転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

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第5章 入学編

第5章ー⑫

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 太股には太い縄で縛られたような痕跡、背中に火傷のような跡、腹には刃物で斬られたような跡等、彼女の全身には生々しく残った傷が複数見受けられる。その傷を見ると、どうしても痛々しく見えてしまった。

 「ああ、これでござるか? これは、この刀の所有者になる為の証みたいなものでござる」

 「所有者の証? どういうことだ?」

 着替えるようとしている最中、彼女は刀を見せて嬉々として答える。その刀と身体の傷に関係があるというのか。

 「この刀は魔剣の一つ、【魔剣・魔妖《まやかし》】という代物でござる」

 「魔剣?!」

 話を続ける彼女の口から驚くべき単語が出て来た。

 魔剣。ファンタジー作品ではよく聞く単語だが、この世界の魔剣は特殊な技巧によって造られた、世界に五本とない特別な剣の事を言う。噂によれば、生きたままの魔物を素材にしたという話もあるが、どうやって剣にしたのかも説明出来ない為、どこかで話に尾ひれがついたという説が濃厚になっていた。なんなら、魔剣の存在自体が空想上の産物なんじゃないかと言われているほど。小さい頃、絵本やら小説やらに出て来たからというのもあるだろうが。

 一見、普通の刀にしか見えないが、そう言われると異質なオーラを放っているようにも見える。気の持ちようなのかもしれないが。

 「魔妖には七体の魔物が封じられていて、抜刀する事で一時的に魔物の力を行使する事が出来るのでござる」

 「へー…って、ええっ?!」

 彼女の説明を感心して聞いていると、あの時の魔力はこの刀から発生してあったものである事が判明して驚愕させられた。たしかに、それなら納得がいく。この魔剣が本物ならあり得ない可能性ではない。ようやくあの時の謎が解決した気がする。

 「協力な力故、この刀を扱えるのは特別な契約儀式を乗り越えた者のみ。この傷は、その時に出来たものでござる」

 「それって治癒魔法とかで治せたりしないのか?」

 「治せはせぬ。仮に治せたとしても、契約した魔物達は決して許さぬでござろう。そうなれば、契約が破綻してしまい、この刀を振るえぬ可能性もあり得る」

 「…そっか」

 どうやらこの無数の傷は契約完了の証なのだそうだ。この傷が無くなれば彼女は魔剣を握れなくなる。そう考えると、彼女としてはその傷は生涯背負っていくつもりなのだろう。彼女の美しい肌が汚されているのは男として見過ごせない気持ちはあるが、彼女の意志を否定するわけにもいかず、複雑な気分である。

 「おろろ? 拙者の褌が!?」

 「ッ?! 馬鹿、何やっ、べっ?!」

 「おー、見事な顔面キャッチでござるー!」

 「…」

 そんな話をしながら彼女が褌を履こうとすると、風に吹き飛ばされて自分の顔面に直撃する。その様子を見て何故か彼女から嬉しそうに拍手を送られた。おしさん、やっぱこの子の将来が不安で候。

 ―転生勇者が死ぬまで、残り4101日
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