転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

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第2章 脱出編

第2章ー⑱

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 「がっ?! あっ…あぁっ…」

 「…はあ、はあ…」

 胸を貫いた剣を引き抜くと、魔物の胸からは大量の血が飛び散り、苦しそうに胸を押さえながら膝から崩れ落ちるように倒れていった。魔物の息が小さくなっていく。本当に自分は奴を殺したのか。

 「…ふー、ふー…」

 息を整えながら改めて自分の手を見る。奴の血が自分の手と剣の柄の部分にまで付着していた。どろっとした感触が妙に生々しくてちょっと気持ち悪い。間違いない。自分が奴を殺したのだ。

 「く…そが…き…が…」

 「ッ?!」

 その実感を嚙みしめていると、倒れていた魔物が苦しそうな声でなにか言っている。殺し損ねたと思い少々焦ったが、奴は血反吐を吐きながら地面に這いつくばっている。見た感じ虫の息だろうし、下手に近づかなければ襲われないだろう。

 「ぅ、うそだろ?」

 「ッ?!」

 奴の最後の悪足掻きに視線が釘付けにされていると、その前の方から別の誰かの声が聞こえてきた。そこに視線を移すと、奴とつるんでいたもう一人の魔物がこっちを見ていた。どうやら奴が死にかけている姿を見て衝撃を受けているようだ。

 「…次は、お前か」

 「う゛っ?!」

 だが、あいつも同じ魔物だ。あいつも殺さないと。自分の頭の中ではすぐにそのことを考え始めていた。どのみちここで生かしておいておく理由もないしな。

 「爆ぜる焔よ、火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し、眼前に移りし標的に猛る一投を撃ちかけん」

 「ひぃっ!?」

 自分が魔物に向かって手を前に突き出し詠唱を唱えると、魔物の方は慌てて逃げ出していた。自分のことを散々いたぶっていたクセに、相方が居なくなった途端弱腰とは。魔物といえどその程度か。

 「【火球《フレール》】」

 「だ、だれか!? 助け…」

 逃げる魔物に容赦なく火球を放つ。とはいえ、逃げるような小物相手に全力を出すわけにはいかず、5割弱の威力に抑えた。この一撃で倒せるといいが。

 「ぐあぁぁぁっ!?」

 火球は魔物に命中し、一瞬で魔物の姿を覆う程の火煙と爆風が発生。それと同時に、爆音にも負けないぐらいの魔物の断末魔が村中に響いた。なんとか一撃で事足りたか。

 「なんだ今の音?!」

 「向こうでなにかが爆発したぞ!」

 「ったく、こんなときになにが起こってんだよちきしょう!!」

 「ぐずぐずしないで急げ!」

 だが、今の一撃で流石に他の魔物達にも気づかれてしまった。少しばかりやりすぎたか。

 「…囲まれる前に離れるか」

 しかし、後にはもう引けない。あとは作戦通り囮役の役目に専念するしかない。そう思った自分は少しでも村の入り口から離れるように反対方向に向かって走り出した。
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