猫をかぶるにも程がある

如月自由

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 午前零時過ぎ、俺は一樹の部屋のドア前で一樹を待っていた。「打ち上げ終わった!」という連絡を見て、電車に乗ってきたのだ。終電はギリギリあった。
 しゃがみ込んでぼうっとSNSを眺めていると、「ごめん、待ったよね」という声が聞こえた。顔を上げると、そこには申し訳なさそうな顔をした一樹が立っていた。
 俺は「大して待ってないから大丈夫」と言いながら立ち上がり、一樹がドアを開けるのを待った。
 一樹はドアを開けて廊下の電気をつけながら、再度申し訳なさそうな声で言う。

「ドアの前で長々と待たせちゃってごめん」
「いいって。俺から会おって言ったんだし」
「いやでも……あのさ、千冬くん」

 一樹は玄関の鍵置きの辺りをごそごそ漁り始めたかと思うと、何やら真剣な顔で俺を見た。

「えっと……いつ言い出すかずっと迷ってたんだけど」
「なに?」
「……これ、よかったら持っててくれない?」

 一樹が差し出してきたのは鍵だった。一樹が使っているものとはまた別の。「合鍵?」と聞くと一樹はうんと頷く。

「もらっていいの?」
「うん、千冬くんならいつ家に来てもいいから」
「そっか……ありがと、嬉しい」
「よかった」

 もらった俺より渡した一樹の方が嬉しそうだ。一樹は足取り軽く靴を脱いで、部屋の電気をつけた。

「ごめん、俺ちょっと酒とか汗で臭いかも。軽くシャワー浴びてきてもいい?」
「いいよー。俺テレビ見て待ってるわ」
「うん。千冬くんも次入る?」
「俺は家で入ってきたからいいや」
「分かったー」

 なんて会話をした後に、一樹は浴室へと姿を消した。
 俺はテレビをつけて、ぼうっと画面を眺めた。深夜帯のテレビはくだらなくて面白いバラエティが多いから、時間潰しには事欠かない。
 一樹はすぐに戻ってきた。Tシャツとジャージを身に纏っている。彼は髪をタオルで拭きながら、「なんか飲む?」と聞いてきた。

「え、酒? 一樹まだ飲むの?」
「さすがにもう飲まないかな。じゃなくて、えーっと……コーヒーならすぐ出せる。飲む?」
「じゃあ飲む。てか俺手伝うよ」
「いいよいいよ、座ってて」
「そう? ありがと。ブラックがいいな」
「はーい」

 ややあって一樹は、二人分のコーヒーを持ってきながら隣に座ってきた。カップを手渡す一樹にお礼を言ってから、俺は改めて「ライブお疲れ」なんて言った。

「ありがとう。千冬くん来てくれてありがとね。ああいうライブって行ったことないでしょ?」
「ないな。最初ライブハウスまで行けなくて迷ってたし」
「え、それ大丈夫だった?」
「何とか。佐々木さんっていうインディーズライブ大好きお兄さんに場所教えてもらった」

 ほら連絡先、今度この人と飲み行くんだ、と言いながらスマホを見せると、一樹は感心したような驚いたような呆れたような、複雑な表情になった。

「相変わらずコミュ力やば……」
「そんなこと美帆にも言われたな」
「美帆?」
「一緒にライブに来たサークルの友達。えっと、この写真のこの子」
「うっわめちゃくちゃ可愛い……元カノとかじゃないよね?」

 一樹は不安げな顔をしていた。そんな顔をしなくても、元カノを平気で「友達」と紹介するほど、俺は無神経じゃないのに。

「違うよ、友達の彼女。この写真の、こいつの」
「へー、髪色一緒だ。お似合いのカップルだね」
「だろ?」
「……何か千冬くんの友達ってみんな顔が良いな。類は友を呼ぶのか……」

