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番外編
1 催淫魔法
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「……催淫魔法、ですか?」
「ああ。お前は使えるか?」
「それは……長く生きておりますし、大抵の魔法は使えますが……」
「ならば話は早い。床に入る前、私にそれをかけろ」
カノンの赤い瞳は期待に輝いていて、私は絶句した。
「ええと……カノン? 催淫魔法というのは既にほぼ廃れた、いわば禁術とでも呼ぶべき代物で……かつて性奴隷が存在した時代に、奴隷の強引な調教のため用いられた魔法でして……決して、伴侶や主君にかけるものではありませんので……」
「できないのか?」
「可能かと言われれば可能ですが……例えばですね、こう考えてみていただけますか。いくら相手に許されたからとはいえ、主君を足蹴にする配下がどこにいます?」
「ここにいるだろうが」
婉然とした笑みとともに頬を撫でられ、私は思わず口ごもった。確かに昨夜は主君を足蹴にしたが、それはカノンに頼み込まれたからで……。
カノンは官能をくすぐる笑みを浮かべながら私のおとがいを持ち上げ、耳元でひそやかに囁く。
「ヒューイ……お前は私が乱れる姿を見たくないのか?」
その声の色気に耳が犯されていくように感じる。つい頷きそうになって――私は慌ててかぶりを振った。危ない。私はいつもいつも彼の色気に唆されて、色々なことをやらされるのだ。
「あ……あなたはいつもそうやって……。催淫魔法などなくても、あなたは毎晩乱れているでしょうに」
「ははは、確かにそうだ。私は毎晩乱れている。それもこれも、お前に触れられお前の男根に貫かれると、それ以外何も考えられなくなってしまうからだな……」
囁きとともに陰部をするりと撫でられ、私は思わず息を詰めた。
「だが、いつも以上に乱れる私を見たくはないか? 私は、本当にお前以外のことを考えられなくなるまで、お前に狂いたい……駄目か?」
カノンのうっとりとした微笑みに、とうとう私は白旗を上げた。
「……危ないと感じたら、即刻やめさせていただきますからね」
「ああ」
カノンのしたり顔に、ああまた懲りもせず負けてしまった、と心の内で後悔しつつ、私は慎重に催淫魔法をかけた。が、カノンは首を傾げるだけ。
「……本当にかけたか?」
「かけましたよ。……あなたに耐性があって効かないだけなのでは?」
内心ほっとしつつ聞くが、カノンは、いや、と首を振った。
「それはない。私はあえて催淫魔法の耐性をつくらなかったのだから。それに、覚えていないか? 私がお前に初めて抱かれた日のことを」
「ああ……」
思い出した。私とカノンが関係を持ったきっかけは、ある勇者がカノンにかけた催淫魔法だった。
「……分かった。お前、全力でかけていないだろう」
「それは、そうですが……あなたに全力で催淫魔法をかけるなど、できるはずないではありませんか」
「全力でないと意味がないだろうが。……なら、これは命令だ。私に全力で催淫魔法をかけろ」
「えええ……」
……まさか、世界で一番愛する人に、催淫魔法を全力でかけろと命令される日が来るとは思っていなかった。
いくらカノンを(彼自身の頼みによってだが)ベッドの上でぞんざいに扱おうとも、カノンへの忠誠心が陰りを見せたことは一度たりともない。カノンは私の一番愛する伴侶であると同時に、何よりも忠誠を誓う主君だ。
だから、さすがに性奴隷の調教に用いるような魔法を使うのは気がひけるのだが……彼の期待に満ちた目を見て、私は自棄になった。もし何か不都合があっても、彼なら自力で何とかできるはずだ。
一度深呼吸をした後、私は全力で催淫魔法をかけた。額に汗が滲むほど全力で。
「あぁ……」
カノンは恍惚とした顔で体を震わせた。そして息を荒げながら、自ら衣を脱いでいく。
「か……カノン?」
少しやり過ぎたか、と内心冷や汗をかいていると、カノンは私をベッドの上に押し倒し、服越しに私の局部に頬擦りした。
