袖すり合えば……恋が始まる

ニノハラ リョウ

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袖すり合うと……side洸太 13

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注)軽い性的描写が入ります。



「ちょっ!? だからっ! やめっ?!」

 椅子からずぼっと引き抜かれ、パソコンデスクの隣にある敷きっぱなしの布団の上に転がされる。
 ベッド? そんなもん急な引っ越しで買う余裕はなかった。

 ていうか、前もそうだったけど、優真さん力強いなっ! 長躯に見えるのにしっかり筋肉ついてるのは伊達じゃないな!?
 僕だって自称170センチあるはずなんだけど、ひょいひょい持ち上げられて色々メンタル削られるわっ! 男としての尊厳とかなっ!

「だからさぁ~、逃げちゃダメだよ~~って言ったじゃん? 俺、言ったよねぇ?」

 部屋の照明を背中に背負って、優真さんの顔が影に沈む。
 僅かに浮かび上がる唇の両端が上がって笑みを形作っているけど、吐き出される言葉はどこか冷たく……哀しい。

「ちょぇ?! だ、だって?! それっ?! んあっ!!」

 スウェットの裾をまくられて、あの長い指が僕の身体を這いまわる。
 男の身体に付いてる事になんの意味があるんだろうと常々思っていた部分にその指先が触れるだけで……僕のカラダはあの日の快楽を思い出して腰が跳ねた。
 逃げ出したくても頭の上で腕をひとまとめに掴まれて、優真さんの身体の下で無意味に自分の身体をくねらせる事しかできない。

「な~? こんなビンカンな乳首持っててさぁ~、俺の元離れて~、誰にヤラせるつもりだったのかなぁ~~。
 心配だなぁ~。ホント心配だよ……。
 なぁ? 聞いてンの?」

「あうっ!」

 じんじんと痛みと紙一重の疼きを溜めていたソコを抓られて、抓られたのに僕の脳内はソレを快楽と判断した。

「あ~、ホントかぁわぃぃなぁ~。もうさぁ~、洸太外出なくていいからさぁ~。俺のうちでイイコで待ってよ?」

「だっ?! そんなこっ……うぅ……んっ」

 涙の膜が張った目をなんとかこじ開けて優真さんを見上げると、そこには……泣き笑いの優真さんがいて……意味がわかんなかった。

 いや、アンタが捨てたんだろ?
 ヤった次の日、もういらないと言わんばかりに帰ってこなくなったのそっちだろ?
 なんでアンタが泣きそうなんだよ?
 泣きたいのは僕の方だ……っ!
 男にヤられて、めでたくもない童貞非処女ってヤツになって……。
 忘れたくて、忘れらんなくて……。
 捨てられたのに別の相手がいるって知って、どうしようもない激情に苛まれて。
 やきもちなんてガラじゃないのに。
 嫉妬なんて持っても意味がないのに。

 それでも……それでも……っ!!

「ふざっ! ふざけんなっ!!」

「ぐふっ!?」

 さっきまでのホラゲ配信で恐怖耐性が限界だったのも相まって、僕の精神はリミッターが外れたらしい。
 無理やり腹筋を使って身体を起こして、思い切りお綺麗な優真さんの顔に頭突きをかまして。

 ていうか、腕いてぇ……。肩外れるかと思った。

 だけど、油断しきっていた顔面に頭突きを喰らわせて、なんとか優真さんの拘束から逃れることが出来た。

「こ、こぉた?」

 手で鼻を押さえながら涙目でこちらを見る優真さんの鼻先に指を突き付ける。
 優真さんの指の隙間から赤いナニカが見えたような気がしたのは、気のせいだと後回しにした。

「アンタさぁ! いったい何がしたいんだよっ! いつもいつも好き勝手しやがってっ!!
 僕は……っ! 僕はっ! ちゃんと僕が好きな人としかヤりたくないんだよっ!
 だからこの年まで童貞なんだよっ!」

 分かれよっ! といつにない大声でぶちまける。あぁ、ホントこの部屋が防音で良かった。

「こうたは……俺のことまだ好きじゃ……ない?」

 涙目で鼻を赤くしたイケメンがこっちを見てくる。たらりと一筋鼻血が出ていたとしても鑑賞に堪えうるというのだから、ホントこの人顔面強いなっ!

「僕がアンタを好きだからって、セフレにしていい義理はねぇんだよっ!
 僕はなぁ! そんな都合のいいヤツになる気はないっ! 僕はコミュ障で根暗でオタクでついでになんか色々ダメダメだけどっ! 自分を安売りするつもりも、僕の好意を搾取するだけのヤツの相手をする気も毛頭ないわっ!」

「なんでそうなるんだよっ!」

「はぁ?! ヤった次の日から帰ってこないってそれヤリ捨てっていうんだよっ!
 大人しく出てってどこが悪いんだよっ! 一回ヤったからって次もホイホイケツ差し出すと思うなよ?!」

「だからなんでそうなるんだよっ! 俺、洸太のこと好きだって言ったよね? 大事にしたいって言ったよね? 付き合おって言ったよね? 恋人って言ったよね? なのになんでセフレって……「言ってない」……え?」

 僕のすんとした表情に思うところあったのかどうなのか、優真さんの言葉が止まった。

「え? 俺、付き合おって言ったよね?」

「それは言った」

 ついでにいうならその時の僕の返事は「……どちらにですか?」だった。

「え? え? じゃあなんで……?」

「……だって」

「え?」

「……きだって……」

「え? ごめん、聞こえないよぉ」

 きっと優真さんを下から睨みつけて、ついでにほっぺた引っ張って。ていうか相変わらず頬肉柔らかいなっ!

「好きだって言われてないっ!」
 
「……えぇ~~」

 いやなんだよその反応。失礼なやつだな。
 て、顔を覆うな顔を。

「あ~、いや、うん。あ゙~~! うん、わかってた、知ってたよ~。洸太が初心な子だって知ってたぁ~~」

 なんか小声でボヤくも、人のことを処女のオンナノコみたいだと称したことあんのはそっちだそっち。

 顔を覆ったまま上を見たり下を見たりなんだかせわしない動きをしていた優真さんだったが。

 ぐっと一度自分の顔を強くつかんで、僕に向き直った。
 グレーのカラコンが入った瞳はいつになく真剣で、いつも笑みの形に弧を描いている唇は真一文字に結ばれて。
 あの長い指が僕の手を取って。

「洸太、好き……デス。付き合って?」

 真っ赤な顔でそういうから……。

 僕は是と返すしかなかった。
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