転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

文字の大きさ
上 下
59 / 109
第3章 逆襲編

第3章ー⑪

しおりを挟む
 全力で放った火球は、光球の倍近い大きさまで膨れ上がっていた。目くらましも効いているようだし、これだけの大きさなら当てられる。

 「はああぁっ!!」

 光球の消滅するタイミングで火球を振り下ろした。地上に着弾するまでわずか数秒。向こうは目くらましで状況を把握しきれてない筈。その間に着弾すればいくら奴とはいえタダではすむまい。

 「『うっ、うぅっ…』」

 着弾までおよそ3秒。奴はまだ動く気配がない。もう逃げられまい。

 「『くっ、そぉぉぉぉぉっ?!』」

 火球は見事にエイシャに向かって着弾。着弾すると、地上から激しい爆発音と共に物凄い爆風が吹き上がり、あまりの勢いで自分達の身体が少しだけ上昇した。

 「ぐっ!?」

 熱い爆風が目に入り、思わず涙が出て目を瞑ってしまった。あぶねー。今回は涙が出る程度で済んだが、もう少し近い距離で撃ってたら爆風で自分達ごと燃やしてしまったかもしれない。それほどまでに熱い。




 「ミオ!」

 「う、うん!」

 爆風が収まり、地上まで十メートルもないタイミングでミオに合図を送り、再び風魔法を覆わせた。さっきは浮上する為に使ったが、今回は降下速度を減速させる為である。そのまま地上に着地したら流石に二人ともぐしゃっと逝ってしまうからな。

 「ふう」

 ミオの風魔法でゆっくりと下降し、優しく着地。無事に地上に降りる事が出来た。といっても、その前に多少の怪我はしているけどな。

 「や、やったのかな?」

 「さあ、う゛っ?!」

 「サダメ?!」

 奴の姿が見えず少しだけ安堵するが、急に両手に激痛が走る。何が起きたのかと思い、慌てて手のひらを見ると、手のひらの皮が両方ともズル剥けていた。全力で魔法を撃ったせいか。風に当たるとヒリヒリして痛い。この程度だけで済んだのは幸いなことだとは思うが。

 「今治すね」

 「ああ、悪ぃ」

 それを見たミオが、慌てて治癒魔法を使ってくれた。本当に何から何までミオに世話になりっぱなしだな、俺。

 「そういえば、皆は?」

 「えっ?」

 治癒を施して貰いながらミオに問いかける。あれだけ派手な魔法を使ったんだ。近くに居た皆の死体がどこかに吹き飛んでしまったのではないかと不安になる。皆には悪い事をしてしまったとは思っている。ただ、奴相手にそこまで気にする余裕がなかった。

 「あっ、あそこ!」

 「ッ!?」

 ミオが辺りを見渡すと、目の前の方向を指さす。そこに視線を移すと、少し離れた場所に馬車の残骸があった。そこに皆の死体が密集している。あれだけ爆風も凄かったにも関わらず、あまり飛ばされてはいなかった。これも不幸中の幸いというべきか。

 「はあ、よかった。皆まで巻き添えにしてたら申し訳が立たんな」

 皆を助けられなかったが、せめて自分の手でちゃんと埋葬してあげたい。それが自分なりのせめてもの償いである。だから、皆の死体が奇跡的に残っている事にホッとしていた。





 「『…うっ、う゛う゛っ』」

 「…!?」

 ホッとしたのも束の間、誰かの呻き声が聞こえてきた。まだ誰か生きていた? そう思いたかったが違う。この声は…

 「はあ…はあ…ぅっそだろ?」

 嫌な予感がした瞬間、背筋が凍り突然呼吸が乱れ始めた。息を荒くしながら恐る恐る後ろを振り返る。火球により地面が大きく抉られている。そこのど真ん中の場所から薄っすらと人型の影が現れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...