転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

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第4章 入学試験編

第4章ー㉗

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 「リーフさん…?」

 「サダメ、あの人って…」

 階段に上がるリーフさんの姿を見て、自分とミオはお互い顔を見合わせるや否や驚きの表情を隠せずにいた。彼女もリーフさんの存在は知っていたようで、顔も少しだけ見ていて覚えていたようだ。

 にしても、未だに信じられなかった。まさか、あの人がこの学園の理事長だったなんて。てっきり学園のスカウト担当だと思っていた。部活とかしてた時に偶にグラウンドで見かけたおじさんぐらいのものだと思ってた。そんな偉い人がわざわざスカウトしに出回っていたというのか。今考えると、リーフさんに恐れ多い事をしてしまったような罪悪感がちょっとだけ現れてきた。言うほど悪い事をした覚えはないつもりだけど。

 『さて、ここで長話なんて退屈するだろうし、そろそろ試験を始めようか』

 「えっ?! もう?!」

 「つーか、本当にここでやんのかよ?」

 「いくらなんでも急すぎるって」

 「てか、試験って結局なにするの?」

 「こんだけ人いんのに大丈夫かよ?!」

 自己紹介を終えたリーフさんは、すぐに試験を始めると皆に告げる。しかし、説明もロクに受けていないせいで受験者達から質問やら不満やらが飛び交い、静まりかけていた会場が再び騒然としてきた。たしかに、急にそんなことを言われてもどうしたらいいのか全くわからない状況だ。せめて事前に説明が入ってもおかしくないはずだが。

 『はっはっは、安心したまえ。ちゃんと説明はしてあげるよ。その前に…』

 皆が騒いでいる様を笑いながら宥めようとしているリーフさん。随分と落ち着いている様子なのも気になるが、それよりも気になったのはあの人の右手。指を鳴らそうと右手を前に向けていた。なにかするつもりだが、一体なにを…

 『会場の準備を済ませてからだね』

 するのだろうと気がかりを感じていた矢先、リーフさんの指パッチンが鳴ると、その瞬間、唐突に野原の地面がグニャグニャと波打ち始める。あまりにも突然のことで、皆素人のサーフィンのように必死に体勢を崩さないようバランスを取り出した。自分も必死にバランスを取るが、身動きが全く取れずにいた。

 「な、なにコレ?!」

 「ミオ! 捕まれ!?」

 だが、辛うじて左手だけは動かせそうな自分は、ミオに向かって手を差し伸べた。何か嫌な予感がした自分は、せめて彼女とははぐれないように手を繋ごうと考えた。

 「…うっ、ダメ、動けない」

 「ッ?! 頑張れ、ミオ!」

 しかし、彼女は地面に手を着いて姿勢を安定するが手一杯のようで、片手を動かすのも厳しそうだ。今の彼女の姿は産まれたての小鹿のようだ。それでも自分は、少しでも彼女が手を取りやすいよう腕を伸ばす。かなりギリギリな状態だが、踏ん張れはなんとかイケなくもない。

 「うっ、うぅ…」

 「ほら、もう少しだ、頑張れ!」

 彼女の目先までなんとか伸ばす事が出来、彼女の方も勇気を振り絞ってゆっくりゆっくり手を出そうとしていた。もうちょっとで彼女の手を掴めそうだ。あとちょっと。あとちょっ…

 「ッ!?」

 「キャッ!?」

 とだった。もう少しで手を掴めそうになった瞬間、波打っていた地面が一瞬にして大きな穴へと変貌。惜しくも自分達は手を掴む事が出来ないまま穴へと落っこちって行った。
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