 そんなとりとめもない会話をした後に、一樹はふと黙った。首を傾げると、一樹は恐る恐る口を開く。

「えっと……喫煙所で言ってたあれって、本当?」
「ああ、あれは――」

 俺はテーブルにコーヒーを置いて、ちゃんと一樹に向き直った。一樹が緊張した面持ちで俺のことを見る。

「本当。好きだよ、一樹」

 軽く唇を重ねたら、一樹の顔は赤くなっていた。視線を合わせないまま、一樹は小さく問う。

「な……何で? どこが?」
「どこ……うーん、どっか危なっかしくて放っとけないところとか? あとは例えば――」

 どこが好き、と言われても明確な好きポイントを一つ挙げることはできない。なんていうか、小さな「好き」がたくさん積もって今に至るから。
 だから俺は、一つ一つ挙げることにした。声や一樹の作る音楽もそうだし、日常の些細な癖や、笑い方、考え方、好みや趣味まで全て。

「だから、結局は全部になるのかな。答えになってるかは分かんないけど……一樹?」

 一樹はなぜか顔を伏せて隠していた。その耳は赤くなっている。あと、僅かに鼻をすする音が聞こえる気がする。

「え、一樹泣いてんの?」
「ごめん……死ぬほど嬉しくて……」

 俺は思わず笑ってしまった。そういえば、付き合ってって言葉に了承した時も泣いてたっけ。浮気してるのかって俺が勘違いした時も泣いてた。どんだけ俺のこと好きなんだよ、一樹。
 一樹はしばらくして、「ごめん、ちょっと顔洗ってくる」と立ち上がったから、俺はまた笑った。
 やがて戻ってきた一樹に「おかえり」と言うと、彼は気まずそうに「……ただいま」と呟いていた。

「一樹って、本当に俺のこと大好きだよな」

 知らない人が聞いたらとんだ自惚れ野郎の台詞に聞こえるかもしれないが、一樹は嬉しそうな顔をしていた。

「うん、大好き。こんなに好きな人は後にも先にも千冬くんだけだよ」
「ふふ、そっかぁ。俺も好き」
「う……待って、不意打ちの好きは反則……」
「何それ。まあ、だからさ、俺たち両思いで付き合ってるんだし、俺と別の相手との結婚なんて考えんなよ。悲しくなるじゃん」
「ご、ごめん……」
「いいよ。俺も、一樹のことが好きだって気付いた後に、ちゃんと言葉にして伝えてなくてごめん。正直、一樹があそこまで気にしてたなんて思わなくてビビった。え、あんな風に傷ついてたんだ、って」
「……気にするよ、そりゃ」

 一樹はやや目を伏せて、続けた。

「俺、千冬くんは俺のこと好きでも何でもないから、こいつだるいなってちょっとでも思われたら即振られるだろうなって思って、飲み込んだ言葉とかいっぱいあるし」
「マジ? たとえば?」
「たとえば、その……本当は俺、千冬くんにはサークル合宿に行ってほしくなかった。もし合宿で何かあって、元カノとか別の女とかに心が傾いたらどうしようって、本当はすごい怖くて」
「あー……まあそっか、元カノがいるサークルの合宿行くって嫌だよな。ごめん、それは俺の配慮が足りなかったわ」

 次からは気をつけよう、と反省していると、一樹は恐々と「……実際、何かあった?」と聞いてきた。

「うーん……あったと言えばあった」
「え、それどういうこと」
「いや、合宿中に元カノとたまたま二人きりになるタイミングがあって、その時により戻そうって言われはしたんだけど――」
「は? え、嘘でしょ待って、そんなん聞いてないんだけど」
「言う必要ないかなって。ちゃんと元カノ振ったし。俺は今こいつと付き合ってるから無理だよって、一樹の写真見せて。だからまあ、後ろめたいことは一切なかったし大丈夫」
「そ、っか……」

 複雑そうな顔になる一樹。「言った方がよかった?」と聞くと、彼はううんと唸った後に「聞かなきゃよかったとは思わないけど、別に聞いて楽しい話でもないし、いいよ」と首を振った。

