転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

文字の大きさ
上 下
92 / 188
第4章 入学試験編

第4章ー⑥

しおりを挟む
 「クソ野郎? 帰れだぁ??」

 「ああ。そう言ったんだ。聞こえたんならとっとと消えろ!」

 自分も負け時と圧を掛ける。けど、奴等が真に受けて引き下がるとは思っていない。目的は相手を挑発すること。これで相手がキレて怒りに身を任せて攻撃してこようものならこっちも反撃に打って出る。こういうタイプは恐らく、相手に舐められればキレるタイプ。怒ればほぼ間違いなく自分を攻撃してくるだろう。だが、決して殺したりはない。相手が魔物でない以上、流石にそこまでは出来ない。あくまで暴動を鎮静化させる。人数は多少多いが、あの状況の時に比べれば問題ない。さあ、来るなら来い!

 「…ぷっ!」

 「なっ!」

 しかし、自分の想定とは違う反応を見せる。さっきまで沸点まで到達してそうな程のキレ顔をしていたにも関わらず、自分の挑発に対して奴等はぎゃははと高笑いしていた。目の前でガン飛ばしていた相手も、吹き出すように笑い出した。

 「はっはっはっは、クソ野郎はとっとと帰れ、だってよ?!」

 「おーこえーこえー!!」

 「な、なに笑ってやがる!?」

 笑い出す賊を見て、何がそんなに可笑しいのか問いただす。ガキ(中身はおっさんだけど)一人に舐められてんだぞ? なんでこいつらは悠長に笑っているんだ。

 「はっはっはっは、そりゃあ笑うしかねーだろ」

 「はっ?」

 「おいおいおい、やっぱこのガキ、全然状況飲みこめてねーみてーだぞ!?」

 「そりゃあ正義感気取りたくなるわけだ!」

 しかし、こいつらの返しを聞いて益々分からなくなる。状況? 状況って、なんの…

 「おいガキィ、この状況見てなんもわかんねーか?」

 「ッ!?」

 ことを言っているのか、その時までは理解し損ねていた。賊に言われてようやくその意味を理解出来た。

 「こっちには人質がいんだぞ!? それがどういう意味かわからねー程馬鹿じゃねーだろ?」

 「い、いやぁ…」

 「くっ!?」

 そうだ。単純な話だった。向こうには女性の人質が居るんだ。相手を舐めていたのは自分の方。怒れるあまり、こんな単純な事にさえ気が付かなかった。

 「お前がもし俺らに歯向かおうってんなら、そこに居る女共がどうなるかな?」

 「いいぃっ?!」

 「…」

 賊の男は自分に見せつけるように一人の女性の首に短剣を突きつけた。短剣を突きつけられ、女性はビクビクと怯えている。

 自分の行動が裏目に出てしまった。いや、元よりそうするつもりだったのかもしれないが、自分の浅はかな行動のせいで余計な事態を招いてしまったのは事実だ。

 本当に自分は馬鹿だ。前世だったらこんなこと絶対にしなかった。勇者に憧れて変な正義感に目覚めてしまった。その結果がこのザマである。最悪だよ。

 「わかったら金置いてけ。それと、お兄さん達に舐めた口聞いた悪い子にはしっかり教育しないとな」

 男は自分が何もできないことを知ってか、金を要求すると同時に右腕を大きく振りかぶった。その際、しっかりと自分の視界の端で女性の首元に短剣をチラつかせる他の賊の男達の姿があった。抵抗すればわかってるよなと警告しているのだろう。

 殴られるのはっとくに慣れている。だから甘んじて受け入れるつもりだ。しかし、それを受け入れるのは至極屈辱的だった。また同じ目に遭わなければならないのか自分は。

 「よーし、そこを動くな…」

 そう思っていた。






















 「そらよっ、と!」

 自分が殴られようとした最中、青色の巾着袋が一つ、自分達の頭上から落ちて来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

処理中です...