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袖すり合うと……side洸太 19

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注)ちょっとだけ性的描写があります。

 『コータどしたの? また元気ない? ユーマに意地悪された? わたしの恋人になる??』

 モニタの向こうで不安げにこちらの様子を窺うのはメェメェさんだ。
 あの後メェメェさんとは時間が合えばライブチャットをする仲になっていた。

 メェメェさん側のモニタにはVtuberくーにゃんではない平凡なの顔が映っていることだろう。
 ……まぁ、メェメェさんは僕の顔より声の方が大事らしいから……ね。ちょっと複雑だけど、そんなこと言うとすーぐ「何?浮気?」って目が笑ってない笑みを浮かべるこい……びとがいるからねっ! くあっ!

『コータ今、ユーマのこと考えてたでしょ?』

「ふぁっ?!」

 何故バレた?!

『んふふー。やっぱりー。なんかイイ顔してた。ねぇねぇ、もっと喋って。表情だけじゃなく声も聴きたい』

「もー、メェメェさんは本当に僕の声が好きですね」

『うん! 大好きー! なんかね! 普段はちょっとジブンに自信がないのか、柔らかい味の中にちょっとだけピリッとした辛みがあって……。でユーマと話したり、ユーマのこと話してるときは、どんどん甘さが加わって、クリームみたいにまったりと濃厚になるのっ!』

 とっても美味しいよっ! って笑うメェメェさんは、まるで本当に僕の声を味わってるみたいだ。

『でね、今はその声にちょっとだけ不安? の味が混ざってるの。だからなんかあったのかなって』

 メェメェさんがコテンと首を傾げると、彼女の柔らかな茶色い髪がさらりと揺れた。
 少しだけ寄せられた眉根から、本当に僕のことを心配しているのが見て取れる。
 ……最近、色んな人にこんな顔で見られることが増えた。

「んー? 不安というか……最近変なことが続いてて……」

『ふんふん。どんな?』

「んー、例えばなんですが……。道を歩いていたら視線を感じたり」

『ふんふん……?』

「会社でトイレにいくと、必ず同じ人が隣に立ってたり……」

『ふん……ふん?』

「僕に回ってきた社内回覧板の間に、変なメモが挟まってたり」

『ふんふ……どんな?』

「えーっと、『家にいる男誰?』とか……」

『ふぁっ?!……あとは?』

「会社のミーティングスペースに忘れたはずのペンが無くなったり、捨てたはずのペットボトルが無くなってたり……」

 あれは今でも疑問だ。
 飲み終わった後ペットボトルをリサイクルボックスに捨てて、トイレに行って戻ってきたら……。
 僕のペットボトルだけリサイクルボックスから姿を消していた。
 別にキャンペーンのシールとか貼ってあったのじゃないんだけどな?

「ん? メェメェさん?」

 返事がないなとモニタに視線を向ければ、そこには頭を抱えたメェメェさんがいた。

『ちょっとコータ! それユーマに言ったの?!』

「えっと優真さん仕事でここ一週間くらい出張してて……」

『でもユーマのことだから一日一回……どころか十回や二十回は電話やメッセくれるでしょ?』

 おぉ鋭い。確かにそろそろ優真さんから定時連絡があるから、メェメェさんとのチャットも切り上げないと……。

「まぁ、そうですけど……。どうせなら楽しい話をしたいなって……」

 優真さんは「俺がこぉたの顔見ないと寂しくて死んじゃうからビデオ通話しよ? むしろ繋いだまま寝落ちしてい~よ? ね?」と言ってくれるが、優真さんが側にいなくて寂しいのは僕も一緒で。

 この部屋のベッドは、一人で寝るには広すぎる。

 どこかしょんぼりしていたのだろうか、メェメェさんが不安そうにこっちを見ていた。

『あのね? に詳しくないわたしでもわかるよ? ちょっとコータの周りで起きてる事は異常だよ。
 ちゃんとユーマに話して?』

「うーん、でも嫌がらせされる覚えはないんですけど……」

 気づかぬうちに誰かの琴線に触れてしまったのだろうか? 今の常駐先はいいところだから、できればプロジェクトが終わるまで携わりたい。

 『いや、そーじゃなくてね? ううん、コータの自己評価が低いせいで、キキ感薄いー』

 どうすんのこれ? とモニタの向こうでメェメェさんが頭を抱えている。

『とりあえず! ぜったいぜったいユーマに言って! ぜったいだよ!』

 メェメェさんに念を押された僕は、その勢いに圧倒されて思わずうなずいてしまった……のだが。




『こぉた、おつかれさま~。今日も帰れなくてごめ~んね~』

 大丈夫? とスマホの向こうで気を使ってくれる優真さんに、ふわりと心が温かくなる。

「優真さんもお疲れ様です。無理はしてないですか?」

『え~そんなのしてるよ~~。こぉたに会えないってだけで無理無理だよ~』

 情けない顔をするイケメンに、ふふっと笑みが落ちる。

「……僕も……寂しいです」

 さっきメェメェさんに指摘された、僕の抱える不安が顔を出す。
 思わず甘えたような声で……彼の不在を嘆いてしまう。……優真さんはお仕事だし。仕方ない事なのに。
 まるで……子供みたいに側にいて欲しいと希ってしまう。

 だけど、スマホの向こうからはなんの反応もない。
 呆れられたか? とスマホに視線を向けてみれば……何故か身悶える優真さんが映し出されていた。

 いやなんで?

『こぉたの……デレ! とうとっ! あぁ~~、なんで俺は今こぉたの隣にいないんだろ~~』

 スマホの画面の向こうで、優真さんが悔しそうにジタバタしている。
 仕事だからでは? と思わず冷静に指摘しそうになるけど、僕の言葉を真摯に受け取ってくれるのが見て取れて……なんだか嬉しい。

「ねぇ? 優真さん? 大好きですよ?」

『供給過多だよぉ~~』

 とうとう床を転がり始める優真さんを見て、僕は不安がほどけていくのが分かった。

『あ゙~~~! ヤバい~~勃った! チンコいてぇ~~。どうしてくれるのぉ~これ。責任、取ってくれるよね~~?』

 突如として旗色が変わる。
 いや、突然何を言い出すんだこの人は?

「責任取るも何も……不可能では?」

 だいたい優真さんがどこにいるか実は知らない。

『自分でシテ見せて?』

 ん?

「ん?」

 声も出た。

『なんなら一緒にしよ?』

 なんか宣ったかと思えば、おもむろに前を寛げる優真さん。
 画面いっぱいに広がるソレは、既に思い切りいきり立っていて……こくりと口腔内に唾が湧く。

 飢えた犬みたいにはぁはぁと熱い息を無意識に零して。
 物欲しげに画面に食い入る。

 いつも僕をおかしくするあの長い指が、太い幹に絡みついて、卑猥な上下運動を始める。
 それだけで僕の思考はぐちゃぐちゃに掻き乱されて……。理性はほとほとと崩れ落ちていく。

「ゆぅま……さんっ……」

 促されるまま卑猥なポーズをスマホに映し、互いに果てた頃には……力尽きてそのまま睡魔に攫われていった。




 ……僕の周りで頻発する不可思議な出来事を優真さんに伝え忘れたと気づいたのは、朝日の中で通話の切れた真っ黒なスマホの画面を見た時だった。
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