転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

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第2章 脱出編

第2章ー⑦

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 サダメの一言で、周りに嫌な雰囲気が漂ってきた。本人は無自覚なんだと思うけど、今の発言はかなりマズイ。

 「…おいサダメ、今なんて言った?」

 それを先に察した年長のラエルは立ち上がってサダメの所に歩み寄って来る。ラエルの口調は静かな怒りを感じた。

 「ま、待ってラエル?! サダメはいつも頑張ってて、今日は少し疲れてるだけなの! だから今日はゆっくり休ませて…」

 このままだとケンカになりそうだと思い、慌てて私はラエルを止めようと前に立ちはだかり、説得を試みる。

 「ッ!?」

 その時、改めて思い知った。ラエルと私の年の差は一回りも違う。圧倒的な体格の差。一回りも二回りも体格の差があると、圧迫されるような怖さを感じる。まるで普通の人間と大きな巨人のようだ。

 「どけっ!!」

 「きゃっ?!」

 サダメに歩み寄るラエルは、目の前に立つ私をあっさりとどかす。あっさりとどかされた私は怖さのあまりなにもない所で転び、尻餅をついた。

 「サダメ! さっきなんて言った?! もういっぺん言ってみろ!!」

 「…」

 私をどかしたラエルはそのままサダメの胸ぐらを掴み、サダメを睨みながら問いかける。一方のサダメは、無気力のようになされるがまま。胸ぐらを掴まれようが睨まれようが死んだような表情は変わらず、視線も下を向いてラエルを見ようとしていない。

 「辛いのは皆一緒なんだよ! お前が俺たちの代わりに殴られてるのは申し訳ねーと思ってるよ。その分俺たちは俺たちなりに頑張ってる! 今日だって、お前が他の作業行って暫く戻って来なかった間、残ってた量俺たちでなんとかカバーした。休みもロクに取れなかったし、アイツらに散々嫌味言われまくった。おかげで心身共にボロボロだよ」

 「…」

 「けど、皆文句とか弱音言わずにやってんだ! なんでか分かるか?!」

 「ちょっ、ラエル?!」

 ラエルは説教していくうちに段々ヒートアップしているのか、サダメの胸ぐらを掴んだまま壁に押し付け始めた。尻餅をついていた私は止めようと慌てて立ち上がる。このままだとサダメがケガしちゃう。気が付けばラエルに対しての恐怖心がなくなり、むしろ別の意味で怖さを感じていた。

 「ちょっと落ち着いてラエル?! ケガしたら危ないから…」

 必死に止めようとラエルの腕を振りほどこうとするものの、私の力では微動だにしない。ここでも思い知らされる。彼は年が一回りも違う男の子だ。力だって歴然の差。けど、他の子達はラエルの言動に怯えてその場から動けそうにない。サダメも全く抵抗しないし、私一人でなんとかしないと。

 「皆、生きたいんだよ!! どんだけ辛い目にあっても死にたくないんだよ!! 大人たちが死んで、同い年の連中も殺されて、人が死んでいく様を嫌っていうほど見せつけられた。死に対する恐怖心を散々植え付けらたんだ。だから、これ以上死んでいく奴を見るのも、自分が殺される立場になんのも嫌なんだよ!? そんな時にお前は簡単に死にたいなんて言いやがって! ふざけるのも大概に…」

 「おねがいラエル、一回落ち着こう?! 皆怖がってるし、これ以上大声出したらあの人たちがきちゃう…」

 「…かよ」

 「…あ゛っ?」

 しかし、ケンカは一向に収まらない。皆怖がっていて、中には今にも泣きだしそうな子もいる。それにラエルの怒った声が外にまで響いていそうなほど大きい。魔物の人たちがこの騒音を聞きつけたら、怒ってなにをしだすかわからない。早く止めないとと思った矢先、暫く黙っていたサダメがようやく口を開いた。しかし、またなにを言っているのか聞き取れない。

 「知るかよ。お前らの言い分を勝手に俺に押し付けんなよ」

 「なっ?!」

 もう一度口を開いたサダメの無気力な発言に、ラエルは面を食らっていた。面を食らったあまり言葉に詰まっている。怒りを通り越して呆れているようにも見えた。

 「ちっ、そうかよ」

 「あっ」

 呆れたのか、ラエルは突き放すようにサダメから手を離した。その際にサダメは軽く壁に頭をぶつけ、そのまま背中を擦りながら壁にもたれかかって座り込んだ。流石に今ので死んではいないんだろうけど、頭を打っていて心配になった私は、ラエルの腕を離した直後にサダメに近寄る。

 「さ、サダメ? 大丈夫?」

 「…」

 「ふん」

 サダメに声を掛けてみるが返事は特にない。息はしているし目は瞑ってないから意識はある。ただ話す気力を失くしただけなのだろう。とりあえず頭を軽く打ってるし、治癒魔法を少しだけ掛けてあげよう。

 「そんなに死にたきゃ勝手に死ね。ただ、死ぬなら俺らの視界に入らない所で死んでくれよ」

 「っ?! ちょっ、ラエル?!」

 私が治癒魔法を掛けようとしているなか、ラエルは去り際にひどい一言を放った。まるでサダメを見限るような発言。あまりの失言にラエルに謝らせようと引き止めようとした。けど、今はそんな雰囲気じゃない。サダメ本人も謝罪を求めているようにも思えないし、私が引き止めるのも気が引けてそれ以上は何も言わなかった。
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