「ヒューイ……これが、ほしい……舐めていいか?」
この世で一番美しい顔が、私の股の間でとろりと微笑んでいる。私の男根に媚びるような目を向けて、頬擦りをしながら。
その艶やかな黒髪を撫でると、彼はそれだけで「んぅ……」と身をくねらせた。ああ、もう――どうにでもなれ。
「どうぞ」と言いながら服から取り出すと、カノンはすぐさま私の雄に接吻をして、その美しい唇の中に飲み込んでゆく。
「んっ……ふぅ、んン……」
美味しそうに私のものを咥えながら、もじもじと腰をくねらせるカノン。その陰茎からは、とろとろと先走りが流れている。
「本当に、美味しそうに舐めますね……」
「ん……ヒューイの、おいひい……」
「ッ……」
危なかった。つい吐精してしまいそうになったのをぐっと堪える。私自身も、さっきから彼の痴態に煽られて限界寸前だ。気付けば息が荒くなって、猛々しい欲望が身体を灼いている。
「カノン、もっと奥まで……」
「んんんンンッ……!」
言いながら、綺麗な黒髪を引っ掴んで喉奥まで突っ込んだ。亀頭が喉奥に擦れる感覚に頭の芯が痺れる。
彼のいやらしい姿を見ていると、手酷く扱って泣かせたくなるから困る。こんな荒い欲望、私の中にはなかったはずなのに。
その赤い瞳に浮かぶ涙は、快感ゆえのものだろう。カノンは恍惚とした表情で身を震わせ、彼自身のものからは、我慢汁どころか白濁がとくとくと流れ出ている。
一切触れていないのに達したカノンを見ながら、ああ確かに催淫魔法の効果は凄まじい、と感じた。
私はそのままカノンの口内を犯した。私が口内を突くたびに、カノンはくぐもった嬌声を上げて身体を震わせ、媚びるような目をしてもっともっとと訴えかけてくる。
口内を擦れる温かい感触に頭の芯がぼんやりと痺れていって、もうカノンのことしか考えられない。
「はぁ……ハァ、うっ、出る……ッ」
とうとう我慢しきれなくなって、喉奥にそのまま吐精した。カノンは嬌声を上げて善がりながら、その精を躊躇いもなく飲み下した。
「ん、はぁ……おちんぽすきぃ……」
甘く上擦った声で囁くカノン。私に喉奥を犯されている間何度達したのか、彼はシーツをぐしょぐしょに濡らしながら腰を揺らしていた。多分、もう理性は残っていない。
私の男根で喉奥を突かれただけでここまで感じているカノンが愛おしい。私だけだ。私だけが知っているカノンだ。私だけのカノンだ。
催淫魔法も悪くない。こんなカノンの姿が拝めるのであれば。催淫魔法などという凶悪な魔法で乱れさせられるカノンの姿に、昏い欲望が満たされる。
頭がクラクラする。私自身も、きっと既に理性ではなく本能に身を委ねている。
私はベッド脇のサイドテーブルから香油を取り出した。そしてカノンを押し倒し、開脚させ、その香油を纏わせた指を中に挿入した。
「ひいぅッ……」
カノンが大きく身体を震わせる。それに合わせて未だ硬く張り詰めている彼の陰茎も震えた。中がきゅうんと締め付けてくる。
その中の気持ち良さを思い出して、腹の奥がずくりと疼いた。私のものも、みるみるうちに硬さを取り戻していく。
中を解しながらカノンが特に感じる場所を引っ掻くように刺激すると、カノンは「あ、あ、ァ」と喘いで目を蕩けさせた。
そのうちいいところを刺激するのをやめ、焦らすようにゆっくりと抜き差しをし始めると、もどかしそうな表情をしてカノンが自ら腰をへこへこと揺らし始めた。
「あぁん……おちんぽ欲しぃ……犯して、ッ、私のこと、めちゃくちゃにしてぇ……」
体の芯がかっと燃えた。私は我慢できなくなってカノンの腰を掴んだ。
「カノン、私の男根が欲しいですか?」
「はぁ……ほしいっ、いれてぇ……はやく、はやくぅ……ッ!」
その男根に媚びるさまは発情しきった淫魔のようで、私は本能のままに、挿入――、
「――あ」
先にそれに気付いたのはカノンだった。彼は急に冷静さを取り戻した顔になり、私を制すと、不意に部屋の一角へと手をかざした。
「カノン、――」
