転生勇者が死ぬまで10000日

第3章 逆襲編

第3章ー㉕

　黒い槍が勇者の腹を貫いた。

　「ッ！？　勇者さ…」

　能吏に父の時の記憶が蘇り、思わず自分は叫んでしまった。

　「ふぅっ、あっぶなかったぁ」

　「ゆ、勇者さん！？」

　しかし、実際は勇者の腹は貫かれてはいなかった。辛うじて自身の右手で防いで貫通は免れていたのだ。魔力による強化なのか、右手の掌から小さい炎がでているのが見えた。ちょっとだけ右手から血が滴り落ちているが、手も貫通まではされていないようだ。

　「『うむ、油断していればもしかしてと思いましたが、流石は勇者といったところですかね』」

　「…おまえは…」

　勇者の前に悠々と姿を現すエイシャ。性懲りもなくまた奇襲を仕掛けてきやがったこいつ。それにしても、奴は今までどこに居たんだ。

　「あいつが戦っている間に逃げる算段でも立てているのかと思ってたが、案外仲間思いなんだな」

　「『仲間思い？　はて？　私はただ貴方が油断する隙を狙っていただけですよ。我々として貴方は排除しておきたい存在ですからね。魔王軍にとって貴方は唯一の脅威なのですから』」

　勇者の煽りに対して、平然とした様子で煽り返すエイシャ。さっきの奇襲は失敗に終わっている。今の状況は奴にとって不利な状況だが、その余裕は一体どこから来ているのか。見栄を張っているだけなのか、それともまだなにか隠しているのか。

　「なら、今度はお前が相手になるか？　俺は構わねえけど」

　「『そうですね。ですがその前に…』」

　「ッ！？」

　エイシャが余裕ぶっていた理由はすぐに判明する。自分達周囲の地面から突如複数の円形の影が出現。影の中からは魔物達が続々と姿を現した。こいつら、村で見覚えのある連中だ。まさかエイシャの奴、二人が戦っている間に村に居た魔物連中を集めていたのか。自分がある程度減らしたとはいえ、まだ十人以上は余裕で残っていた。

　「『彼等はそこの赤髪の子に大変世話になったようでね。そのお礼をしたいらしいのですが』」

　「うっ！」

　どうやら奴等は自分に相当根に持っているようで、その報復の為にこの場に来たらしい。あれだけやられて怒るのは理解できる。だが、元々はこいつらは村を襲い、沢山の人を殺した連中だ。報復なんてお門違いすぎる。

　「そうか。それなら、俺が代わりに受け取ってやるよ。だが…」

　しかし、勇者はエイシャの発言を皮肉交じりに返す。だけど、勇者は今手を負傷している。本来なら自分がなんとかしなければならない状況なのにまだ身体が上手く動かせない。正直言ってこれは…

　「受け取るには少々手間が掛かると思うから、そこんところは、よろしく！」

　絶体絶命な予感がするなか、勇者は戦闘態勢に入っていた。