転生勇者が死ぬまで10000日

第4章 入学試験編

第4章ー㉝

　「去年の定期任務、アクシデントに次ぐアクシデントで負傷者が多数出た。任務にアクシデントはつきものだ。とはいえ、去年はあまりにも不運が続きすぎた。推定値を超えた異様な数の魔物の出現、突発的自然災害の数々、集団犯罪の件数増加、ここ数年穏やかだったこの国に立て続けに異変が起こっている。私はこの事態をなにかの前兆なのではないかと思っている」

　「ッ！？　近いうちにヤベー事が起きるって言いたいのか？」

　「あくまで私の個人的な予感だけどね。異変に対応出来るのは熟練の冒険者でも手が折れるだろう。そんな状況下で生徒達は任務に着いたんだ。当然、不運で命を落とす生徒が出てもおかしくはなかった」

　「…なら、なんで中止にしなかった？　生徒が死ぬかもしれねーって分かってたんなら、無理に行かす必要もなかっただろ？」

　「あの時はそこまで考えに至らなかったというのもあるが、あくまで私の憶測だからね。憶測だけで生徒達を学園内に閉じ込めておくのも生徒達の為にはならない。まあ、そのせいで生徒達に辛い思いをさせてしまった事に関しては申し訳ないと思っているが」

　「んで？　結局何が言いてーんだ？」

　「うむ。今年の試験、私なりに考えてみたんだ。去年の二の舞にならないようにするにはどうすればいいか」

　「それが今回の運ゲー試験ってか？」

　彼女は鼻で笑うように言い捨てる。彼女の気持ちは理解出来るが、私なりに考えて出した結果だ。後悔はしていない。

　「私は運とは実力以上の才能だと思っている。どれだけ実力があったとしても、不慮の事故には抗えない。運の良い人間なら奇跡的に助かる可能性がある。今学園に必要な人材はそういう運の強い人間だと私は思うんだ」

　「…幸運なんて、そう何度も続くもんじゃねーだろ」

　「そうだね。けど、幸運な人が力を身に着けたら物凄い逸材になると思わないかい？」

　「この学園は力を磨く為にあるんだろうが。幸運なんて曖昧な要素が必要だとはアタシは思わねーけどな」

　「はたしてそうかな？　力は磨こうと思えば磨けるけど、運は磨く事が出来ない。磨けないものを持っている人ほど凄い逸材は居ないと私は思うけどね」

　「…」

　暫く話し合っているうち、彼女の反論が無くなった。私の言い分を理解してくれたのか、それともただ呆れられたのかは分からないけど、話し合いはこれで終わりを迎えたようだ。

　「まあ、今回の試験でどういう結果になるかは見てのお楽しみといったところだね」

　話し合いが終わり、再び観戦に入る。彼はどれだけの運に恵まれているのかも見どころの一つとなっていた。

　「けど、運だけで受かるほど世の中甘くはないだろうけどね」

　しかし、彼の動きに大きな変化が見られた。どうやら脱出口付近でアクシデントが発生しているようだが、はたして彼はこの状況をどう打破するのだろうか。