私が言葉を発するより先に、部屋の中が黒い光で灼けた。目の前が一瞬眩む。見ると、部屋の一角で横たわる何者かに、カノンが放った闇魔法の矢がいくつも突き刺さっていた。
困惑しきりの私をよそに、カノンは魔法で普段の衣服を纏い、呻き声を上げるその者へと歩み寄った。
「ただ情事を盗み見るだけだったら、見逃したんだがな」
「あんたッ……まさか、気付いて――?」
「最初からな。気配が漏れ出ていたぞ。その程度でこの私を殺せるなどと思い上がったのが貴様の敗因だ。だが、私の寝室の結界を秘密裏に破って侵入できたことだけは褒めてやろう」
私は慌てて衣服を直し、カノンの元へと駆け寄った。見ると、黒装束を纏ったその者――恐らく刺客は、既に息も絶え絶えの状態でカノンを睨んでいた。
「あの、カノン、一体いつから――」
「私がヒューイの男根をしゃぶり始めた辺りからだな」
「ほとんど最初からではありませんか……! それほど前から気付いていらして、どうしてすぐに対応なさらないのです!」
訳の分からなさと、このような二人の秘め事を盗み見られた恥辱と、カノンが刺客に命を狙われた怒りとが入り混じって、私はつい声を荒げてしまった。けれどカノンは、うっとりとした笑みを浮かべて答える。
「第三者に見られながらする行為も、なかなか乙なものだろう?」
「全く……どうしてそう性への探究心が困った方向に強いのです! 一体どこに、刺客に情事を盗み見られながら身体を昂らせる君主がいるというのですか……!?」
「ここにいるが」
「~~っ、ああ、もうっ!」
カノンの唯一の欠点がこれだ。性的な冒険をしすぎる。肝が冷えた経験は一度や二度ではないが、ここまで狂った行為は初めてだ。命を危険に晒しながら行う情事はさすがに間違っていると思うのだが……。
そのやるせなさをぶつけるべく、私は刺客の胸ぐらを掴み上げて低い声で恫喝した。
「おい貴様、どこの手の者だ。何の目的があって魔王様を害そうとした」
「言う……訳、ないだろうが……」
「貴様の全身の骨を折って爪を全て剥がし、歯も全て砕き、四肢をゆっくり捻じ切り、片方ずつ目を潰し、髪を引き抜き、陰部を叩き切った後で内臓を一つひとつ凍らせながら殺しても良いのだぞ」
「くくっ……俺を、見破れなかった程度の、雑魚が……よく言う……」
「そうか、貴様は拷問されながら殺されるのが好みであるようだな」
今すぐそうしてやる、と意気込んだ私を手で制したのはカノンだった。
「ヒューイ、此奴には本当に気付かなかったのか?」
「…………申し訳ありません」
「ああ、違う。責めてはいない。ふむ……私の結界を破ることができ、私の魔法でも即死せず、なおかつヒューイが侵入に気付かないほどの手練れか……殺すには少し惜しいな」
カノンは少し考え込み、おもむろにしゃがんでその刺客に問いかけた。
「お前、私に寝返らないか? 何が欲しい、言ってみろ」
「っ……馬鹿か、あんたは……」
「馬鹿で結構。どうせ私を害せる者など、もうこの世には誰一人としていない。それで?」
「…………死病に、侵された、妹を……救える方法が、欲しい……」
「いいだろう」
カノンは迷うことなく闇魔法の矢を消し、即座に刺客に回復魔法をかけた。
私が驚いて「カノン!」と声を荒げるも、彼は私を再び制す。
「明日の朝、お前の主人の首をここに持ってこい。そうしたら妹の病は治してやろう」
「……本当、だろうな」
「私を誰だと思っている? この魔王に不可能なことなど存在しない」
その刺客はしばし唇を噛んで黙っていたが、やがて微かに頷き、すぐにその場から姿を消した。
「……カノン! どうしてあの者を助けたのです! あなたを殺そうとしたのですよ!?」
「だが私にもお前にも害はなかった。ならそれで良いだろう。それに、以前より裏で動かせる者がいれば便利だと感じていたしな」
「だからって……!」
私はそう語気を強め――不意にあることに気付いた。カノンは今平然とした顔をしているし、刺客に気付きその動向を意識するだけの余裕があった。
ならば――催淫魔法の効果は、実はほとんどなかったのでは?
それを尋ねると、カノンは途端に気まずげな顔になった。
「あー……いや、そんなことはない。きちんと効いているぞ。ええと……そう、身体が火照っている」
「それだけではいつもとあまり変わらないではありませんか……」
「い、いや、それだけではなく……私の前世には、プラセボ効果という言葉があってだな……」
「……何です、それ?」
「その……偽薬効果とも言ってだな、有効成分のない偽薬を飲んでも、暗示や思い込みによって効果が現れる現象のことで……」
「……つまり、実際の効果はほとんどなかったということですよね?」
カノンは目を逸らした。それが何よりの答えだ。
かける前にあそこまで躊躇ったのも、始めてからあんなにノリノリになったのも、今となっては何もかもが恥ずかしい。しかも、それを第三者に盗み見られていた。
顔を覆って唸っていると、苦い声でカノンが呟いた。
「……すまない。どうやら、昔勇者にかけられた際に耐性ができてしまったみたいでな……。実際にやってみて気付いたことで、私としても非常に残念なのだが」
「…………分かりました。では私はもう寝ます。おやすみなさいませ」
「そんな殺生な……!」
悲痛な声が聞こえたが、無視をして私はベッドに横たわり、カノンに背を向けて目を閉じた。何というか、もう……疲れた。
「ああ。お前は使えるか?」
「それは……長く生きておりますし、大抵の魔法は使えますが……」
「ならば話は早い。床に入る前、私にそれをかけろ」
カノンの赤い瞳は期待に輝いていて、私は絶句した。
「ええと……カノン? 催淫魔法というのは既にほぼ廃れた、いわば禁術とでも呼ぶべき代物で……かつて性奴隷が存在した時代に、奴隷の強引な調教のため用いられた魔法でして……決して、伴侶や主君にかけるものではありませんので……」
「できないのか?」
「可能かと言われれば可能ですが……例えばですね、こう考えてみていただけますか。いくら相手に許されたからとはいえ、主君を足蹴にする配下がどこにいます?」
「ここにいるだろうが」
婉然とした笑みとともに頬を撫でられ、私は思わず口ごもった。確かに昨夜は主君を足蹴にしたが、それはカノンに頼み込まれたからで……。
カノンは官能をくすぐる笑みを浮かべながら私のおとがいを持ち上げ、耳元でひそやかに囁く。
「ヒューイ……お前は私が乱れる姿を見たくないのか?」
その声の色気に耳が犯されていくように感じる。つい頷きそうになって――私は慌ててかぶりを振った。危ない。私はいつもいつも彼の色気に唆されて、色々なことをやらされるのだ。
「あ……あなたはいつもそうやって……。催淫魔法などなくても、あなたは毎晩乱れているでしょうに」
「ははは、確かにそうだ。私は毎晩乱れている。それもこれも、お前に触れられお前の男根に貫かれると、それ以外何も考えられなくなってしまうからだな……」
囁きとともに陰部をするりと撫でられ、私は思わず息を詰めた。
「だが、いつも以上に乱れる私を見たくはないか? 私は、本当にお前以外のことを考えられなくなるまで、お前に狂いたい……駄目か?」
カノンのうっとりとした微笑みに、とうとう私は白旗を上げた。
「……危ないと感じたら、即刻やめさせていただきますからね」
「ああ」
カノンのしたり顔に、ああまた懲りもせず負けてしまった、と心の内で後悔しつつ、私は慎重に催淫魔法をかけた。が、カノンは首を傾げるだけ。
「……本当にかけたか?」
「かけましたよ。……あなたに耐性があって効かないだけなのでは?」
内心ほっとしつつ聞くが、カノンは、いや、と首を振った。
「それはない。私はあえて催淫魔法の耐性をつくらなかったのだから。それに、覚えていないか? 私がお前に初めて抱かれた日のことを」
「ああ……」
思い出した。私とカノンが関係を持ったきっかけは、ある勇者がカノンにかけた催淫魔法だった。
「……分かった。お前、全力でかけていないだろう」
「それは、そうですが……あなたに全力で催淫魔法をかけるなど、できるはずないではありませんか」
「全力でないと意味がないだろうが。……なら、これは命令だ。私に全力で催淫魔法をかけろ」
「えええ……」
……まさか、世界で一番愛する人に、催淫魔法を全力でかけろと命令される日が来るとは思っていなかった。
いくらカノンを(彼自身の頼みによってだが)ベッドの上でぞんざいに扱おうとも、カノンへの忠誠心が陰りを見せたことは一度たりともない。カノンは私の一番愛する伴侶であると同時に、何よりも忠誠を誓う主君だ。
だから、さすがに性奴隷の調教に用いるような魔法を使うのは気がひけるのだが……彼の期待に満ちた目を見て、私は自棄になった。もし何か不都合があっても、彼なら自力で何とかできるはずだ。
一度深呼吸をした後、私は全力で催淫魔法をかけた。額に汗が滲むほど全力で。
「あぁ……」
カノンは恍惚とした顔で体を震わせた。そして息を荒げながら、自ら衣を脱いでいく。
「か……カノン?」
少しやり過ぎたか、と内心冷や汗をかいていると、カノンは私をベッドの上に押し倒し、服越しに私の局部に頬擦りした。
「ヒューイ……これが、ほしい……舐めていいか?」
この世で一番美しい顔が、私の股の間でとろりと微笑んでいる。私の男根に媚びるような目を向けて、頬擦りをしながら。
その艶やかな黒髪を撫でると、彼はそれだけで「んぅ……」と身をくねらせた。ああ、もう――どうにでもなれ。
「どうぞ」と言いながら服から取り出すと、カノンはすぐさま私の雄に接吻をして、その美しい唇の中に飲み込んでゆく。
「んっ……ふぅ、んン……」
美味しそうに私のものを咥えながら、もじもじと腰をくねらせるカノン。その陰茎からは、とろとろと先走りが流れている。
「本当に、美味しそうに舐めますね……」
「ん……ヒューイの、おいひい……」
「ッ……」
危なかった。つい吐精してしまいそうになったのをぐっと堪える。私自身も、さっきから彼の痴態に煽られて限界寸前だ。気付けば息が荒くなって、猛々しい欲望が身体を灼いている。
「カノン、もっと奥まで……」
「んんんンンッ……!」
言いながら、綺麗な黒髪を引っ掴んで喉奥まで突っ込んだ。亀頭が喉奥に擦れる感覚に頭の芯が痺れる。
彼のいやらしい姿を見ていると、手酷く扱って泣かせたくなるから困る。こんな荒い欲望、私の中にはなかったはずなのに。
その赤い瞳に浮かぶ涙は、快感ゆえのものだろう。カノンは恍惚とした表情で身を震わせ、彼自身のものからは、我慢汁どころか白濁がとくとくと流れ出ている。
一切触れていないのに達したカノンを見ながら、ああ確かに催淫魔法の効果は凄まじい、と感じた。
私はそのままカノンの口内を犯した。私が口内を突くたびに、カノンはくぐもった嬌声を上げて身体を震わせ、媚びるような目をしてもっともっとと訴えかけてくる。
口内を擦れる温かい感触に頭の芯がぼんやりと痺れていって、もうカノンのことしか考えられない。
「はぁ……ハァ、うっ、出る……ッ」
とうとう我慢しきれなくなって、喉奥にそのまま吐精した。カノンは嬌声を上げて善がりながら、その精を躊躇いもなく飲み下した。
「ん、はぁ……おちんぽすきぃ……」
甘く上擦った声で囁くカノン。私に喉奥を犯されている間何度達したのか、彼はシーツをぐしょぐしょに濡らしながら腰を揺らしていた。多分、もう理性は残っていない。
私の男根で喉奥を突かれただけでここまで感じているカノンが愛おしい。私だけだ。私だけが知っているカノンだ。私だけのカノンだ。
催淫魔法も悪くない。こんなカノンの姿が拝めるのであれば。催淫魔法などという凶悪な魔法で乱れさせられるカノンの姿に、昏い欲望が満たされる。
頭がクラクラする。私自身も、きっと既に理性ではなく本能に身を委ねている。
私はベッド脇のサイドテーブルから香油を取り出した。そしてカノンを押し倒し、開脚させ、その香油を纏わせた指を中に挿入した。
「ひいぅッ……」
カノンが大きく身体を震わせる。それに合わせて未だ硬く張り詰めている彼の陰茎も震えた。中がきゅうんと締め付けてくる。
その中の気持ち良さを思い出して、腹の奥がずくりと疼いた。私のものも、みるみるうちに硬さを取り戻していく。
中を解しながらカノンが特に感じる場所を引っ掻くように刺激すると、カノンは「あ、あ、ァ」と喘いで目を蕩けさせた。
そのうちいいところを刺激するのをやめ、焦らすようにゆっくりと抜き差しをし始めると、もどかしそうな表情をしてカノンが自ら腰をへこへこと揺らし始めた。
「あぁん……おちんぽ欲しぃ……犯して、ッ、私のこと、めちゃくちゃにしてぇ……」
体の芯がかっと燃えた。私は我慢できなくなってカノンの腰を掴んだ。
「カノン、私の男根が欲しいですか?」
「はぁ……ほしいっ、いれてぇ……はやく、はやくぅ……ッ!」
その男根に媚びるさまは発情しきった淫魔のようで、私は本能のままに、挿入――、
「――あ」
先にそれに気付いたのはカノンだった。彼は急に冷静さを取り戻した顔になり、私を制すと、不意に部屋の一角へと手をかざした。
「カノン、――」
私が言葉を発するより先に、部屋の中が黒い光で灼けた。目の前が一瞬眩む。見ると、部屋の一角で横たわる何者かに、カノンが放った闇魔法の矢がいくつも突き刺さっていた。
困惑しきりの私をよそに、カノンは魔法で普段の衣服を纏い、呻き声を上げるその者へと歩み寄った。
「ただ情事を盗み見るだけだったら、見逃したんだがな」
「あんたッ……まさか、気付いて――?」
「最初からな。気配が漏れ出ていたぞ。その程度でこの私を殺せるなどと思い上がったのが貴様の敗因だ。だが、私の寝室の結界を秘密裏に破って侵入できたことだけは褒めてやろう」
私は慌てて衣服を直し、カノンの元へと駆け寄った。見ると、黒装束を纏ったその者――恐らく刺客は、既に息も絶え絶えの状態でカノンを睨んでいた。
「あの、カノン、一体いつから――」
「私がヒューイの男根をしゃぶり始めた辺りからだな」
「ほとんど最初からではありませんか……! それほど前から気付いていらして、どうしてすぐに対応なさらないのです!」
訳の分からなさと、このような二人の秘め事を盗み見られた恥辱と、カノンが刺客に命を狙われた怒りとが入り混じって、私はつい声を荒げてしまった。けれどカノンは、うっとりとした笑みを浮かべて答える。
「第三者に見られながらする行為も、なかなか乙なものだろう?」
「全く……どうしてそう性への探究心が困った方向に強いのです! 一体どこに、刺客に情事を盗み見られながら身体を昂らせる君主がいるというのですか……!?」
「ここにいるが」
「~~っ、ああ、もうっ!」
カノンの唯一の欠点がこれだ。性的な冒険をしすぎる。肝が冷えた経験は一度や二度ではないが、ここまで狂った行為は初めてだ。命を危険に晒しながら行う情事はさすがに間違っていると思うのだが……。
そのやるせなさをぶつけるべく、私は刺客の胸ぐらを掴み上げて低い声で恫喝した。
「おい貴様、どこの手の者だ。何の目的があって魔王様を害そうとした」
「言う……訳、ないだろうが……」
「貴様の全身の骨を折って爪を全て剥がし、歯も全て砕き、四肢をゆっくり捻じ切り、片方ずつ目を潰し、髪を引き抜き、陰部を叩き切った後で内臓を一つひとつ凍らせながら殺しても良いのだぞ」
「くくっ……俺を、見破れなかった程度の、雑魚が……よく言う……」
「そうか、貴様は拷問されながら殺されるのが好みであるようだな」
今すぐそうしてやる、と意気込んだ私を手で制したのはカノンだった。
「ヒューイ、此奴には本当に気付かなかったのか?」
「…………申し訳ありません」
