転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

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第2章 脱出編

第2章ー⑯

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 「おい、ガキどもがいねーぞ!?」

 「あのクソガキども、どこに行きやがった!?」

 状況を一度確認する為、建物の影に隠れながら聞き耳を立てていた。やはり自分達が居なくなったことは把握している様子。いつも様子見に来ることなんてなかったのに。本当に殺しにくるつもりだったのかもしれないな。

 「さて、こっからどうするか」

 隠れながらどうやって奴等を引き付けるかを考えていた。無難にわざと見つかって逃げるという手もあるが、ここには魔物が30人以上はいる。先回りされて囲まれるリスクが高い。出来れば何人か戦闘不能にしておきたい。ステルスゲーみたいに一人ずつ誘って落とすか? CQCは流石に学んでいないが、手刀で首をスパンッと出来たりしないものだろうか。

 「…いや、そんなことするぐらいなら、こっちの方が手っ取り早いか」

 しかし、やったこともないことを実践で出来るわけがない。そう思った自分は、ここに来る前に出しておいた業火剣《ヘルファード》を見つめる。敵を気絶させるより、この剣で斬った方が早い。

 「ガキどもを探せ! 見つけ次第殺してもかまわん!」

 「ッ!?」

 そんなことを考えていると、魔物達が自分達の捜索に動こうとしていた。マズい。散り散りに動かれるのは余計にマズい。

 他の皆には外回りで目的地に向かってもらう予定だ。とはいえ、あちこち探し回られればいずれ見つかってしまう。そうなれば作戦どころではなくなる。どうする。やはり自分からわざと見つかりに…

 「クッソ! めんどくせーことになりやがった」

 「ッ?!」

 いこうかと動こうとした瞬間、自分を監禁していたあいつがこっちに向かって来ているのが見え、思わず隠れてしまった。流石に見られてはいないだろうが、一瞬心臓がドキッとさせられた。

 「はあ…はあ…」

 ドキッとさせられたせいか、息が少し荒くなってきた。落ち着け、一旦落ち着くんだ。

 「…んっ、はあっ、はあっ」

 落ち着こうと思えば思う程、心臓の動きが早くなってきた。ダメだ、こんな状況じゃ作戦どころじゃなくなる。

 「んん?」

 そんな状況のなか、奴はこっちに徐々に近づいてきている。なんだかこっちの様子を伺うような足取りで歩み寄ってきている気がする。ひょっとしたら今の声聞かれたか。

 「…」

 息を必死に殺そうとするが、必死になるあまり思考が回らなくなってきた。奴が段々近づいてくる。距離は約10メートル程。このタイミングで見つかりにいくのは流石にリスクが高すぎる。もういっそのこと…

 「…んっ」

 殺すか。その考えに至った頃には、足音はすぐそこまで迫っていた。剣を握っていた手から汗が噴き出してきた。

 「…」

 奴の姿が目の前に映った瞬間、頭の中が真っ白になり、気が付くと奴の心臓めがけ、剣を突き刺そうとしていた。

 「ん?」

 しかし、その判断は早計であると、その瞬間に思った。今自分は不思議な感覚に陥っている。自分の動きと相手の動きがゆっくりに感じる。まるでスロー映像を体験しているかの如く。にも関わらず、思考速度は普通の速度である。妙な感覚だ。

 だが、いくら思考速度が普通の速度で身体がゆっくり動いても、一度動いた身体を引き戻すことは出来なかった。

 「ぐへっ?!」

 「ッ?!」

 不思議な感覚を数秒すぎると、突然スローだった身体は時が戻るように普通に動き出した。動き出したものの、奴に向かって突き刺そうとしていた剣は僅かに位置がズレ、奴の目の前の虚空を突き刺していた。その拍子に自分は転んでしまった。

 「いっ、てて」

 勢いが少々強く、転ぶ際に軽く肘を打った。地味に痛くて、若干痺れがきて剣を放してしまった。最悪だ。こんなしょうもないミスを犯してしまうとは。自分は刺しに行ったつもりだったが、なんで虚空なんか…

 「おい!」

 「ッ?!」

 などと考えていると、ドスの効いた声でこっちに呼びかけてくる。その瞬間、背筋がゾッとした。ヤバいと本能が言い聞かせてくるほどに。

 「てめえがどうやってあそこから抜け出したのかはこの際どうでもいい」

 「…」

 「それより、今何をしようとした?」

 「…」

 ドスの効いた声で問いかけてくるが、背筋がゾクゾクしていてそれどころではなかった。普段おちょくるような高笑いがない。そのギャップが余計に恐怖を掻き立てている。

 「言わなくてもわかる。俺を殺そうとしてたんだろ」

 「…」

 なんで剣が虚空に向かっていったのか、今ならなんとなくわかって気がした。気圧されたんだ。奴…というより、魔物の恐ろしさに。

 「人間のクソガキ風情がいい度胸じゃねーか」

 自分が浅はかであったと思い知らされた。漫画やアニメの世界では魔物を殺せるのは普通であった。この世界だってそうだ。父だって何度か魔物を殺していた。だから、自分だってこの程度の魔物ぐらいなんとか出来ると思いあがっていた。

 身体は正直だ。怖い相手に身が竦むなんて当たり前のこと。自分は魔物を殺した経験なんかない。そんな奴がいきなり魔物と戦えるわけがない。少し考えればわかることだ。

 「俺を殺そうとしたってことは、てめえも殺される覚悟は出来てんだよなあああ?!」

 「ッッ!?」

 恐る恐る奴の顔を見る。奴の顔を見て改めて思い知らされた。魔物がどれだけ恐ろしい存在かということを。
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