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袖すり合うと……side洸太 22
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「市村さん、お疲れ様です」
ビルを出たところでそう声を掛けられた。
いつかのデジャブを感じながら振り返ると、案の定そこには木下さんの姿があった。
「……お疲れ様です。木下さん」
……この人の存在で優真さんにあらぬ疑いをかけられて、お仕置きエッチとか言われて酷い目にあったんだよな。
先日のアレコレを思い出してしまい、頭の中がピンクに染まる。
こぉただって気持ちよさそうに喘いでたじゃ~ん? って脳内優真さんが心底嬉しそうに微笑んでるし。
って、まずいまずい。まだ外だ。しかも目の前にはあまり親しくない取引先の人間がいる。
頭の中をエロい妄想でいっぱいにしている場合ではない。
いつの間にか当たり前のように隣に並んでいた木下さんと駅までの道を行く。
「市村さんは……恋人とかいらっしゃるんですか?」
「ふぁっ!?」
頭の中の(いつの間にか半裸になってた)妄想の優真さんを追い出そうとしていたところに、あらぬ方向から攻撃を喰らって変な声が出た。
「な、何を……?」
「いえ、純粋な好奇心です。市村さんはモテますからね」
「いやいやそんなことないですよ?」
悪意はないように見えるが真意が見えない。……恋人の有無を聞くのって、話して二回目の人間に聞いてもいいもんだっけ?
悲しきコミュ障が正解を求めて思考を空回りさせていると……。
「いっちー!」
後ろから声を掛けられた。
振り返れば同じプロジェクトのメンバーである平田さんの姿があった。
「……ちっ」
え? 今木下さん、舌打ちした? え? なんで?
疑問に思ってるうちに平田さんが駆け寄ってきた。
「平田さん。お疲れ様です。今帰りですか?」
「いっちー、ちょっと仕事の話あるんで、今いっすか?」
僕に同意を求めてるようで、何故か平田さんは木下さんを厳しい目で見ている。
「? いいですよ。では木下さん今日はここで……。お疲れさまでした」
そう告げれば、木下さんは軽く会釈をして去って行った。
その背中を何故か睨みつけている平田さん。平田さんも優真さん程ではないにせよ、コミュ力の塊のような人なので、誰かにここまで敵意を見せるのは珍しい。
「……ひら……「いっちー、何もされてないっすか?」 ……え?」
平田さんに声を掛けようとすると、それより先に豆粒のようなサイズになった木下さんを未だ睨みつけながら、平田さんに問われた。
「え? 何って何を……? 何もされてないですよ。え? 美人局とか宗教の勧誘とかですか?」
「……ちげぇっす」
若干呆れた顔でこっちを見る平田さん。
チラリと道の先に視線を投げれば、既に木下さんの姿はなかった。
「え? 木下さんが何か……? あの人何かヤバい噂があるんですか?」
「ヤバいと言えばヤバいっす。主にいっちーが」
「え?」
平田さんの言葉がさっぱり理解できない。
「あ、その顔は全然理解してないっすね? この前飲み会で話したじゃないっすか。いっちーに邪な視線を向けてた子会社の営業の話」
覚えてるっすか? と問われて頷きを返す。だけど……。
「その人、出向終わって子会社に帰ったんじゃ……」
「……最近、本社とその子会社で共同プロジェクトの話が出て出入りしてるとは聞いてたっすが……」
まさかもう接触してたなんて……。と舌打ちせんばかりの顔で、木下さんの消えた方向を睨みつける平田さん。
「え? まさか……。 え?」
「いっちー。マジで気を付けるっす」
妙に真剣な目で平田さんに見られて、僕は頷きを返すしかなかった。
が、ぼそりと呟いた平田さんの言葉に、僕が声を失った。
「辻浦さんに連絡入れとかないとっすね。まったくいっちーは手がかかるっす」
辻浦さん? 辻浦さん?! 偶然だろうけど優真さんの名字も辻浦って言うんだよね。
いやぁ偶然……な訳ないね? え? あの人いつの間に平田さんと知り合ってるの?
平田さんも何普通に優真さんにメッセ送ってるの?
なんで送信相手が優真さんだってわかったかって? アイコンが滅茶苦茶見覚えがあったからだよっ!
え? ホントあの人何してんの? と思わず頭を抱えた僕は悪くないと思う。
「これでよしっす」
満足げに平田さんが頷くと同時に、僕のスマホがメッセージの受信を告げた。
画面を見れば送り相手はもちろん……優真さんだ。
『平田さんと最寄り駅まで帰ってくること。駅まで迎えに行く』
「いやだからなんでだよ」
画面に突っ込んだ僕は悪くないと思う。
「何頭抱えてるっすか。ほらいっちー帰るっすよ。ダーリンが駅で待ってるっす。
明日からいっちー、会社でも一人で行動しちゃダメっすよ」
「そんなにっ?!」
そこまで警戒する必要、ある?!
