袖すり合えば……恋が始まる

ニノハラ リョウ

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袖すり合うと……side洸太 9

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注)軽い性的表現があります。ちょっと短めです。


 
 「や、やめっ!」

 制止の声をあげるも、長い腕もすらりとした指もぬるりと動いて、僕の着ている物を一つ一つ剥いでいく。
 剥き出しの身体が熱い熱に包まれて、重なり合った部分が融け合いそうな錯覚を覚える。

 パソコンのモニタに気を取られていた僕は、部屋に入ってきた優真さんに気づくわけもなく、家探しをしていた僕を優真さんがどんな目で見ていたかも気づく事無く、気が付けば優真さんに運ばれて寝室のベッドに押し倒されていた。

「俺ね? 結構我慢してたと思うんだよね~。洸太がいちいち不慣れな処女みたいな反応するからさぁ~~。
 ちゃぁんと囲い込んで~、俺に慣れさせて~、そっからラブラブセックスしたかったんだよね~。
 ……だけどさぁ~、俺から逃げようとするなんて、さ」

 許すわけないよねぇ~。

 緩い口調とは裏腹に、ギラギラとした目は不穏に満ちていて、まるで肉食獣に睨まれたかのように身体が動かなくなる。
 がぷりとその咢を開いて、迫る唇。そのまま深く深く口づけられて。

 思考が白く染まっていく。困惑も快楽もどちらも抱えながら……どんどん流されていく。
 
「はっ! ゆぅま……さん! んぐぅ……」

 酸素を求めて離れた瞬間、直ぐにもう一度塞がれて。
 
 ぐちゅぐちゅと耳奥に響く水音とか、ぐるぐると巡る思考とか。
 なんで? とか、どうして? とか。
 何故、笑みの形に弧を描く唇から吐き出される呼気は熱を孕んでいるんだ? とか。
 何故、笑ってるみたいに弧を描いている目の奥に哀しみが満ちてるんだ? とか。
 何故……なぜ……ナゼ?
 泡沫のように何故が浮かんでは消えていく。

 だけど……。
 
 そんなの全部ぜんぶゼンブどうでもよくなる程に……。

 ただひたすらにメチャクチャにグチャグチャに貪られた。




 僅かに浮上した意識の向こう、スマホの着信音が聞こえて。
 ぎしりと軋み音を上げるベッドと、僅かに外側に傾くマットレス。
 夢うつつの向こう側で、ぽとりと落とされた台詞は。
 

 

「   」




 目を覚ますと、朝だった。
 ぎしぎしとあらぬ所と股関節とついでに色んな所が痛みに悲鳴を上げるのを無視して風呂へと向かう。

「うわっ」

 鏡に映る自分の姿に……ドン引きした。

 ありとあらゆるところに残された所有を、執着を示すような痕に、所々に付けられた歯形、ついでに腰の辺りには長い指の持ち主が残したであろう手形が赤々とその存在を示していた。

 シャワーから流れる水が滲みて、思わず顔を歪めてしまう。

 湯気に曇った鏡を掌で拭えば。
 そこには情けなく眉を下げた、凡庸な男が映っていた。

 風呂から出て改めて部屋を見回せば、部屋はしんと静まり返り、僕以外の気配を感じる事はなかった。
 それはまるで……取り残されたようで。

「っ! なんなんだよっ! あの人はっ!!」

 思わず悲鳴のような叫びが口を吐く。
 防音が整っているのを良い事に、恥も遠慮もなく当たり散らす。

「なんでっ! なんで僕なんかに関わるんだっ! かかわったんだっ!
 あの日っ! たまたますれ違ってっ! アクキー渡してっ! それだけで! それだけで終わりのはずだった!
 なのにさぁ! なんでだよっ! なんで近づく?! なんで踏み込んできた?!
 なんで……っ!」

 僕を抱きながら、泣きそうな顔で笑ってた優真さんの顔が、軽い口調の筈なのに何かを求めて希う声色が、全部全部忘れられない。忘れることができない。

 どういうことなのか一から十まで問いただしたいのに、その姿は今はない。
 ポツンと取り残された部屋はどこか冷たくて……他人の顔をして拒絶していた。

 その日から……。

 優真さんが帰ってくることはなくて。

 三日後、僕はその部屋を後にした。
 
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