「まあ、なんていうかさ、俺は一樹が色々我慢して陰で傷付いてる方が嫌だよ。言ってくれないと分かんねーじゃん」
「でも……俺たぶん、相当重いよ」
「重いって、たとえばどんな?」
「その……引くかもしれないけど、っていうかたぶん引くだろうけど、千冬くんに振られること考えて、割と一人で泣いてた……とか」

 驚いた。一樹はそんな素振り一つ見せなかったから。俺の何がそんなに不安にさせてしまっていたんだろう。

「ごめん、俺の何がそんなに不安だった?」
「えっ? い、いや、俺が勝手に不安がってるだけだよ! 千冬くんが気にすることじゃないから、大丈夫!」
「そう言われても……」

 一樹は目を伏せて、「その……」と少し言い淀んだ後、言葉を続けた。

「……俺にとって千冬くんって、本当に高嶺の花なんだよ。全然釣り合ってないし、今でもこうして付き合えてるのは奇跡で、この奇跡がいつ終わってもおかしくないと思ってる」

 一樹は心の底からそう思っているような目をしていた。何だかもやもやする。俺たちは対等で、一樹が俺に一方的に奉仕する関係なんて全然望んでいないから。
 だから俺は「じゃあさ」と口を開いた。

「一樹がそうやって不安にならないでいいくらい、俺もたくさん好きって伝えるよ。言葉でも、態度でも。だからそんなこと言うなよ」
「……信じても、いい?」

 俺は唇を重ねた。優しく唇を食んで、一樹がそっと手を伸ばしてきたから、それに応えて指を絡める。

「うん、信じて」

 吐息を感じるくらいの距離でそう囁く。一樹は本当に幸せそうに顔を綻ばせて「ありがとう」と頷いた。
 絡めた指を握り合って、見つめ合って、俺たちはどちらからともなく再び口づけをした。

 ちゅ、ちゅ、と優しい口づけを繰り返した後、次第にそれは深くなっていく。舌を吸われると、頭の芯がじんと痺れた。
 不意に、そっと床に押し倒された。キスは徐々に激しくなっていって、俺の身体は期待に熱を持ち始めた。身体の奥が疼いている。

「……する?」

 一樹は俺の大好きな声でそう尋ねた。答えなんて分かってるくせに。俺は「しよ……」と甘い声で答えた。駄目だ、俺もう、完全にスイッチ入っちゃってる。
 ベッドへ移動して、再び押し倒されて、俺は期待の目で一樹を見上げた。一樹は「かわいー……」と相変わらずのエロい声で囁くと、ゆっくり俺へと手を伸ばした。
 Tシャツをまくられ、一樹の手が俺の腹を這う。その手はやがて胸元に行き着いた。

「ぁん……」

 くに、と両方摘まれて、勝手に甘えるような声が出た。一樹は満足げに目を細めながら、乳首を責め続ける。
 気持ちいい。摘まれたり、すりすりと指の腹で撫でられたり、ざらりとした舌で舐められたり、軽く噛まれたり、吸われたりして、甘い痺れが止まらない。

「ここで随分感じるようになったね、千冬くん」

 一樹がにやにやと笑いながら言う。愛しさと嗜虐欲の入り混じった笑みだ。一樹のそんな強気な表情はセックスの時限定だから好き。
 ぐりぐりとやや強めに乳首を刺激されて、俺の腰は思わず浮いた。「あ、あ、あぁっ」と聞くに堪えない喘ぎが漏れる。

「女の子みたい。かーわいい」

 一樹の低くとろけた声が耳元に流し込まれる。俺の大好きな声だ。下腹部がきゅんと疼く。
 ただ声が好き、言葉責めされるのが好き、それだけじゃなくて、一樹が俺を気持ち良くさせようと頑張ってくれているところも好きだ。
 女の子みたいでかわいいって言葉責めは、一樹が俺のどうしようもない性癖に合わせてくれたものだ。本気でそう思ってはいないだろう。一樹は男しか抱いてこなかったし、同じ年頃の異性が苦手だしな。
 そういうところが好きだ。一樹は本当に俺のことが大好きなんだなって思う。

