転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

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第3章 逆襲編

第3章ー⑰

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 「勇者…だとぉ?」

 ダークボルトはその単語を聞いて暫し驚愕していたが、それから不敵な笑みを浮かべる。

 「こいつぁラッキーだぜー。ちょうどてめぇの事を探してたんだよ」

 鍔迫り合いの最中にも関わらず、ダークボルトは愉快そうに勇者に向かって話しかけていた。そういえばこいつ、勇者と戦う為にここに来てたんだっけ。どうやら奴はかなりの戦闘狂らしい。

 「俺と一対一サシで殺《や》り合おうぜ、勇者さまよぉ?!」

 ダークボルトは下卑た笑みで勇者にタイマン勝負を挑んできた。怖いもの知らずなのか、それとも純粋に戦闘を楽しんでいるのかは分からないが、今まで見た魔物よりイカレている。エイシャなら即奇襲とかで殺そうとしていただろうが。

 「グランドのジジイと殺ってきたんだろ? あの説教じじい、口はうるせぇが戦闘力は十死怪の中でもトップクラスだったんだぜぇ。そんな奴を殺したアンタなら、最高の殺し合いが出来るんじゃねえのか?」

 ダークボルトの話は自分も少しだけ知っている。十死怪の一人であるグランドオーダーという魔物が勇者の手によって殺された。それで奴等は慌てて自分達の村を捨てようとしていたのだ。その際に自分達を殺そうとして。

 勇者がこちらに向かって来ているという話も聞いてはいたが、よく自分達の存在に気づけたものだ。普通の道筋から少し離れた場所に居るのだが、物音が聞こえたとしてもすぐに状況は理解出来ない筈。相当熟練された魔力感知の使い手なのか、それとも今までの経験によるものなのか。どっちにしても凄い事に変わりはないが。

 「俺は構わないが、そっちは本当に望んでいるのか?」

 「あ゛あ゛ん?」

 そんな勇者はダークボルトの提案を受けるが、最後に意味深な発言をした。自分達もダークボルトもその質問の意味を全く理解出来なかった。

 「『【黒影多槍《ダーシャ・メニスピア》】!』」

 「ッ!?」

 「ちっ!?」

 その瞬間、エイシャの影魔法が勇者と自分達を襲ってきた。奴のお得意の黒い槍が地面から突如複数現れ、ダークボルトは瞬時に回避する。

 勇者は全く動じる事なく冷静にエイシャの攻撃を弾き返す。今の奇襲、自分達の時と同様に前触れなく現れたのにも関わらず、勇者は無傷で対処してしまった。自分達は全く気付かなかったのに、まさか奴の攻撃に気づいていたのか。

 「『くっ、私の奇襲には動じないとは。相当魔力に対して敏感なようですね』」

 「…エイシャ、てめぇ…」

 エイシャは勇者とダークボルトの間に悠々と姿を現す。さっきまでバラバラだったはずの影は、既に元通りになっていた。落ち着いた声色からもう回復し終えたのだろう。くそ、これで十死怪が二人も揃ってしまった。あの時自分がエイシャ一人でも倒せていればよかったのだが。この流れはマズイ予感がする。

 「『それに、そこの二人も始末し損ねた。厄介な魔法まで持っていられますな』」

 エイシャは自分達の方を指さしながら驚嘆している様子。それもそのはず、先程の攻撃は自分達にも襲い掛かってきていたのだが、茜色の空間と鳥の巣がエイシャの攻撃を全て弾いたのだ。おかげで自分達も無傷。どうやらこの魔法、治癒魔法と結界魔法の両方を兼ね備えているようだ。

 「正確には魔力の流れを読んだだけだ。どれだけ上手い事魔力を隠そうとも、空気に含まれる魔力の流れはどうやっても変わる。お前が影で移動している際、その影の上にある空気は移動の際に微ずかに奇妙な動きをする。それに気がついた、それだけの話だ」

 「『なるほど。常人には理解出来ない話ですね』」

 勇者の話にエイシャは普通に感心している。たしかに、そんな芸当父でも出来なかった。父は感覚派だったからな。ひょっとすると、この人は父以上に才能があるのかもしれない。

 「…んな話、どぉぉでもいいんだよぉぉぉ」

 「ッ!?」

 しかし、そんな話に一切興味を示さないダークボルトは、怒りのあまりまた黒い雷のオーラをバチバチに漏らしていた。だが、自分達の時より凄まじいオーラを放っている。

 「おい、てめぇ今俺ごと殺ろうとしただろ?」

 ダークボルトの怒りの矛先は、仲間である筈のエイシャに向けられていた。そういえばエイシャの奇襲、たしかにダークボルトを巻き添えにしているように見える。こいつら、ここにきて仲間割れか?

 「『いえ。貴方があそこにいつまでも居るから仕方なくやっただけですが?』」

 「あ゛あ゛ん?!」

 エイシャはダークボルトの凄まじいオーラにも臆せず皮肉交じりの言葉で返すと、当然ダークボルトの怒りゲージは更に上がった。このまま同士討ちしてくれればこちらとしてはありがたいが、この状況で人間側が蚊帳の外にされているのは複雑な気持ちである。

 「黙ってろよ、雑魚が!」

 「『…なに?』」

 しかし、ダークボルトの一言でエイシャの様子が急変。今の一言で立場が逆になったように見えた。

 「ガキ一人に手こずってるような奴に雑魚以外にお似合いな言葉があんのかよぉ?」

 「『くっ!? きっっさまぁ…』」

 ダークボルトの追撃の一言で完全に立場が逆転してしまった。あの時の事を持ち出されて、エイシャはぐうの音も出ない。今の言葉がよっぽど聞いているようだった。

 「分かったら手ぇ出すんじゃねぇぞ、雑魚」

 「『…勝手にしろ。泣いて助けを乞いても助けんぞ』」

 「へっ、雑魚に助けを乞うぐらいなら死んだ方がマシだ」

 「『…』」

 ぐうの音も出なくなったエイシャは最後に苦し紛れの皮肉を言い放った後引き下がった。その際、どことなくエイシャの顔が寂しげに見えた。といっても、実際に見えているわけではないが。

 「話は終わったか?」

 二人の話し合いが終わったタイミングを見計らい、勇者はダークボルトに声を掛ける。流石の勇者も空気を読んで二人の口喧嘩が終わるのを待ってくれていたらしい。あの状況じゃ入りづらかったのかもしれないが。

 「ああ。遅くなってわりぃな、勇者さま。それじゃあとっとと始めようぜ。一対一の殺し合いを!」
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