28 / 109
第2章 脱出編
第2章ー⑦
しおりを挟む
サダメの一言で、周りに嫌な雰囲気が漂ってきた。本人は無自覚なんだと思うけど、今の発言はかなりマズイ。
「…おいサダメ、今なんて言った?」
それを先に察した年長のラエルは立ち上がってサダメの所に歩み寄って来る。ラエルの口調は静かな怒りを感じた。
「ま、待ってラエル?! サダメはいつも頑張ってて、今日は少し疲れてるだけなの! だから今日はゆっくり休ませて…」
このままだとケンカになりそうだと思い、慌てて私はラエルを止めようと前に立ちはだかり、説得を試みる。
「ッ!?」
その時、改めて思い知った。ラエルと私の年の差は一回りも違う。圧倒的な体格の差。一回りも二回りも体格の差があると、圧迫されるような怖さを感じる。まるで普通の人間と大きな巨人のようだ。
「どけっ!!」
「きゃっ?!」
サダメに歩み寄るラエルは、目の前に立つ私をあっさりとどかす。あっさりとどかされた私は怖さのあまりなにもない所で転び、尻餅をついた。
「サダメ! さっきなんて言った?! もういっぺん言ってみろ!!」
「…」
私をどかしたラエルはそのままサダメの胸ぐらを掴み、サダメを睨みながら問いかける。一方のサダメは、無気力のようになされるがまま。胸ぐらを掴まれようが睨まれようが死んだような表情は変わらず、視線も下を向いてラエルを見ようとしていない。
「辛いのは皆一緒なんだよ! お前が俺たちの代わりに殴られてるのは申し訳ねーと思ってるよ。その分俺たちは俺たちなりに頑張ってる! 今日だって、お前が他の作業行って暫く戻って来なかった間、残ってた量俺たちでなんとかカバーした。休みもロクに取れなかったし、アイツらに散々嫌味言われまくった。おかげで心身共にボロボロだよ」
「…」
「けど、皆文句とか弱音言わずにやってんだ! なんでか分かるか?!」
「ちょっ、ラエル?!」
ラエルは説教していくうちに段々ヒートアップしているのか、サダメの胸ぐらを掴んだまま壁に押し付け始めた。尻餅をついていた私は止めようと慌てて立ち上がる。このままだとサダメがケガしちゃう。気が付けばラエルに対しての恐怖心がなくなり、むしろ別の意味で怖さを感じていた。
「ちょっと落ち着いてラエル?! ケガしたら危ないから…」
必死に止めようとラエルの腕を振りほどこうとするものの、私の力では微動だにしない。ここでも思い知らされる。彼は年が一回りも違う男の子だ。力だって歴然の差。けど、他の子達はラエルの言動に怯えてその場から動けそうにない。サダメも全く抵抗しないし、私一人でなんとかしないと。
「皆、生きたいんだよ!! どんだけ辛い目にあっても死にたくないんだよ!! 大人たちが死んで、同い年の連中も殺されて、人が死んでいく様を嫌っていうほど見せつけられた。死に対する恐怖心を散々植え付けらたんだ。だから、これ以上死んでいく奴を見るのも、自分が殺される立場になんのも嫌なんだよ!? そんな時にお前は簡単に死にたいなんて言いやがって! ふざけるのも大概に…」
「おねがいラエル、一回落ち着こう?! 皆怖がってるし、これ以上大声出したらあの人たちがきちゃう…」
「…かよ」
「…あ゛っ?」
しかし、ケンカは一向に収まらない。皆怖がっていて、中には今にも泣きだしそうな子もいる。それにラエルの怒った声が外にまで響いていそうなほど大きい。魔物の人たちがこの騒音を聞きつけたら、怒ってなにをしだすかわからない。早く止めないとと思った矢先、暫く黙っていたサダメがようやく口を開いた。しかし、またなにを言っているのか聞き取れない。
「知るかよ。お前らの言い分を勝手に俺に押し付けんなよ」
「なっ?!」
もう一度口を開いたサダメの無気力な発言に、ラエルは面を食らっていた。面を食らったあまり言葉に詰まっている。怒りを通り越して呆れているようにも見えた。
「ちっ、そうかよ」
「あっ」
呆れたのか、ラエルは突き放すようにサダメから手を離した。その際にサダメは軽く壁に頭をぶつけ、そのまま背中を擦りながら壁にもたれかかって座り込んだ。流石に今ので死んではいないんだろうけど、頭を打っていて心配になった私は、ラエルの腕を離した直後にサダメに近寄る。
「さ、サダメ? 大丈夫?」
「…」
「ふん」
サダメに声を掛けてみるが返事は特にない。息はしているし目は瞑ってないから意識はある。ただ話す気力を失くしただけなのだろう。とりあえず頭を軽く打ってるし、治癒魔法を少しだけ掛けてあげよう。
「そんなに死にたきゃ勝手に死ね。ただ、死ぬなら俺らの視界に入らない所で死んでくれよ」
「っ?! ちょっ、ラエル?!」
私が治癒魔法を掛けようとしているなか、ラエルは去り際にひどい一言を放った。まるでサダメを見限るような発言。あまりの失言にラエルに謝らせようと引き止めようとした。けど、今はそんな雰囲気じゃない。サダメ本人も謝罪を求めているようにも思えないし、私が引き止めるのも気が引けてそれ以上は何も言わなかった。