「ああ、違う。責めてはいない。ふむ……私の結界を破ることができ、私の魔法でも即死せず、なおかつヒューイが侵入に気付かないほどの手練れか……殺すには少し惜しいな」
カノンは少し考え込み、おもむろにしゃがんでその刺客に問いかけた。
「お前、私に寝返らないか? 何が欲しい、言ってみろ」
「っ……馬鹿か、あんたは……」
「馬鹿で結構。どうせ私を害せる者など、もうこの世には誰一人としていない。それで?」
「…………死病に、侵された、妹を……救える方法が、欲しい……」
「いいだろう」
カノンは迷うことなく闇魔法の矢を消し、即座に刺客に回復魔法をかけた。
私が驚いて「カノン!」と声を荒げるも、彼は私を再び制す。
「明日の朝、お前の主人の首をここに持ってこい。そうしたら妹の病は治してやろう」
「……本当、だろうな」
「私を誰だと思っている? この魔王に不可能なことなど存在しない」
その刺客はしばし唇を噛んで黙っていたが、やがて微かに頷き、すぐにその場から姿を消した。
「……カノン! どうしてあの者を助けたのです! あなたを殺そうとしたのですよ!?」
「だが私にもお前にも害はなかった。ならそれで良いだろう。それに、以前より裏で動かせる者がいれば便利だと感じていたしな」
「だからって……!」
私はそう語気を強め――不意にあることに気付いた。カノンは今平然とした顔をしているし、刺客に気付きその動向を意識するだけの余裕があった。
ならば――催淫魔法の効果は、実はほとんどなかったのでは?
それを尋ねると、カノンは途端に気まずげな顔になった。
「あー……いや、そんなことはない。きちんと効いているぞ。ええと……そう、身体が火照っている」
「それだけではいつもとあまり変わらないではありませんか……」
「い、いや、それだけではなく……私の前世には、プラセボ効果という言葉があってだな……」
「……何です、それ?」
「その……偽薬効果とも言ってだな、有効成分のない偽薬を飲んでも、暗示や思い込みによって効果が現れる現象のことで……」
「……つまり、実際の効果はほとんどなかったということですよね?」
カノンは目を逸らした。それが何よりの答えだ。
かける前にあそこまで躊躇ったのも、始めてからあんなにノリノリになったのも、今となっては何もかもが恥ずかしい。しかも、それを第三者に盗み見られていた。
顔を覆って唸っていると、苦い声でカノンが呟いた。
「……すまない。どうやら、昔勇者にかけられた際に耐性ができてしまったみたいでな……。実際にやってみて気付いたことで、私としても非常に残念なのだが」
「…………分かりました。では私はもう寝ます。おやすみなさいませ」
「そんな殺生な……!」
悲痛な声が聞こえたが、無視をして私はベッドに横たわり、カノンに背を向けて目を閉じた。何というか、もう……疲れた。
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SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!
ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。
ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。
ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。
笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。
「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」
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