転生勇者が死ぬまで10000日

慶名 安

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第2章 脱出編

第2章ー⑤

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 「ふう、これで…最後…っと」

 夕方に差し掛かろうとしているなか、最後の一箱を運び終え教会に帰ろうとしていた。昨日の晩以降何も食べてないから昼過ぎからずっと腹が減っていた。早く飯が食いたい。

 といっても、ここ最近はロクな食事はとれてはいない。魔造種と別で栽培しているイモと村からかき集めた食料で食いつないでいた。しかし、日が経つにつれ食料が腐ったりなんかして食べる物も限られており、今はもうイモと水だけで生活しているといっても過言ではない。いつ栄養失調になってもおかしくない状況だ。

 しかし、なにも食べないよりかはマシだ。生きる為には少しでも食べねば。僅かな希望にすがりながらも生き抜かねば。きっと助けが来てくれると信じながら。それに、母の事も…

 ドサッ

 「ん?」

 帰る途中、妙な物音が聞こえ足を止めた。ふと物音のした方向を見ると、そこは村の女性を隔離している建物の一つだった。

 その建物からも度々呻き声が聞こえてきて不快な気持ちと妙に苛立ちを感じていた。最近は少なくなっており少々忘れかけていたが、未だにあそこには苦しんでいる女性達が居るのだ。

 どんな拷問やら実験やら受けているのか知れないが、助けてあげられるなら助けてあげたい。しかし、今の自分にはなにもしてあげられなくて歯がゆい。きっと父なら助けてあげられるかもしれないのに。

 母もどこかで同じように苦しんでいる筈。そう考えると自分の苦しみさえまだマシに思えてきた。ここで死ぬわけにはいかない。いつか助かったとき、母の側に居てあげられるように。

 「はあ、こいつも駄目だったか。結構イケそうな気がしてたんだがな」

 「これでも駄目だっていうんだから、ここら辺もそろそろ潮時かもな」

 密かに描いていた妄想を思い出していると、魔物の二人が奇妙な話をしている事に気が付き、気が付いたら近くの物陰に隠れ聞き耳を立てていた。おそらく物音の原因は奴等。様子を見る限り、なにか捨てたようだ。二人はゴミ捨て場にたむろしており、意味深な会話をしていた。話の流れから察するに実験の失敗品かなにかを捨てたといったところだろうか。なにを捨てたのか気になるが、ゴミ捨て場には木製で大きなゴミ箱が一つ設置されていて、こちらからではなにを捨てたのか見えない。

 直接確かめたいところだが、ここに自分達が立ち寄ろうとするのは不自然だ。警戒されて追い返されるかもしれないと思い、奴等があの場から離れるのを待つ事にした。





 待つ事数分後、奴等は再び建物の中に戻っていた。あの会話以降特に気になる発言はなく、ちょっとした仲間の愚痴やら他愛もない話だけを聞かされていた。同じ魔物といえども不満は溜まっているようだ。

 「よし、今のうちに」

 二人が戻ってから少し様子見し、他に誰も来ないことを何度も確認した自分は、足音を立てないようにしつつ早足でゴミ箱の方に移動した。いつ他の連中が通るかわからないから早めに確認しなければ。

 「…ふう…」

 なんとかゴミ箱の方までたどり着くと、緊張の面持ちでゴミ箱の蓋を手に取る。念の為にもう一度周りを確認する。幸いな事に誰にも見られていないようだが、また奴等が来る可能性もゼロではない。確認したら速攻この場を去らなければ。物音もなるべく立てないように気を付けねば。

 なぜここの中身が気になったかはよくわからない。ちょっとした好奇心と背徳感はあるものの、奴等の会話を聞いていて不思議と気になってしまったのだ。

 もしこの中に実験の失敗品があるとするなら、奴等の目的が少なからずわかるかもしれない。だからといってどうにか出来るかどうかはまた別の話ではあるが。

 ただただ知りたかった。奴等がどうして村を襲ったのか。村の女性達を隔離する目的とは。魔造種とはなんなのか。少しでもいいから奴等に不利になるような情報が欲しかった。ひょっとしたらこの村を救える方法があるかもしれないし。

 「んっ…」

 そう思いながら自分は恐る恐るゴミ箱の蓋を開けた。自分達が少しでも助かる糸口があればひょっとして…










 「ッッッ!!?!??」

 と、微かな希望を抱いて開けたゴミ箱の中には、無惨な姿をした裸体の女性達がいた。そのほとんどが最早人肌とは思えないほど腐敗しており、瞳孔がガッツリ開いていた。口や下腹部からは血が流れており、死臭と鉄臭さが充満し、蛆虫や蠅やら大量に湧いている。

 「う゛っ?!」

 目を瞑りたくなるような悲惨な光景と鼻を刺すような強烈な悪臭が自分の目と鼻に入り込んで来て、途端に強烈な吐き気が襲ってきた。脳が拒絶反応を起こすかのように頭痛すらしてきた気がする。

 「ふーっ…ふーっ…ふーっ…」

 息を必死に殺し涙ぐみながらも、目の前の光景から視線を逸らす事は出来なかった。本当なら即座にこの場から逃げ去ってゲロを吐きたいところではあるが。どうしても視線を逸らす事が出来ない。


































 そのゴミ箱の中に、顔立ちが母によく似ている変色した死体が見えてしまった。
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