「…おいサダメ、今なんて言った?」
それを先に察した年長のラエルは立ち上がってサダメの所に歩み寄って来る。ラエルの口調は静かな怒りを感じた。
「ま、待ってラエル?! サダメはいつも頑張ってて、今日は少し疲れてるだけなの! だから今日はゆっくり休ませて…」
このままだとケンカになりそうだと思い、慌てて私はラエルを止めようと前に立ちはだかり、説得を試みる。
「ッ!?」
その時、改めて思い知った。ラエルと私の年の差は一回りも違う。圧倒的な体格の差。一回りも二回りも体格の差があると、圧迫されるような怖さを感じる。まるで普通の人間と大きな巨人のようだ。
「どけっ!!」
「きゃっ?!」
サダメに歩み寄るラエルは、目の前に立つ私をあっさりとどかす。あっさりとどかされた私は怖さのあまりなにもない所で転び、尻餅をついた。
「サダメ! さっきなんて言った?! もういっぺん言ってみろ!!」
「…」
私をどかしたラエルはそのままサダメの胸ぐらを掴み、サダメを睨みながら問いかける。一方のサダメは、無気力のようになされるがまま。胸ぐらを掴まれようが睨まれようが死んだような表情は変わらず、視線も下を向いてラエルを見ようとしていない。
「辛いのは皆一緒なんだよ! お前が俺たちの代わりに殴られてるのは申し訳ねーと思ってるよ。その分俺たちは俺たちなりに頑張ってる! 今日だって、お前が他の作業行って暫く戻って来なかった間、残ってた量俺たちでなんとかカバーした。休みもロクに取れなかったし、アイツらに散々嫌味言われまくった。おかげで心身共にボロボロだよ」
「…」
「けど、皆文句とか弱音言わずにやってんだ! なんでか分かるか?!」
「ちょっ、ラエル?!」
ラエルは説教していくうちに段々ヒートアップしているのか、サダメの胸ぐらを掴んだまま壁に押し付け始めた。尻餅をついていた私は止めようと慌てて立ち上がる。このままだとサダメがケガしちゃう。気が付けばラエルに対しての恐怖心がなくなり、むしろ別の意味で怖さを感じていた。
「ちょっと落ち着いてラエル?! ケガしたら危ないから…」
必死に止めようとラエルの腕を振りほどこうとするものの、私の力では微動だにしない。ここでも思い知らされる。彼は年が一回りも違う男の子だ。力だって歴然の差。けど、他の子達はラエルの言動に怯えてその場から動けそうにない。サダメも全く抵抗しないし、私一人でなんとかしないと。
「皆、生きたいんだよ!! どんだけ辛い目にあっても死にたくないんだよ!! 大人たちが死んで、同い年の連中も殺されて、人が死んでいく様を嫌っていうほど見せつけられた。死に対する恐怖心を散々植え付けらたんだ。だから、これ以上死んでいく奴を見るのも、自分が殺される立場になんのも嫌なんだよ!? そんな時にお前は簡単に死にたいなんて言いやがって! ふざけるのも大概に…」
「おねがいラエル、一回落ち着こう?! 皆怖がってるし、これ以上大声出したらあの人たちがきちゃう…」
「…かよ」
「…あ゛っ?」
しかし、ケンカは一向に収まらない。皆怖がっていて、中には今にも泣きだしそうな子もいる。それにラエルの怒った声が外にまで響いていそうなほど大きい。魔物の人たちがこの騒音を聞きつけたら、怒ってなにをしだすかわからない。早く止めないとと思った矢先、暫く黙っていたサダメがようやく口を開いた。しかし、またなにを言っているのか聞き取れない。
「知るかよ。お前らの言い分を勝手に俺に押し付けんなよ」
「なっ?!」
もう一度口を開いたサダメの無気力な発言に、ラエルは面を食らっていた。面を食らったあまり言葉に詰まっている。怒りを通り越して呆れているようにも見えた。
「ちっ、そうかよ」
「あっ」
呆れたのか、ラエルは突き放すようにサダメから手を離した。その際にサダメは軽く壁に頭をぶつけ、そのまま背中を擦りながら壁にもたれかかって座り込んだ。流石に今ので死んではいないんだろうけど、頭を打っていて心配になった私は、ラエルの腕を離した直後にサダメに近寄る。
「さ、サダメ? 大丈夫?」
「…」
「ふん」
サダメに声を掛けてみるが返事は特にない。息はしているし目は瞑ってないから意識はある。ただ話す気力を失くしただけなのだろう。とりあえず頭を軽く打ってるし、治癒魔法を少しだけ掛けてあげよう。
「そんなに死にたきゃ勝手に死ね。ただ、死ぬなら俺らの視界に入らない所で死んでくれよ」
「っ?! ちょっ、ラエル?!」
私が治癒魔法を掛けようとしているなか、ラエルは去り際にひどい一言を放った。まるでサダメを見限るような発言。あまりの失言にラエルに謝らせようと引き止めようとした。けど、今はそんな雰囲気じゃない。サダメ本人も謝罪を求めているようにも思えないし、私が引き止めるのも気が引けてそれ以上は何も言わなかった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる