転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

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第3章 逆襲編

第3章ー㉟

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 「君は強くなりたいのか?」

 「え?」

 「いや、勇者になりたいって子はよく居るんだが、そういう子は大抵カッコよさか強さに憧れる傾向にあるから君もその類かと思ってな」

 「…」

 たしかに、勇者のように強くなりたいというのはある。だが、それだけではない。

 「それもあるんですけど、誰かを助けられるような人になりたいんです。俺はなにも救えなかった。力も威厳も何一つ持ってなかったから」

 「…」

 勇者が村に近づいて来たという話になった時、奴等は明らかに動揺していた。勇者を脅威に感じていたからだ。最終的に戦うことにはなったが。自分も勇者のような力と威厳があれば皆を助けられたかもしれない。そう考えてしまうと、勇者のような人は自分の理想の人なんだ。

 「そうか。けど、それなら別に勇者じゃなくてもいいんじゃないか。騎士団だって国の平穏を守る為に働いているし、冒険者だって依頼を引き受けている手前ではあるが、あちこちで人助けをしてる。勇者なんてほとんど肩書きみたいなもんだよ。王命で余計な責任を背負わされて、そのせいで必要以上にメンタルをじわじわ削らされる、徳の無い不便な仕事さ」

 「…それ、他の子にも言ったんですか?」

 「流石にここまで言ったことはないな。『とっても大変なお仕事なんだよー』の一言で大体片づけてる」

 しかし、勇者は愚痴を零すように不平不満を吐露。多分、自分がある程度物分かりがいいと思って言っているのだろうが、他の子がそれを聞いたらどういう反応をしていただろうか。

 「要するに勇者っていうのは、メンタルがバケモンじゃねえと務まらないって話。だから俺は君に勇者の道を勧める事は出来ない」

 「…」

 勇者の言い分はよく理解した。たしかに、あの話を聞いた後だと納得せざるを得ない。それだけ勇者というのは大変なのだろう。

 「…でも」

 「ん?」

 「それでも、俺は貴方みたいな人になりたい! いや、なってみせます!」

 「…」

 だけど、自分の気持ちが変わることは無かった。大変だというのはよくわかった。けど、そんな理不尽な責務を負ってでも戦い続ける勇者に、自分の心は惹かれてしまったのだ。強さや威厳だけではなく、純粋な敬意。この人みたいになりたいという気持ちに揺らぎはない。

 「…はあ」

 真っ直ぐな目で勇者を見つめていると、勇者は呆れるようにため息をついた。流石に呆れられたか。

 「もう遅い。今日はもう寝よう」

 「はい」

 この話を終わらせたかったからか、話を締めるように目を閉じ、自分に寝るよう促した。自分は言われた通りに目を閉じ、燃え上がる遺体の山を焚火代わりに就寝した。

  ―転生勇者が死ぬまで、残り7796日
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