 一樹は俺のTシャツを脱がして、自分のTシャツも脱ぎ捨てた。そしてジャージを脱いで下着だけになってから、俺のパンツと下着の両方に手をかけた。
 甘い吐息が漏れる。腰を浮かせると、一樹は俺の耳元で「いい子」と囁いた。あー好きだ。一樹のその声が堪らなく好き。
 一樹はするりと脱がしてきて、俺の内腿に手をやった。

「ん……」

 焦らすように撫でられる。一樹の手はゆっくりと中心へと向かっていく。
 一樹は不意に俺の内股に唇を寄せた。チリッとした痛みが走る。見ると、一樹は俺の足の間でうっとりと目を細めていた。

「つけちゃった」
「キスマ?」
「うん。本当はずっとこうしたかった」

 一樹はついさっき付けたキスマークを舐めて、そっと囁いた。

「俺だけの千冬くんでいてくれる?」

 一樹の目には熱がこもっていた。触れたら火傷してしまいそうなくらいの熱が。その熱に煽られて、俺の身体の奥もかっと熱くなった。
 好きだ。一樹のことが好き。さっきからそればかり思っている気がする。
 俺は手を伸ばして、一樹の頰を少しだけ撫でた。一樹は愛しげに俺を見つめている。

「じゃあ、一樹も俺だけの一樹でいてよ」
「言われなくても」

 再び俺の足の間に顔を埋めた一樹は、そのまま俺の陰茎にキスをした。

「頭から爪先まで全部、俺はとっくに君だけのものだよ」
「っひ、ぁ……っ」

 奥まで咥えられ、身体が震えた。裏筋やカリを舌でくすぐりながら、唇でしごくようにしてしゃぶられる。気持ち良くて、腰がとろけてしまいそうだ。
 射精感が込み上げてくる。俺は息を荒げながらシーツをきつく握った。

「う……一樹、イキそ……っ」

 このまま出していいよ、と一樹の目が言っていた。とどめとばかりにずるる、と吸われ、目の前がぱっと弾けた。大きく脈打って、白濁を吐き出す。
 結構勢いよく出てしまった。一樹はそれを全て、躊躇ひとつ見せずに飲み下していく。それどころか「ごちそうさま」と機嫌良く上唇を舐めてみせた。絶対まずいのにな、精液。
 射精した後特有の虚脱感が身体を包んでいたが、一樹は俺に休む暇を与えない。一樹は俺をうつ伏せにさせて、手で双丘を割り開いた。

「あ、一樹待っ」
「待たない」
「っ、ひ、あああっ……」

 一樹の舌がその奥に容赦なく入り込んでくる。あんまりまじまじと見られたくない場所を、間近で見られているどころか舐められている、という事実に、恥ずかしくて頭が沸騰しそうだ。

「やだ、一樹やだ、あぁっん、ン、やだ、やだぁ……っん」

 身体がビリビリ痺れている。恥ずかしいし嫌だ。けど、その羞恥心が興奮を際限なく煽っていく。恥ずかしい、気持ちいい。頭くらくらする。
 一樹にどうにでもしてほしい。
 俺はやだやだ言いながらも、あんあん喘いで腰を揺らしていた。説得力がゼロだ。

「嫌じゃないでしょ、千冬くん」
「やだ、はずかしい……っ」
「嘘つき。恥ずかしいのが好きなくせに」

 パシン、と尻を叩かれる。何かを思うよりもまず、「あぁっ……」と身体をのけぞらせた自分に驚いた。
 嘘だろ。俺、今ので感じちゃった?

