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第2章 脱出編
第2章ー⑪
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「どうした?! もう寝ちまったかー?!」
「…」
「ケハハハハハッ! 流石に意識ぶっ飛んじゃねーの?!」
その日の晩、あの二人は自分達の業務を終えて帰って来た。一人は少しばかりイライラしているようにも見える。
それからまた暫く奴等のサンドバッグにされていた。もう血もほとんど出ないくらい殴られた。痛みにも慣れて来てなにも感じなくなり、次第に反応する気も起きなくなった。それでもまだ死ねない。少しだけこの頑丈な肉体を恨みそうになる。
「ふう。流石にいたぶんのにも疲れたし、ちょっと休んだらかえっか」
そんなとき、二人は殴るの止め、近くにあった小さいテーブルに座り出した。流石に自分を殴るのにも飽き始めてきたようだ。とはいえ、解放してくれる様子はなさそうだが。
「ったく、ディシプリンの野郎、いちいちうるせーんだよ! ちょっとサボったくらいでグチグチ言いやがって!!」
「こんなところ巡回したって大して意味ねーのにな。あいつ、真面目すぎんだよ」
テーブルで休み出すと、二人は愚痴話をし始めた。イライラしていたのは恐らくそれが原因なのだろう。ディシプリンは奴等の仲間の一人の名だったはず。
「そういえば、そのディシプリン達からこっそり話してたんだがよー…」
「ああん?」
「グランドオーダーが倒されたらしいぜ」
「はっ?! マジかよ!?」
しかし、さっきのイライラしていた表情が一転し、目を丸くしていた。そのグランドオーダーが何者かは知らないが、奴等にとってはビッグニュースらしい。
「…誰にやられたんだよ?」
「噂じゃ勇者らしいぜ」
「ッ!?」
と思っていたが、勇者という単語が耳に入った自分は少しだけ反応してしまった。奴等は話に夢中で気づいていない様子だったが。
この世界に勇者は実在する。そんな話を昔聞かされたような気はするが、正直そんなもの半信半疑だった。今でもそうだ。けど、今の魔物の発言で確信した。勇者は実在するのだと。だからなんだという話だが。
実在したところで助けに来てくれるとは限らない。この村には魔障結界が張られている。結界を解く方法はあるのかもしれないが、そう簡単にはいかないだろうし、自分達がその間まで生きているとは限らない。まあ、自分は今日明日のうちに死ぬつもりで居るからあまり関係ないが。
「…あの人の縄張りって、こっからそんなに遠くなかったよな?」
「けっこう離れてはいたけど、馬に乗れば3日4日ぐらいだったか?」
「そりゃあ馬の話だろ? 勇者って馬より早く移動出来るって聞くぜ」
「魔法か」
「…」
勇者の話になってから次第に空気が重くなる。自分が思っている以上に魔物にとってこのニュースは深刻な状況らしい。二人から密かに汗が噴き出ていた。
「その話、いつ頃の話だ?」
「ここに来る前に聞いた話だから、下手すりゃ今日明日には…」
「おい、なんでその話黙ってた?!」
「い、いやっ、噂話だったからそんな気にする程の事じゃねーと思って…」
「お前馬鹿か!?」
「うぐっ?!」
空気が重くなるどころか、一人はさっきより苛立ち始め、しまいには仲間を殴り出した。よっぽど焦っているのだろう。こいつらの話を聞く限り、そう遠くない場所まで来ているというのか。
「その話が本当なら、こんなことしてる場合じゃ…」
「『ええ、その通りです』」
「ッ!?」
慌てた魔物の一人は、急ぐように立ち上がった。そのタイミングで、まさかのエイシャが背後に出現。この事態に二人は驚愕している。こんな村の隅にある小さな小屋にあいつが来るとは思ってもいなかったのだろう。
「エ、エイシャ様?! 何故このような所に?」
「『はあ、それはこちらの台詞なのですが…そういうことですか』」
「あっ!?」
エイシャは部下の問いかけに答えながら自分を見ていた。相変わらず顔が見えない程深々とローブを被っておりどういう表情が見て取れない。しかし、口ぶりからして少し呆れているように聞こえる。二人はしまったと顔に書いてあるような分かりやすい表情を浮かべていた。
「『…』」
しかし、自分に対しては特になにも言ってくる様子はなかった。まるで自分には関心がないように見える。
「『皆を集めろとディシプリンに命じていたら、君達が見当たらないと愚痴をこぼしていましたよ』」
「…」
「『私からも言っておくことは色々ありますが、それは後回しです。早く皆の元に向かいなさい』」
「「は、はい!!」」
エイシャの命令を素直に聞く二人は、すぐさま小屋を出て行った。エイシャはその様子を暫く見守った後、床の中にゆっくりと消えていく。それを見てどうやって小屋の中に物音を立てずに入ったか理解した。そういえばこいつ、影の中に入れたんだった。多分、小屋の隙間から中の物影とかにくっついて入って来れたのだろう。
「『…そろそろこの村を捨てる時が来たか』」
「ッ?!」
消えていく最中、エイシャは意味ありげな言葉を残し、そのまま消えていった。その時、自分の脳裏には嫌な予感がよぎっていた。