「そんなにっす。ヤツが子会社にいるのも、過去に同じような付き纏いをしたからっす。十分注意するっすよ」
「……え?」
平田さんの不吉な言葉は、真っ暗な冬の夜空に吸い込まれるように消えていった。
ビルを出たところでそう声を掛けられた。
いつかのデジャブを感じながら振り返ると、案の定そこには木下さんの姿があった。
「……お疲れ様です。木下さん」
……この人の存在で優真さんにあらぬ疑いをかけられて、お仕置きエッチとか言われて酷い目にあったんだよな。
先日のアレコレを思い出してしまい、頭の中がピンクに染まる。
こぉただって気持ちよさそうに喘いでたじゃ~ん? って脳内優真さんが心底嬉しそうに微笑んでるし。
って、まずいまずい。まだ外だ。しかも目の前にはあまり親しくない取引先の人間がいる。
頭の中をエロい妄想でいっぱいにしている場合ではない。
いつの間にか当たり前のように隣に並んでいた木下さんと駅までの道を行く。
「市村さんは……恋人とかいらっしゃるんですか?」
「ふぁっ!?」
頭の中の(いつの間にか半裸になってた)妄想の優真さんを追い出そうとしていたところに、あらぬ方向から攻撃を喰らって変な声が出た。
「な、何を……?」
「いえ、純粋な好奇心です。市村さんはモテますからね」
「いやいやそんなことないですよ?」
悪意はないように見えるが真意が見えない。……恋人の有無を聞くのって、話して二回目の人間に聞いてもいいもんだっけ?
悲しきコミュ障が正解を求めて思考を空回りさせていると……。
「いっちー!」
後ろから声を掛けられた。
振り返れば同じプロジェクトのメンバーである平田さんの姿があった。
「……ちっ」
え? 今木下さん、舌打ちした? え? なんで?
疑問に思ってるうちに平田さんが駆け寄ってきた。
「平田さん。お疲れ様です。今帰りですか?」
「いっちー、ちょっと仕事の話あるんで、今いっすか?」
僕に同意を求めてるようで、何故か平田さんは木下さんを厳しい目で見ている。
「? いいですよ。では木下さん今日はここで……。お疲れさまでした」
そう告げれば、木下さんは軽く会釈をして去って行った。
その背中を何故か睨みつけている平田さん。平田さんも優真さん程ではないにせよ、コミュ力の塊のような人なので、誰かにここまで敵意を見せるのは珍しい。
「……ひら……「いっちー、何もされてないっすか?」 ……え?」
平田さんに声を掛けようとすると、それより先に豆粒のようなサイズになった木下さんを未だ睨みつけながら、平田さんに問われた。
「え? 何って何を……? 何もされてないですよ。え? 美人局とか宗教の勧誘とかですか?」
「……ちげぇっす」
若干呆れた顔でこっちを見る平田さん。
チラリと道の先に視線を投げれば、既に木下さんの姿はなかった。
「え? 木下さんが何か……? あの人何かヤバい噂があるんですか?」
「ヤバいと言えばヤバいっす。主にいっちーが」
「え?」
平田さんの言葉がさっぱり理解できない。
「あ、その顔は全然理解してないっすね? この前飲み会で話したじゃないっすか。いっちーに邪な視線を向けてた子会社の営業の話」
覚えてるっすか? と問われて頷きを返す。だけど……。
「その人、出向終わって子会社に帰ったんじゃ……」
「……最近、本社とその子会社で共同プロジェクトの話が出て出入りしてるとは聞いてたっすが……」
まさかもう接触してたなんて……。と舌打ちせんばかりの顔で、木下さんの消えた方向を睨みつける平田さん。
「え? まさか……。 え?」
「いっちー。マジで気を付けるっす」
妙に真剣な目で平田さんに見られて、僕は頷きを返すしかなかった。
が、ぼそりと呟いた平田さんの言葉に、僕が声を失った。
「辻浦さんに連絡入れとかないとっすね。まったくいっちーは手がかかるっす」
辻浦さん? 辻浦さん?! 偶然だろうけど優真さんの名字も辻浦って言うんだよね。
いやぁ偶然……な訳ないね? え? あの人いつの間に平田さんと知り合ってるの?
平田さんも何普通に優真さんにメッセ送ってるの?
なんで送信相手が優真さんだってわかったかって? アイコンが滅茶苦茶見覚えがあったからだよっ!
え? ホントあの人何してんの? と思わず頭を抱えた僕は悪くないと思う。
「これでよしっす」
満足げに平田さんが頷くと同時に、僕のスマホがメッセージの受信を告げた。
画面を見れば送り相手はもちろん……優真さんだ。
『平田さんと最寄り駅まで帰ってくること。駅まで迎えに行く』
「いやだからなんでだよ」
画面に突っ込んだ僕は悪くないと思う。
「何頭抱えてるっすか。ほらいっちー帰るっすよ。ダーリンが駅で待ってるっす。
明日からいっちー、会社でも一人で行動しちゃダメっすよ」
「そんなにっ?!」
そこまで警戒する必要、ある?!
「そんなにっす。ヤツが子会社にいるのも、過去に同じような付き纏いをしたからっす。十分注意するっすよ」
「……え?」
平田さんの不吉な言葉は、真っ暗な冬の夜空に吸い込まれるように消えていった。
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