「あ、ちが、今のは」
「お尻叩かれて気持ち良くなっちゃったんだ?」
「うー……っ」

 俺は顔を覆って唸った。顔が熱くなるのが自分でも分かる。恥ずかしい。日に日に性癖がヤバくなっている気がするんだけど、本当にどうしよう。

「ほんっと……かわいい」

 そろそろと振り返ると、一樹が潤滑剤を手に垂らしているのが見えた。そして一樹はゆっくりと指を中へ入れた。
 あ、来る。下腹部が期待でずくんと疼いた。
 一樹は焦らすように浅く出し入れをした。もどかしくて、身体の奥で燻っている熱が苦しい。早く、もっと、奥に来てほしい。

「あ……一樹、それやだぁ……」
「んー? やだって何が? ちゃんと言わなきゃ分かんないよ」
「ひんっ……」

 再び尻を叩かれ、俺は背中をびくりと震わせた。どうしよう、駄目だ、やっぱり気持ちいい。
 心臓が耳の隣にあるのかってくらいうるさく鳴っている。俺は荒い息を吐きながら、訳が分からないくらい興奮していた。もうセックスのことしか考えられない。
 早く、早く。一樹に奥まで犯してほしい。

「一樹、奥、奥入れて、」
「奥? こう?」
「~~っ!」

 いきなり奥まで入れられ、気持ちいいところを容赦なく押されながら、激しく指を出し入れされる。俺は声にならない悲鳴を上げた。
 さっきまでとは比べ物にならない気持ちよさだ。深いところからひっきりなしに快感が湧き起こってくる。

「あぅ、あんっ……ッんんん……っ! ああぁっ、はぁーッ……」

 一樹は先ほどの焦らしとは裏腹に、やや性急に指の本数を増やしていった。ぐぽぐぽといやらしい音が鳴っていて、それが興奮をさらに煽る。

「あー……ほんっとにかわいい。俺もう限界」
「っあ……」

 不意に指を抜かれ、俺はもどかしさに身体をくねらせた。何で、と振り向くと、一樹は今まさにゴムの封を切っているところだった。
 一樹はぎらついた目で俺という獲物を狙っていた。雄の欲望と支配欲に満ちた目だ。視線を下にやると、一樹の陰茎は既に大きく反り立っていた。
 全身がきゅうんと疼いた。身体が一樹を欲しがっている。早くハメてほしい。奥をいっぱい擦って種付けしてほしい。……俺のこと、雌にしてほしい。

 腰を両手で強く掴まれる。その力の強さに生唾を飲み込んだ、次の瞬間。やや強引に中をこじ開けられ、奥までずんっと突かれ、今まで溜めに溜めた快感が一気に解放された。

「ッ、ァああああああっ……!」

 イッた、と気付いたのは数秒遅れてからだった。全身が痙攣して中の勃起をきつく締め付ける。
 一樹は俺の腰を掴んだまま、強く腰を打ちつけてきた。いやらしい水音と肉を打つ音が響く。
 気持ちいい。好き。一樹が好き。

「あ、ひっ……! そこッすき、すきぃ……ッ! んン、っあぅッ、あああァッ!」
「は……気持ちいい?」

 一樹は分かってるくせにそんなことを聞いてきた。奥をゴリゴリと容赦なく抉りながら。
 俺は気持ちよくて訳が分からなくなりながら、必死に首を縦に振った。きもちいい、とうわ言みたいに何度も答える。

「そんなに俺のチンポ好き?」
「す、きッ……ちんぽ、すき、しゅき、ひぃあッ……! ッあ、あんンっちんぽしゅき、しゅきぃッ……!」

 理性なんてどこかへ吹っ飛んだ。俺は繰り返し「ちんぽしゅき」と喘いだ。こんないやらしいことを媚び媚びの声で言ってる自分にも興奮する。
 視界がチカチカ明滅する。もう何も考えられない。気持ちいい、イキそう。

「淫乱」
「っうぅううううッ……!」

 俺の大好きな声でそう囁かれて、俺は達した。凄まじい快感が全身を駆け抜けて、頭が真っ白になる。
 イッている最中にも容赦なく突かれて、俺はあまりの快感に頭がおかしくなりそうで、思わず逃げそうになった。が、それを察した一樹が後ろから羽交い締めにしてくる。
 羽交い締めにされながらバックで何度も突かれる。絶対に逃げられない状態に興奮して、俺は再びイッた。

