転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

文字の大きさ
上 下
85 / 186
第3章 逆襲編

第3章ーおまけ

しおりを挟む
 「『はあ…はあ…はあ…』」

 勇者の魔法からなんとか免れ、気が付けば十キロ先の山の麓付近まで逃げおおせていた。十死怪にまで登り詰めたこの私が人間風情に負けるとは。屈辱の極み。

 「『…その上、成果がこれだけとはな』」

 乱れた呼吸を整えながら、自身の影魔法で回収したものを地面から出す。

 「『おい、いい加減起きろ、ダークボルト』」

 「っはぁ、はあ…」

 影から現れたのは黒い鎧を纏った一体の長身コボルト。私と同様十死怪の一人であるダークボルトであった。

 勇者の強烈な一撃を受けながらも、この男は辛うじて息をしていた。肩から下腹部まで一直線に斬り傷を負っているが、十死怪クラスの魔物ともなれば、多少時間は掛かるもののなんとか治せる範囲だ。だからついでに拾っておいた。こいつに恩を売ったところで私にはなんの得もないだろうが、貴重な戦力をこれ以上失うのは魔王軍としては由々しき事態。これ以上の失態を犯せば私の地位にも危険を感じ得ず、仕方なく拾うことにしたのだ。本当に不本意ではあるが。

 「だあぁっ、てめぇ、なんで俺を助けた? 助けねぇって言ってたはずだろ?!」

 傷を負いながらも必死に口を動かすダークボルトだが、真っ先に出て来た言葉は当然感謝の言葉等ではなく、怒声である。

 「『勘違いするな。今回の件は私の問題だ。私の問題を私自身が処理出来ないどころか、これ以上戦力を失っては立つ瀬がない。それだけの話だ』」

 「はっ! 自分の保身が大事ってか。雑魚らしい発想だなぁ」

 「『ふん。なんとでも言え』」

 相変わらず皮肉でしか会話の出来ない男。多少は考え方が変わってくれても良かったのだが、戦闘狂にそんなことを期待する時点で間違いだったようだな。

 「『私はこれにて一時撤退する。言っとくが、貴様の面倒を見るのはここまでだからな。その辺の魔物に食い殺されようが、偶然人間に見つかって捕まろうが知った事ではない。そこからは私の問題ではないからな』」

 「へっ、雑魚に面倒見られんのはもうこりごりだ。かえんならとっとと帰りやがれぇ!」

 私が魔王軍の元へ帰ろうとすると、最後の最後まで皮肉を言うダークボルト。全くこの男ときたら。何一つ成長を感じぬな。まあ、雑魚呼びももうだいぶ慣れてしまって痛くも痒くもないんだが。

 「『それより、魔王様にどう弁明すればよいのだか』」

 今は正直、奴の皮肉よりも魔王様への弁明を考える方が頭が痛くなり、思わずため息が零れた。さて、どうしたものか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

俺だけ2つスキルを持っていたので異端認定されました

七鳳
ファンタジー
いいね&お気に入り登録&感想頂けると励みになります。 世界には生まれた瞬間に 「1人1つのオリジナルスキル」 が与えられる。 それが、この世界の 絶対のルール だった。 そんな中で主人公だけがスキルを2つ持ってしまっていた。 異端認定された主人公は様々な苦難を乗り越えながら、世界に復讐を決意する。 ※1話毎の文字数少なめで、不定期で更新の予定です。

えっ、じいちゃん昔勇者だったのっ!?〜祖父の遺品整理をしてたら異世界に飛ばされ、行方不明だった父に魔王の心臓を要求されたので逃げる事にした〜

楠ノ木雫
ファンタジー
 まだ16歳の奥村留衣は、ずっと一人で育ててくれていた祖父を亡くした。親戚も両親もいないため、一人で遺品整理をしていた時に偶然見つけた腕輪。ふとそれを嵌めてみたら、いきなり違う世界に飛ばされてしまった。  目の前に浮かんでいた、よくあるシステムウィンドウというものに書かれていたものは『勇者の孫』。そう、亡くなった祖父はこの世界の勇者だったのだ。  そして、行方不明だと言われていた両親に会う事に。だが、祖父が以前討伐した魔王の心臓を渡すよう要求されたのでドラゴンを召喚して逃げた!  追われつつも、故郷らしい異世界での楽しい(?)セカンドライフが今始まる!  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

処理中です...