?」と至極不思議そうに目を丸くして。
そしてそんな夫婦の事情を口に出せないアレグレンをじっと見てルーフリーは小さく溜息を吐いた。
「お前があんな華奢な奥方に無体を働く男だとは思っていないが……『落ち人』である奥方はきっとこちらの人間のように『準備』はしていないだろう? 夫婦の閨のことに口を出すなんて無粋な真似はしたくないが、今まで一切の色ごとになんの興味も示さなかったお前が――なんだ、のめり込んでいるように思ってな」
「……」
アレグレンは思わず片手で自分の顔の半分を押さえた。
ルーフリーは別に分別の無い過干渉な男では無い。
どちらかというといつも笑顔で人当たりが良い優男を装っているが他者との線引きはかなりハッキリとしている人間だ。
そんな彼がここまで具体的な内容を口にして踏み込んでくる意味を理解してアレグレンは本気で頭を抱えたくなった。
「……気遣い、感謝する」
元々多弁ではないアレグレンにはそれが精いっぱいだった。
ルーフリーもアレグレンの様子から何かを察したようでさっと空気を切り替えて笑顔で去って行った。
***
「おー、おかえりアレグレン! 仕事お疲れ様!」
「今帰った。変わりはなかったか?」
「おう! 今日はお義母さんが遊びに来てくれてな、一緒に茶を飲んだぞ」
「母上が?」
玄関まで迎えに来た翔太と笑顔で会話するのを屋敷の人間達は温かい雰囲気かつ空気に徹して見守る。
アレグレンが上着を脱いでそのまま食堂に直行し、給仕の人間を下がらせて二人きりで食事をするのがいつもの流れだ。
そして食堂で二人きりになった瞬間翔太はアレグレンの腕を引いてグイっと顔を近付けて来た。
「で、お前はどうしたわけ? なんかいつもと違うけど何かあっただろ?」
「……」
「話せないことなら話せないって言えばそれ以上は聞かねえけど、俺らのことで悩んでんなら報連相な! コレ、社会の常識だから!」
びっと人差し指を立てながら翔太が言う。
最初その「ほうれんそう」を聞いた時アレグレンは意味が分からなかったが『報告・連絡・相談』という翔太の世界ではとても重要視されていたコミュニケーション手法だと教えられて納得したのだ。
だからアレグレンは隠すことなく翔太に打ち明けることにした。
以前のアレグレンならきっと誰にも何も打ち明けることはしなかっただろうが、今アレグレンと翔太は夫婦だ。
出来ることなら色々な事を分かち合って分け合って一緒に生きて行くと誓った仲なのだから。
「実は今日……部下と、同僚に心配と言うか忠告と言うか、そんなことを言われた」
「なに?」
湯気を立てる食事をそっちのけで自分の顔を覗き込んでくる翔太を見て、アレグレンはありのまま伝えることにする。
回りくどいことはしようと思えばいくらでもできるが、翔太相手にしたいとは思えないのだ。
「簡潔に言うと……『あんな華奢な奥方を毎日抱いていて大丈夫なのか?』という内容だった」
「はははははは!!!!! なんだそれ、クッソセクハラじゃん! で、お前はなんて返したの?」
ゲラゲラと笑う翔太を見てアレグレンの心が軽くなる。
「無理はさせていないことと、気遣いに感謝するとだけ伝えた」
素直にありのままを話すと翔太は笑い過ぎて出た涙を拭ってから話し出す。
「馬鹿だなお前! そういう時は『嫁の方から求められてな……』とか適当にけだるげな空気背負って言っておけばいいんだよ!」
「馬鹿なことを言うな。そんなことを言ってあいつらが翔太のそういった姿を想像したらどうするんだ」
不快極まりないと感じていることを隠そうともしないアレグレンの声に翔太は一瞬だけぽかんとしたが、すぐに嬉しそうに微笑んで何処からか一冊の本を出して来た。
……いや、本当に何処から出して来た? と確認する間もなく翔太が言う。
「あのさ……今日、コレ試してみないか?」
「なんだ?」
言われるまま覗き込んだ本の正体を見てアレグレンは思わず盛大に吹き出した。
だってそれは、アレグレンは当然しっかり読んだことはないが存在は知っていた貴族の母親が適齢期になった娘に渡す閨関係の教科書的な本だったからだ。
「俺らの世界にも四十八手っつーセックス中の体位の教科書みたいなモンがあったんだけどな、俺あんまりっつーか全然詳しくなくてさぁ……お義母さんに相談したんだよ」
「そ う だ ん ? ! ――は、母上にか?!」
――正気か?! ここでも報連相を!???!
自分の母親の厳格さを知っているアレグレンは目を剥いたが、翔太は至って普通の顔だった。
その上ぱらぱらとページをめくり軽く頬を染めてアレグレンに見せてくる。
「俺、今日コレが良いな。……嫌か?」
「――嫌な筈がないだろう」
無駄に男らしくハッキリと言い切ったアレグレンに翔太は満足そうに笑って二人は仲良く食事を始めた。
嫁が自分の知らない所で実母に性的な相談をしていたという衝撃の事実は突き詰めると心情的に辛かったので、アレグレンは敢えて深く考えることをやめて事実自体を心の奥にしまうことにしたのである。
こんな感じでその日の夜も二人は仲良く楽しんで、アレグレンは翌日ルーフリーに呆れた目で見られたのだ。
だがアレグレンは幸せだったので気付かないふりをしてサクサクと仕事を熟し、とっとと定時で帰宅した。
平和なある日のことである。
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後日談、コチラにもありがとうございます✨
というか、本編の感想書いてない……だと?!
翔太は健康優良児だしジャストフィットなので、何の心配もないのです。
「報・連・相」大事ですね!
ももたん 様
こんばんは、ようこそおいでくださいました(n*´ω`*n)
こちらでも見付けてくださってありがとうございます♪ 細かいことなんて、良いのさ♪ 良いのさ~♪
仰る通りです、なんの心配も無いのです。
だって健康でジャストフィットだから(`・ω・´)ドヤァ
報連相を大切にこれからも生きて行って欲しいです。
感想ありがとうございました。
感謝です!!!
全部見つけたー!( ̄▽ ̄)ニヤリッ☆
11月に感想書きまくります⸜(* ॑꒳ˆ* )⋆*☆
ももたん 様
教えてくださってありがとうございます!
さっきお返事しようとしたら「おいおい、自分のには書けないんだぜ?」的なコメントが出て一人で大騒ぎしておりました。
恥ずかしい人間で申し訳ないです(*ノωノ)
いつも構ってくれてありがとうございます!
感謝です!!!
粗チン様をこちらでもお見かけしましたので、ポチッとした所存です!てへっ。
応援しています!
そば太郎様
感想ありがとうございました!
アルファポリスさんの使い方が分からず一人で騒ぎ立ててお恥ずかしい限りです(*ノωノ)
あら♪
あちらでも粗チンを見守ってくださったお方のお一人なのですね、重ね重ねありがとうございます。
超絶嬉しいです! てへっ。
応援&感想ありがとうございます!
感謝です!!!