「~~~~ッ! ッ、あ、」
「逃げてんじゃねえよ」
「あ゛ああああァっ!!」

 またメスイキした。繰り返し絶頂しすぎてもう頭バカになる。気持ちいいってことしか分かんない。

「ッあ゛ァっ! も、やら、やらァっいぐの、とま゛らにゃっ、~~っ! おくッごりごり、しな、あ゛あああッ、しんじゃ、しんじゃうッしぬッ、う、あ゛あああッッ!」
「はー……ッ、かわいい、死ぬほどかわいい……っ、イク――ッ」
「ひぃ、~~~~~~ッ」

 俺の中で大きく脈打って、一樹は精を吐き出した。長い射精が終わった後、ようやく解放された俺は、うつ伏せに横たわりながら余韻に震えた。

「は、はひ……はァ、はーー……ッ」

 一樹はゴムの口を結んで捨てた後、「千冬くん」と俺の名前を呼んだ。仰向けに体勢を変えて「なに?」と聞くと、すぐさま唇が重ねられる。
 舌を優しく絡められて、そっと頭を撫でられて、セックスの余韻が残っていた俺はすぐにメロメロになった。一樹の首に両手を回して、ぎゅうと抱き締めながら一樹に応える。
 やがて唇を離して、俺たちは鼻先がくっつきそうな距離で笑い合った。胸がいっぱいになって、好きだなあって、強く思った。

「一樹ぃ」
「ん?」
「好きだよ。大好き」

 素直にそう口にしたら、一樹は撃沈した。じわじわと顔を赤くした後、俺から離れてうずくまり、「うー……」と呻きだした。

「え、なに?」
「死ぬからあんまり迂闊に好きって言わないで……」
「いやなに? どういうこと?」

 うずくまっている一樹の上にまたがって、手を無理やりどかして、顔を覗き込んでみる。そしたら一樹は、面白いくらいに顔を赤くしていた。

「あはは。顔真っ赤」
「だって」
「一樹ほんとに俺のこと大好きじゃん、俺も大好きだよ」
「うぁ……」
「あははは!」

 悶えている一樹をからかって遊んでいたら、一樹がそわそわし始めた。首を傾げると、一樹は遠慮がちに言った。

「この体勢、正直ちょっとヤバい」
「ヤバいって何が?」

 一樹は返答代わりに少し身体を動かした。そうしたら俺の尻に熱くて硬いものがぴったりと当たる。

「……バキバキじゃん」
「俺の上にまたがった君が悪い」

 俺はちょっと悪戯心が湧いて、そのまま腰を動かして素股をしてみた。一樹は眉を寄せて「は……」と吐息を漏らした。

「本当に我慢できなくなるんだけど」
「しなくていいって言ったら?」

 こんなことをしていたら、俺まで再びむらむらしてきた。下腹部がきゅんきゅん疼いている。
 俺はその疼きに従って、ゆっくり腰を落とした。一樹が目を見開く。

「待って、ゴムしてな――」
「いいよ別に。俺も我慢できなくなっちゃった。ん……あ、あァ……っ」

 奥までずっぽり咥え込んで、俺は「すご……」と呟いた。いつもより奥に当たっている。気持ちいい。

「あー……きもちい。好き……」

 ごくりと、一樹が生唾を飲む音が聞こえた。見ると既に、俺に狙いを定めた雄の顔になっていた。目が欲望でぎらついている。一樹のその顔が好きだ。

「あは……いっぱい種付けされちゃう」
「ほんっとに……どこまで俺を煽れば気が済むんだよ」
「ひぃ、うッ……」

 奥をぐりぐりされて、俺は身体を震わせた。思わず腰を引いたら、再び奥まで強く突き上げられる。

「あぁああっ……」
「ほら、自分でもちゃんと動いて? 俺のこと散々煽ってその気にさせたんだから」


 ……この後、俺が煽ったことをすぐ後悔する羽目になったのは、言うまでもない。
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