「…」
「ケハハハハハッ! 流石に意識ぶっ飛んじゃねーの?!」
その日の晩、あの二人は自分達の業務を終えて帰って来た。一人は少しばかりイライラしているようにも見える。
それからまた暫く奴等のサンドバッグにされていた。もう血もほとんど出ないくらい殴られた。痛みにも慣れて来てなにも感じなくなり、次第に反応する気も起きなくなった。それでもまだ死ねない。少しだけこの頑丈な肉体を恨みそうになる。
「ふう。流石にいたぶんのにも疲れたし、ちょっと休んだらかえっか」
そんなとき、二人は殴るの止め、近くにあった小さいテーブルに座り出した。流石に自分を殴るのにも飽き始めてきたようだ。とはいえ、解放してくれる様子はなさそうだが。
「ったく、ディシプリンの野郎、いちいちうるせーんだよ! ちょっとサボったくらいでグチグチ言いやがって!!」
「こんなところ巡回したって大して意味ねーのにな。あいつ、真面目すぎんだよ」
テーブルで休み出すと、二人は愚痴話をし始めた。イライラしていたのは恐らくそれが原因なのだろう。ディシプリンは奴等の仲間の一人の名だったはず。
「そういえば、そのディシプリン達からこっそり話してたんだがよー…」
「ああん?」
「グランドオーダーが倒されたらしいぜ」
「はっ?! マジかよ!?」
しかし、さっきのイライラしていた表情が一転し、目を丸くしていた。そのグランドオーダーが何者かは知らないが、奴等にとってはビッグニュースらしい。
「…誰にやられたんだよ?」
「噂じゃ勇者らしいぜ」
「ッ!?」
と思っていたが、勇者という単語が耳に入った自分は少しだけ反応してしまった。奴等は話に夢中で気づいていない様子だったが。
この世界に勇者は実在する。そんな話を昔聞かされたような気はするが、正直そんなもの半信半疑だった。今でもそうだ。けど、今の魔物の発言で確信した。勇者は実在するのだと。だからなんだという話だが。
実在したところで助けに来てくれるとは限らない。この村には魔障結界が張られている。結界を解く方法はあるのかもしれないが、そう簡単にはいかないだろうし、自分達がその間まで生きているとは限らない。まあ、自分は今日明日のうちに死ぬつもりで居るからあまり関係ないが。
「…あの人の縄張りって、こっからそんなに遠くなかったよな?」
「けっこう離れてはいたけど、馬に乗れば3日4日ぐらいだったか?」
「そりゃあ馬の話だろ? 勇者って馬より早く移動出来るって聞くぜ」
「魔法か」
「…」
勇者の話になってから次第に空気が重くなる。自分が思っている以上に魔物にとってこのニュースは深刻な状況らしい。二人から密かに汗が噴き出ていた。
「その話、いつ頃の話だ?」
「ここに来る前に聞いた話だから、下手すりゃ今日明日には…」
「おい、なんでその話黙ってた?!」
「い、いやっ、噂話だったからそんな気にする程の事じゃねーと思って…」
「お前馬鹿か!?」
「うぐっ?!」
空気が重くなるどころか、一人はさっきより苛立ち始め、しまいには仲間を殴り出した。よっぽど焦っているのだろう。こいつらの話を聞く限り、そう遠くない場所まで来ているというのか。
「その話が本当なら、こんなことしてる場合じゃ…」
「『ええ、その通りです』」
「ッ!?」
慌てた魔物の一人は、急ぐように立ち上がった。そのタイミングで、まさかのエイシャが背後に出現。この事態に二人は驚愕している。こんな村の隅にある小さな小屋にあいつが来るとは思ってもいなかったのだろう。
「エ、エイシャ様?! 何故このような所に?」
「『はあ、それはこちらの台詞なのですが…そういうことですか』」
「あっ!?」
エイシャは部下の問いかけに答えながら自分を見ていた。相変わらず顔が見えない程深々とローブを被っておりどういう表情が見て取れない。しかし、口ぶりからして少し呆れているように聞こえる。二人はしまったと顔に書いてあるような分かりやすい表情を浮かべていた。
「『…』」
しかし、自分に対しては特になにも言ってくる様子はなかった。まるで自分には関心がないように見える。
「『皆を集めろとディシプリンに命じていたら、君達が見当たらないと愚痴をこぼしていましたよ』」
「…」
「『私からも言っておくことは色々ありますが、それは後回しです。早く皆の元に向かいなさい』」
「「は、はい!!」」
エイシャの命令を素直に聞く二人は、すぐさま小屋を出て行った。エイシャはその様子を暫く見守った後、床の中にゆっくりと消えていく。それを見てどうやって小屋の中に物音を立てずに入ったか理解した。そういえばこいつ、影の中に入れたんだった。多分、小屋の隙間から中の物影とかにくっついて入って来れたのだろう。
「『…そろそろこの村を捨てる時が来たか』」
「ッ?!」
消えていく最中、エイシャは意味ありげな言葉を残し、そのまま消えていった。その時、自分の脳裏には嫌な予感がよぎっていた。
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注意
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