秋風に誘われて

剣世炸

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けやき商編 番外編 亜実の真実

第2話 本気と遊びの境界線

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「お待たせ致しました。キリマンジャロとカフェモカでございます。」

「ありがとうございます。」

 私は店員さんからカップが2つ乗ったトレーを受け取ると、亜美先輩が座る席まで急いだ。

「遅かったわね。待ちくたびれたわ…」

 気配で分かったのか、私の足音で分かったのか、亜美先輩は窓の外を眺めながら、私に言った。

 先輩の言ったことはお構いなしに、私は先輩の前にブラックコーヒーの入ったカップを置くと、カフェモカの入ったカップを先輩の反対側に置き、席に着いた。

「…それで、煉先輩と高1の文化祭で仲良くなって、告白されて、でも亜美先輩には先輩への気持ちが無くて返事を保留して…それからどうなったんです!?」

「(鳳城先輩…なんて立場でこの人はいたんだ…)」

「煉先輩から好かれているのに、返事を出さないなんて…一体どうしたら、自分を好いてくれてる人にこんな酷い仕打ちを…」

 相変わらず外を見ながらカップを静かに啜る先輩に懐疑的な眼差しを向けながら、カフェモカの入ったカップを啜っていると、突然亜美先輩がこちらに向き直った。

 そして、まるで「決意したぞ」と言わんばかりの険しい表情で、その重い口を開いた。

「私は、その当時煉のことをこれっぽっちも男性として見てはいなかった。」

「…」

「でも、部活のマネージャーとして、選手の精神状態を崩す訳にはいかなかった。」

「…」

「そこで、同級生で煉の友だちでもある功治にお願いして、自然に私から気持ちを乖離させようと試みたのよ。」

「そう、あなたが言う「私の彼氏」を使って、ね…」

「私が言う、先輩の彼氏!?」

 そう言い放った先輩は、私からの問いかけを無視し、再び記憶の海を泳ぎ始めた…


***


「亜美!今日もお疲れ様!一緒に帰らないか!?」

「ごめんね、煉。今日はこの後用事があるの。悪いけど、一緒には帰れないわ…」

「…そっ、そうか…き、気をつけて、帰れよ」

 そう言うと私は、その場に立ち尽くしている煉の横を通り過ぎ、部室のドアを開けた。

 そして、中にいる煉にわざと聞こえるように、外で待っていた「彼」に声を掛ける。

「功治!ごめんね~。待った!?」

「ぜんぜん!俺も今部活終わってパソコン室の前に来たばっかりだから…」

「ねえねえ、今日はどこでお茶していく…」

「…」


***


「亜美先輩!それって、功治っていう煉先輩の友だちに「恋人のフリ」をさせた、ってことですか!?」

「ちょっと!私が話したくもない過去を話しているっていうのに、横槍入れないでくれる!?」

「だって、それじゃ煉先輩があまりにも可愛そ過ぎるじゃないですか!!」

「でも、もし私から「あなたとは付き合えない」ってはっきり言われた方が、当時の煉にとっては辛いはずじゃない!?」

「今の私なら、そんなこと絶対しないけど、当時の私はまだ高1だったし、煉の部活の選手としての生命を第一に考えていた。」

「だから、煉の気持ちを私から離れさせるために、こんなこともしたわ…」


***


「亜美!遅くなってごめん!若林先生との話が長引いちゃって…」

「…………」

「♪~君の気持ちを考えるとぉ~♪」

「功治ぃ~あなたの歌、本当のうまいわね!」

「そっ、そうかな…」

「おっ、沢継!!やっと来たか!」

「遅いわよ!沢継君!!」

「…功治、お前も来ていたのか…」

「私が呼んだの!」

「沢継君には「2人で」って言われたけど、人数多い方が楽しいと思って!!」

「…」

「お~い、煉!!いつまでそこに突っ立ってんだよ!早くこっちに来いって…」

「…」


***


「うっ うっ…グスン ヒック…」

「…ちょっと!!何であなたが泣いているのよ!!」

「だってだって!!」

「亜美先輩!!あなたは鬼ですか!?それとも悪魔ですか!?」

「ちょっと!部活の先輩に、あまりに酷い言い方じゃないの!!」

「煉先輩に、そこまでする必要あったんですか!!」

「亜美先輩は、煉先輩に自分から返事を出すのが嫌だっただけじゃないんですか!!」

「そうだったのかも知れないわ…」

「結局、私の口から煉に別れを告げることはできなかった。」

「あなたの言うように、私は自分から煉に別れの言葉を言うのが嫌だったの。いや、いつしか「言えなくなっていた」のよ。」

「それって、もしかして…」

「あなたには確実に「勝手だ」って言われるのだろうけど、功治と恋人ごっこをしているうちに「本当にこの人と恋人だったら、私はどう思うんだろう?」って考えたの。」

「そして、答えは「この人じゃない」と悟った…」

「…」

「あなたのお姉さん、真琴がけやき商に入学してきて間もなく、私は功治に告白されたの。」

「(「恋愛ごっこ」じゃなくて、本当に俺たち、付き合わないか?)」

「ってね。」

「でも断ったわ。功治と擬似恋愛的なことをして「違う」と悟っていたし、その時にはもう私の中で煉の存在は大きくなっていたから…」

「それじゃあ、何で先輩と付き合わなかったんですか!そりゃ、そこで鳳城先輩と煉先輩がくっついていたら、今煉先輩はきっと私の元にいないかもですから、私的には良かったんですけど…」

「怖かった、のかも知れないわね…」

「怖かった!?」

「煉は、私に想いを告げてから1年以上経っても、相変わらず私に好意を持っているってアピールを繰り返していたわ。」

「でもね、そう分かっていても、私は私に自信を持つことができなかった。」

「「煉の私に対するアピールは全て偽者で、私から煉に歩み寄ってもし裏切られたら…」」

「「煉と恋人関係になったら、今の距離感は確実に崩れてしまう。そうなった時、今まで通り煉と楽しく時間を過ごすことができなくなるかも知れない…」」

「煉から言い寄られる度に、私はそんなことばかり考えるようになった。」

「つまり先輩は「保身」に走ったわけですね…」

「手厳しい後輩ね…でも、その通りだわ。」

「私が煉に答えを出さない限り、煉は私のことを諦めない。だから、答えを出さずにいよう。私はそう考えたの。」

「分かりました!!!もう結構です!!私はこれで失礼します!!!!」

 私はカフェモカの代金をテーブルの上に叩きつけ、乱暴に椅子を後ろに押しやると、勢いよく立ち上がりその場を去ろうとした。

 その時、突然目の前に現れた男性に、私は右手を掴まれ、行く手を遮られた。

「ちょっと、待ってくれないか!!」

「功治!あなた、なんでここに…」

「功治、先輩!?」


最終話 に続く
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