俺の高校生活に平和な日常を

慶名 安

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第6章「ようこそ愛ヶ咲島」

第7話「みのりイベント」

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 「ぶふうっ!?」

 俺の予感は見事に的中した。しかしその発言は俺の想定をはるかに超えていた。

 「ななな何、言ってんだよ!」

 「わわわ、私は、けけけ、けっこう、ままま、まじめに、いいい、言ってるんですよ!」

 俺が慌てふためきながら聞き返すと、みのりは俺以上に慌てふためき、顔を真っ赤にしながら返してきた。あんな恥ずかしいセリフ、よく出てきたな。

 「私も経験はなくても多少なり性知識はあります。けど女の子って、あんなことされて本当に気持ちいいのか、男の子もあれで興奮するのか、ちょっと興味があったんです」

 「きょきょきょ、興味って…」

 俺はパニックのあまりみのりの発言に思わず反応してしまった。しかしみのりもみのりでその発言はどうかと思うが。

 「やっぱ、私みたいな可愛くない女の子じゃあ和彦君は興奮しないですよね?」

 「いや、そんなことは…」

 みのりは反応に困ることばかり聞いてくるから俺は答えることをつい渋ってしまう。その上涙顔までされるとなお困る。

 「じゃあ、私と、してくれますか?」

 「……」

 そしてみのりは再び俺に問いかけてきた。決していやというわけではない。むしろこっちからお願いしたい方だ。

 しかし物事には順序というのもあるわけで、健全な関係でいくにはちゃんと順序というものを踏んでいかなければ…

 「……」

 「……」

 だがみのりにそんな潤んだ瞳で見られたら断ることが出来ない。

 「…わ、わかった」

 俺が首を縦に振って返すと、みのりは嬉しそうな表情に変わった。さっきの涙顔がまるで演技だったかのようだ。もし演技だったら将来、名女優になれるんじゃないか?

 「じゃ、じゃ、じゃあ、ま、ま、ま、まずは、キ、キ、キ、キ、キスから…」

 しかし途端になってまた恥ずかしくなったのか、再び顔が真っ赤になり、言葉が詰まったり、目が泳いだりして、明らかに挙動不審だ。

 「そ、そ、そ、そ、そ、そうだな。じゃ、じゃ、じゃ、じゃあ、い、い、い、いくぞ?!」

 俺も恥ずかしくなり、みのりと同じ症状に陥っていた。

 だが、みのりは決心したのか、目を閉じ、唇を少し前に出して俺を待っていた。

 「……」

 俺はみのりのキス顔に見とれてしまっていた。とても美しく見えてしまったからだ。

 そんなみのりを見てふと俺の妄想が今ある現実と初めてリンクした。

 結婚式場でみんなが見守る中、ウエディングドレスを身にまとったみのりが誓いのキスを待っている。俺の妄想ではそんな風に見えた。

 「……」

 だからこそこの状況に罪悪感を抱いていた。こんな勢い任せでみのりの初めてを奪うなんて、あまりにも卑劣な行為なんじゃないか?

 しかしみのりだって興味があったとはいえ別にだれでもいいとは思っていないのだろう。

 『和彦君は大事な人ですから』

 ふとそんな言葉が脳裏によぎった。大事な人というのは、ひょっとしてそういう意味だったのだろうか?

 「…んんっ」

 俺はそんなことを思いながらもおもむろにみのりへと近づいていた。罪悪感は多少あるが、みのりがあそこまでお願いしてくれたのだから今更辞めることなど出来ない。

 気がつくと俺とみのりの顔はお互いの息がかかるぐらいの距離まで接近していた。俺の心臓の鼓動が激しくなっている。このままだとショック死してしまいそうだ。

 「……」

 「ッ!?」

 そんな俺のことなどおかまいなしにみのりは突然、閉じていた目を見開いた。俺は思わず驚いてしまい後ずさりしてしまった。危うくマジでショック死するところだった。いきなりなんだ?

 「やっぱりね」

 「ッッ!?」

 その時、俺の背後から声が聞こえた。かなり嫌な予感を感じ背筋が凍った。

 「…あ、有、紗、さん?」

 俺が恐る恐る振り返ると鬼の形相をした有紗が俺の部屋で仁王立ちしていた。もはやただの金剛力士だ。

 「嫌な予感したから早めに帰ってみれば、あんた達…」

 「いや、それは、そのー…」

 「うるさい! 黙れこの、変態!!」

 「うぇぶしっ!?」

 無論、ここから先はいつもの展開通りだった。宥めようとした俺は有紗の渾身の一撃を顔面にくらい、気を失った。

 そこからどうなったかはわからないが、気を失った俺にはその後のことなど、知るよしもなかった。
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